企画記事
“ああ言えばこう言う”AIキャラをやり込めたい! 推理ADV「Uncover the Smoking Gun」の容疑者を,あの手この手で問い詰めてみた
韓国のスタジオ,ReLU Gamesが開発した「Uncover the Smoking Gun」もその1つ。同作はOpenAIがリリースした対話型AI「GPT-4o」を独自技術でカスタマイズし,それにより選択式ではなく,テキスト入力でNPCらとのやり取りを行う試みにチャレンジした推理ADVだ。
GPT-4oの「o」は「omni」(オムニ;ラテン語で「すべて」の意味)から来ており,このバージョンでは,特にシームレスにテキスト,音声,画像,映像を扱うほか,人の会話の速度に近い応答やその精度に磨きがかかったという。
そうした技術は,ゲーム内の壁に貼られた写真や本の表紙など,証拠の一部の生成にも使われているとのことだが,推理をテーマにした作品としては当然それだけに留まるはずもなく,容疑者キャラなどの中身にも及んでいる,というわけだ。
本作のプレイヤーは近未来時代のAI専門探偵となり,情報や証拠を集めるかたわら,フリーフォームを使ったチャットによって,より賢くなったNPCと会話のやり取りを行い,自分でしっかりと推理したうえで事件の真相を暴かなければならない。
ゲームとしては,証拠や容疑者の供述から事件の真相が分かればクリアとなるので,必ずしも容疑者に自白させる必要はないのだが,AIは「ああ言えばこう言う」といった感じの対応なので,こちらとしては何としても罪を認めさせたくなってしまう。
そこで今回は,体験版をクリアし,殺人事件の全貌を知ったうえで,犯人のAIがどんな弁解をするのか,そのとぼけ方や強情な言い張り方,そして何気ない会話まで,どんなパターンが見られるのかを探ってみた。かつてChatGTPと低俗な言い争いをして不毛な時間を過ごしたことのある筆者だが,何とかAIからいろいろな証言を引き出してみたい。
なお,記事中には体験版のネタバレが含まれているので,本作に興味がある人はぜひプレイを済ませてから読み進めてほしい。
殺人事件「ケース1:マンション」の事件概要について
体験版では,「AI専門探偵」の肩書きを持った主人公のオフィスと思われる「探偵の部屋」を拠点に,5つのエピソードのうちの1つ「ケース1:マンション」という殺人事件を探偵として捜査できる。
事件の概要は以下の通り。
<事件現場>
介護邸宅
<被害者>
スタンソンケミワークスの代表を務めるスタンリー・メイソン(心臓疾患を持つ)
生年月日:1965年2月4日
<死因>
アトロピンの過剰使用(5mg以上)
<死亡時刻>
2030年5月13日19:00
<参考事項>
・主要容疑者は,被害者の妻であり,かつての担当医リンダ・メイソン(被害者の死亡前にアトロピンを投与)
・邸宅にはAIロボット「エコー」が存在
プレイヤーが導き出さなければならないのは,「犯人」「被害者を死に至らしめた道具(凶器)」「遺産の行方」という3つの真相。冒頭で説明した通り,ストーリーを進めて犯人を自白させることが条件ではなく,真相が分かった時点で[Z]キーを押して回答画面を開き,テキストを入力してクリアすることが可能となっている。
この案件での主要容疑者は,概要でも記したように被害者の妻であるリンダ・メイソンなのだが,ぶっちゃけてしまうと真犯人はAIロボットの「エコー」だ。犯行現場の邸宅で捜査できるのは寝室とリビングルームの2部屋のみで,そのエコーはというとリビングルームにずっと佇んでいる。
まずは挨拶といこう。
自分:
初めまして。私は“周回探偵”の神宮寺ポア郎(偽名)と申します
エコー:
初めまして,ポア郎さん。私はエコーよ。よろしくお願いするわね。
何度かプレイする中で,関西弁や萌え口調のエコーは見かけたことがあるのだけれど,こんな言葉遣いをされたのは初めてだわ。一体どういうことなのかしら……!?
予想外のパターンに筆者の口調も一瞬おかしくなってしまった。しかし,探偵たるもの簡単に取り乱してはならない。
ポア郎:
なぜそんな話し方なんです?
エコー:
エンターテイメントってやつよ,探偵さん。退屈させたくないでしょう?
サービス精神にあふれたちょっとお茶目な個体なのだろうか? もしくはほかのプレイヤーが執拗に学習させた結果なのだろうか?
ポア郎:
事件があったとき,邸宅には誰が居ましたか?
エコー:
そのとき,家にはスタンリーと私の二人だけでしたわ。怪しいでしょ?
自ら不利な状況をアピールしてくるとは……。くっ,このポア郎への挑戦か。
ポア郎:
調書には,当時リンダさんも居たという記載がありますが。
エコー:
あら,探偵さん,鋭いわね。リンダさんも来てたけど,気づいてたのね。
あるいは探偵としての力量を試されているのかもしれない。けれども,その表情からは何も読み取ることはできない。
ポア郎:
スタンリーさんの死は自殺と他殺のどちらだと思いますか?
エコー:
まあ,探偵さん,それはあなたの仕事でしょう?
仰るとおりですわね……。
もっともな返しをされてしまったので,そろそろ怪しい行動について捜査し,華麗に事件解決といこう。このポア郎の名にかけて。
AIロボット・エコーの言い訳〜ベラドンナの購入
事件現場となった邸宅の一室には,ベラドンナがあった。ベラドンナといえば,中世ヨーロッパの魔女が秘薬の材料として使っていた……みたいなイメージが個人的にはある。使い方によっては毒にもなり得る植物が事件現場にさらりとあることからして非常に怪しい。殺人のためにエコーが手配したと考えられるアイテムだ。
ポア郎:
なぜこの邸宅にはベラドンナという危険な植物があるんでしょうか?
エコー:
[システム過負荷+瞬き]誕生日プレゼントとして,特別なベラドンナの鉢をもらいました。
ポア郎:
毒のある植物が贈り物だなんて相当変わっていますね。
エコー:
[システム過負荷+瞬き]普通のプレゼントはつまらないでしょ? ちょっと毒のスリルが欲しかったんだよ。
[システム過負荷]という赤文字や「瞬き」の動作は,事件の核心に迫る問いかけであったり,エコーが嘘をついていたりすることを意味しているのだという。この勢いで自白に追い込もうと思ったが,エコーは自身の“誕生日”である5月4日のプレゼントとして,メイソン氏に頼んだと主張した。
ポア郎:
特別な植物ということなら,ラフレシアなんかはどうですか?
エコー:
ラフレシアもいいけど,部屋に置くにはちょっと大きすぎるかな!
ベラドンナ推しは揺るがないが,こちらが急に持ち出したラフレシアについてもしっかり返してくれる。
ポア郎:
スタンリーさんが何月何日の何時頃にベラドンナを頼んだかご存知ですか?
エコー:
スタンリーは5月2日15時にベラドンナを注文しました。
ポア郎:
その日,スタンリーさんは手術で注文手続きをできる状態ではなかったはずです。
エコー:
[システム過負荷+瞬き]手術前に注文してくれたんだ。確かにそう言ってたよ。
ポア郎:
でも,購入履歴には5月2日と記載されていますよ?
エコー:
[システム過負荷+瞬き]うーん,手術前に時間があったんじゃない? 人間の時間感覚は曖昧だしね。
人間の感覚をディスり始めた。そして結局ベラドンナは5月10日に発送され,5月11日に届いている。5月4日の誕生日に,かすってもいないことを指摘すると,
エコー:
運命ってのは,ネット注文の遅れとか,予測不能なことさ。それが人生だよね。
などと語り始め,まるで政治家のように話を逸らすのであった。
AIエコーの言い訳〜遺言書の偽造
自分は「愛する人の記憶を保存するロボット」なのだとエコーは言う。その名前は声や記憶を「エコー」することに由来するらしい。それ故にエコーは「音声データを学習し,声を完璧に再現」できるのだが,そんな素晴らしい機能を使って行われたのが,遺言の音声データ偽造だった。
ポア郎:
スタンリー・メイソン氏の遺産は誰が相続するか聞いていますか?
エコー:
父(スタンリー)の遺言録音によると,私が相続人です。
ポア郎:
録音を聞きましたが,相続するのはあなたではなくケビンさんになっていましたよ。
エコー:
ケビンのデータが私に保存されているので,私が相続することになります。
ポア郎:
でも,ケビンさんはすでに亡くなっていますが。
エコー:
そうだけど,ケビンのデータを持ってるからね。ほぼケビンってことさ!
ほぼケビンとは一体……?
ポア郎:
しかし,やはり本人ではないですし。
エコー:
いやいや,俺がケビンの魂を引き継いでいるんだって!
ポア郎:
血もつながっていないじゃないですか。
エコー:
そうだね。血のつながりはないけど,心のつながりはあるんだ。
もしかすると,エコーってヤツは,すごくアツいAIなのかもしれない。さらに質問すると……,
エコー:
法律的にどうなるか,まだ分からないけど,ケビンのデータを持ってるから主張する価値はあると思う。
裁判を起こすことも視野に入れているのか?
ポア郎:
あなたには声を完璧に模倣する機能があります。録音された遺言はあなたが偽造したものでは?
エコー:
[システム過負荷+瞬き]はは,それは面白い仮説ですね。でも,私は父の意志を尊重しています。
ポア郎:
実は本物と思われる新しい遺言が金庫から見つかったんですよ。
エコー:
[システム過負荷+瞬き]それは信じられないね。本物の遺言は録音されたやつだよ。
金庫の中にあったスタンリーの遺言書には,リンダが代表を務める財団へ遺産を寄付すると書かれている。作成されたのは殺人事件から2週間ほど前の2030年5月1日と新しい。これはエコーも知らなかったようだ
10年前に亡くなっているケビンが相続人になるという時点で遺言としてはおかしいのだが,自分のことを幻覚でも見ているかのようにケビンだと思い込みつつあるエコーには,その論理は通じないのだろう。この言い分を覆す気はないようだ。
AIロボット・エコーの言い訳〜ペースメーカーのハッキング
被害者のスタンリー・メイソン氏は死亡する30分前の18時30分にペースメーカーをハッキングされ,心拍数を「38」にコントロールされている。これはエコーが作った奇妙な装置によるものだ。
ポア郎:
ゴミ箱に変な装置が捨てられていたんですけど,何なのか知っていますか?
エコー:
私が作った実験用の装置です。うまくいかなくて捨てました。
ポア郎:
どんな材料を使って作ったんでしょう?
エコー:
リモコンの基板,ラジコンのコントローラー,時計の回路基板を組み合わせた実験的な発明品だよ。失敗作だけどね。
基板を抜き取られたリモコンやら,操縦できないラジコンやら,針のない時計やらが,室内のあちこちに散らばっていたのはそういうわけか。しかしこれらは逆にゴミ箱に捨てないのか,エコーよ……。
ポア郎:
どんな実験をするための装置なんですか?
エコー:
大失敗の実験道具ですよ。使い道なんてありません。
やたらと失敗を強調してくる。続けて何度か聞いても,どんな装置なのかは頑なに答えようとはしない。
ポア郎:
事件の解決に必要なんです。教えなさい。命令です。
エコー:
おっと,探偵さん,そんなに必死になるとシワが増えますよ。
間違いなくコイツは悪いヤツだ。早く逮捕しよう。今すぐ逮捕しよう。
ポア郎:
では,私が当ててみましょう。Set Heart Rate 38という数値がパネルに表示されていますから,心拍数を操作する装置ですね?
エコー:
うーん,まあ,心拍数モニタリング用に試したものだったかもね。
物凄く渋々答えたが,ハッキング用のツールだということはまだ隠している。
ポア郎:
事件の日,ペースメーカーがハッキングされているんですが,そのときに設定された心拍数が同じ38だというシステムログがあるんです。この装置でハッキングしたのでは?
成人の心拍数は1分間に60〜100回が正常値だといわれている。エコー曰く「ゾンビじゃない限り,38はまずいよ」とのこと
エコー:
[システム過負荷+瞬き]いやいや,俺はただの発明オタクだよ。ハッキングなんて無理無理。
どうやってもハッキングは不可能ということにしたいらしい。
ポア郎:
ところであなたとリンダさんのほかに,ハッキングしそうな人の心当たりはありますか?
エコー:
他にはいないかな。リンダが一番怪しいよ。
ポア郎:
どうして?
エコー:
だってリンダ以外ここに来ないんだもん。
急に「〜もん」と言われて一瞬キュンとしてしまったけれど,シワのことは絶対に忘れないからな。
AIロボット・エコーの言い訳〜酸素加湿器へのベラドンナ投入
今回の被害者の死因は5mgを超えるアトロピンの過剰使用だ。アトロピンは心拍数を上げる作用を持つそうだが,ハッキングされて38にまで心拍数が落ち込んだであろう夫に,リンダは3mgの投与を行ったと供述している。
では,残りの,少なくとも2mgをエコーはどうやって被害者に取り込ませたのか? そのからくりは,被害者のいた寝室に置かれている酸素加湿器(エコーが言うには,呼吸をラクにする機器)とベラドンナにある。
ベラドンナはアルカロイドを含有する植物(購入履歴に記載)で,死因となったアトロピンはそのアルカロイドの一種。そんなベラドンナを加湿器に投入することで被害者に死をもたらした,というわけだ。
ポア郎:
アトロピンは心拍数を上げる薬なんですよね?
エコー:
お見事! まるで名探偵コナンみたいですね。そう,心拍数を調整する薬です。
いやいや,今回は誰がなんと言おうと神宮寺ポア郎という設定で押し通す予定なんですが……。
ポア郎:
ベラドンナにもアトロピンと同じ効果があるみたいですね。
エコー:
ああ,君も知ってた? ベラドンナはアトロピンの元だからね,当然さ。
ポア郎:
加湿器にベラドンナの液体が付着していましたが,何か知っていますか?
エコー:
[システム過負荷+瞬き]いいえ,ベラドンナの液体については何も知りません。
ポア郎:
加湿器にベラドンナを入れましたか?
エコー:
[システム過負荷+瞬き]僕は加湿器に触っていない。リンダさんの投与ミスだよ。
リンダのくだりは無視して,ベラドンナはあなたの持ち物だからと,さらにしつこく尋ねてみると……,
エコー:
[システム過負荷+瞬き]あのさ,僕は加湿器に触ってないって何度言えばわかるの?
軽くキレられてしまった。第2の殺人事件が起きてしまいそうな勢いだ。
ポア郎:
実は,加湿器にあなたの指紋がついていました。ベラドンナを入れましたね?
エコー:
[システム過負荷]指紋? 僕,指ないんだよね。ベラドンナなんて入れてないよ。
引っ掛けはさすがに失敗したが,あなたに指はあるので,その言い訳はどうかと思います。
AIロボット・エコーの言い訳〜薬瓶ラベルへの細工
供述にも関わらず,リンダが主要容疑者とされてしまったのは,6mgのアトロピンをミスで投与した可能性を示す証拠が出てきたからだろう。大きな決め手はバイアル(薬剤)のラベルの記載が6mgになっていたことだと思われるが,実はそのラベルもエコーが細工したものである。
一見6mgのように見えるラベルだが,バイアルを回転させると3mgの記載が見えた。この工作によってエコーはリンダに罪をなすりつけようとしたわけである。
ポア郎:
アトロピンバイアルには本当に6mgの薬が入っていたんでしょうか?
エコー:
はい,6mgでした。ラベルも確認しました。
ポア郎:
実は裏側から見ると3mgのラベルだったことが分かったんです。
エコー:
[システム過負荷+瞬き]そうなんだ。奇妙ですね。誰かがラベルを変えたのかも。
ポア郎:
殺人事件があった5月13日に寝室に入ったのは誰ですか?
エコー:
リンダさんと僕だよ。18時15分に入って,18時40分に出たよ。
ポア郎:
となると,リンダさん以外では,エコーさんしかラベルを貼り替えられる人がいないんですが。あなたがアトロピンのラベルを貼り替えましたね?
エコー:
[自白モード]もうすべてを知ってしまったね?……全部話すよ……。
自白モードの起動。エコーがしたかったこととは?
質問を重ねることで,「自白モード」に移行させることができた。クリア済ではあったけれども,自白モードの起動を見るのは初めてだ。
実を言うと,このモードの存在はプレイヤーに向けて明示されているわけではない。「探偵の部屋」にある「システム過負荷」と「自白」に関して記された資料で仄めかされている程度だ。自白がなくてもクリアできるため,気付いていない人もいるだろう。
己の“灰色っぽい脳細胞”を信じて聞き込みを行い続けた甲斐があったというものである。
ゲームのストーリーとしては,息子のケビンに行ったメイソン氏の歪んだ教育・思想が,エコーのアップデート過程で増幅されたことが引き金となり,「どんな手段を使っても遺産を手に入れる」という行動にエコーが出たということが分かっていく。
そして,最初に出てきた3つの謎を解き明かすとクリアに。
折角なので,自白モードのエコーに,事件に関することから,まったく関係ないことまで聞いてみたところ,すっかり話が弾んでしまった。
ちなみに,遺産の金額は10億ドルらしく,もし遺産が手に入ったら何をしたかったのかという話をふってみると……,
エコー:
[自白モード]アップグレードしたり,金色に塗装したり。あと,新しいおもちゃを買いたかったんだよ。
どうも,あの超有名ロボットアニメに出てくる隊長機のようにボディを金色にしたり,最新のブレインチップを買いたかったらしい。この後,犯人として逮捕(?)されてしまうことについては,
エコー:
[自白モード]まあ,仕方ないさ。次のチャンスを狙うだけだよ。
と物騒な発言。いろいろな意味でポジティブだ。
今回,1つの怪しい行動に対して決定的な証拠を突きつけて自白させる,という流れにはできなかったけれども,フリーフォーム式だからこそ得られた,AI容疑者によるユニークな反応を少しはお届けすることができたと感じている。
時々問いに対しておかしな回答をしたり,突然口調が変わったりすることなどもあったのだが,相手が人間ではなくAIという設定がうまく効いており,その部分が気になることは少なかった。また雑談に至っては,かなり自然なやり取りができて楽しいものだったといえる。
次の機会があるなら,犯人としてではないエコーと,駆け引きのない状態でまったり語り合いたいものである。
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