[GDC 2025]伊津野氏とMartin氏が語るゲーム開発の未来。オリジナルIPの創造と挑戦
両氏による東西の文化を融合したゲーム開発の知見が共有される貴重な場となった本セッションでは,オリジナルIPの創造についての哲学や,ゲーム業界の現状分析,そして今後の展望などが語られた。
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オリジナルIPに挑む理由
冒頭,Martin氏は現在のゲーム業界の厳しい状況下でオリジナルIPを手がける理由について問われると,業界の常識に反する視点を披露した。
「業界の多くの人は『リスクが高すぎるからやめたほうがいい』と言いますが,その意見には基本的に同意できません。プレイヤーが同じようなゲームを買わなくなっているのは,すでに似たようなものを見てきたからです。プレイヤーが我々に求めているのは『新しいもの,オリジナルなもの,楽しいもの』です」
Martin氏は具体例として「Elden Ring」を挙げ,その特別でオリジナリティのあるゲーム性が市場で熱狂的に受け入れられた事実を指摘。どんなジャンルであれ,新鮮で刺激的なゲームが求められているという持論を展開した。続編を作り続けることがむしろリスクが高いという逆説的な視点も示し,「大胆に,勇敢に,そしてオーディエンスが求めていると思うものを作ることが,実は最もリスクの低い選択です」と主張した。
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「Last Sentinel」の開発状況
続いて話題は,現在Martin氏が率いるLAスタジオで開発中の「Last Sentinel」に移り,Martin氏はプロジェクトの現状について次のように明かした。
「制作段階にあり,終わりに近づいています。オープンワールドの物語に主眼がおかれており,キャストは全員揃っていて,モーションキャプチャの多くを完了する段階ですね」

また,次の情報公開についても言及し,「ゲーマーとして外から見たとき,シネマティックトレイラーではなくゲームそのものを見せてほしいと思うでしょう。次に何かをお見せするときは,ゲームそのものを披露します」という方針を示した。プレイヤー視点を重視する姿勢が感じられる発言だった。
ライトスピード・ジャパンの新たな挑戦
伊津野氏は昨年秋にライトスピード・ジャパンの代表としてスタジオを立ち上げた経緯を振り返った。「革新的な日本風のAAAアクションゲームを作りたいという強い合意がLIGHTSPEED STUDIOSの経営陣との間にありました」と設立の背景を説明。現在はゲーム開発環境の構築やストーリー,世界観など,ゲーム開発の基礎を準備している段階だという。
オリジナルIPへの取り組みについて伊津野氏は自身のキャリアを振り返りつつ,
「これまでの数十年のキャリアを通じて,常に新しいゲームを作ってきました。人々が今まで見たことも体験したこともないものを提供しようと常に試みてきました。LIGHTSPEED STUDIOSが,新しいことに挑戦する環境と機会を与えてくれたことに興奮しています」と,新たな挑戦への意欲を示した。
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ゲーム開発の原則
伊津野氏はカプコン時代の経験から学んだ開発原則についても言及。「常に新しい要素を入れなさいと教えられてきました」と前置きしたうえで,実際の開発現場でのエピソードを交えて説明した。
「『ストリートファイターZERO』を作っているときも,新しい遊びが入っていなかったら新しいナンバリングにしちゃダメだよと言われましたね」
具体例として「デビルメイクライ」シリーズや「ドラゴンズドグマ」の開発に触れ,「プレイヤーが画面を見て5秒,10秒で『おっ』と二度見するような新しい要素がなければ,手に取ってもらえないことが多いので,そういう要素を入れるように常に言われていました」と,革新的な要素の重要性を強調した。
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また,文化の壁を越えて世界中のゲーマーを魅了するための核心に触れ,次のような見解を示した。
「世界中の人が共通して心に残る,心を動かすような要素を中心に据えていくことを気にしています。例えば家族の関係であるとか,恋愛の話であるとか。あとは大人になるまでの学校での経験,教育上での経験であるとかですね」
伊津野氏は異なる文化や価値観を越える普遍的な体験が重要だとし,「なるべく世界中のいろんな人に対して,違う文化価値観が入り込んでこないような,心を動かす要素を中心に組み立てていくのが大切です。それが世界で満遍なく売れるゲームを作るコツかなと思いますね」と締めくくった。
リメイクしたいゲームは?
過去に開発したゲームで,現代の最新技術を使ってリメイクするとしたらどれかという問いに対し,二人は対照的な回答を示した。
Martin氏は即座に「Bully」を挙げ,「あのゲームを作るのが大好きでした。とても新鮮で楽しかったです。論争があったのも面白かったですね」と笑顔で答えた。
一方,伊津野氏は未来志向の視点から,「私はもう年齢的に,これからゲームを作れる数は5,6本程度です。残された時間があまり多くありません。リメイクよりも,今までに作ったことのない新しいものを作りたいと思います」と回答。自身の創造的エネルギーを新作に注ぎたいという強い意志を表明した。
今後5年間のゲーム開発のトレンド予測
続いて話題は未来予測へと移り,Martin氏はAAAゲームの「死」という悲観論に対して強い反論を展開した。
「AAAゲームの死について聞くのは飽きました。この否定的な意見にはうんざりです。我々はハリウッドが陥った罠に陥ってはならないのです。つまり,怖くなって同じ映画を何度も作り続けるという罠です」
そのうえで,「多くの人は勇気に報いてくれると思うので,勇気をもってリスクを取る必要があるのです」と,創造性とチャレンジ精神の重要性を説いた。
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伊津野氏はより具体的な未来像を描き,「今後5年間のAAAゲーム開発がどうなるかを予測するのは難しいですが,自分が望む環境について話したいと思います」と前置きしたうえで,技術革新と開発効率化への期待を表明した。
「現在の開発コストの10%程度で作れる技術があればいいですね。現在は最低でも3~5年かかるAAAゲーム開発が1~2年に短縮できるよう,業界全体として取り組みたいです」
さらに,ハードウェアの価格問題にも触れ,「現在のハードウェアは高すぎます。若いユーザー,特に小学生でも簡単に購入できるよう,価格が現在の20%程度になれば理想的ですね。5年以内は難しいかもしれませんが,10年以内に実現しないと,ゲーム業界そのものが危ないかもしれません」という懸念も示した。
AI技術についての見解
近年注目を集めるAI技術の活用について,Martin氏は次のような見解を示した。
「業界全体で,ゲームの開発費が高くなりすぎているのは周知の事実です。より効率的になり,新しい制作方法を見つける必要がありますが,創造性を失ってはなりません」
AIの役割について,「AIを人員削減のために使うのではなく,ゲームをよりはやく作る,より大きなゲームを作る,あるいはより多くのゲームを作るために使うべきです」と強調。さらに「我々は創造性を持った人間を必要としています。古い人間から新しいアイデアを持つ新しい人々まで,それがこの業界を動かす力になります」と,人間の創造性の価値を再確認した。
伊津野氏もAIの両面性に触れつつ,「創造性をあまり必要としないが時間のかかる作業をAIで短縮することは積極的に考えるべきです。しかし,クリエイターとして,AIにはできないことを提供する義務と責任があります」と自身の立場を明確にした。
さらに具体的な活用方法として,「プロトタイプ制作など,初期段階での可能性を探る手段としてAIを活用することは,開発者の作業を強化する生産的な方法になりうると思います」と,実務的な活用の可能性を示唆した。
新世代の日本風アクションRPGとは
最後に伊津野氏は,次世代の日本風アクションRPGの定義について問われ,ジャンルの枠を越えた自由な創造の重要性を説いた。
「ゲームのジャンルに縛られないことが重要です。何か新しいものを作りたいという思いが先にあります。『ドラゴンズドグマ』も,オープンワールドの概念を基にしたアクションゲームを作ろうとしただけです」
そして未来に向けた展望として,「将来のAAAアクションゲームについても,特定の定義を与えたくありません。創造は常に不確実性に満ちているからです」と結んだ。
このパネルディスカッションを通じて,東西の文化から生まれる異なる視点を持ちながらも,両氏が「新しさ」と「創造性」を大切にする点で共通していることが印象的だった。LIGHTSPEED STUDIOSが今後どのような革新的なゲームを世に送り出すのか,その動向に注目したい。
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LAST SENTINEL
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