クリティカルな哲学問題や定論で遊ぶ「思考実験シミュレーター」。「トロッコ問題」や「無限の猿」を含む無料デモをプレイしてみる

　4月19日，HoHo Game Studioによるポイント＆クリックゲーム「思考実験シミュレーター」の無料デモ版が，Steamで公開された。その名の通り哲学的な思考実験を題材にしたゲームで，プレイヤーはさまざまな思考実験の実践を通して，その本質に迫る。

　デモ版では「トロッコ問題」「無限の猿」「無知のヴェール」「シーシュポス」「コモンズの悲劇」という5つのステージをプレイでき，古代ギリシャのプラトンやソクラテス，古代中国の老子，孔子，近代哲学家のマルクス，ボーヴォワールとの議論に加えて，お題も楽しめる。その様子を紹介してみよう。

トロッコ問題

　最初のステージは，かの有名な思考実験「トロッコ問題」だ。5人を轢くか，1人を犠牲にするか，その二者択一を迫られる有名な思考実験だ。天秤に載せた1対5の単純な条件はもとより，それがもし1対100に変わるとしたら，選択が変わるのだろうか。または1人の青年と5人の高齢者だったら……というifの考えをしたことがある人もいるかもしれない。
　いくら思考実験とはいえ実際に人命の価値を序列化するのはなかなか難しく，複雑で難しい問題だといえる。


　しかしこの作品は，そんな難しい問題にユニークな条件を設定してくれる。
　天秤に乗せるものは人間だけでなく，「3人の宇宙人」と「1匹の恐竜」や「火を吐くドラゴン」と「ペガサス」，果ては「パイナップル入りピザ」ｘ「パイナップルなしのピザ」（パイナップルが入るピザは邪道だと思う人にとってはなんら難しくない選択だ），「このあと人間になるカエル」ｘ「このあとカエルになる人間」……などをテーブルに乗せた。そんな状況で，あなたはどういう選択をするのだろうか。

無限の猿

〜〜〜十分な時間を与えれば猿でもタイプライターで文章を書ける〜〜〜


　ここで行うのは，ただひたすらにクリックを続けるだけの単純な作業。猿がひたすらタイプするようなものだ。そうこうしているうちに，PCの前に座ってただ単にクリックし続ける私が，猿なのか人間なのか不明瞭になってきて，人間と猿の垣根が曖昧になった瞬間と言えるだろう。

言われたとおりにボタンを押し続けても，そうしなくても，人間の主観性を証明することはできなさそうだ

シーシュポス

　ギリシア神話に登場するシーシュポスは，神から「巨大な岩を山頂まで運び上げろ」と命じられた。シーシュポスが押して運んでも岩はゴロゴロと転がり落ち，それをまたシーシュポスが山頂まで運ぶ。延々と終わることのない，ひたすら岩を押し上げる話で，シーシュポスの岩＝徒労な努力と伝えられている。
　ここでプレイヤーは，シーシュポスを操作して，一歩一歩岩を押していくという，神から課された終わりなき努力を体感できる。とはいえPCの前に座っている私達には肉体的なハードさはないうえに，登場のたびに髪型を変えるシーシュポスを目にするわけで，些細な変化があったら絶望感が和らぐかもしれない……という実証実験なのだろうか。

この続きは，ぜひ自分でプレイしてみてほしい

　ほかにも，「無知のヴェール」や「コモンズの悲劇」など，聞いただけだと難しい理論を，簡単なシミュレーションゲームにしてくれている。全体的に操作は簡単で，デモ版は30分程度でクリアできる。
　それぞれのステージは短いものの，それだけにプレイヤーが深く考える余地が残されている。日本語対応されているこの小品は，正式版の価格やリリース日の情報こそまだないが，気になる人はまず無料デモ版を試してみよう。