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[TGS2023]新興レーベル「HYPER REAL」が世界に発信するエッジの効いた国産インディータイトルを紹介。開発者に直撃してみた
個性的なアートやスタイルを持つ3タイトルが発表されるとともに,同月開催された「BitSummit Let's Go!!」への出展,そして「東京ゲームショウ2023」への出展と,設立3か月弱ながらアクティブな展開を見せている。
産経デジタルのゲームレーベル,「HYPER REAL」が始動。ジャパニーズホラーADV「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」など3作品を展開
産経デジタルは本日(2023年7月3日),ゲームレーベル「HYPER REAL」(ハイパーリアル)の設立を発表し,「34EVERLAST」「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」「Dome-King Cabbage」の3作品を取り扱うことを明らかにした。また,同レーベルは「BitSummit Let's Go!!」にブース出展するとのことだ。
そんな,エッジの効いた日本の新興ゲームレーベルであるHYPER REALのブースにお邪魔し,試遊出展されていたタイトルの中から,SAFE HAVN STUDIOの「SAEKO: Giantess Dating Sim」,Furoshiki Lab.の「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」という2つの尖ったインディータイトルをプレイしてきた。各タイトルの開発者に話を聞く機会を得たので,ミニインタビューとしてお伝えしよう。
SAEKO: Giantess Dating Sim
SAEKO: Giantess Dating Simは,2000年代の日本を舞台に,不思議な能力を持つ少女・冴子と,彼女の能力で小さくされた人々の生活を描く全年齢向けビジュアルノベルだ。プレイヤーは,親指ほどの大きさに縮められた“あなた”となり,同じく小さくされた人たちと共に,冴子の机の引き出しの中で暮らすことになる。
TGS 2023では,ポイントクリックで物語が進む,机の中の奇妙な共同生活を描く「1日目昼」,冴子の機嫌をうかがいながら会話を進める「1日目夜」という2つのパートをプレイできた。ネタバレを避けるため詳しい説明はあえて避けるが,それぞれ10分,5分という短い試遊時間ではあるものの,笛地静恵氏の小説を原案とした“残酷かつインモラルな魅力”に溢れているという世界観を味わうには十分過ぎると感じさせる程の濃厚さだった。
4Gamer:
よろしくお願いします。そもそも本作は,どういったイメージで制作したのでしょう。ゲームのベースにあるものやアートスタイル,BGMなど,とても前衛的で,その表現も何か不安になるというかモヤモヤするような不条理感がとても響きました。「人をなんて気持ちにさせるんだ!」と。
kyp氏:
ありがとうございます(笑)。お気に入りのお人形をコレクションするようなイメージですね。冴子は,見た目が可愛いかったり面白かったりする人を小さくするんですね。その中でもとくに主人公はすごく可愛いので大のお気に入りで,話し相手として持ち出されることもあるくらいなんです。
4Gamer:
それが夜の会話のパートだったんですか。でも,機嫌を損ねるような回答だと……という。
そもそも大きな女性……正しくはこちらが小さくされているわけですが,大きな女性が出てくるという話のゲームを作ろうと思ったのでしょうか。
kyp氏:
もともと,僕が大きな女性が出てくる,被虐性のある作品が好きだったというのがあります。
2000年代の個人サイトにそういった作品がたくさんあって,インターネットで探すのが好きだったんです。それをインディーのノベルゲームに落とし込んで混ぜたら,すごく面白いものができるんじゃないかと思ったのがきっかけです。
4Gamer:
昼と夜のパートでアートスタイルが異なるのが印象的でした。なぜこういったスタイルにしたのでしょう。もし影響を受けた作品などもあれば知りたいです。
kyp氏:
昼のパートは僕が描いたもの,もうひとつのフルカラーのアニメーションはプロとしても活動する僕の大学の後輩が作ったものです。外(夜の会話パート)に比べて引き出しの中が不安定な絵なのは,真っ暗な引き出しの中に閉じ込められていることを表現する意味で,輪郭ぐらいしか見えないようなはっきりしない描き方になっています。
影響を受けているものは,具体的なタイトル名を挙げるとしたら「Milk inside a bag of milk inside a bag of milk」(関連リンク ※Steam)ですね。そういった海外のダークな雰囲気のノベルゲームを参考にしています。
4Gamer:
音楽好きとして個人的にBGMが興味深かったです。こういった作風からは少しイメージできないジャンルのものを使用していると思うのですが,音楽に関するこだわりがあれば教えてほしいです。
kyp氏:
このゲームを作るにあたって,インターネットで好きだったものを集めて,ごちゃ混ぜにするイメージで開発しているんですね。大元にあるネット小説,アートスタイルの参考になった海外のインディーゲームと同じように,音楽も自分の好きなテイストのものをゲームに入れました。
もともと私は一般に流通してるメジャーな曲より,BandcampやYouTubeで楽曲を探すのが好きなんですね。
今回の出展バージョンでいえば,机の中のパートはフューチャーガラージ,会話のパートはローファイ・ヒップホップといった具合です。トレイラーで使っているような,ブレイクコアをイメージした激しい楽曲を試したこともありますが,ゲームに集中できないなってなったこともありました(笑)。
4Gamer:
こういった音楽ジャンルの話からも,ゲームのカルチャー面を強く意識しているレーベルであるHYPER REALとのつながりがすごく納得できます。
kyp氏:
そうですね。最初にお声がけいただいたのが,6月の「Tokyo Indies」(※個人ゲーム開発者が集まるインディーゲームのイベント)だったのですが,レーベルのコンセプトのお話を聞いたときに自分たちと似ているなと感じました。
4Gamer:
開発期間はどれぐらいになりますか。
kyp氏:
構想自体は昨年(2022年)からありました。ただ,実際に作り始めたのは今年の4月頃ですね。
4Gamer:
なるほど。現在のデモの完成度をみると,けっこうなペースで進んでいるという印象がありますね。
kyp氏:
本格的に作り始める前にやりたいことを決めていたので,そういった要因はあるかと思います。
ユーザーインタフェースなど,作り始めてからだいぶ変えた部分はありますが,大体は最初にイメージしたことをできているかなと思います。
4Gamer:
ゲーム自体の完成度はどれぐらいでしょうか。
kyp氏:
今回展示したものは,イベント会場で遊ぶことを考えて各パートを5分〜10分ほどに収めていますが,公開を予定していた体験版はこれの3倍ぐらいの時間はありますね。
シナリオは書き終えていますし,あとは絵をいろいろ描き足すとかはありますが,ほぼ完成している状態です。ただ,今回の出展でいただいたフィードバックで,さらにゲームを良いものに仕上げたいと思うので,また作り直す部分などがあるかもしれないですね。
4Gamer:
こういった大きなイベントへの試遊出展は初めてとのことでしたが,ゲームの反響をどう受け止めていますか。
kyp氏:
意外といっては失礼かもしれないんですが,本当にポジティブな反応をいただけていて,とてもうれしいですね。実は,変わり種として出展しているので,白い目で見られないかとちょっと心配していたんです(笑)。期待の声や改善点につながる前向きな意見もいただけているので,その声に応えられるよう良い作品に仕上げたいと思います。
4Gamer:
今後の展開を楽しみにしています。ありがとうございました。
青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署
タイトル名にあるとおり,怪異を解剖して事件の真相に迫ることが物語のメインのひとつとなっており,ゲームとしてもメスを操作して怪異を解剖するパートがあるのが特徴に挙げられる。
ゲームの詳細が気になる人は,以下のリンクから確認できる「BitSummit Let's Go!!」の出展バージョンのレポートを参照してほしい。なお,TGS 2023バージョンには,解剖パートに怪異の内部をレントゲンで確認できる機能が追加されていた。
「Dome-King Cabbage」「34EVERLAST」「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」を試遊展示。BitSummit,HYPER REALブースレポート
「BitSummit Let's Go!!」の産経デジタルの「HYPER REAL」ブースでは,謎のゲーム「Dome-King Cabbage」や,アクションを10分で楽しめる「34EVERLAST」,怪異を解剖するホラーノベル「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」が出展されていた。そのブースの様子をお伝えしよう。
4Gamer:
よろしくお願いします。ゲームが面白いのはもちろんですが,ゲームデザインやアート,音楽など,全体的にすごく作り込まれているのが印象的でした。そしてテキスト量も圧倒的です。開発チームはどれぐらいの規模なんでしょうか。
田平孝太郎氏:(以下,田平氏)
ありがとうございます。ゲームの企画とプランナー,キャラクター原案,テキストは,ディレクターである僕が担当しています。チームはリードプログラマー,背景担当,イラストレーター,音楽,それに僕。法務の方も入れたら8人ぐらいですね。
4Gamer:
個人的にオカルトや怪奇ものが好きなので,民俗学や都市伝説,陰謀論といったいろいろな要素が匂ってくる本作は刺さりまくりでした。そもそも,なぜこういった世界観や設定のゲームを作ろうと思ったのでしょうか。
田平氏:
ゲームだと,怪異や都市伝説と呼ばれるものが化け物として,敵のモチーフとして扱われていることが多いですが,個人的にはそれがちょっと納得できなくて。こういった怪異にはバックグラウンドがあって,それをしっかりと描く作品を作りたいという思いがありました。
民俗学はもともと入れたかったものです。なぜそれに解剖という要素を加えたかというと“都市伝説をひとつの生命として扱いたい”という考えがあるんです。
4Gamer:
生命として扱うために解剖という要素を入れたことが興味深いです。
田平氏:
献体などはそれの形だと思うのですが,解剖というのはひとつの生命への敬意だと思うんですね。ネタバレになるので詳しくは話せませんが,ほかにはないアプローチでホラー作品を作れないかなと考えたとき,重要なものとなりました。
4Gamer:
私はゾンビを撃つゲーム,ゾンビになる経緯を描くゲームがあるとしたら,どちらも遊ぶのですが後者のほうが好みです。大きく分けると本作は後者の方だと思い共感を覚えるのですが,作中でどのようなストーリーが描かれるのか気になります。
田平氏:
興味を持っていただきありがとうございます。事件の結末は変えられないんですが,タイムリープで生前にその怪異に出会うことで事件の概要を理解できるというのがこのゲームの内容です。 それらすべてが主人公の正体につながっていくというのが,設定にある民俗学的な要素にも関わっている部分でもあります。
4Gamer:
かなりの作り込みですが,開発はどれぐらい前から進んでいたのでしょうか。
田平氏:
本格的にスタートしたのは半年ぐらい前からですね。プログラマーさんに「死ぬ前にこれを作りたい。いいですか」「いいですよ」という感じのスタートでしたね(笑)。
4Gamer:
HYPER REALとは,どのような歩みでここまできたのでしょう。
田平氏:
本当にまだ下書きのときというタイミングで,最初に声をかけていただいたのがHYPER REALさんでした。
その後,BitSummit Let’s Go!!に出展しましたが,待機列ができるほど多くの人が遊んでくれたんです。こんなにたくさんの人が遊んでいただけるのかと,すごくびっくりしましたね。
4Gamer:
HYPER REAL立ち上げの際,本作がラインナップに含まれているのを見たとき,これはオカルト好きならきっと嗅ぎつけるであろう,なにやらプンプンするものがありました。
田平氏:
匂い立つなあ,みたいな感じですよね(笑)。ありがとうございます。
4Gamer:
開発の状況はいかがでしょうか。
田平氏:
やはり来年(2024年)には出したいという気持ちは大きいですね。すでに発表していますが,ゲーム以外にもいろいろな展開を考えているので,末長く愛していただける作品にしたいと思います。
4Gamer:
最後に,オカルト好きに何か引っ掛かるメッセージをお願いできますでしょうか。
田平氏:
口裂け女やテケテケ,紫の鏡,今回のスカイフィッシュのように,皆さんが好きな都市伝説や怪異に関わるいろいろなものが出てきます。解剖して楽しんでください。プレイする人たちが皆震えるといいなと思っています(笑)。
4Gamer:
震える用意をして完成を待っています(笑)。ありがとうございました。
「SAEKO: Giantess Dating Sim」公式サイト
「青十字病院 東京都支部 怪異解剖部署」公式サイト
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