インタビュー
サングラス型ディスプレイとつないで空間写真・ビデオを実現する「XREAL Beam Pro」はなぜ誕生したのか。CEOに聞いてみた
主な機能は,Beam Pro上でAndroidアプリを実行して,それをサングラス型ディスプレイの「XREAL Air」や「XREAL Air 2」シリーズに表示するというものだが,ユーザーの周囲のものも含めた立体的な空間を認識して,その空間上でアプリを扱う「空間コンピューティング」的な要素も視野に入れている。
※インタビューは2024年5月末に実施しました。
4Gamer:
Beam Proは,2023年に登場した「XREAL Beam」を,正しく進化させたものという印象を受けました。もしかしたら,初めからBeamシリーズは,こういう製品として作りたかったのでしょうか。
Chi Xu氏:(以下,Chi氏)
Beam Proは名前のとおりで,Beamが有する機能を,ある程度そのまま継承しています。もともと我々が考えているのは,ARグラスとコンピューティングのホストデバイスと連携することです。
最初に登場したBeamは,アダプタに過ぎませんでした。無線のアダプタであり,タブレットとかPCとか,いろんなデバイスから映像信号を入力して,XREAL Airシリーズに出力するものです。
しかし,ユーザーからフィードバックをいただいたのは,スマートフォン用の「Nebula」アプリの機能をBeamのシステムに付与すること。それにより,スマートフォンを解放してほしいという点でした。そこで,価格も考慮しつつですが,さまざまなアプリを全部入れたうえで,今,要求されている機能として空間ビデオの機能も導入したというのが現状です。
4Gamer:
Beam Proが備える2つのカメラは,空間(3D)写真のために実装したのでしょうか,それとも,空間写真は用途のひとつであり,主目的は空間コンピューティングを実現するために用意したのでしょうか。
Chi氏:
空間写真や空間ビデオに重点を置いています。空間の認識やマッピングに関しては,我々は,グラス側のセンサーのほうで,もっと自信があるからです。
数年にわたり,グラス(※XREAL lightなど)に搭載する2つのレンズやSLAMセンサー技術を積み重ねており,どのようにして(複数のカメラやセンサーを)同期するのかや,どれくらい高い精度で空間ビデオを録れるかといった工夫を実現しています。
4Gamer:
また空間コンピューティングの話になってしまいますが,Beam Proを空間コンピューティング用途で使うとしたら,どういった使い方ができるのでしょうか。
Chi氏:
今までの空間コンピューティングは,スマートフォンの計算能力,もしくはBeamの計算能力のどちらかに依存しなくてはならない部分がありました。これからは,それらを合体させたBeam Proだけの計算能力で,空間コンピューティングのいろいろな空間内の計算などを実行できるわけです。
そのひとつが「nebula OS」です。グラスとホスト端末のBeam Proが真に融合したうえで,今までの2Dアプリのすべてを空間上に固定して,空間コンピューティングを実現しています。
4Gamer:
Beam Proのnebula OSは,スマートフォン向けのAndroidにかなり近いものなのでしょうか。それともAndroidベースの「Android TV」をカスタマイズしたものでしょうか。Android TVでは,使えるアプリが限られてしまうので,気になるところです。
Chi氏:
スマートフォンのAndroid 14をベースとして作られたものです。
内部でもいろいろ検討したのですが,Android TVとか「Google TV」をベースにしたものは,(※できることに)かなり制限が限られたものが多いのです。たとえば,Android TVでテレビ向けアプリを見るだけなら,操作もしやすいように作られたシステムですので,それでいい。しかし,XRグラスのいろいろな機能と強く融合するためには,基本のAndroidをベースにしたものが,より「いじれる」部分が多いと見ています。
Androidをベースにすると,作業量が増える一方なのですが,完全なる体験をどのようにしてユーザーに届けるかを考えると,苦労する価値はあると考えています。
4Gamer:
Beam Proと「XREAL Air 2 Ultra」の関係で分からないところがあるのですが,同じARアプリを利用できるのでしょうか。XREAL Air 2 Ultra向けに開発した空間コンピューティング的なアプリを,そのままBeam Proに持ってきて使えるというわけではないですよね。
高 天夫氏(日本Xreal プロダクトマネージャー):
XREAL Air 2 UltraとBeam ProでAPKは共通なので,使うことは可能です。
Chi氏:
原則として,3D(空間コンピューティング)向けのアプリは,Beam Proでもそのまま使えます。
4Gamer:
Beam Proをゲーム用途に使うには,Bluetoothゲームパッドを使うのが基本なのでしょうか。また,XREALが想定しているBeam Proでのゲームプレイは,Android向けのゲームをBeam Pro上で実行するよりは,「Xbox Cloud Gaming」のようなクラウドゲームサービスや,「Steam Link」のようなPC,あるいはゲーム機からのゲームストリーミングが中心になると考えているのでしょうか。
Chi氏:
Beam Proで使っている無線LAN技術はWi-Fi 6で,たとえば,リビング(のゲーム機)からのゲームストリーミングで,遅延をすごく低くすることが可能です。クラウドゲームとか,リビングのゲームを自宅とは別の場所でプレイしたいというニーズは,とくに(日本や中国以外の)海外の方のほうが多いようですね。リビングでプレイされているゲームを,クラウドを通して大画面でプレイするというのは,(我々が)ずっとやりたいと考えていることですから。
画面上の仮想コントローラのボタン操作を,どうやって物理的に克服するかといった課題は,まさにBeam Proを作った理由のひとつでもあります。
4Gamer:
そうなると,Beam Proに接続したBluetoothゲームパッドのボタンやアナログスティック操作を,画面上の仮想ゲームパッドのボタンに割り当てることは可能なのでしょうか。
Chi氏:
はい,できます。今後のアップデートに向けて,開放できると思います。
4Gamer:
それはすばらしいですね!
Chi氏:
どちらかと言うと,Beam Proで一番重要なチャレンジは,ARグラスに特化した端末であるということです。今現在は,パッと見ではスマートフォンのような端末ですが,我々の理想とするのは,ARグラスと1本のケーブルでつなぐホストデバイスです。たとえばBeam Proにどんどん機能を付与していけば,ARグラスと連携して,ARの体験に集中することができるでしょう。
そうすればスマートフォンは,(AR用途以外の)さまざまな処理を行う端末として使えます。そのときになれば,これ(Beam Pro)を「スマートフォンのようなもの」とは言わなくなるでしょう。
4Gamer:
Beam ProのSoC(Snapdragon 6 Gen 1)は,リッチなグラフィックスのゲームをプレイするには,非力に思えます。ゲーム用途向けに,Beam Proの高性能モデルを出す考えはありますか。
Chi氏:
Beam Proに高性能なSoCを搭載すると,価格が高くなってしまいます。そうなると,やはり一般のユーザー様からは,「私はARグラスだけでいいです」と言われてしまうかもしれません。できるだけユーザー様から,手頃な価格だと感じてもらいたい。
そのあとで,いろいろなフィードバックを聞いて,「もう少し,ハイスペックな端末を出しませんか」という声をいただきましたら,次に進めると思います。
ハイエンドなXR HMDと手軽なAIグラス,その中間に位置するXREALのARグラス
4Gamer:
Beam Proは,XREALが目指す方向性を示す機器だと思いますが,今後XREALは,どういった方向を目指して製品や技術を開発していくのでしょうか。将来的には,「Apple Vision Pro」のようにXRグラスにBeam Pro的な機能を融合させていくのが,目指すべき姿なのでしょうか。
Chi氏:
(中国で行った)Beam Proの発表会では,3つの方向性が,これからこの業界を発展させていくのではないかと述べました。我々が待っているのは,今後の5年間,さらにもっと長い時間の中で,XRもしくはAIが,ひとつの製品に留まらない形になっていくことです。
3つの方向性で話しますと,まず1つめは,体験をどうベストにしていくのかです。たとえば,「Meta Quest 3」やVision Proは,没入感は高いのですが,やはりその重さと価格の高さがハードルになっています。
もうひとつの方向性は,Meta(関連記事)やLenovoが製品を出している「AIグラス」です。これらのAIグラスは,表示機能がないのですが,もしかしたらAI機能として,どんどん受け入れられていくんじゃないかというところにも,未来があるんじゃないかなと考えています。
その中で考えていたのは,とくに我々(のARグラス)とAIグラスという選択肢が,もっと売れることで次のレベルに上がっていくんじゃないかなということです。
たとえ話ですが,近視を解決する方法はどうでしょう。コンタクトレンズを使う方,物理的なメガネをかける方,レーザーを使った角膜手術で治す方と,それぞれの方法がありますよね。やはり異なるユーザーのニーズに合わせていくほうが,共存関係も成り立つんじゃないかなと。
ARグラスもXRグラス全体も,3つの選択肢の中でどんどん住み分けていくのではないか。そのため,短期的には(市場の住み分けは)そこまで大きくは変わらないだろうと思っています。
4Gamer:
それは大変面白い見方ですね。
Chi氏:
我々の優先順位としては,ARデバイスの路線を歩んでいきたいなと思っています。もし本当に余裕があれば,もちろんほかの2つのツール(※Vision Pro的な機器と,AIグラス)も試していきたいですが。
もちろん我々も,XREAL Air 2 Ultraにさらに機能を加える,たとえば6DoFのトラッキングや環境マッピングを加えたり,視野角ももっと広げたり,解像度ももっと高くしたりといったことを実現していくために努力していきます。
4Gamer:
今後のXREALは,現状のARグラス自体の解像度や視野角といったスペックを上げる方向性を重視していくのか,それともBeam Proのような周辺機器やソフトウェアを含めた環境全体を強化していくことを重視していくのか,どちらでしょうか。
Chi氏:
2023年の前半にBeamをリリースして,後半にはARグラスのAir 2/Air 2 Proをリリースしました。2024年も,年の初めにAir 2 Ultraを発表して,中頃にBeam Proをリリースできました。その繰り返しの流れで,次も何かグラスを出していこうかなと考えています。どちらにも本当に力を入れているので,少なくとも今後1〜2年間は,そういう流れで頑張っていきたいと思っています。
これからの1〜2年間は,弊社だけではなく同業他社も,いろいろ新しいものを出す,すごくワクワクする年になるでしょう。もちろん,我々の新製品も自信を持っていますので,期待していただけると思います。
4Gamer:
たとえばソニーは,彼らが製造するデバイスの中でも,マイクロサイズのOLEDパネルを成長分野として重点を置いていると,経営方針説明会で述べていたそうです。それはやはり,ARグラスやXRグラスが今後どんどん出てくると,彼らも予想してるってことですよね。そうなると,XREALも成長するでしょうが,市場におけるライバルも,どんどん増えていくのではないでしょうか。
Chi氏:
ARグラスだけでなく,BeamやBeam Proも登場したことで,我々は本当に,このジャンル,カテゴリーの中のリーダーになっていると思っています。たとえば,このジャンルで一番軽いARグラスを,我々は出しました。まさに,技術と製品ともに,これからも先行者としてリードしていくことでしょう。
現在,ARグラスを販売しているメーカーはいくつもありますが,調べてみればお分かりになるとおり,両目のパネルの精度や鮮やかさ,あるいは大量に出荷しながら品質を維持できる部分が,我々がトップにあり続ける要因となっています。今後はBeam Proというデバイスでステップアップしていく,そうしなくてはダメだという主張をしていきたい。そして,業界のトップとして,新しい物,スキル,もしくはルールを決めて,業界全体を引っ張っていきます。
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XREAL公式Webサイト
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