インタビュー
[TGS2023]バイオハザードをiPhone/iPad向けにリリースする理由とは。川田将央氏と神田 剛氏に聞く
「ヴィレッジ」は2021年5月,「RE:4」は2023年3月にPCやコンシューマゲーム機版が発売された。そこから3年も経たないうちに,MacのみならずiPhoneやiPadにもほぼそのままの形で移植されるということで,驚いた人も多いだろう。
4Gamerは東京ゲームショウ2023の会場で,バイオハザードシリーズを手がけるカプコンの川田将央氏と神田 剛氏に,移植の経緯や今後の展望を聞いたので,その模様をお届けする。
「バイオハザード RE:4」「バイオハザード ヴィレッジ」iPhone15 Pro,iPad,Mac向けに2023年内配信。ユニバーサル購入に対応
カプコンは本日(2023年9月13日),iPhone15 Pro,iPad,Mac向けに「バイオハザード RE:4」と「バイオハザード ヴィレッジ」を2023年内に配信すると発表した。2作品は,M1チップ以降を搭載したすべてのiPadとMacで遊べる。また,ユニバーサル購入にも対応しているとのことだ。
4Gamer:
お忙しい中お時間をいただき,ありがとうございます。Macに加えてiPhone 15 ProやiPadでも「ヴィレッジ」と「RE:4」がプレイできるということで,驚いた人が多かったようですが,まず今回の移植が決まった経緯を教えてください。
神田 剛氏(以下,神田氏):
Appleシリコンの開発が公にされたとき,弊社としてはスペックも含めて検討し,バイオハザードシリーズを皮切りにAAAタイトルを投入していこうとなりましたので,まずはそれが一番大きなきっかけです。
その後,2022年のWWDCで「MetalFX Upscaling」が発表されたとき,弊社も「ヴィレッジ」の対応を表明しましたが,Apple様とはもちろん技術的な連携をさせていただきました。
次期macOS「macOS Ventura」でゲーム向け新API「Metal 3」を実装。Mac版「バイオハザード ヴィレッジ」が対応予定
北米時間2022年6月6日,Appleは,次世代OS「macOS Ventura」に実装予定の新しいゲーム向けAPIセット「Metal 3」を発表した。とくに重要な新要素は,「MetalFX Upscaling」の導入で,Apple Siliconの統合型GPUでも,高い解像度とフレームレートで品質の高いゲーム映像を実現するのに役立つ。
4Gamer:
タッグを組んでの開発だったということですね。
「ヴィレッジ」は2021年5月,「RE:4」は2023年3月発売のタイトルですが,それがもうiPhoneでプレイできるということは,ハードウェアとして現役のゲーム機と遜色のない体験ができるという認識でいいのでしょうか。
そうですね。ゲーム体験は基本的には同じです。iPhoneでもiPadでもコントローラをBluetoothで接続すれば,ゲーム機と変わらない感覚で遊んでいただけると思っています。
もちろんタッチスクリーンでのプレイにも対応していて,ボタンの大きさや配置をカスタマイズすることも可能です。
4Gamer:
最近,スマホとPCの両方に向けて開発されるタイトルが増えていますが,少なくとも「ヴィレッジ」はタイミング的にiPhoneでのリリースは想定されていなかったのではないかと思います。そういった点は,移植のハードルにはなりませんでしたか。
川田氏:
同じAppleのハードウェア向けという意味では,Mac版の「ヴィレッジ」を先行して開発した実績がありますので,その経緯からREエンジンの対応は比較的早めに進められました。
もちろんiPhoneやiPadそれぞれへの最適化には別途手を加える必要があるわけですが,今回のiPhone/iPad版「ヴィレッジ」や,「RE:4」の移植に必要なものは,早々に準備できていたと思っています。
4Gamer:
「ヴィレッジ」がMac/iOS間のユニバーサル購入に対応していないのは,先行して開発されていたことが関係しているのでしょうか。
川田氏:
はい。ゲーム側の一部の仕様が変わった影響で,切り分けざるを得ないということになりました。
4Gamer:
先程「バイオハザードシリーズを皮切り」にというお話がありましたが,PCやコンシューマゲーム機に加え,iPhoneやiPad向けにもリリースという形への動きは,バイオハザード以外でも進められているのでしょうか。
バイオハザードシリーズで新たな市場を開拓して,どんなフィードバックをいただけるかは非常に楽しみでもあり,今後注視していく部分でもあると思っています。それを受けて,例えばですけれども,ほかのブランドとかタイトルにも広げていけたらという期待をしているところはありますが,現時点では具体的な話はありません。
4Gamer:
REエンジンが今回の移植で果たした役割は大きかったようですが,そこについて,詳しく聞かせてください。
神田氏:
エンジンの汎用性が高いため,ベースとなる部分にAppleデバイスへの対応というところを載せやすかったのは非常に効果があったと感じています。
川田氏:
REエンジンの一番のメリットは,自社製エンジンのため,社内の要望をいち早く受け入れられるところだと感じています。そのおかげで,他社さんのゲームエンジンと比較して,非常に効率の良い開発体制を整えられています。
REエンジンに実装してもらいたいものがあれば,計画段階からエンジンチームに共有して,実際に動き出すときには最初からスムーズに作業できる流れができています。プラットフォームを増やすことについても,比較的に他社さんより早めに動けていると思っています。
4Gamer:
バイオハザードのプレイヤーには,没入感を高めるため,部屋の灯りを消し,ヘッドホンを装着してといったスタイルで楽しむ方もいます。iPhoneでは,そこが大きく変わると思いますが,その点についてはどう捉えていらっしゃいますか。
川田氏:
移動中や旅先のホテルなどで楽しんでいただくことも可能になりますし,我々としてはPCやゲーム機で遊んでもらったユーザーに改めて遊んでもらうというよりは,新規の方,今までそういったタイトルに触れてこなかったお客様に対してアプローチをかけたい気持ちの方が強いです。そこから新しいフィードバックも来ると思いますし,いろいろなことをやっておきたいという気持ちも強いです。
神田氏:
iPhoneはライフスタイルに溶け込んでいるデバイスですので,例えばですが,コンテンツを共有してもらったりとか,「これでバイオができるようになったんだよ」といったコミュニケーションが生まれたりしたらいいですね。
4Gamer:
iPhone版やiPad版のグラフィックスは,リリース済みのものだと,どのプラットフォーム向けのものが一番近くなるでしょうか。
川田氏:
何とも言いがたいですね……。ただ,iPhoneやiPadの強みは,ディスプレイと一体化している商品だというところにもあると思います。キャリブレーションすることなしに最適化された状態を体験していただけるのは,すごく大きいです。
4Gamer:
確かに,単体のディスプレイだと製品ごとに色味の違いはありますから,そこが統一されているのは開発者にもプレイヤーにもメリットになりそうです。
神田氏:
iPhone 15 ProやPro Maxは高性能のHDRディスプレイを搭載していますので,そこにMetalFX Upscalingやレイトレーシングが加わると,ものすごく綺麗なグラフィックスという印象を持ってもらえるんじゃないかと思います。
「ヴィレッジ」「RE:4」はフルスクリーン対応になってますので,iPhoneでは画面の横がさらに広がりますし,iPad Proでプレイしていただければ,サウンドもおそらく多くの人が想像するより,よく聞こえると思うんです。
アクションゲームを遊ぶデバイスとして,ゲーム体験はほかのデバイスと比較して見劣りしないと思っています。また,今のスマホやタブレットは短いスパンで新しいモデルがリリースされますから,今後さらに快適なゲーム体験が提供されると思っています。
4Gamer:
実際に移植を行ってみて感じた,iPhoneやiPad,Macの特徴のようなものがあれば教えてください。
神田氏:
開発側にとっては,ユニファイドメモリが大きいです。CPUとGPUが1チップの中に搭載されていますので,これまで無数に存在したCPUとGPUの組み合わせというものがなくなり,さまざまな検証がしやすくなりました。仮にトラブルがあった時に対応がしやすいのも,1つの大きなメリットではあります。
4Gamer:
PCではまさにその組み合わせが膨大になると思うのですが,そこは開発側にとって負担になっているんでしょうか。
川田氏:
負担ではない……と言ったら嘘になっちゃいますね。
推奨環境を決めるのも複雑になりますので,社内で議論することになります。推奨スペックを上げればより良い体験になりますが,プレイできる人は減ってしまいますので,難しいところです。
4Gamer:
確かにそうですね。それがiPhoneであれば,ある程度は単純化できて,分かりやすくもなると。
では,iPhoneやiPadでバイオハザードをプレイする人に,どんな反応を期待しているか教えてください。
川田氏:
今までバイオハザードをプレイしたことがない人が,自分が持っているデバイスで初めて触れて,「こういうゲームもあるんだ」と思っていただけるなら,それ自体が僕にとって重要だと思っていますし,それ以降,もっとカプコンのゲームを遊んでみようかなって思っていただければ,すごくありがたいです。
バイオハザードは映画などで一般の方にも知名度はありますが,実際にゲームをプレイした方はどれくらいいるだろうか……という思いがあります。理想は,すべてを体験してもらうことですので,そうなるように我々も努力したいです。
神田氏:
スマホやタブレットで,このレベルのゲームが遊べるようになったんだと驚いていただきたいです。映像美でもプレイ体験でも,今までゲーム機やPCを持っていなかった方が,これを機にバイオハザードに触れていただいて,そこからさらに興味を広げていただきたいなと。
4Gamer:
今回の発表があったとき,10年以上前にリリースされた「バイオハザード 4」を思い出しました。あれは当時のiPhone向けにアレンジされたものでしたが,「RE:4」はそのままの移植ですから,すごい時代になったなと。
神田氏:
ありましたね(笑)。そのような反応が来ればいいなと思っています。
Appleのデバイスにバイオハザードをリリースすることについて,我々としては先駆者的な形で対応していきたいと思っていますし,全世界の方々にもそういう印象を持っていただきたいです。
4Gamer:
新しいチャレンジに期待しています。本日はありがとうございました。
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