レビュー
[レビュー]「ペルソナ3 リロード」は,RPGの根底にある面白さと青春群像劇を思う存分楽しめる一作。心の銃の引き金を引く準備はできているか?
現在のペルソナシリーズの礎となった「ペルソナ3」を今のゲームとして遊びやすく進化させた「ペルソナ3 リロード」が“ペルソナデビューにオススメ”というのは,1月16日に掲載したプレイレポート(リンク)にあるとおり。発売直前でお届けする本レビューは,前回に引き続き“ペルソナ3をほぼ知らないに等しい人間(筆者)の視点”から,RPGの根本の面白さにもつながっていく「ペルソナ3 リロード」のゲーム性と魅力を深掘りする形で伝えていきたい。
ゲームの序盤や基本のシステムについては同プレイレポートで紹介しているので,こちらにも目を通していただけたら幸いだ。
「ペルソナ3 リロード」公式サイト
[プレイレポ]「ペルソナ3 リロード」でペルソナデビューを。現在のシリーズ作品の礎となったP3が,美しく,遊びやすくなって帰ってきた
アトラスが2024年2月2日に発売する「ペルソナ3 リロード」は,初めてペルソナシリーズをプレイする人はどう感じるのか? ペルソナの根本にある魅力に触れつつ,現在のシリーズ作品の礎となった「ペルソナ3」のフルリメイクタイトルの先行プレイレポートをお届けしよう。
ストーリーとバトルの導入は共に絶妙。次第に加速していく“RPG感”
「ペルソナ3 リロード」をプレイして印象的だったのが,RPG初心者や苦手な人にも入りやすいであろう,導入部分の丁寧さだ。まずは物語の冒頭部分。転校生である主人公とそれを取り巻く環境が,イベントシーンや学校内での会話などをとおして伝わってくるような描かれ方をしている。
“まだそこに介入していないが,しかし間違いなく関わるであろう不穏な出来事”を感じながらひとりの高校生の日常を体験していくのだが,そこに「いかにゲームの世界に馴染んでもらうか」「プレイヤー自身が主人公となり,感情移入してもらうか」を大事に作られていることが感じられる。
筆者も「こんな友人たちと,こんな高級ホテルみたいな寮で高校生活を送りたかった……」と,過ぎ去った青春を取り戻すかのようにプレイしているうち,自然とゲームの世界にどっぷり浸かっていた。
序盤のダンジョン(タルタロス)探索とバトルも実に丁寧だ。「階段を昇ったら一通りエリアを回って敵を倒したりアイテムを集めたりしよう。バトルはまず弱点を探して,弱点を突いて,ダウンを奪ったら総攻撃。探索中にSPが減ってきたら帰還を考える。それだけでも覚えて帰ってください」という感じで,必要な知識や心得を得られるといった程度。RPGに不慣れな人でも,必要最低限なことから順に覚えるような形でゲームを理解していけるはずだ。
そんな,じっくり丁寧にゲームの世界やシステムを教えてくれる「ペルソナ3 リロード」だが,ある程度ゲームを進めると,ムクムクっと“RPG”としての顔を出す。「ゲーマー諸君,そろそろ物足りなくなってきたのではないかな?」と言わんばかりのタイミングで“やり応え”が出てくるのだ。
謎に満ちた影時間を中心としたメインストーリーに,主人公の人間としての成長がゲームキャラクターとしての強化につながる学園生活でのサブストーリー。そして,探索やバトルでのキャラ育成に収集要素。スタートはゆっくりと,しかし気がつけば「今,俺は猛烈にRPGをプレイしているぜ!」と感じさせてくれる,実に絶妙なゲーム進行となっている。
ということで,そんな「今,俺は猛烈にRPGをプレイしているぜ!」と感じたところを伝えていきたい。個人的にRPGに求めるものとして「武器防具の新調によるキャラ強化」と「レベルアップなどによるキャラクターの成長」,それらに付随した「スキルなどの付加的な能力を調整していく楽しさ」の3つがあるのだが,本作はこの3つがバッチリと押さえられている。
……と,RPGの雄であるアトラスだから当然といったところではあるのだが,オリジナル版からあるものと新要素の両方が実に緻密に作り込まれており,あらためて驚かされたのだ。
まずは“金策のやり応え”を感じさせてくれる「武器防具の新調」について。RPGにおける武器防具の買い換えは楽しいものだが,「ペルソナ3 リロード」での武器と防具は決して安くはない。その時点で手に入る最強のものを買い揃えるとなると,「せめて主人公1人分は……」とやっても所持金はガクッと減る。
「ペルソナ3 リロード」では,タルタロス探索やシャドウ(敵)とのバトル,入手したアイテムの販売,そしてバイトやエリザベスの依頼報酬といった「労働の対価」など,さまざまな方法でお金を入手できる。
このなかでも,バイトで稼ぐというのが実に面白い。夜(正しくは影時間という特殊な時間だけど)は人知れず怪異と戦う物語の主人公だが,日中は普通の高校生。ほしいものを買うためにバイトをするのはまさに普通な高校生なわけだが,そのほしいものというのが怪異と戦うための武器なわけである。
「今日はこの店がバイトを募集していますよ」というメールがくると,放課後に友人や仲間から声をかけられても「クッ……いや,今日はバイトだ!」とバイト先に向かってお金を貯める。しかしそのお金を,日曜昼の通販番組「時価ネットたなか」を見て「これは貴重なアイテムだし……」と消費し,ほしかった武器に手が届かなくなる。
ほんの少しお金が足りず,買いたかったものが買えない。それはとても悔しいことだが,RPG好きにとって“らしさ”を感じられるもののひとつ。高校生をロールプレイしながら,この“RPGらしさ”を味わえるのは「ペルソナ3 リロード」を推せる大きなポイントと言えるだろう。
続いて「レベルアップなどによるキャラクターの成長」だが,こちらも「抜かりないな」という印象だ。
「ペルソナ3 リロード」には多くの仲間がおり,それぞれ属性や得意とする戦い方が異なる個性豊かなメンバーがそろっている。こういった複数の仲間がいるRPGの楽しさと言えば,これから挑むエリアやそこに登場する敵に合わせて仲間を入れ替えてパーティを編成し,ダンジョンのさらに奥を目指すことだろう。
しかしこういったゲームには,仲間が増えていくにつれ,出番を与えにくい仲間が出るという問題がある。そしてその仲間は,出番がないうちにレギュラーメンバーとのレベルの開きが大きくなり,さらに出撃する機会が減っていく。なんだか申し訳なくなるが,しかし早く先に進みたいし,これからレベルを上げて育てるのも……と迷い,戦力外になってしまうのはよくあることだ。
「ペルソナ3 リロード」は,パーティメンバーとして出撃可能になる仲間キャラクターは最大9人(さらに主人公はパーティから外せない)になるが,パーティに編成できるのは4人まで。なので,同じことが……と思いきや,それの救済処置となる画期的なシステムが用意されているのだ。
それが「大時計への入り口」。ときおりタルタロス内に出現する扉で,ここで成長させたい仲間(主人公よりもレベルが低いキャラクターのみ)を選ぶと,強力な経験値ボーナスが付与され,一気にレベルがUPするというものだ。主人公とレベルが離れている仲間ほど高い効果が期待できる。
地道なバトルを繰り返し,少しずつ経験値を得ながらレベルを上げ,それで底上げされたステータスをみて「強くなった……」と実感できるのがRPGの醍醐味のひとつ。だがしかし,パーティメンバーの枠を超えた多くの仲間がいると,なかなか全員に等しくその労力はかけられない。そういった,RPGではわりと“あるある”な悩みでもある「レベル差が開いてしまった仲間」だが,それを引き上げる仕組みが用意されているのは,RPG好きにとってすごくありがたい。
そして,「スキルなどの付加的な能力を調整していく楽しさ」。これはシリーズ名にもなっている象徴的な存在「ペルソナ」が担う,重要な要素だ。
ペルソナとは,人が持つ心の力が具現化したものであり,それに向き合うことができる者がペルソナ使いとなり,ペルソナの持つ力を発揮できる。そういうわけで本来ペルソナはひとりに1体なのだが,主人公は複数のペルソナを持ち,自由に付け替えられるという「ワイルド」の素養を持つ。この特別感・主人公感が実にプレイヤーの心をくすぐる要素であり,またゲームキャラとしての育成の楽しさを生む要素となっているのだ。
主人公のペルソナはそれぞれにレベルがあり,バトルなどで経験値を得ることでレベルがアップし,またある段階で新たなスキルを覚えることがある。火炎や氷結,電撃といった所持スキルの異なるペルソナを複数その身に宿し,バトルのときは敵の弱点属性をみて,いくつのも仮面を使い分けるかのようにペルソナを切り替えて戦う。
それぞれスキルの組み合わせやパラメータで役割が異なるので,プレイヤーの得意な戦い方や取りたい戦術,またはアルカナ(属性)の違いや見た目の好みといったところでも,どのペルソナを選択するかは,プレイヤーによって大きく変わるだろう。
さらにプレイヤーの個性が強く出るものとなるのが「ペルソナ合体」。2体もしくは複数のペルソナを掛け合わせて,1体の新たなペルソナを呼び出すシステムだ。新たなペルソナを生み出すとき,合体前のペルソナのスキルをいくつかを引き継げるのだが,スキル欄には限りがあり,また新たなペルソナがもともと所持しているスキルもあるため,ここで取捨選択が発生する。
この,実に悩ましい取捨選択だが,RPG好きであればバリバリ駆使したくなる要素になっていてたまらない。ただのスキル選別ではなく,そこにペルソナそれぞれのキャラクター性が乗っているため,ペルソナにどういう特徴をもたせるかが,主人公の個性付けにもつながっているところが面白いのだ。ペルソナ合体が開放されたとき,「そうそうこれこれ……だいぶRPGのエンジン,温まってきているぜ」と熱くなれるはず。
新しく手に入れたペルソナは「ペルソナ全書」に登録でき,すでに登録されているものも上書きして再登録できる。序盤に低レベルで入手したペルソナでも,育ててレベルが上がったものを上書きするのはもちろん,合体でさまざまなスキルをセットした自分だけのペルソナも保存できるわけだ。
収集要素として熱くなるのはもちろんのこと,登録したペルソナはお金を払うことで手持ちに加えられるので,こだわりのペルソナづくりに取り組めるところもいい。試行錯誤しながらペルソナ合体を行い,スキルを厳選した素材となるペルソナを作成。それを何度も繰り返して理想のペルソナを作り上げる。ううむ,このあたりにこだわり始めると,相当に時間が溶けそうだ……。
タルタロスでの戦闘も,先へと進むつれてどんどん激化していく。高めの難度で挑むのであれば,バトル後のシャッフルタイムで手に入る“素”のペルソナを使っているだけでは苦戦するだろう。逆に言えば,さまざまな状況に対処するペルソナを作るという楽しさに没頭できるわけで,RPG好きには思う存分試行錯誤してほしい。
……と,「さすが高難度でおなじみアトラスのRPGだ!」な手強さを感じられるバトルだが,RPGが苦手な人,あまり遊んだことがない人,ストーリーメインで楽しみたい人でも安心して楽しめるのが本作である。最低難度「PEACEFUL」であれば敵はだいぶ弱く,バトルに負けても即座にその戦闘からやり直せて,しかもシャドウの体力をある程度削った状態から再開できるなど,至れり尽くせりな仕様にもなっている。クリアできないなんてことはないはず。
新たな仲間たちとの出会いと,少しずつ真相に近付いていく物語の牽引力
「少しずつ仲間が増えていく」のは,RPGの大事なワクワクポイントのひとつ。パーティメンバーが増え,編成の楽しさが増すのはもちろん,物語の広がりにも大きく影響する部分だが,このあたりもしっかり作り込まれているのが,オリジナル版が18年近くという長きにわたり支持される部分でもあるだろう。
最初は主人公,岳羽ゆかり,伊織順平の3人で始まったタルタロス探索も,ひとり,またひとりと頼もしい仲間が増えていく。そして,ゲーム序盤は広さの割にわずかな人数しかいなかった寮のラウンジも,気がついたときには多くの仲間で賑わいを見せるようになる。このゲームの流れでふと感じられる,寮に帰宅したときの「仲間,増えたなあ……」という感慨深さはたまらない。
というのも,主人公にとってシャドウとの戦いは,かなり唐突な始まり方であり,孤独感あるものだったからだ。「この世界には影時間というものがあり,シャドウという危機がある。ペルソナ使いでないと戦えない。だから一緒に戦ってくれ」と,半ばなし崩し的に参加させられた感のある始まりであり,ゆかりや順平も,お互いのことをよく知らないまま一緒に戦うことになった関係である。
そんな始まりから,クラスメイトとして学校での日々や季節の行事をともに過ごすことで,同じ学校に通う友人として,ともに戦う仲間として互いの関係性が深まっていき,またその過程で新たな仲間も増えていく。この,仲間との関係性の生まれ方やメンバー加入の流れが絶妙で,だからこそある日の寮への帰宅時,多くの仲間が迎えてくれることに深く感じ入るものがあったのだ。
「コミュ」のキャラクターたちとの人物関係の描き方も丁寧で,その物語は先が気になるものばかりだ。
個人的に序盤から入れ込んでいた陸上部のマネージャー・西脇結子との話を例としてあげると,コミュが進み関係性が深まり,見事,恋人関係になったときには「もう,これがエンディングでいいだろ……」と感極まるほどに“ふたりの物語”を楽しめた。
コミュのひとりである風紀委員の小田桐秀利。堅物で融通が利かず,強引なやり方で非難され孤立しがち。しかし話を進めていくと「小田桐,君って実はめっちゃ良いヤツやん……」という,彼の人となりに触れられる |
コミュ以外のキャラクターとも交流の機会がある。そのなかでも特殊(?)なのがエリザベス。外の世界に興味があるようで街を案内してあげるのだが,それが驚きの展開ばかりに…… |
キラキラ輝く青春物語な面を紹介してきたが,ある種それと対比したシリアスな展開にもグッとくる。
影時間やシャドウはいつから,どういう理由で発生していたものなのか。主人公の加入前から戦っていた先輩の桐条美鶴や真田明彦は,どういう経緯でこの戦いに身を投じたのか。根本的な謎がいくつもあり,それが少しずつ紐解かれていくのが,メインストーリーの大きな“引き”にもなっている。
それらの謎は,なにかがひとつ明かされるとさらに新たな謎が生まれ,またその謎に密接に関わるキャラクターが仲間として加入するといったように,ストーリーとキャラクターの両方に強く興味を惹かれる構造になっている。このあたり,ネタバレにもなるので具体的に説明できないのがもどかしいが,ここが実に素晴らしいと感じた部分だ。
そしてビックリなのが,ペルソナ使いの犬・コロマルの加入。最初は「寮のマスコットキャラ的存在かな? 癒やされるわー」なんて愛でていたのだが…… |
えっ,普通にパーティメンバーとして使えるの!? しかもペルソナは“地獄の番犬”ケルベロスで,メインの使用スキルは闇属性で二度ビックリである |
バトルだけじゃない。楽しい確かな“青春”がここにある
探索やバトルといったRPGらしさが詰まった夜のタルタロス探索。青春もののアドベンチャーゲームかというくらいのストーリー性にあふれた昼の学園パート。両方ともぎっしりと詰まった内容になっているが,どちらにも比重が寄っておらず,良いバランスを保っていることに驚かされる。
そのなかでも,やはりオリジナルの「ペルソナ3」で生まれた「コミュ」システムが絶妙だ。学園パートがRPGパートに干渉する同システムによって,自然とその両方のあらゆる要素に触れ,しゃぶり尽くそうという気にさせてくれる。
物語に深く触れることが,結果的にゲームを進めるうえで大きなプラスになる。「ペルソナといえばコミュというのをなんとなく聞いたことがある」という人は,ぜひ同システムが生まれた「ペルソナ3」の進化版である本作でそれを体験してほしい。
最後にあらためて伝えたいのが,本作が“転校生である主人公を中心とした青春群像劇”という面を持っていることだ。
寮で共に暮らすペルソナ使いの仲間や,学校や街でのふとした出会いでつながる人々。彼らとの物語は,メインストーリーやサイドストーリー,コミュといったさまざまな形で展開する。1人1人に丁寧にスポットが当てられ,そして丁寧に人の思いや悩みが描かれており,それはオリジナルが18年前であっても,共感できるものがたくさんあるはず。そうして物語を進めていくうち,だんだんとそのキャラクターたちが好きになっていく感覚は,本作の大きな魅力のひとつだろう。
仲間とは,寮でコミュニケーションを取って仲を深められる | |
一緒の時間を過ごした仲間が,「特性」と呼ばれる特別なスキルを習得することも。クリティカル発生率UPや回復スキルの際のSP消費が減るといった,探索やバトルのときに嬉しい能力ばかり。仲間のことを知り,絆を深めることが,タルタロス踏破の大きな力となるのだ |
現在,主人公と同世代やそれに近い年齢の若いゲームファンにプレイしてほしい一方,“かつて少年・少女だった人たち”にも今こそ触れてほしいと感じる。
夜な夜な繰り広げられる異世界での戦い,恋に友情に奔走する学園生活……大人という名のペルソナ(仮面)を被って日々を暮らす人たちも,たまには少年・少女のペルソナを被り,見えない銃を額に当て,引き金を引き,己の内に眠る厨二心を解き放ってみるのもいいものだ。「だいぶ昔になるけど,一度プレイしたしなあ」という人も,手元の銃をよく見てみてほしい。あれから18年――そろそろ“リロード”してもいいころじゃないか?
「ペルソナ3 リロード」公式サイト
- 関連タイトル:
ペルソナ3 リロード
- 関連タイトル:
ペルソナ3 リロード
- 関連タイトル:
ペルソナ3 リロード
- 関連タイトル:
ペルソナ3 リロード
- 関連タイトル:
ペルソナ3 リロード
- この記事のURL:
キーワード
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.
(C)ATLUS (C)SEGA All rights reserved.