連載
ありがたき哉 日本語化:超能力者だらけの架空のロンドンで犯罪捜査。高評価推理ADV「Staffer Case:超能力推理アドベンチャー」をご紹介
「ありがたき哉 日本語化」は,ここ最近で日本語対応となった海外作品を良い機会だからあらためて紹介しようという,フワッとしたコーナーです
「自分にはたぶん,犯罪捜査の才能がある。しかしただの事件では物足りない。もっと複雑な“何か”がほしい。たとえば……容疑者も捜査官も超能力者であるとか!! ガハハハ!」という人は,今回紹介する「Staffer Case:超能力推理アドベンチャー」(以下,Staffer Case)を遊んでみるといいかもしれません。これがそれです。
Staffer Caseは,住民の約1割が超能力者――な架空のロンドンを舞台に,とある特殊な組織の新米捜査官となって犯罪捜査に挑む推理アドベンチャーです。犯行の手口は超能力ならではのものであり,それを,超能力ならではの捜査(+普通の捜査)で暴いていきます。
そんな本作は2023年4月30日にリリースされ,約1年後の4月26日にグローバル版のリリースという形で日本語が追加となりました。ありがたき哉。Steamでは1500件以上のレビューを集め,本稿執筆時点で“圧倒的に好評”(全てのレビュー)を獲得しています。グローバル版と合わせて,スピンオフ作品「Staffer Reborn」がリリースとなったこともポイントですね。もちろんこちらも,日本語対応です。
なお本作にはグローバル版のリリース以降も,良いテンポで翻訳アップデートが入っています。本記事には過去1週間程度の古いスクリーンショットも含んでいるので,その点はご了承ください。
またネタバレを避ける意味で,スクリーンショットは可能な限り序盤のものを掲載しました。
「超能力者が当たり前に存在する世界」が舞台
Staffer Caseは,韓国のインディーゲームスタジオ・Team Tetrapodが開発し,配信しているタイトルです。魅力的なキャラクターと背景,そして大ボリュームのテキスト(ボイスなし)を中心に展開する,ビジュアルとしては比較的オーソドックスな2Dアドベンチャーですね。
Staffer Caseの舞台は前述のとおり,超能力者がごろごろ住んでいるという,架空のロンドンです。時代は1960年代なのだとか。この世界には世の中の法則を捻じ曲げる物質「マナ」が存在しており,それが異常現象「マナ現象」を発生させるそうなんです。その現象を生まれつき操れるのがいわゆる超能力者であり,この世界では「ステッパー」と呼ばれています。ちなみにステッパー達は自らの力を“超能力”というオカルトチックな言葉で呼ばれることを嫌っており,「スキル」と呼んでいます。
そんなロンドンですから当然(?),マナ現象に関する問題を専門に扱う組織があります。それが「マナ現象管理局」(通称“管理局”)でして,主人公のノートリック・ケースは,同管理局のロンドン支部捜査課にある「マナ事件専任チーム」に,ステッパーではないものの優秀な人間としてスカウトされ,ニューメキシコからロンドンへ活躍の場を移すこととなりました。
チームに招かれた直後のノートリックがどういった扱いを受けるかなどは,実際に物語を楽しんでもらうのがいいでしょう。それよりここでお伝えしておきたいのは,本作に登場する犯人を含む容疑者も,捜査を行うチームのメンバーも,いずれも基本的にはステッパー,つまりなんらかのスキルを持つ超能力者であるという点です。
これが本作を特徴付けている要素であり,犯罪捜査のフィーリングは,人間だけの世界とは大きく異なります。
ステッパーの持つスキルは,物体を移動させる,別の動物を操る,炎や氷を操るなどとさまざまで,捜査難度は現実世界のそれとは比較になりません。そのため捜査する側も,ステッパーならではのスキルを駆使する必要があるというわけです。
超能力で作成された調査書類をもとに推理する
例外はありますが,捜査の基本的な流れは「マナ事件専任チームのメンバーと共に調査・分析を行い,書類を作成し,それらの書類を眺めて,矛盾を見つけたり,推理を進めたりする」といったものです。捜査のカギとなる書類は「陳述書」「記憶調査書」「痕跡写真」の3つで,いずれも捜査官のスキルを駆使した,やや特殊な書類となっています。
【陳述書】
取り調べでの容疑者の発言をまとめた書類です。発言と共に,その時の容疑者の「異常心拍」も合わせて記録する形となっています。異常心拍は,マナ事件専任チーム・テナ捜査官が「細かい振動を感知する」というスキルを使って探知します。
異常心拍は“殺人”や“死”などのショッキングな言葉を発した時や嘘をついた時に感知されるため,これを基に容疑者の言葉の真偽を判定できますよと。
【痕跡写真】
現場に残された足跡などの痕跡を,はっきりと確認できるようにした写真です。これはマナ事件専任チーム・ブリアン捜査官が自らのスキルを使って作成します。
痕跡は経過時間によって明度や色が変化するため,痕跡(たとえば足跡)がいつ発生したか――といったことが分かります。
【記憶調査書】
現場に存在する家具や遺留品など,さまざまな“物”と,それらに残された記憶をまとめた書類です。マナ事件専任チームのチーム長・レッドフィンズ捜査官がスキル「接触型記憶スキャン」で記憶を読み取り,ノートリックが情報をまとめて書面に起こします。
なお,読み取れるのは物に残された聴覚,嗅覚,触覚の記憶のみと,若干の制限があるのがポイントでしょう。
上記の3つとは別に,ステッパーの能力などをまとめた「管理情報」や,録音した会話を印刷した「録音データ」,そのほか現場で手に入れた各種書類も登場します。
管理情報は,この社会でステッパーなら所持しておかなければならない身分証のようなものですね。能力だけでなく,当該能力の(社会における)危険度も分かるようになっています。
取り調べや現場検証でノートリックはさまざまな関係者と会話したり,一人で思索にふけったりします。その中で,ひらめいたり,何か矛盾を発見しそうになったりしたタイミングで,プレイヤーにはその根拠となる資料と,該当箇所の提示が求められる――という流れですね。たとえば「陳述書によれば容疑者は10:00に事件現場に入ったと発言しているが,痕跡写真では容疑者の足跡が発生したのは8:30になっている」といった感じで,画面内で資料の該当箇所を指定します。そして「正解確認」ボタンを押下すれば,手がかりが「照合」され,論理的かどうかの判定が行われます。
さらに捜査が山場を迎えた時には,ノートリック(つまりプレイヤー)が6つの資料から関連する各1個の手がかりを見つけてつなげる,「六角推理」が発動します。ガチガチの論理を提示して容疑者を追い詰め,犯人を突き止めるという大技(?)みたいなものですね。
なおプレイヤーはノートリックの推理に合わせてさまざまな手がかりを提示して照合を行うわけですが,照合が成功しても失敗しても,とくにペナルティはありません。トライ&エラーは無制限なので,割と気楽に仮説を試すことができるのがいいですね。「Hint」ボタンを押せば,手がかりを含む書類がハイライトされるという安心仕様だったりもしますし。
問題を抱えた社会の中での人間ドラマも見どころ
しばらく遊ぶと,ノートリックとプレイヤーの両方の推理がシンクロするようになってくるのが面白いです。捜査を進める中でプレイヤー側が「あれ,これって……?」と思ったタイミングで,ノートリックも同じ点に疑問を抱き,手がかり(根拠)の提示を求められる――といったタイミングが増えていきました。うまい作りだと感じます。推理で分かったような気になる気持ち良さがありますし,逆に,巧みなミスリードによって推理の裏をかかれる爽快感もあります。うーんいいですね。
ただ,本作が推理だけを楽しむゲームかというと,もちろんそうではありません。前述のとおり本作の舞台は,超能力者がいることが当たり前の社会です。ノートリックは,ステッパー達が危険視され,管理され,時には差別されるという特殊な社会ならではのルールを知り,そこから生まれる歪み,そして闇も目の当たりにしていきます。事件に関わるステッパー達の境遇や,同僚達の過去を知っていくノートリックの心の動きにも目を離せない,人間ドラマとしての魅力も大きなタイトルなんですね。
なおStaffer Caseにはデモ版が用意されています。序盤の2つの事件をとおして超能力のある世界ならではの捜査をしっかりと体験できるので,世界設定や推理の仕組みに興味が出たという人は,ぜひ遊んでみてください。
- この記事のURL: