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ありがたき哉 日本語化:霊障たっぷりの遺体安置所で一人ぼっちのお仕事。遺体衛生保全&悪霊退治ホラー「The Mortuary Assistant」をご紹介
「ありがたき哉 日本語化」は,ここ最近で日本語対応となった海外作品を良い機会だからあらためて紹介しようという,フワッとしたコーナーです
というわけで始まった新コーナーの第1回では,遺体を衛生的に保存するための処置を生業とする主人公がアラ不思議,なぜか悪霊退治もやるハメになってしまうという,一人称視点で展開するPC向けホラーゲーム「The Mortuary Assistant」をご紹介します。本作は2022年8月2日にリリースされ,Steam版が2023年3月24日のアップデートでめでたく日本語対応となりました。ありがたき哉。
※たまたま昨日(2023年4月21日。北米時間4月20日),海外では本作のNintendo Switch版が登場しました(関連ツイート※外部リンク)
本作は「エンバーミング」(日本語では“遺体衛生保全”と呼ばれる,殺菌消毒や防腐処理,修復などを行うことで遺体の保存状態を高めたり,生前に近い姿に整えたりする技法)の専門家を目指す女性を主人公に据えた作品です。ゲームには器具や薬品などの名前,使い方の解説が出てきますし,登場人物の重要な会話,読むべきテキストもそこそこあるということで,日本語化はかなりの朗報と言えましょう。
なお題材が題材だけに,本作には一部,遺体にメスを入れるシーンなどの刺激の強い表現があります。その点はご注意ください。
舞台は遺体安置所。相手は遺体,そして悪霊
本作を開発したのはコネチカット州ミルフォードを拠点に活動している個人ゲーム開発者・Brian Clarke氏がオーナーを務めるDarkStone Digitalというスタジオです。Clarke氏は2005年からプロとしてゲームを作っている人物で,キャリアのうちの13年間はAAAゲームの開発に携わっていたのだとか。ホラーや80年代のSF,超常現象,シュールなものに目がないというClarke氏が独立後に手がけたのが,このThe Mortuary Assistantというわけです。
本作の主人公はレベッカという女性で,エンバーマーである彼女は見習い期間の締めの形で,かつて師事していたデルヴァー氏が経営するリバー・フィールズ葬儀社の遺体安置所で働くこととなります。
ちなみにタイトル名にあるMortuaryはイギリス英語では一般的に遺体安置所を意味する言葉で,フランス語由来のMorgue(モルグ)はとくに北米でよく使われる――とWikipediaに書いてありました。同義語ではありますが,前者は一般的に葬儀場や病院内にあり,後者は警察や検察官,法医学者による調査など,主に法的な目的で使用される施設である――というのは,念のために聞いてみたChatGPTの見解です。
……で,このリバー・フィールズ葬儀社(というかデルヴァー氏)が,なんというか,訳ありだったんですね。レベッカが職場で腕前を披露して帰宅したその夜,デルヴァー氏は,自身が体調不良のため,急遽届いた遺体3体の処置をしてほしいと,電話で彼女に依頼してきます。
職場に入るとドアは外から施錠され,レベッカは閉じ込められてしまいます。そしてデルヴァー氏は電話を通じて,扉を閉じたことをレベッカに謝罪しつつ,レベッカに“あれ”が憑依し始めていること,今はエンバーミングの作業に集中するべきだということ,そして彼女が助かる方法は「(彼女が)完全に支配される前に悪霊を追い払うこと」だと告げます。悪霊の名を解明し,悪霊とつながりのある遺体に悪霊そのものを閉じ込め,冷却室にある炉で焼却(火葬)しろ――と。そしてレベッカは否応なしに,エンバーミングと悪霊退治に励むこととなるのです。
3体の遺体のうち,焼却できるのは選んだ1体だけで,焼却を終えた時点でなんらかのエンディングを迎えます。エンバーミングと悪霊の特定,遺体の焼却までを行う一晩が,本作のプレイの一つのまとまりという感じですね。
本作は,エンディングが5つあることが最初からメニュー画面で提示されており,プレイヤーはレベッカが夜間に職場を訪れるところから始まる一晩を繰り返しプレイすることで,さまざまな結末に辿りつくことができます。プレイするたびに真実が明らかになったり,逆に謎が深まってたりするという巧みな構成となっていて,もう一晩,あと一晩とプレイしたくなるんですよねこれが。
手際良くエンバミることで悪霊に集中できます
肝心のエンバーミングは,基本的には決まった手順で行います。作業をいくつか画像でピックアップしておきましょう。
ちなみに遺体の処置に使用する器具や薬品は,アイテムの一つとして用意されているクリップボードで常に確認できるので,記憶する必要はありません。
前述のとおりデルヴァー氏に依頼されたエンバーミングの対象となる遺体は3体ですが,3体の性別や人種,身体の特徴などはプレイするたびに変わります。処置室のさまざまな棚に置かれた,エンバーミングに使う器具や薬品の配置も変わる仕組みです。
ただエンバーミングそのものはミニゲームではなく決められた手順に沿って行う純粋な作業なので,チュートリアルに加えて2,3回プレイすれば(2晩,3晩過ごせば),プレイヤーはすべての処置をスムーズにこなせるようになっているでしょう。むしろ「手間なのでなるべく早く終わらせたい」みたいな。仕事がちゃんと仕事っぽく(?)ゲーム内に実装されている――と言っていいかもしれません。誰かに怒られそうですが。
重要なのは,というか本作の見どころは,作業中に発生するさまざまな現象のほうでしょう。突然明かりが消えたり,謎の声が聞こえたり,謎の電話が掛かってきたりというのは序の口で,見えてはいけない“あれ”が見える現象もたっぷりです。いわゆるジャンプスケア(音や映像で驚かせる演出)的なものも多いですが,時には謎の空間に飛ばされて(幻覚に近い表現だとは思いますが),さまざまな出来事を見たり,体験したりすることもあります。レベッカは,遺体の状態だけでなく,これらの現象から得た情報もヒントにして,悪霊とつながりのある遺体を特定するわけです。
悪霊の名前を特定し! 遺体に閉じ込め! 焼く!
レベッカのもう一つのお仕事,悪霊退治の手順には以下のとおりです。
・悪霊の名前を特定する
悪霊の名前を特定するには,「紙」と,お札のようなアイテム「暴露札」を使います。
紙は付箋のような物でして,自らが正気かどうかを判断するため,作業の合間にここに落書きをするという形で使うものです。レベッカはシャシャと紙に落書きをするだけなのですが,自らへの悪霊の憑依が進むと,落書きが意味を持った形になってきます。最終的には模様となり,これが悪霊の名前を判断するヒントの一つになる,という具合ですね。
もう一つの暴露札は,手に持って使うアイテムです。手に持った状態で職場を歩き回り,悪霊がこの世界に刻んだ(目に見えない)「印章」に近づくと,暴露札から煙が出て,さらに近づくと火がつきます。そし暴露札が明るく燃え上がって消し飛んだ場所の近くの壁などに,印章が現れるのです。印章は4つ揃えることで名前を示すものとなるので,これを4回やる必要があります。
ただしこの作業は4回を一気にできるわけではありません。レベッカへの憑依が進む(エンバーミング作業を進めていく)につれて,一つ,また一つと名前の文字を明らかにできる仕組みのようですね。
・悪霊を遺体に閉じ込める
紙のヒントと4つの印章をもとに,職場のPCで閲覧できるデータから悪霊の名前を突き止めます。ここで粘土でできた「印章盤」の出番です。
印章盤の使い方は簡単で,PCで閲覧できるデータをもとに盤に4つの印章を正しい配置ではめ込んで完成させ,これを悪霊がいると思われる遺体の上におくだけです。こうすることで,エンバーミング中に遺体の体内に流した(流すんです)特別な試薬が反応して,遺体に悪霊を閉じ込めることができます。
・焼く
ストレッチャーに乗せた遺体を冷却室にある炉に入れて,スイッチを入れます。
もちろん「正しい遺体」を選ばなければこれらの手順は無意味というか,バッドエンドへ向かうだけです。「エンバーミングを終えて保管しておいた遺体を,あらためて観察して変化を見る」など,判別にはさまざまな方法があり,プレイしていると少しずつ分かってきます。
エンバーミングと同様に悪霊退治の手順も,ゲーム内で聴けるテープや資料で随時確認できるので,記憶する必要はありません。
とくに職場のPCで閲覧できる「夜勤データベース」は重要でして,悪霊退治をどのように行うかといった情報は,これにほぼすべて収められています。悪霊の名を示す印章の配置方法も,これを見ないと分かりません。迷わずにゲームをプレイするためには,まずは当該資料で悪霊退治の時に参照すべき項目をしっかりと頭に入れておくことが重要でしょう。
最初から怖くて,ずっと怖いゲームです
個人制作のインディーゲームである本作は,職場を始めとしたロケーションなどのコンテンツは可能な限りコンパクトにまとめつつ,その分,プレイヤーの感情を揺さぶるための演出に力を注いだゲーム,といった印象です。最初から怖いですし,心安まる暇もなくプレイ中もずっと怖いという,恐怖体験をギュッと凝縮したようなタイトルですね。
ゲームを終了したあとも余韻が残る作品であり,しばらくはわずかな物音にビクビクしてしまうこと請け合いです。怖がりたい人は,ぜひプレイしてみてください。
- 関連タイトル:
The Mortuary Assistant
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