インタビュー
[インタビュー]「信長の野望 出陣」小笠原賢一氏&菊地啓介氏に聞いた,シリーズの“ハブ”にしたい位置情報ゲームに込めるもの
だが気付けば,「IPしか勝たん」が豪語されがちなスマホゲーム界においても,さらに煮詰まった“めっちゃ強いIPしか生き残らん”状態になって久しく,位置ゲームはユニークさだけでは戦えない,一度退けば再戦もはるかに遠ざかる,軽はずみに触れられないカテゴリと化した。
しかし,そんな乱世の時代に乗り込む,新たなIPがいる。
それが皆さんご存じ「信長の野望」シリーズだ。
2023年の“シブサワ・コウ”ブランド40周年と,3月30日の“信長の野望の日(※)”にちなんで,コーエーテクモゲームスはスマホ向け位置情報ゲーム「信長の野望 出陣」(iOS / Android)をお披露目し,4月12日からはクローズドβテストを実施すると発表した。
※一般社団法人・日本記念日協会に認定された記念日
その内容は“信長の野望×戦国風の位置ゲーム”といったもので,テーマは「自分の足で作り上げる戦国マップ」とのこと。
ざっくばらんに解釈すると,ポケゴーではなくテクテクする系。
つまり,歩いて地図を埋めるタイプの遊びである。
同社が位置ゲームに着手するのは今回が初の試みだというが,不思議なことに「信長の野望」や「三國志」の位置ゲームは,ないはずだけれどもあった気がしなくもない,などと思ってしまった。
これは位置ゲームの多種多様さが引き起こした錯覚だが,なんにせよ立ち上がっていないだけの猛者はまだまだいたもんである。
開発陣は,コンシューマ最新作「信長の野望・新生」でおなじみの小笠原賢一氏がプロデューサーを,同社のスマホゲームブランド“midas”ブランド長である菊地啓介氏が開発プロデューサーを務める。
小笠原氏はまだしも,菊地氏はどちらかというと“ガスト”ブランドの「よるのないくに」「アトリエ」シリーズをはじめ,「零」「影牢」のシリーズ作品などで名が挙がってきた人物である,が。
シブサワ・コウ関連だと,接点を聞いてこなかった人物でもある。
そんな菊地氏に任せていること自体,位置ゲームという同社初の挑戦と,それゆえの新風を求めた抜擢であることは想像に難くないが。
内情としては,いったいどういった具合なのか?
今回はそれらを尋ねるべく,両名にインタビューしてきた。
「信長の野望 出陣」公式サイト
位置ゲームで目指す“信長の野望らしさ”
4Gamer:
今年は「信長の野望」で“位置情報ゲーム”に初挑戦するとのことで。まずは心機一転の自己紹介から聞かせてください。
小笠原賢一氏(以下,小笠原氏):
小笠原です。私は長らく“ω-Force”ブランドで「真・三國無双」シリーズなどのアクションゲームを手がけてきましたが,数年前から“シブサワ・コウ”ブランドに移り,コンシューマ版のシリーズ最新作「信長の野望・新生」のプロデューサーを務めました。
そして2年ほど前ですね。信長新生の開発のさなか,「信長の野望 出陣」も手がけてほしいと話を受けて,開発途中に合流したんです。
4Gamer:
信長新生を開発しつつ,おそらく発売後の改善作業もありつつ,さらに「信長の野望・新生 パワーアップキット」もあってな状況で?
小笠原氏:
そうですね。絶賛,信長漬けです(笑)。
4Gamer:
さすが40周年。菊地さんのほうはいかがでしょう。
菊地啓介氏(以下,菊地氏):
私は元テクモ,今の“Team NINJA”ブランドで「零」「影牢」シリーズに携わり,それから“ガスト”ブランドで「よるのないくに」「アトリエ」シリーズを経験してから,スマホゲーム専門の“midas”ブランドで,どんな切り口とコンテンツでスマホ市場に挑戦するか模索してきました。
本作では開発プロデューサーを担当しており,小笠原とともにこれまで制作を進めてきました。
4Gamer:
気になるワードはいくつかありますが,まずはじめに,菊地さんが過去に「信長の野望」シリーズに携わった経験というのは?
菊地氏:
ありません。昔からコーエーの歴史SLGが大好きで,学生時代にPC-8801,9801から「信長の野望」シリーズを遊び続けてきましたが,あくまでユーザー側にいました。
それがこうして開発にも関われるようになって,長年のうれしさがこみ上げてくる反面,プレッシャーもありますね。
4Gamer:
経緯もいったんまとめると,本作は小笠原さんの合流以前から動いていたプロジェクトだった……という認識でよいですか?
菊地氏:
そのあたりの経緯ですが,昔から「信長の野望を位置情報ゲームにしよう」という話は社内で出ていました。歴史ゲームは“実際に日本であった出来事”を描いているので,地理的にも見た目的にも位置情報ゲームとの親和性があるだろうと,私も考えていました。
そのうえでプロジェクトが動き出したのは,小笠原の合流以前である約3年前のこと。当時はほかのブランドではできない,midasならではの挑戦心を込めたゲームを目指していましたが,結果的に「信長の野望より,ウォークゲーム寄りの内容」でした。
4Gamer:
そこで舵を取り直したと。
菊地氏:
はい。当時の作りは「信長の野望」のIPでなくても成立するカジュアルなゲームでしたので,もっと訴求力を高めるため,まずはシリーズの最新動向に精通している小笠原に参加してもらい,「より信長の野望らしいゲームデザインに練り直そう」とあらためました。
さらにシブサワ・コウブランドの歴史SLG開発のスペシャリストたちにも参加してもらい,開発方針を修正して再始動したのです。
万全な態勢に。シブサワ・コウ40周年にもピッタリ合わせですし。
菊地氏:
そこはたまたまです(笑)。
ここ1年くらいでようやく開発の着地点が見えてきたのと,そこに40周年が近づいていたのもあり,より「信長の野望」のIPを盛り上げられればと考えました。
小笠原氏:
結果的によい縁ですし,いい流れにはなりましたね。
4Gamer:
では話を進めて,開発方針を練り直すうえでおそらく軸になっただろう“信長の野望らしさ”ってなんなのでしょう?
個人的には「パッケージに信長ドーン!」「武将×内政×戦闘アリ」を保てば,そう見える節があります。「信長の野望 201X」とかもありますし。この点,本作はなにを軸に,らしさを練り込んだのか。
菊地氏:
ユーザー歴が長かった僕なりに感じていることですが,武将を集めて育て,内政で国力を高めて,合戦で領地を広げて天下統一を目指す――これらはすべて“国を豊かにするためのゲームサイクル&マネジメント”であり,すなわちこれが「信長の野望」の楽しさだと考えています。
そして小笠原に合流してもらったときに,最初に言われたのが「信長の野望 出陣は,領地を広げるゲームにしたい」ということでしたので,本作も位置情報ゲームとして歩いて遊ぶ要素を軸としつつ,国を豊かにしていく体験と構造で再構築しました。
小笠原氏:
菊地の言うとおり,以前の開発方針は位置情報ゲーム側に偏っていて,ファンが遊んでもシリーズのエッセンスを感じてもらいづらい,良くも悪くも戦国風RPGといった体験でした。そこに領地を広げる要素を組み込んだことで,一気に“信長の野望らしく”なりました。
本シリーズの面白さは,日本全国を統一してシナリオクリアを目指すことよりも,国勢が徐々に盛り上がっていく手応えに醍醐味があると思っています。ファンの皆さんも同じ気持ちでしょう。だからそうした体験を位置情報ゲームとして楽しむ,それが本作の軸です。
4Gamer:
シリーズのポリシーとしても,いい考えに思えます。
小笠原氏:
もちろん,位置情報ゲーム界隈には「ポケモンGO」や「ドラゴンクエスト ウォーク」などの巨頭があり,市場での成功の確度を高めるならそれらに歩み寄った作りにする,という考えもありました。
けれど,「コーエーテクモ」が「信長の野望」で「位置情報ゲーム」を作る,となれば真正面から堂々と勝負したいですよね。
4Gamer:
そのへん,現在の位置ゲーム市場はどう見ているのでしょう。
このジャンルはポケモンGOから先,ユニークさをウリにした多種多様なアプリが生まれましたが,気付けばスマホゲーム界隈でもとくに“強いIPしか生き残れない”という色合いが一極化しています。
とはいえ,「信長の野望」もお世辞抜きに,上澄みタイトルたちと比肩する強力なIPには違いありませんが,数々の名IPがバッタバッタと骨を埋めてきた戦場へのプレッシャーは感じませんか。
小笠原氏:
それに答えるなら,本作の武器は「信長の野望であること」ですが,もう一つ“日本の地理や歴史にフォーカスしやすいこと”が挙げられます。つまり本作は位置情報ゲームとして,お城神社仏閣といった名所の魅力を再発見する楽しさを,地図上に自然と組み込めるのです。
これは同ジャンルの人気タイトルにはない特徴ですし,そもそも日本の歴史はゲームのみならず,大河ドラマに観光旅行にと,より広範に親しまれている一大コンテンツです。みんな歴史が好きなんです。
ですから我々は「信長の野望」だけで勝負するのではなく,日本の歴史そのものも組み込むことで,競合作品に負けまいと意気込んでいます。安心はできませんが,確信に近い手応えで送り出します。
4Gamer:
なるほど。となると力技の理論では,本作はコンセプト上,日本中に接点がない人が誰もいないゲームになりそうですね。
菊地氏:
そういった要素に踏み込めるよう,拡張性の高い構造にしました。
ただし,リリース当初は「ゲームプレイの楽しさ」を担保したいので,まずは歴史イベントなどに注力して,最初はお城や名所に訪れる要素は数を絞りつつ,運営をとおして徐々に増やしていく予定です。最終的には,全国旅行のきっかけになるものを目指していきたいですけどね。
小笠原氏:
本作は他作品と比べると,世界観に沿ったコラボなどを企画してアイデアを積み重ねていくというより,我々がどれだけ“既存の日本文化を盛り込んでいけるか”にかかっています。素材はすでに膨大ですし,本当に,チームがどれだけ早く長く走れるかの競争ですね。
そのうえでリリース後の運営方針としましては,プレイヤーの皆さんと一緒に歩んでいけることを目標としています。
4Gamer:
ついでにもう一つ,ゲーム内容はこのあと聞くとして,このゲームは地図を埋めきったらどうなるのでしょう?
リセット制だとか,2枚目の地図だとかありそうですが,私も言ったら「盤面が進んで二大勢力状態や三国鼎立状態までいったら面倒でポイッ」なタイプでして。本作でも領地を広げていった結果,半分塗っちゃった,塗るところがなくなった,とかって飽きはきませんか?
菊地氏:
端的に回答すると,まずボリュームに関しては,日本全土を領地に治めるために毎日必要以上のがんばりを重ねても,数年はかかります。
小笠原氏:
仮に3年で塗りきる人が出てきたら,それはそれで「人生コレに使いすぎてませんか……?」と心配してしまうスピードですね(笑)。
それくらい日本全土を埋めるのは困難と言いますか,単純に日本地図相応のボリューム感となっていますから。
菊地氏:
あと,当面はどうしても特徴を伝えるために「領地拡大」をキーワードに挙げていくものの,そのうえで本作は「領地を広げるのは遊びの通過点」であり,プレイヤーの皆さんにはそれを通じて起こるイベントを楽しんでもらう作りにしています。だから歩いて終わりではなく,歩くことで楽しみが増えていく構造となっています。
ゲームとしても毎日ガチガチに張りついて遊んでもらうシステムではありませんし,もっと言えば,このアプリは“10年遊べるゲーム”にしたいという思いで作ってきました。
シリーズの“ハブ”にしたい40周年作品
4Gamer:
10年遊べるゲームですか。
ではあらためて,本作がどういうアプリなのか教えてください。
菊地氏:
本作は,GPS機能を利用した“歩く信長の野望”です。
プレイヤーはスマートフォン画面に映る,現実の地図情報を反映した戦国時代風のマップを歩き,領地を広げ,武将と出会い,内政で国力を高めるなどの遊びのサイクルで日の本の統一を目指します。
4Gamer:
ストーリーはありますか。
菊地氏:
主人公はプレイヤー自身で,自分の領地を広げていくといった大枠の物語が章立てで進みますが,あくまでシンプルなものですね。
4Gamer:
地図情報は,完全に現実の地形と合致していますか。
菊地氏:
はい。ゲーム内では例えば,東京駅や横浜駅の位置にお城が置かれていて,見た目が戦国時代風になっています。
領地に関しては全国47都道府県を“丁目”で区切った「区画」で表示しますが,ゲーム的に総面積が小さすぎると判断した区画は,複数個をまとめたりもしています。それとCBTでは未公開ですが,各地の名所集めなども実装していきます。
4Gamer:
大本の地図情報はなにを使っているのでしょう。
菊地氏:
ベースの地図システムは,地図情報サービスを手がけている「Mapbox Japan,Mapbox Inc.」と協業しており,国土交通省のデータベースをはじめ,いくつかの地図情報を足して全体を構成しています。
4Gamer:
位置ゲームではよく「どこどこの地図情報を使ってます」と公言されますが,どこの地図情報を使うかでゲーム内容にも変化が?
菊地氏:
詳細は控えますが,位置情報ゲームではどの地図システムを使うかにより,地図情報から読み込める要素や手法などに違いが出てきます。
それらはゲーム内容をガラッと変えるほどのものではありませんが,アプリごとのデザインや特色の変化にはつながると考えています。
4Gamer:
それでは,肝心の「領地の広げ方」について。
本作では歩くことで,どのようにゲームが進行するのでしょう。
菊地氏:
地図上の区画には必ず「拠点」が存在します。
仮に横浜駅だとすると,拠点がある区画内まで歩いて近づき,手持ちの武将で編制した部隊で合戦を行い,攻略できると領地になり,ゲームの進捗度を表す「石高」が上昇します。合戦時は画面操作も可能ですが,戦闘自体はオートで進められる簡易的なものです。
そうして歩いて移動,武将の育成,目的地で合戦,取った領地の内政が,基本のゲームサイクルとなります。
4Gamer:
分かりやすい。その反面,歩かなくてもできることは。
菊地氏:
何日か遊んでいると,多くのプレイヤーさんは日常生活で無理なく行けるところを領地にできてしまうはずなので,そこからはゲーム進行に応じてアンロックされる機能「遠征」を使ってもらいます。
遠征は“領地に隣接した区画に(自分が歩いていかずとも)部隊を送って拠点に挑める”仕組みで,これが非歩行プレイの要となります。
4Gamer:
ああ。遠征のおかげでゲームの進め方が分かってきました。それと,ここまでの細かな疑問もいくつか解消しておきたいんですが。
まず,北海道在住者がいるとして,その人は本州などに旅行に行かずとも,遠征を駆使するだけで沖縄まで攻略できますか。
菊地氏:
できます。ゲーム的には,実際に現地に行って領地にするほうがリソース面で有利ですが,遠くまで出歩かずとも天下統一は可能です。
4Gamer:
主な活動地域が京都だとして,旅行で東京駅の拠点を攻略したとき,隣接した領地を持たずとも,飛び地で自領地にできますか。
菊地氏:
ええ,飛び地でも領地にできます。
4Gamer:
福岡在住者が旅行で東京駅を攻略し,九州に帰ってきたあと,東京駅を起点にして遠征機能で関東を制覇する,みたいなことは?
菊地氏:
できますが,遠征部隊は“本拠か支城を建てた領地”からしか出陣できませんので,飛び地を遠征の起点にするには一工夫が求められます。
また支城は建設可能数が限られますので,基本的には皆さん,ご自身の在住地域を中心に攻略していくだったり,特定の方向に向かって進んでいくだったりの進め方になるはずです。
4Gamer:
旅行の機会などがなければ,飛び地の領地化は難しいですか。
菊地氏:
まだ調整中ですが,仮に「関ヶ原イベント」をやるとき,実施期間中は“誰でも岐阜県・関ヶ原市にアクセスできる”ようにしたりして,そこに支城を立てれば起点になる,みたいなことを考えています。
4Gamer:
あー,いいですね。そういうのがあると全国感がありますし,コラボ先の市町村もPR的に気合が入りそうですし,ついでに「この県の塗り率が低いなあ……」といった事態にもテコ入れできそうで。
その結果,1週間ほどで「もう遠征だけでいいや」になる危険性は?
菊地氏:
その点は,ゲーム内地図で「歩きで領地化したところ」と「遠征で領地化したところ」を色分けし,差をつけます。
4Gamer:
おっ,色が違うと「やっぱ歩いてこ」になりそうなので,単純明快な差ながらいいですね。あと小さすぎる区画はまとめるとのことですが,逆に大きいところは? それこそ,隣の2丁目まで遠すぎる地域とか。
菊地氏:
遠征開放前は,実際に歩いてプレイしてもらう想定です。しかし一例として,日本で最も大きな面積の区画は北海道にあるのですが,その広さは“何百個もの区画を抱える横浜市”と同等なんですよね。
そういった面で,ゲームのサイクルやテンポはそれぞれの在住地域に依存するのですが,バランス形成のカギとして,本作のゲーム進行では領地数のほかに“石高の値”を参照します。
これにより,小さな区画が10箇所で100石高,大きな区画が1箇所で100石高など,同じようなバランスになるよう調整しました。
4Gamer:
領地と石高の問題で,地元だけでは遠征機能の開放が難しい地域もあるんでしょうか。交通機関を使えば済む話だとしても。
菊地氏:
特殊な地域でのプレイ想定はまだカバーできているとは言えないので,「離島内だけではどうやっても区画が足らず,遠征を開放できない」といったケースもなくはないかもしれません。
そこはCBTや配信後の動向を見つつ,調整していきます。
4Gamer:
なら,遠征を初期開放してしまうのは?
珍しい系の懸念はそれだけで解決できそうなもんですが。
菊地氏:
なるべく解決すべき課題への回答として,それも考えてはいるものの,ゲーム開始時点で遠征を提示すると,より「歩かなくていいゲーム」のイメージが強くなりすぎてしまう気がしているんです。
ですから,プレイヤーさんによっては遠征開放までにご不便をおかけしてしまう可能性があるものの,それを分かっていながら,本作が提示したい遊びのために腹をくくっています。
4Gamer:
しっかりと決断してのことなら,納得です。
菊地氏:
といっても,CBTなどでたくさんの声をいただいたなら,初期開放とは言わずともアンロックの前倒しは考えます……(笑)。
4Gamer:
それもなによりです(笑)。続いて,地図上では領地拡大のほかに,戦闘や会話だったりのアクティビティは存在しますか。
菊地氏:
まず領地に関してですが,自領地は攻略したらそれで終わりなのではなく,「民忠(たみちゅう)」の要素がありまして――。
4Gamer:
えっ,民忠(みんちゅう)って読んでました。はずかしい。
菊地氏:
あっ,いえいえ。当社の見解では「民(たみ)の忠誠で,たみちゅう」ですが,社内にもたみ派,みん派がいると聞いたことがありますので気になさらず(笑)。それで,プレイ中は毎日同じ場所を歩いていても,NPCとの出会いなどで民忠が上がり,内政に影響を与えます。
ほかにも野盗が出現したり,「茶室」という特定スポットで武将と交流し,友好度を高めて配下にしたり,商人や豪商といった存在がいたり,ほかのプレイヤーの部隊データと擬似的PvP「野戦」を行えたりもします。野戦に勝つと武将の「装備」がドロップするため,より強い武具を集めて部隊を増強していくハック&スラッシュ的な楽しみもありますね。
4Gamer:
それらマップオブジェクトは固定配置ですか。
菊地氏:
いえ,これらは“毎日細かく配置が変化”するため,ご自身の生活圏内を歩いているだけでも,同じ画面にはなりません。
それと,拠点は攻略後に「内政施設」に変わるのですが,どこの拠点にどんな施設があるか,施設に応じて商業や軍事などの特性も異なるため,自分がどう育ちたいかで区画攻略の進路も変化します。
4Gamer:
ああ,自分が散策したいという理由の地域以外にも,水田がほしいから群馬方面にとか,騎馬を増強したいから神奈川方面にとか,育成や内政の具合で人それぞれのロードマップになると。
指向性のある研究ツリーみたいでよさそうですし,「行きたい」以外のついでの理由もほしくなる出無精にはいい後押しになりそう。
菊地氏:
内政施設には武将を配置することができて,施設レベルを上昇させるとリソースを効率的に収集できるようになります。
区画攻略が進行するほど敵も強くなっていくレベルデザインですので,育成と内政がやりたくなる理由にもなっています。
それと内政力を高めると,領地の様子がにぎやかになりますね。
4Gamer:
その内政を高める遊びは,どれくらいできそうですか。
例えば,東京23区外の地元の市をひたすら育てて,都心の隣で安土城みたいに栄えさせてほくそ笑むとか。やり込み強度によっては地方住みの人たちが喜べそうなシステムに聞こえるのですが。
菊地氏:
数値的な上限は設けますが,そういう楽しみもできますね。
4Gamer:
なら,ここまでは1人プレイとして,マルチプレイ要素はありますか。
菊地氏:
基本は1人用プレイで,リアルタイムのマルチプレイ要素といったものはまだ検討段階となりますが,多人数でボスのHPを削るレイド戦やイベントランキングなどは提供します。
4Gamer:
プレイヤー同士のコミュニティ,いわゆるギルドなどの有無は。
菊地氏:
企画案としてはありますが,今のところ実装は考えていません。
コミュニティはマルチプレイと同じく協力・対戦の色を強めるもので,リリース時点でこれらを押し出すと,他者と競わなくてはならない感情が生まれたり,間口の印象が狭まってしまったりするので,まずは本作に求められるであろう気軽な1人プレイの充実に専念します。
けれど,リリース前後でいきなり実装する可能性もありますので,仕様も含めて確定ではないことはお伝えしておきます(笑)。
4Gamer:
それと世間的に大事なこととして,歩きスマホの対策は?
菊地氏:
できるだけ歩きスマホを防止できる作りを目指しました。
一例として,プレイ中にワンタップで「委任」状態にすると,アプリさえ起動しておけば歩行中,周辺のリソース回収を自動で行います。
4Gamer:
車や電車での高速移動についてはいかがでしょう。
菊地氏:
現在調整中で,CBTやリリース前後で変更する可能性はありますが,今の時点で「速度制限による位置情報の反映」を取り入れています。
4Gamer:
海外展開については,やはり難しいですか。
菊地氏:
そうですね。プレイ中は日本の地図情報を参照するので,海外からでは参加できません。グローバル展開が当たり前になってきたモバイル業界でのやり方としては,今どきちょっと珍しいかもしれません。
4Gamer:
ですよね。それではゲームシステムで大きそうなものとして,本作では「武将」をどのように扱っているのでしょう。
菊地氏:
武将たちは部隊に編制して合戦,内政施設に配置,遠隔地へ遠征など,ゲーム内でいろいろな役割を果たします。基本は「登用」(ガチャ)か,「交流」で友好度を高めると配下にできます。
各武将にはレベルや能力,特性なども存在しています。
4Gamer:
地図上にいる武将を引っぱたいて配下にするなどは?
菊地氏:
通常プレイでは基本なしです。
一応,CBTでは「武田信玄」にフォーカスした列伝イベント“川中島の戦い”を行いますが,物語のほかに,攻略を進めていくことでマップ上に現れる「強者(ツワモノ)」を倒すといった遊びがあります。
4Gamer:
現状,武将数やラインナップはどんな想定ですか。
菊地氏:
配信当初は,本シリーズで比較的主要と思われる武将を中心に,百名程度での実装を予定していて,徐々に増やしていくつもりです。
“織田信長のご当地版”など,有名武将のバージョン違いを深掘りする方向性も考えています。
4Gamer:
武将とご当地の関係の話だと,手に入れる手段はだいたいガチャだろうと思いつつも,「中部地方で武田信玄の排出率上昇」「北陸地方で上杉謙信の限定登用」だの,地図上のランダムNPCも「中国地方だと毛利輝元が出現しやすい」「東北地方じゃないと伊達政宗に会えない」だの,遊ぶ地域ごとで仕様の差異はあったりするんでしょうか。
菊地氏:
そちらも調整中ですが,「武将ゆかりの地にいくと該当武将を仲間にできる」「ゆかりの地を歩いていると該当武将の特殊イベントが発生する」などの要素も取り入れて,本作ならではの遊びにしたいですね。
4Gamer:
ふむ。ならマネタイズ面はいかがでしょう。武将の獲得以外に,よくある「遊びやすさ向上の便利アイテム」などがあるのか。
菊地氏:
前提として,無料プレイでも全ゲームサイクル,ならびに全コンテンツを支障なく遊べる作りにしますが,一定歩数をためると武将を入手できる「手形」機能をさらにお得にする有償版や,位置情報ゲームとして効率的になる時短アイテムなどは販売を検討しています。
4Gamer:
さらに,日本全国の市区町村やお城神社仏閣などとのコラボ施策や,「歴史紀行」なるものを提供するとのことで。
私もここに来る前,編集長に「(群馬の)高崎城プリーズ!」とわめかれたのを聞き流してきましたが,つまりこんな感じですか?
菊地氏:
まず基本機能として,お城などの名所に行くと「コレクション」に登録される要素があります。そういう意味で,ゲーム単体でも各地に足を運ぶのが楽しくなるきっかけ作りは用意しました。
あと,東海道の宿場町を模したミッションマップを,歩いた歩数分だけ進めていく歩数計的な楽しみの「歴史紀行」も想定しています。
これらとは別に,観光や交通との親和性を鑑みた企画も考案していき,歩いて健康になる,歴史が身につくなど,ゲーム性とは別に“日常を豊かにするアプリ”としても力を注いでいきたいですね。
4Gamer:
一例として,大阪城コラボがあるとします。そのとき,実際に現地に行かないと記念品がもらえないなどの仕組みの想定は。
菊地氏:
そういった案もありますが,まずはなるべく「イベント対象地域にはゲーム内からどこでもアクセス可能」など,遠方からでも遠征機能を用いて参加できる流れから検討していきます。
実際に現地に行くという行為は,何物にも代えがたい楽しさではありますが,気軽に行けない人はたくさんいるはずですので。
小笠原氏:
「信長の野望」シリーズ自体,ゲームをとおして日本文化に気づきを得るなど,アカデミックな刺激を受ける人もいらっしゃいますしね。
4Gamer:
ちなみに開発・運営の役得として,全国各地に出張できたりは?
菊地氏:
昨日,開発メンバーがその人の地元である小田原に仕事で行っていましたが,すぐにとんぼ返りでした(笑)。
最近は市区町村さんとのやり取りもオンラインミーティングが増えていますし,想像されるような役得は今のところないです。
でも現地に行ってこその話し合いが必要とあらば,我々はできる限り対応します。内々の話,このプロジェクトには今まで見たことのない,モニター・デバッグのための「交通費」という予算を想定していますし,位置情報ゲームの制作では必要だなと実感しているところです。
4Gamer:
さて,会社としてもIPとしても初の位置ゲームである本作は,シリーズにおいてどのような立ち位置で押し出すのでしょう。ちょっとしたスピンオフ扱いだの,シリーズの顔だのと,そういう話で。
率直に,御社は「三國志 覇道」の成功の以前と以後で,スマホゲームに求められる企画の確度も飛躍的に高まっているでしょうし。
菊地氏:
そこはもう小笠原がいる以上,シリーズの代表作です(笑)。
というのは現時点では言いすぎかと思われるかもしれませんが,これまで企画・開発に時間をかけてきたぶん,コンシューマのシリーズを遊んでいただいた方々にも楽しんでもらいたい,本気の一作です。
最初にお話ししましたが,本作は位置情報ゲームではあるものの,歩くことは遊びの手段の一つです。すべては“歩くことで信長の野望らしい楽しさを味わってもらう”ための仕掛けです。
小笠原氏:
ユーザー層としても,今まで「信長の野望」に触れたことはあるが,今は遊んでいないという人がたくさんいらっしゃいます。
おかげさまでコンシューマのシリーズは長く続けられており,「三國志 覇道」に続いた「信長の野望 覇道」もMMO型の戦略SLGが好きな方々を数多く引き込めましたが,いずれもシステムを尖らせてきた結果,もっとカジュアルに楽しみたい層に訴求しきれていないのも事実です。
そのため我々はまず,数百万人の潜在的なファンの方々に「誰もがシリーズの楽しさを思い出せるゲーム」を届けたいんです。
だからシブサワ・コウのこれまでの40年と,これから先の10年のため,「信長の野望」の魅力をギュッと凝縮しながらも,新たに親しみやすいジャンルで,シリーズの“ハブ”になってほしいと手がけました。
4Gamer:
40年続くシリーズのなかでも,一番気軽な入り口になるかもとは。
小笠原氏:
そうした気楽に楽しめる入り口をとおして,もっと本格的に遊びたくなったら,「信長の野望・新生」などのコンシューマシリーズに触れてもらう,多人数プレイに引かれたのなら「信長の野望 覇道」に触れてもらうなど,そういうハブになればと思っているんです。
菊地氏:
僕も大きく出るなら,本作は“シリーズ作品で最も多くの方々に触れられるゲーム”にしたいと願っていますね。
4Gamer:
シリーズ内での立ち位置もすでに整っているんですね。
小笠原氏:
まあ,これまでの開発のいろいろな事情を整理していったら,結果的にそういう立ち位置が見えてきたという話ではありますが(笑)。
4Gamer:
戦国の世だろうと,口に出せばそれはもう大義ですので(笑)。
ということで最後に,位置情報ゲームへの初挑戦となる本作を,シブサワ・コウ40周年に送り込む。その意気込みをお願いします。
菊地氏:
今回は,自分の体を動かすことで「信長の野望」の楽しさを味わってもらうという,シリーズ初の試みとなります。
そしてお客さまや日本文化の関係各所さまとともに歩んでいく流れで,10年続くゲームにしていきたいと,今から意気込んでいます。
今後は皆さんの日常を豊かにしつつ,みんなの日本を少しずつ豊かにしていける,そんなアプリをお送りできればと思っています。
小笠原氏:
シブサワ・コウを40周年まで支えてくださった方々全員が,それぞれのあのころを思い出して楽しめるゲームにします。私も開発の一員として,「信長の野望 出陣」を楽しめる日が今から待ち遠しいです。
これまでのシリーズに感謝しつつ,これからのシリーズの未来に,皆さんとともに出陣する。そうしてまた一歩一歩前に進んでいく,シブサワ・コウの姿勢を象徴する作品にしますので,ぜひご期待ください。
[インタビュー]初代「信長の野望」で初めて統一したときに“こりゃ面白いゲームができた!”と感動。40周年の節目に,シブサワ・コウが語る
本日,コーエーテクモゲームスの歴史シミュレーション「信長の野望」が40周年という節目の年を迎えた。シリーズは16作を数え,位置情報ゲーム「信長の野望 出陣」も発表されるなど,変わらず精力的な展開を見せる「信長の野望」。その生みの親,シブサワ・コウこと襟川陽一氏にインタビューを行い,初代の思い出やシリーズのこれからを語ってもらった。
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