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  • TYPE-MOON
  • コーエーテクモゲームス
  • 発売日:2023/09/28
  • 価格:通常版:9680円(税込)
    Fate/Samurai Remnant TREASURE BOX:1万7380円(税込)
    Fate/Samurai Remnant TREASURE BOX + フィギュア DX ver.:4万9380円(税込)
    通常版 + フィギュア DX ver.:4万1680円(税込)
    Digital Deluxe Edition:1万7028円(税込)
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[インタビュー]「Fate/Samurai Remnant」は,江戸を舞台にした“新しいFate”。奈須きのこ氏とシナリオ監修の桜井氏&東出氏に魅力を聞く
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印刷2023/09/28 08:00

インタビュー

[インタビュー]「Fate/Samurai Remnant」は,江戸を舞台にした“新しいFate”。奈須きのこ氏とシナリオ監修の桜井氏&東出氏に魅力を聞く

 コーエーテクモゲームスは,アニプレックスとTYPE-MOONとの共同開発による新作アクションRPG「Fate/Samurai Remnant」PS5/PS4/Switch)を本日発売した(PC版は9月29日)。

画像集 No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]「Fate/Samurai Remnant」は,江戸を舞台にした“新しいFate”。奈須きのこ氏とシナリオ監修の桜井氏&東出氏に魅力を聞く

 江戸を舞台とする「Fate」シリーズの完全新作は,いかにして作られたのか。総監修を務めるTYPE-MOONの奈須きのこ氏,シナリオ監修を担当する桜井 光氏,東出祐一郎氏,そしてコーエーテクモゲームスで本作のプロデューサーを務めるω-Forceブランド長の庄 知彦氏,ω-Forceブランドディレクターの松下竜太氏,シナリオチームスタッフの池野悠希氏,岡本麻里氏に,本作の開発経緯や見どころを語ってもらった。

 なお,4Gamerではこれまでに2本のプレイレポートを掲載している。ストーリーの導入部分やゲームシステムなどについても触れているので,そちらも合わせてチェックしてみてほしい。

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 コーエーテクモゲームスがリリースを予定している新作アクションRPG「Fate/Samurai Remnant」。今回,海外のイベント「Anime Expo 2023」に出展された体験版をプレイする機会を得たので,プレイレポートをお届けしよう。

[2023/07/31 10:00]
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 コーエーテクモゲームスは,アニプレックスとTYPE-MOONと共同開発中の新作アクションRPG「Fate/Samurai Remnant」のリリースを,2023年9月28日に予定している。今回は製品版のゲーム序盤をプレイする機会を得たので,さっそくレポートをお届けしよう。

[2023/08/18 22:00]


アクションで描かれる「究極の聖杯戦争体験」


4Gamer:
 まずは,TYPE-MOONさんとコーエーテクモさんが一緒にゲームを作ることになった発端から教えてください。

画像集 No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]「Fate/Samurai Remnant」は,江戸を舞台にした“新しいFate”。奈須きのこ氏とシナリオ監修の桜井氏&東出氏に魅力を聞く
奈須きのこ氏(以下,奈須氏):
 以前にちょっとしたご縁があり,シブサワ・コウさん(コーエーテクモホールディングス 代表取締役社長 襟川陽一氏)とお話しする機会があったんです。FGOの1.5部が終わった頃だったので,「英霊剣豪七番勝負」の話になったのですが,大変ありがたいことに気に入っていただきまして。その流れで,コーエーテクモさんから正式に打診を受けた形になります。

4Gamer:
 なんと。コーエーテクモさん側から,しかもシブサワさんがきっかけだったんですね。
 しかし,その頃ならFGOの第2部が控えていたわけですし,お忙しい時期だったのでは?

奈須氏:
 スケジュール的にはカツカツでした。でも,自社ラインのキャラクターでコーエーテクモさんにアクションゲームを,というのは誰もが夢見るところじゃないですか。というわけで「ぜひやりましょう!」とお返事させていただきました。

4Gamer:
 正直,Fateファンなら一度は「Fate無双」を願ったことがあると思うんですよね。アクションでサーヴァント動かしたい,みたいな。

奈須氏:
 それは我々もそうです(笑)。無双の本家本元であるコーエーテクモさんからお声掛けいただけたのはたいへん光栄でした。

4Gamer:
 とはいえ,本作はファン向け,“お祭りゲー”的な「Fate無双」ではなく,Fateの新作アクションRPGとして作られています。この方向性は,最初から決まっていたんですか?

奈須氏:
 はい。そこはまさに,コーエーテクモさん側が強いビジョンを持っていた部分で,最初の段階から,単なるお祭りゲーでなく「これがコーエーテクモの作るFateだ!」と言い切れる新しいタイトルにしよう,という意気込みでした。

庄 知彦氏(以下,庄氏):
 社内で検討している時点で,シブサワからも「無双ではなく,Fateを作ろう」と意見を受け取っていました。アクションだけでなく,シミュレーション要素も取り入れた最高のFateを作るんだと,内部では盛り上がっていましたよ(笑)。

4Gamer:
 それは意外です。てっきりTYPE-MOONさん側から“無双ではない形”を提案したものかと思っていました。

奈須氏:
 提案を受け取った僕らも驚きました。シブサワさんも熱意をもってFGOを遊ばれていて,とても熱量のある意見をいただきました。それを受けて,自分も武内(TYPE-MOON代表 武内 崇氏)も「これはものすごく本気の企画だ」と姿勢を正したのを覚えています。

4Gamer:
 そういえば今年の前半にシブサワさんにお会いしたときも,日課にFGOが含まれていることをお話しされていました。

奈須氏:
 シブサワさんと言えば,ゲーム業界の重鎮であり,まさに看板と言えるクリエイターじゃないですか。そんな方に自社ラインのゲームのお話をいただくのはほぼ初めてだったので,嬉しいながらも面食らってしまいました(笑)。

4Gamer:
 桜井さんと東出さんは,どういったタイミングで企画に参加されたのでしょうか。

東出祐一郎氏(以下,東出氏):
 別件で奈須さんと打ち合わせをしているときに「もしかしたら,コーエーテクモさんと何かをやるかもしれない」と聞いたのが最初だったかな。その時は,僕も桜井さんも「Fate無双か『アルトリアの野望』でも出すのかな?」みたいな予想をしていた程度でした。

4Gamer:
 アルトリアの野望(笑)。

桜井 光氏(以下,桜井氏):
 そこから本格的に話が進んでみると,奈須さんが言ったように非常に力の入った企画だったわけです。であれば,奈須さんたちだけでは手が足りないということになり,我々も本気でこの企画に打ち込むことになりました。

東出氏:
 我々が参加した段階で,もう伊織が主人公になることは決まってましたよね?

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奈須氏:
 そうですね。セイバーの候補がいくつか挙がっていて,この3人で話し合って決めていく段階でした。そこから各自の担当を決めて,実際に作業に入りました。

4Gamer:
 コーエーテクモさんを含め,どんな形でシナリオの制作が進められたのでしょう。

桜井氏:
 セクションによって違うという前提がありつつ……。まずは私と東出さんが設定とキャラクター,プロットを作成して,シナリオの初稿をコーエーテクモさんに上げていただきました。そこから我々で監修とリライトを行い,最後に奈須さんの総監修をいただく,というのが大まかな流れです。

奈須氏:
 お話をいただいた段階でFGOの仕事が決まっていたので,事前に「奈須の方ですべてのライティングを行うことはできない」とはお伝えしていました。そのかわり,世界観の提供や監修をガッチリとやらせていただきますと。
 であれば,FGOシナリオチームのメインを張る2人に参加してもらって,ノーツとしてやれることは最大限やろうという形になりました。メインの監修は桜井さんと東出さんですが,最終的には奈須がすべて目を通しています。

東出氏:
 自分と桜井さんの分担で言うと,桜井さんの方が比重がでかかったかな?

桜井氏:
 主人公である伊織とセイバーが私の設計担当に含まれているので,監修とリライトの分量は多かったですね。

東出氏:
 自分は,東出自身が設計したマスターやサーヴァントの監修を担当しました。あと,TYPE-MOONの世界観を崩さない設定のアレコレのチェックを桜井さんと。

桜井氏:
 リライトでかなりの量のシナリオテキストを執筆したため,私と東出さんのスタッフクレジットは監修だけでなく,シナリオの項目にも入れていただいています。コーエーテクモさん側も含めて,「誰がどこのシナリオの担当」と断言するのは難しいかもしれません。かなり密接に連携をとってがんばっていましたので。

庄氏:
 そこは明確に普段の制作とは違う部分でしたね。「成果物を渡して,監修して,実装して,ハイ完成」といった形ではなく,かなり頻繁にキャッチボールをして,一緒に作り上げていった感覚が強いです。
 弊社ライターチームのシナリオを見ていただくのはもちろん,ゲーム体験との兼ね合いについてご相談いただくこともありました。実際にゲームに触れていただいて「テキストではこうだけど,実機ではこうなります」という部分も把握したうえで,より最適な姿を一緒に目指すことができたかなと思います。

4Gamer:
 実際に遊んでみても,ストーリーとシステムの融合度が高い作品だと感じました。特にマスターとサーヴァントの強さが,ゲーム内でハッキリと違っていたのが印象的でしたね。

奈須氏:
 それはひとえに,コーエーテクモさん側のFateに対する理解の深さと,巧みなゲームデザインの力によるものです。本当によく実現してくれたと思います。

4Gamer:
 というと,特に要望を出したわけではなく,コーエーテクモさんから自主的にそういった仕様が出てきたわけですか。コンテンツへの愛を感じますね。

奈須氏:
 もちろん,コンセプトは事前に聞いてはいました。正直なところ「みんな普通に戦える無双っぽいアクションになるんじゃないかな?」と思っていたんです。だって,マスターとサーヴァントの力量差を表現しつつ,プレイヤーに不自由を感じさせないアクションを実現するって,かなり無理な注文じゃないですか。
 それで実際に遊んでみたら,伊織とセイバーの実力の差を表現しつつ,アクションゲームとしてしっかりと面白い形に仕上がっている。流石というか,すごいものを見せてもらったなという気持ちです。

桜井氏:
 伊織も弱いわけではなく、普通の人間相手にはめちゃくちゃ強いものの,セイバーは次元が違うというか,切り替えた瞬間に「えっ,ぜんぜん違う!」となるんですよね(笑)。

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奈須氏:
 いろいろと口を出した部分もありましたが,それを「ゲーム的な仕様なので仕方のない部分です」と切って捨てられるようなことは,1回もなかったと思います。Fateとしての在り方をゲームに落とし込むことを大前提にしつつ,楽しめるラインをがんばって探してくださった印象です。

松下竜太氏(以下,松下氏):
 そういったこだわりに関しては,開発チームの熱意に支えられた部分も大きいです。特にシナリオチームスタッフの2人は本当にディープなFateファンで,さまざまな面で力を貸してもらいました。

4Gamer:
 コーエーテクモさんの社内では,どういったコンセプトで制作を進めていたのでしょうか。

松下氏:
 私がディレクターとして参加した時には,すでに「究極の聖杯戦争体験」というコンセプトが掲げられていて,あまりにデカいことを言っていて目玉が飛び出そうになりました。
 つまるところ,「無双」シリーズや「仁王」といった既存のフォーマットにコンテンツを載せるのではなく,聖杯戦争のゲームをゼロから作るということですからね。それを掲げた以上,Fate作品としてのゲームデザインの必然性は大切にするべきだろうと考えていました。

4Gamer:
 それが,マスターとサーヴァントとの力量差の表現であったり,世界観を大切にする制作体制につながったんですね。

松下氏:
 ただ,ゲームデザインと世界観を融合させるということ自体は,Fate作品として特別なことだとは思っていません。何より「Fate/stay night」(以下,SN)が“ゲーム体験”を味わえる作品だったので,それを扱う以上は必然的な作り方だったんじゃないかと考えています。

4Gamer:
 確かにSNは,ただのテキストアドベンチャーではない楽しさがありましたよね。

松下氏:
 ゲームというフォーマットで楽しめる工夫が,随所に用意された作品なんですよね。それが根底にあったおかげで,システムとシナリオを違和感なく合致させられたのではないかと思っています。

4Gamer:
 ところで,「七騎のサーヴァントが聖杯を争う」という“変則的でない聖杯戦争”をベースにしたスピンオフ作品って,意外と少ないですよね。それに関しても,コーエーテクモさんからの提案だったのでしょうか。

庄氏:
 はい,シブサワと私が企画の話をしている段階で決定した方針でした。我々は特にSNの影響を強く受けていたこともあり,マスターの視点で聖杯戦争を正面から味わえる作品を作りたかったんです。先程挙げられた「究極の聖杯戦争体験」というコンセプトはそこから生まれたものですね。

桜井氏:
 マスターとサーヴァントの陣営でいうと七陣営に収まりましたね。設定や名称は我々が預かりましたが,マスターのいない「逸れのサーヴァント」のアイデアは,霊脈による陣取り要素などと一緒にコーエーテクモさんからいただいたものでした。

奈須氏:
 逸れに関しては,ゲーム的な面白さを出すにあたって必要な部分かと思います。Fateの新作として受け止めているユーザーとしては,知っているサーヴァントが出てきた方が嬉しいですから。
 普通に考えれば「江戸時代にこんな大規模な聖杯戦争ができるわけないだろ!」となりますが,理由付けもあるので安心してください。登場するサーヴァントの一騎に「こいつが関わっているなら……」と思わせられる人物がいるので,ぜひ楽しみにしてもらえれば。

4Gamer:
 TYPE-MOONさんとしても,そこはゲーム的に面白ければOKという感覚なんですね。

奈須氏:
 コーエーテクモさんの熱意は伝わっていましたし,無理解による提案でないことも分かっていましたからね。だいたい,サーヴァントたくさん出して苦労するのはコーエーテクモさんですし。

一同:
 (笑)

桜井氏:
 めちゃくちゃよく動く3Dモデル,たくさん作っていただきましたね!

奈須氏:
 コーエーテクモさんが「やる」と言うならば,僕らも「ぜひお願いします」と言うしかありません。それくらい圧倒される熱量でした。

松下氏:
 逸れを導入した意図としては,聖杯戦争のバトル体験が“細く”なってしまわないようにというのもあります。
 プレイヤーは伊織の視点で聖杯戦争に参加するので,結果的にほかの六陣営を脱落させていくことになりますが,そうなると戦える相手がどんどん減ってしまいます。かといって,何度も繰り返し同じ相手と戦うというのは,それこそゲーム的な都合に寄りすぎてしまいますし。

奈須氏:
 サーヴァントとの戦いで命のやり取りを感じられないのは,説得力がなくなってしまいますからね。

松下氏:
 まさにそれですね。メインの戦いのボリューム感を維持しつつ,アクションゲームとしての体験の厚みを確保するという意図が強くあります。


シブサワ・コウ氏が武蔵ちゃんの参戦を熱望


4Gamer:
 今回はFateとしては珍しい舞台設定ですが,コーエーテクモさんとやるなら舞台を戦国時代や江戸時代にしよう,という構想だったのでしょうか。

奈須氏:
 ハッキリと決まっていたわけではありません。ただ,Fateシリーズではあまり扱ってこなかった時代設定ではあるので,コーエーテクモさんとは相性が良いだろう,という考えはありました。江戸時代にしたのは,シブサワさんから「武蔵ちゃんを動かしたい」と聞いていたので,その期待に応える意味合いもあったと思います(笑)。

4Gamer:
 えっ,武蔵ちゃん参戦はシブサワさんの要望なんですか。信長じゃないんだ……。

奈須氏:
 ウチのノッブはアレだからなぁ……(笑)。

庄氏:
 実を言うと,シブサワはこういった企画を作る際に要望を出すことが多くて,今回は「どうしても宮本武蔵を出したい!」とお願いをしていました。

奈須氏:
 日本人なら誰でも知っている剣豪の代名詞みたいな人物を女性化するという“飛び道具”を使っているキャラクターなので,まさか気に入られるとは思ってませんでした。
 もちろん「武蔵を主人公に」とは言われていません。あくまでコーエーテクモさんがFateを作るにあたって,武蔵が推されたという話だと理解してもらえれば。

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4Gamer:
 それで主人公が弟子の伊織になったわけですね。

奈須氏:
 それだけが理由というわけではありませんが,武蔵をフィーチャーしつつ,時代は江戸時代周辺となると,主役を張れるのは伊織しかいないだろうと。

4Gamer:
 参戦するサーヴァントのうち一騎は企画段階から予約が入った形になったわけですが,それ以外のマスターとサーヴァントの組み合わせはどのように決まっていったのでしょう。

奈須氏:
 企画当時,FGOでは2020年までに登場するサーヴァントが決定していたので,そことは被らないのが大前提でした。そのうえで,FGOのサーヴァントと少しだけ設定をかすらせつつ,FGOではできないことをやろう,というラインナップになりました。
 オリジナルの新しいFateをやるとなれば,まずセイバーは中性的であるべきだろう。舞台は日本で,伊織と一緒にいても違和感がなく,伊織とは価値観が異なる人となれば……みたいな感じで進めていきました。

桜井氏:
 バランスを取るような形で,伊織たちとの相性も考えながら,ああでもないこうでもないと議論するわけです。やっぱり,サーヴァント決めは楽しかった!

東出氏:
 正直,新しいFateをやる時は最初のサーヴァント決めが一番楽しいよね(笑)。
 バランスなどは,FGOやスピンオフをやっていても常に意識することではありますが,今回は舞台が特殊ということもあって,ほかとはちょっと違う楽しさがありました。

奈須氏:
 Fateの華は,あらゆる国の英霊がごちゃまぜに存在するってことですからね。舞台が江戸である以上,日本のサーヴァントが中心になるのは仕方ないですが,それだけで固まってしまわないようには注意しています。

東出氏:
 そこで出てくるのが,あのランサーですよ!

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4Gamer:
 彼女は驚きましたね。今のところ,発表されている範囲では一番の変化球だと思います。

桜井氏:
 でも同時に「これぞFate!」って感じですよね。

東出氏:
 ランサーはFGOで「こういう理由で彼女は他作品には基本出ません」と示唆していたのですが,もし出すとしたら「彼女に見えるが彼女でない」という裏技ならいけるかなと。それでコーエーテクモさんの要望にも名前があったから,よし使えるぞと(笑)。

桜井氏:
 設定的にも物語的にもエレガントな形に落ち着いているので,そこは東出さんの見事な手腕だと思います。要望があったから強引に出したということは決してありません。

奈須氏:
 FGOでしか見ないはずの英霊像だけれど,でも時代設定が「ここ」で「あの事件」があり「このマスター」であるなら,不可能が可能になりえるだろうと。東出さんから提案があって,奈須も承諾したという形ですね。

4Gamer:
 それは楽しみですね。ランサー以外にも要望はあったのでしょうか。

奈須氏:
 もちろんありましたが,検討していく中で外れたサーヴァントも当然います。「こいつはビッグネームすぎる」とか「こいつだけで話が終わる」とか,いろいろな事情を考慮して決めていきました。

東出氏:
 ここらへんはパズルだよね。

桜井氏:
 物語的,キャラクター的な押し出しを考慮してラインナップを組んで,武内さんにはデザイン的な噛み合わせも考えてもらい,それらを総合的に検討して形にしていきました。

奈須氏:
 とはいえ,さすがに今回は日本のサーヴァントが多いのですけどね。そのぶん,時代を思いっきりズラずらして,接点のない英霊たちが集うようにしています。「Remnant」という凝縮された時間軸での作品だと思っていただければ。

4Gamer:
 コーエーテクモさん側としてはいかがでしょう。特に力を入れた部分や,見どころなどがあれば教えてください。

庄氏:
 今回はマスターが歴史上名のある人物ばかりで,そんな彼らとサーヴァントとのやり取りが見どころだと思います。個人的には,鄭成功とアーチャーの組み合わせが特に好きで,社内のライター陣もかなり熱を入れていました。

岡本麻里氏(以下,岡本氏):
 マスターとアーチャーの関係性には,ぜひ注目してほしいですね。執筆時のみならず収録の現場でも,TYPE-MOONさんにはいろいろとご指摘や提案をいただき,いちファンとしても楽しい仕事になりました。

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庄氏:
 伊織とセイバー以外のバディたちもすごく魅力的なんです。伊織という視点を借りているからこそ,その魅力が引き立てられる部分も強くあって,これまでのFateとは違った感覚を味わえると思います。

東出氏:
 互いに信頼しあっているバディもあれば,サーヴァントを完全にコマとしてしか扱っていないバディや,互いに足元を掬おうと虎視眈々としているバディもある。関係性は七組それぞれ異なるので,その違いも楽しんでもらえると思います。

桜井氏:
 我々も,最終的なβ版を遊んだ後は,彼らの関係性に大いに盛り上がりました。おかげで,特典小説を書くのがとても楽しかったです。

4Gamer:
 今回は普通のサーヴァントだけでなく,逸れの面々も個性派揃いですよね。こちらについては,どういった流れで決定したのでしょうか。

奈須氏:
 まずタマモナインを出そう,というのはあったかな(笑)。

東出氏:
 ですね。さすがにFGOでタマモナイン全部出すのは無理ですから,こういう機会を逃さず出していかないと。

桜井氏:
 タマモアリアはめちゃくちゃ可愛く描いていただきました。台詞に関して,ほとんど直すところがなくて驚きましたね。

奈須氏:
 なんだかんだ台詞が難しいキャラなので,正直なところ「設定は出したけど監修大変だぞ」と思ってたんですよ。でも,出てきたものを見たらほぼ全通し!

東出氏:
 しかも斎藤千和さんの演技が完璧なんだ。

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奈須氏:
 今のところ,ネタバレせずに話せる新サーヴァントは残念ながらタマモアリアだけかな……。

東出氏:
 既存のサーヴァントだと,確かキャスターはキルケーと刑部姫が逸れ候補だったんですけど,「和サーヴァント多すぎねぇか問題」によってキルケーが最終的に採用されました。

桜井氏:
 あと,刑部姫は武蔵ちゃんとドラマが発生しちゃうんですよね。関係を持っているサーヴァントを出してしまうと描かざるを得なくなります。

奈須氏:
 そうなると,FGOの延長になってしまうからやめようという話になりました。結果的に,キャラクターとしてのスペックは高くても,なかなか出番を与えられないキルケーを活躍させられて嬉しかったです。

4Gamer:
 キルケ―は,PVでピグレットまで登場する作り込みに笑いました。

桜井氏:
 ピグレット伊織,めっちゃ可愛いんですよ。豚の鳴き声パターンをいただいて「どれにしようかな〜」と選ぶの,楽しかったです(笑)。

松下氏:
 ピグレットは,開発陣が楽しく作っていたのを覚えてます。すごい忙しい時期でラスボスもまだ完成してないのに,どんどんピグレットの品質だけ向上していくんですよ。動作の詳細化とか,表情差分とか作り始めて,内部でもかなり盛り上がってました。

4Gamer:
 ピグレットは,キルケーを出すなら用意してほしいとかTYPE-MOON側からの指定があったりとか……。

奈須氏:
 (全力で否定する仕草)

松下氏:
 キルケーを出すとなれば,豚になるのは大前提じゃないですか?

奈須氏:
 初めて見た時は本当にビックリしましたよ。「えっ,嘘!?」みたいな。立ち絵が変わるだけじゃなくて,まさか操作できてしまうとは(笑)。

松下氏:
 コントローラで操作できるようにすると,モーションの数が爆発的に増えるんですね。方向転換するにしても真横,背後とバリエーションが必要ですし,ジャンプや着地モーションも必要になります。正直,やりすぎた気がするのですが,ここまできたら最後までやり抜こうという気持ちで作りました。

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4Gamer:
 逸れのサーヴァントについても,それぞれしっかり深掘りされていそうですね。マップを探索して出会うのが楽しみになってきました。

松下氏:
 逸れはゲーム内で,異傳(サブクエスト)のトリガーになっています。当然,メインストーリーの中でも登場しますが,探索を進めるとより内面を深掘りできるようになっているので,ぜひ全部見ていただきたいです。

池野悠希氏(以下,池野氏):
 シナリオチームとしては,TYPE-MOONさんから頂いたプロットがしっかりと練られたものだったので,迷わず肉付けしていくことができました。また,サーヴァントの設定はいずれも魅力的で,出す場所を決めると勝手に活躍してくれるほどでした。

岡本氏:
 そのうえで,こちらが自由に動かせる部分も大きく,監修も入念かつ柔軟に行っていただけたので,私達も楽しく書けました。


奥行きのある“Fateらしさ”は

江戸の日常と背景を描き出すことで生まれた


4Gamer:
 システム面で,TYPE-MOONさん側から要望を出した部分はあったのでしょうか。

奈須氏:
 ほぼ丸ごとコーエーテクモさんにお任せ,かつ結果的にありがとうございますという感じです。「ちょっと手触りが軽いかな」とか「もう少し敵が強くてもいい」とか,テストさせていただいてのフィードバックは提供しましたが,システムそのもののアイデア出しはできませんでした。そこに関しては,僕らにノウハウがありませんし。

4Gamer:
 では,ゲームファンとしての純粋な感想を聞いてみたいです。

奈須氏:
 自分が考えていた以上に,骨太かつ王道なアクションゲームを楽しませてもらえました。江戸をテーマにした人間と超人のバディものとして,シンプルに面白いゲームを作っていただけたと思います。

東出氏:
 すごい“らしさ”を感じましたよ。「俺はいまFateをやってる!」という感覚がしっくりと来ました。

奈須氏:
 「Fate無双」ではなく「Fate」をやっている感覚だよね。もちろんアクションも面白いけれど,しっかりFateになっている。

桜井氏:
 まさにおっしゃる通りかと。Fate無双をやりたい人のためのゲームではなく,江戸時代のFateをやりたい人のためのゲームなんです。

奈須氏:
 コーエーテクモさんは,「ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ」を開発されていますが,あれも正しくペルソナでした。
 無双に別作品の絵を載せるのではなく,無双というエンジンのうえで新しい表現を作り上げるというノウハウが,コーエーテクモさんの中で確立されているのだと思います。

4Gamer:
 コーエーテクモさんは,他社IPのゲームを開発する機会も多いと思います。その中で,TYPE-MOONさんにはどういった印象を持ちましたか?

松下氏:
 「最終的に実機に出る姿」を最も尊重していただいているな,という印象を受けました。シナリオやキャラクターの表現をブレないように押さえていただくのはもちろん,それがゲームの面白さにつながっているか否かを含めて監修いただいたような感覚です。
 消極的な間違い探しのような監修ではなく,新しい体験を創造するための監修という形でお付き合いいただけました。

4Gamer:
 Fate関連のゲーム作品で,背景となる舞台を冒険できるようなスタイルの作品はかなり珍しいですよね。キャラクターの日常を直接感じられるのは,新鮮な感覚でした。

松下氏:
 江戸の聖杯戦争を描くのであれば,伊織が目にする世界をしっかり描いておきたいと思いまして。日常の背景を3Dに落とし込んでいきました。

奈須氏:
 リソースの問題があって,なかなか実現できない要素なんですよね。だから,最初はこのゲームがステージクリア型になる可能性も考えていました。具体的に言うなら,強敵倒したらハンドラー某やオペレーターが持ってくるミッションをクリアしていくような……。

桜井氏:
 具体的すぎて今遊んでるゲームが分かる(笑)。

奈須氏:
 まぁ,それは冗談として……。真面目な話をすると,主人公の視点を追って,その人生を描くのがFateなんです。もちろん群像劇的な良さも一つあるのだけれど,中核にあるのは「主人公の生き様」を描くこと。
 かといって,主人公が見る世界をアクションゲームという形で全部描くにはとんでもないリソースが必要になります。だから,こちらからゲームの構造や作り方を指定したりはしませんでした。
 にもかかわらず,テスト版でキッチリと江戸の街が作られていて,貧乏長屋を出て街を探索できるようになっていたんです。コーエーテクモさんが手掛けた作品は何本も遊んでいたので,その実力は分かっていたんですけどね。ここまで真摯に向き合ってくれたことに喜ぶと同時に,年季の違いを思い知らされました。

桜井氏:
 江戸の街の探索,本当に楽しいですよね。江戸の地名は現代に残ってるものも多いですし,実際に歩き回ってると「ここ地元だ!」ってなることも多くて。

4Gamer:
 それぞれの街の性格というか,特徴がしっかりと表現されていて,探索しがいがありました。その辺りも意識して作られているように思うのですが,いかがでしょうか。

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松下氏:
 武家屋敷が立ち並ぶ赤坂はどこを見ても整然としていて,浅草は常に人々で賑わっている,といったように個性を感じられるように描いています。
 無双シリーズのステージは常に戦場なんですが,今回はマスターとしての日常も含めた世界がステージになるので,普段とはかなり勝手が違いました。我々としても,新たなチャレンジを楽しみながら作れたかなと思っています。

4Gamer:
 吉原を歩いてると,そこらに野垂れ死にしてる人がいるんですよね。そして,特に珍しい光景でもないから,それほど気にされないのが印象的でした。

松下氏:
 そこは,奈須さんにいただいたご指摘を元に追加した要素の1つだったりします。
 人が行き倒れ,ちょっとした人だかりができていても,暫くすれば当たり前のように日常が続いていく。現代人にとってはショッキングではあるけれど,当時の死生観を表現するとともに,NPCにもそれぞれの人生があることを感じられるかなと。

奈須氏:
 破壊を描くためには,生活を描かなきゃいけない。伝奇ものとして時代考証をしっかりするのはもちろん,時代を生きる人達のことを知らないと,そこで命を削る体験は表現できませんよね。
 でも,TYPE-MOONの「いつものやり方」でそれを表現すると,年齢制限が上がりすぎてしまうんです。今回の作品は幅広い人に遊んでほしかったので,それはマズい。

4Gamer:
 なるほど。そうした表現の一つとして用いたのが「吉原の行き倒れ死体」ですか。

奈須氏:
 残酷描写や趣味描写は極力減らしつつ,多くの人があまり不快感を覚えず,心にチクッと残るようなラインを探す必要があったんですね。
 僕らは口で言うだけでしたが,そうした難しい表現をフィールドの作り込みという形で深めてくれたのは,ひとえにゲームデザインの手腕によるものです。

4Gamer:
 SNからそうですが,Fateの面白さを担っている大きな部分の1つとして,日常の生活と非日常の聖杯戦争の対比があるかと思います。本作も,そこは意識されていそうですね。

東出氏:
 個人的には,我々が受け持った仕事で最重要なのは,そこをきっちり描くことだと思っています。ここまでやっておいて,ユーザーに「Fateっぽくない」と思われるのだけは避けたかったので。

桜井氏:
 「Fateのアクションゲーム」にするにはどうしたら良いのか,という視点の提供ですよね。そこは本当に大切にしていました。
 伊織は人間なので,寝に帰らないといけません。SNの士郎もそうですが,物語から生活を切り離すことができない。戦いと表裏一体の存在なわけです。

奈須氏:
 それぞれの戦いに理由がないと,伝奇ものにはなりませんからね。桜井さんにも,東出さんにも,台詞自体に重みが出るように描いてもらいました。

岡本氏:
 舞台の描写でぜひ注目してもらいたいのが,雑記帳(ゲーム内の辞典機能)です。かなり作り込んでいるので,読んでみるといろいろな知識を深められますよ。

桜井氏:
 雑記帳は大変だったね……。

松下氏:
 その節はありがとうございました!

4Gamer:
 キャラクターや世界観についてももちろんですが,各地域が当時においてどんな土地なのか分かって楽しかったです。

岡本氏:
 雑記帳で書く内容はもちろんですが,ゲーム内にそういった事情をどこまで忠実に反映させるかは悩みました。

松下氏:
 実はフィクションが入っている部分もあります。たとえば,江戸の浅草といえば活気のある下町として馴染みのあるロケーションですから,やや現代味のある空間に味付けしているとか。
 吉原にしても,アニメや映画でよく見られる「期待される吉原」の姿をしっかり描きつつ,裏通りの見えない場所は,整備されていない町並みとして作り込むことで,対比として楽しめるようにしています。

池野氏:
 多くの人が思い浮かべる「江戸」というと,今作の舞台となる慶安よりは,もう少し後の時代がイメージされやすいので,時代考証でそういったものを完全に排除してしまうと,それはそれで江戸っぽさがなくなってしまいます。そういったバランス調整には苦心しました。

桜井氏:
 おにぎりの海苔がまだ存在しないとか,米も真っ白なグラフィックスだとおかしいとか,そういうのもありました。

4Gamer:
 ああ,そうか。当時の精米を考えると白米にならないわけですね。

桜井氏:
 そこを「時代を超えてきた武蔵ちゃんもいますし,ここは海苔をあえて付けられる流れにしましょうか」といった検討も各所で行っています。

池野氏:
 厳密には当時そう呼ばれていなかったけれど,分かりやすさのために有名な名前をつけている土地や建物もあります。あとは,史実だとまだ存在しない橋が架かっているとか。めちゃくちゃ歴史に詳しい人でないと気付けないレベルのものではありますが。

松下氏:
 どこまでリアリティラインを維持するかというのは,よく社内でも議論をしましたね。(歴史考証を)分かったうえで無視するのは良いけど,天然で無視しないのが方針です。

4Gamer:
 コーエーテクモさんとTYPE-MOONさんのキャッチボール以前に,コーエーテクモさんの内部でも厳しいすり合わせがあったんですね。

池野氏:
 そうですね。TYPE-MOONさんに「これとこれ,どっちが良いですか?」と聞くのは,だいたい内部で揉めた結果だったりします(笑)。

桜井氏:
 ああ,なるほど!

東出氏:
 こちらからは大体「厳しく考証を重ねるより,派手に分かりやすい方でお願いします」と返していました。

桜井氏:
 我々の方針は「Fateとしての伝奇時代劇」として一貫しているので,あまり迷わず「ではこっちで」と決めさせていただきました。選択肢とは違う形を提示することもありましたが,最終的には良いキャッチボールができたんじゃないかと。

4Gamer:
 ところで,ゲームでは伊織は戦闘に参加していますが,設定上,江戸時代の侍ってサーヴァントとどの程度戦えるものなんでしょう。

奈須氏:
 侍といってもピンキリだからなぁ。

桜井氏:
 慶安4年だと,剣豪や剣聖の時代がちょうど終わってしまっているという想定です。宮本武蔵も柳生但馬守も亡くなられて,現役の剣聖はもうほぼいない,という。

奈須氏:
 殺し合いが終わって訪れたのが江戸という時代ですから。偉大な師を持つ伊織のように,そういった時代の残滓を宿している存在であれば……そうだな,サーヴァント相手でも5秒くらいは生き残れるんじゃないかな!

東出氏:
 サーヴァントに5秒持ったら大したもんですよ!

奈須氏:
 ただ,やはりFateの根底にあるのは山田風太郎なので。本当の剣豪や剣聖は,サーヴァント相手にも一歩も引かないんじゃないかなとは考えています。

桜井氏:
 あっ,ですよね! 「本物の剣聖はめちゃくちゃ凄いぞ!」という話は英霊剣豪のサーヴァント設定を作成する際,奈須さんから聞かせていただきました。

奈須氏:
 もちろん,ただの剣豪に霊的なものを斬るような芸当はできません。たとえ攻撃を凌げても,ダメージを与えられなければ戦いにはならない。ただ“剣聖”と呼ばれる段階の人間になれば魂とか斬っちゃうと思うんですよ。だから,相手がサーヴァントであっても油断ならない相手になりうる,という話ですね。

桜井氏:
 ゲームシステム的には,アーマーブレイクによって伊織が敵にダメージを与えられるようになる流れが,そういったルールを表現しています。
 神秘を有した存在を防御の上から斬るには,伊織ほどの剣士でも足りないというわけですね。もちろん,「防御を削ることができる」「アーマーブレイクした後であればダメージが通る」という時点で,すでに相当の域に達した技倆の持ち主ではあるのですが。

奈須氏:
 伊織は周囲の人間があまりに強すぎるし,本人もああいう性格だから誇示しないけど,仮にも武蔵の一番弟子ですからね。彼はもう入り口に立っているんです。

桜井氏:
 シリーズファンの皆さんがプレイしたら,いろいろな想像が巡るものと思います。「もし剣聖たちがアレやコレと戦ったらどうなるだろう?」といった。

奈須氏:
 山田風太郎そのものじゃん(笑)。

画像集 No.010のサムネイル画像 / [インタビュー]「Fate/Samurai Remnant」は,江戸を舞台にした“新しいFate”。奈須きのこ氏とシナリオ監修の桜井氏&東出氏に魅力を聞く

4Gamer:
 Fateの日本の歴史観の中で,生身の人間が過剰に強かった時代の転換点って,どこにあるのでしょう。FGOだと「源氏,強っ!」となった覚えが……。

奈須氏:
 転換点というと難しいのですが,文明の発展に反比例して個人の力は落ちていくのは間違いないです。でも,それとは別に“神秘”が強く残っている場所では今でもヤバいのが生まれてくる,というのは設定としてありますね。
 江戸時代は超人が減っていくタイミングではあったと思いますが,我々がテクノロジーの助けを借りてやってることを,人間力だけで実現していた時代でもあるので,まだまだすごい人はいたんじゃないかとは思います。

桜井氏:
 飛脚さんとか,お伊勢参りとか,すごいですよね……。

奈須氏:
 一般人のスペックからして実はすごいんだよね。当時の人達の足腰の強靭さは現代から見ると異様ですよ。

桜井氏:
 足腰といえば,伊織はイベントが終わった後に「じゃあ浅草まで帰るか」と言うんですが,かなりの距離を移動しています。時代劇でも似たような描写が多かったりしますが,フィクションとはいえサラッとすごい。

奈須氏:
 東京に住んでるとそのヤバさ分かりやすいよね(笑)。

4Gamer:
 今回の江戸のような,情報伝達技術が未発達な時代では,いわゆる「知名度補正」はどう機能するんですか?

奈須氏:
 多分,現代より弱いんじゃないかな。なぜかというと,知識として理解している人間が少ないから。Fate世界で偉人と英雄は別だと思うんだけれど,その時代の偉人にあたる存在を無理くり呼び出しても,あまり力は発揮できないと思います。

4Gamer:
 なるほど。江戸時代で海外のサーヴァントを呼び出しても,おそらく知名度ゼロですよね。

東出氏:
 ぶっちゃけて言うと,それが理由でランサーはかなり弱体化してます。そのあたりも,しっかりと考慮していますよ。

4Gamer:
 あとは武蔵も,本作の場合「少し前まで生きていた人」ですから,現代とは見られ方がだいぶ違いそうです。

奈須氏:
 現代人と当時の人々では“命のやり取り”に対する見方が大きく違うのは確かでしょうね。我々は憧れをもって宮本武蔵を語りますが,当時の人間は恐怖や嫉妬,侮蔑の意思がないまぜになった感情を持っているはずです。

桜井氏:
 神秘の質が変わるんですね。いずれにせよ強い知名度補正を得るけど,その性質は異なると。

奈須氏:
 はい。とはいえ,知名度補正はあくまで設定上の検証でしかありません。特に今回はアクションゲームなので,そこまで厳しく設定に対して忠実でありすぎる必要はないかなと考えてます。

松下氏:
 あ,知名度補正で思い出したのですが。「信長の野望」シリーズも,大河ドラマとかに出た武将は能力値が高くなるんですよ。なんならスチルもモブだったのに,若干格好良くなっちゃったりして。これ,Fate的に言うと知名度補正ですよね。

桜井氏:
 あっ,なるほど!

奈須氏:
 人々の認識が変化することで姿が明確になったり,より強い形で創作の中に出現したりするというのは,最も身近な知名度補正かもしれませんね。

4Gamer:
 信長の野望の話をすると,設定的に難しいのが分かっていてもFateのシミュレーションゲームも遊びたくなりますね。これはもう,4月1日にアルトリアの野望を出してもらうしか。

東出氏:
 ぜひやっていただきたい!

奈須氏:
 そんなこと言ってると全武将アルトリアにするぞ!

一同:
 (笑)

4Gamer:
 いい感じに締まったところで。最後にTYPE-MOONの皆さんから,これから本作を遊ぶ人に向けたコメントをいただければと思います。

東出氏:
 「自分は新しいFateをやってる!」と実感できる作品になっていると思います。ぜひ,お楽しみいただけたら嬉しいです。個人的には,サーヴァントが全員集結して各陣営が一挙に登場するシーンが本当に好きなんですよ。ぜひ皆さんは,そこまで遊んでみてください!

桜井氏:
 渡先生と多くのデザイナーさんたちとが織り成すビジュアル,コーエーさんの形作った3Dモデルやアクション,そして紡がせていただいたシナリオ,等々。各要素が良いバランスで組み上げられた作品になっているものと思います。ぜひ隅から隅までお楽しみください。

奈須氏:
 ちょっと遠回りな話になるんですけど。TYPE-MOONは作品至上主義で,ゲーム開発への考え方が少し特殊なんですね。作品には完成間近となった時にしか見えてこない瑕があるものですが,これを見つけたら,ウチはどれだけ納期がキツくても直します。
 ただ,正しい経営理念の下でそれは通らなくて,「次回への糧にしよう」とか,そんな感じで終わるのが普通です。当たり前ですけど,商品を作ってるんだから,予算を超過して良いわけがない。でも,コーエーテクモさんはその場面で対応してくれました。プロジェクト的には明らかに予算がついてない内容にもかかわらず,それでも快諾していただけたんです。
 Samurai Remnantは“商品”よりではなく“作品”よりとして作られているゲームだと思います。そのかいあって,一つの独立したFateを遊んでいる感覚を十分に味わえるタイトルになりました。9月28日を万全な状態で迎えて,新しいFate,新しい聖杯戦争を楽しんでいただければと思います。

4Gamer:
 発売を楽しみにしています。ありがとうございました。

画像集 No.011のサムネイル画像 / [インタビュー]「Fate/Samurai Remnant」は,江戸を舞台にした“新しいFate”。奈須きのこ氏とシナリオ監修の桜井氏&東出氏に魅力を聞く

「Fate/Samurai Remnant」公式サイト

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