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[CJ2023]X.D.Networkが目をつけたローグヴァニア「湮滅ライン」は,海外版からリリースされ,中国に逆輸入されていく
X.D.Networkと言えば,中国の巨大ゲーム企業で,「ドールズフロントライン」の中国運営元であり,日本のユーザー的にはゲームプラットフォーム「TapTap」がなじみ深いだろうか。
そして,TapTapが“インディーゲーム開発者とファンをつなげたい”といった思想から生まれたように,インディー界隈でも強い影響力を持っている。
「自分の知らない人が,自分の関わっているゲームをプレイしてくれているのを見ると,すごく嬉しい」――コスプレ好きの若き社長が語る,中国ゲームマーケットとXDという会社
ICEY,Muse Dashと立て続けに2本のインディー作品を日本でヒットさせた,中国のゲーム会社「X.D.Network」。コアゲーマーの間では「ROモバイルの会社」として知られるXDの社長はどんな人なのだろうか。
そんな同社がパブリッシングを買って出たタイトルが,2D横スクロール型のローグヴァニア系アクションRPGである本作だった。
中国のゲーム市場では(ここではローグヴァニアも含む)ARPGが人気であり,高難度アクションとしての作りや,キャラクター動作の自由度の高さには,同社も早くから目をつけていたと言う。
開発スタジオのHumble Millに所属するクリエイターたちも,こうしたゲームジャンルが好みであり,得意であるらしい。なお,ゲーム内容についてはプレイレポートを掲載済みなので,あわせてチェックしてほしい。
[プレイレポ]ローグヴァニアの新作「湮滅ライン」はアーリーアクセスだが,完成度は高い。このジャンルが好きなら,これからの進化に要注目だ
Humble Millが開発する2D横スクロールアクション「湮滅ライン」のアーリーアクセスがSteamで公開中だ。“ローグライク・ハック&スラッシュゲーム”を謳う本作は,果たしてどのようなゲームなのか。さっそくプレイしてみたのでレポートしよう。
- キーワード:
- PC:湮滅ライン
- PC
- アクション
- Humble Mill
- Paleo
- XD
- プレイ人数:1人
- ライター:本地健太郎
- プレイレポート
本作の配信状況だが,日本では6月14日にSteamでのアーリーアクセスが開始されている(関連記事)。また新情報として,12月に正式版がリリースされるとのこと。しかし,本作は中国開発でありながら,中国ではアーリーアクセス版が配信されていないという。一体,何が起こっているのだろうか。
その点が気になったため,現地で話を聞いてきた。
中国のみならず,自国で制作したコンテンツを海外初で発信する,グローバルサービス型の企業自体は少なくはない。中国ではそれ専門で活動する巨大なゲーム会社も存在するほどだ。
といっても,足下をスルーして海外に送り出すのは,そうすること自体の手間も増えるはず。そのため,「中国で開発したゲームを海外に輸出し,逆輸入する理由は?」と尋ねてみたところ……
担当者は「中国の市場がまだ成熟してないからです」と言った。
その言葉の意味は,“ユーザーが高難度アクションについていけない”ことへの懸念だという。聞いた瞬間は,いやそうでもないのでは? と感じたが,人口の母数を踏まえた話かと思うと,考え直した。
今回のCJ2023会場に出展されていた数々のゲームには,初日100万ユーザー突破,1か月で4000万ユーザー突破,半年で2億ユーザー突破などなど,仰々しい経歴を背負うタイトルが無数にあった。
ただ,(あくまでも筆者の印象であるが)それらの多くは,「誰でも遊べる」「カジュアルで」「みんな楽しいパーティゲーム」であった。日本的には「LINE:ディズニーツムツム」をはじめとする,カジュアル層をターゲットにしたアプリの系統である。
そして,日本の人口は1億2456万人(※1)。中国の人口は約14億人(※2)。日本のゲーム人口が5535万人(※3)だとしたとき,大小いろいろな事情を無視しつつ,数学者に怒られかねないほど大ざっぱに割ると,現代では国の総人口の約半分がゲームを遊んでいると言える。
つまり,中国では7億人のゲームユーザーが存在するのかもしれない。
※1:総務省統計局。2023年(令和5年)7月1日現在(概算値)
※2:外務省。中華人民共和国 基礎データ
※3:ゲーム業界データ年鑑「ファミ通ゲーム白書 2022」調べ
こうなると,カジュアル層だけ測ってみても,4000万人いようと2億人いようと不思議ではない。それだけに(業界問わず)みながこぞって中国市場の巨大さに賭けるが,事はそう簡単には転ばない。無数にある配信元や過酷な競争により,メーカーが掲げる理想は脆く儚く崩れていく。
やはり,中国ゲーム市場のメインは一部のハードコア層ではなく,さらなる成功を求めたカジュアル路線の万人ウケなのだろう。
ゆえに,尖ったコンセプトのゲームよりも,広く浸透させられるゲーム作りの技術が洗練されている可能性も考えられる。少なくとも“大多数を楽しませるゲーム”の実績は,もはや数えるほうが大変だ。
そう考えると,高難度アクションを中国向けに作るのは大成功から遠ざかるアプローチな気がしてくる。ゲームユーザーの1割がハードコア層と仮定すると7000万人で,十分な数ではあるのだが……。
また,今や「なにをもってインディーなのか?」と言いたくなるほど,資金がかかっているように思えるタイトルが,有名メーカーによってインディーゲームとして送り出されている。メインターゲットにリーチしないうえ,開発コストも高い。そんなタイトルをわざわざ作るあたり,「本当に自分たちが作りたいものを作っている」のだろう。
そんな考えを巡らせながら話を聞いていたのだが,担当者が語った肝心の狙いは「海外でアーリーアクセスをして,フィードバックを集めて,中国で万全の体制で提供する」ことだそうだ。ここまでのハシゴが一斉に崩れ落ちてしまったわけが,見方の一例として残しておいた。
ちなみに中国で「ゲームを買いきりで購入する文化」が根付いたのは,ここ数年のコンソール進出後の話であるという。
それでも現地の人から見れば,中国ゲーム市場の肌感といったものは,まだ成熟していないという。成熟時の理想については言及されなかったが,コンソールが当たり前にある日本や英語圏であると予想できる。
あるいは,成熟の先が「カジュアル層の分布が減り,(どのご家庭もまず最初に習わせる国技卓球のように)ユーザー全体がゲーム上手になる」ような未来であれば,また違う発展もあり得るのかも。
なお,「湮滅ライン」は,こうしたSF的な世界観が好きな人に向けたタイトルとのことだが,作中には一部グロテスクな表現があり,そこだけはご注意だという。さらに,本作では高額賞金を用意したスピードラン大会なども実施したらしいので,そういう目標もアリかもしれない。
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