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いわく付きのGPUが「GeForce RTX 4070 Ti」として登場。自動車用GeForce NOWなども発表となったNVIDIAイベントレポート
対応が進むDLSS 3。2023年第1四半期後半にアップデートを提供
まず,Fisher氏は,2022年に発売となった「GeForce RTX 40」シリーズ(開発コード名:Ada Lovelace)について振り返る。GeForce RTX 40シリーズでは,さまざまな新技術が盛り込まれているが,中でも今回はAI処理ベースの超解像技術「DLSS」(Deep Learning Super Sampling)の最新版となる「DLSS 3」に焦点が当てられた。
2018年に登場した「GeForce RTX 20」シリーズとともに発表となった初代DLSSは,推論アクセラレータであるTensor Coreを活用して,ゲームグラフィックスに対する超解像処理とアンチエイリアシング処理を行うものだ。DLSSに対応するゲームやアプリケーションは,250を超える。
その最新版であるDLSS 3は,Tensor Coreに加えて,「Optical Flow Accelerator」を組み合わせることで,過去フレームと現在フレームという2枚の画像からかなり正確な「補間フレーム」を生成する。これにより,さらにGPUの描画負荷を軽減可能だ(関連記事)。今後発売を予定するものを含む,50タイトルがDLSS 3に対応するそうだ。
なお,2023年第1四半期の後半には,DLSS 3に対する最初のアップデートを提供するとのこと。
DLSS 3対応タイトルであるファンタジーFPS「Witchfire」 |
サバイバルアクションゲーム「The Day Before」 |
対戦アクションゲーム「Warhaven」 |
MMORPG「THRONE AND LIBERTY」 |
GeForce Nowの仮想マシンはGeForce RTX 4080へアップグレード
続いて,Fisher氏は,GeForce NOWのプレミアムプランである「Ultimate membership」の仮想マシンに,「GeForce RTX 4080」相当のGPUを採用すると発表した。
これまで,Ultimate membershipでは,「GeForce RTX 3080」相当のGPUを載した仮想マシンを利用して,最大フレームレート120Hzでゲームをプレイできた。今回のアップグレードで,最大フレームレート240Hzでのプレイが可能になる。加えて,NVIDIA独自の遅延低減技術「NVIDIA Reflex」にも対応するそうだ。Fisher氏は「GeForce Now環境でレイトレーシング対応のゲームをフルスペックで楽しめるようになるはずだ」とアピールする。
月額料金は従来と同じ19.99ドルで,2023年1月から北米と西ヨーロッパで提供を開始する予定だ。なお,日本国内では,ソフトバンクとauがGeForce NOWの運営を行っているが,いまのところUltimate membershipは利用できない。日本でのUltimate membership提供に期待したいところだ。
いわく付きのAD104は「GeForce RTX 4070 Ti」として発表
GeForceシリーズの新製品として,はじめに発表となったのは,デスクトップPC向けの「GeForce RTX 4070 Ti」だ。「GeForce RTX 4090」とGeForce RTX 4080が発表となった当初(関連記事),GeForce RTX 4080は,グラフィックスメモリ容量12GBモデルと16GBモデルをラインナップしていた。
しかし,2022年10月にNVIDIAは,グラフィックスメモリ容量12GB版GeForce RTX 4080の発売中止を突然発表(関連記事)したのだ。発売を控え,カタログや商品パッケージを作成済みだったグラフィックスカードメーカーは混乱する羽目になったようである。
これまでNVIDIAは,製品ラインナップを整理するときに,既存製品の名称を変更する(リネーム)ことはあった。しかし,発売前の製品名を変更するのは今回が初だ。NVIDIAは,パッケージ変更などにともなう費用を全額補償するアナウンスも行ったそうで,ほんとうに土壇場でのキャンセルだったことが分かる。
そんないわく付きのメモリ12GB版GeForce RTX 4080が,GeForce RTX 4070 Tiとして登場することになったのだ。理論性能値は40 TFLOPSで,「GeForce RTX 30」シリーズの最上位製品「GeForce RTX 3090 Ti」と比べて約1.8倍に達する。一方で,消費電力はGeForce RTX 3090 Tiのほぼ半分に抑えたとのことだ。
GeForce RTX 4070 Tiは,1月5日の発売を予定しており,北米市場における価格は799ドルとなっているのだが,価格を見て「おや?」と思った人がいるかもしれない。なぜなら,NVIDIAは,メモリ12GB版GeForce RTX 4080の価格を899ドルと発表していたからだ。
GeForce RTX 4070 Tiで,価格が100ドル下がったのは,競合製品である「Radeon RX 7900 XT」の価格である899ドルを意識したためだろう。Radeon RX 7900 XTの理論性能値は52 TFLOPSでGeForce RTX 4070 Tiよりも高い。競合製品より理論性能値が低いのに,同じ値段ではバランスが取れないというわけだ。
GeForce RTX 4070 Tiの購入を考えているゲーマーからすれば,この値下げは歓迎したいところだろう。
なお,Fisher氏によると,「GeForce RTX 40シリーズとGeForce RTX 30シリーズは,今後しばらく併売する」とのことだ。ただ,後述するノートPC向けGeForce RTX 40シリーズに採用するGPUコアの存在を踏まえると,この「しばらく」は,それほど長いものではないと思われる。
フルラインナップで登場するノートPC向けGeForce RTX 40シリーズ
また,ノートPC版GeForce RTX 40シリーズも発表となった。
最上位のGeForce RTX 4090 Laptop GPUから,ミドルレンジのGeForce RTX 4050 Laptop GPUまで計5製品をラインナップする。
- GeForce RTX 4090 Laptop GPU
- GeForce RTX 4080 Laptop GPU
- GeForce RTX 4070 Laptop GPU
- GeForce RTX 4060 Laptop GPU
- GeForce RTX 4050 Laptop GPU
NVIDIAの調査によると,GeForce搭載ノートPCを使う人のうち,3分の1がクリエイターだが,その半数以上がGeForce RTXシリーズ搭載製品を使っていないという。Fisher氏は,その理由として「GeForce RTXシリーズを搭載したノートPCにおける消費電力の高さや,製品サイズの大きさにある」と分析する。
ノートPC向けGeForce RTX 40シリーズでは,前世代製品として,電力効率を大きく改善した。具体的には,ノートPC向け「GeForce RTX 3070 Laptop GPU」の性能を,ノートPC向け「GeForce RTX 3050 Laptop GPU」と同等の消費電力で実現できるようになったそうだ。
ノートPC向けGeForce RTX 40シリーズでは,薄型ノートPCにハイエンドのGeForceを搭載する技術「Max-Q」が第5世代に進化したのもポイントだ。簡単に説明すると,Max-Qは,ノートPCにおけるTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の範囲内に収まるように,GPUの電圧と動作クロックを最適化する技術である(関連記事)。
第5世代Max-Qの特徴として,NVIDIAは以下の3点を挙げる。
- 超低電圧のGDDR6メモリ
- グラフィックスメモリの電圧に応じて,GPUを動的に低電力モードに制御するTri-Speed Memory Control技術
- 前世代と比べて16倍となったL2キャッシュメモリ容量
最後のL2キャッシュメモリ容量については,Max-Qで実現したわけではなく,Ada Lovelace世代における特徴である。動的なクロック制御と大容量のキャッシュメモリにより,グラフィックスメモリへのアクセスを抑え,消費電力を減らしたというわけだ。
なお,Fisher氏からは,「Max-Q対応のGeForce RTX 40シリーズを搭載したノートPCは,PlayStation 5と比べて2倍の性能を持ちながら,体積は6分の1に過ぎない」という挑戦的な発言が飛び出した。「そのノートPCの価格は,PlayStation 5の2倍以上になるのでは?」とツッコミを入れそうになるが,NVIDIAは薄型ノートPCの性能向上にかなりの自信を持っているのだろう。
GeForce RTX 40シリーズ搭載のノートPC製品は,2023年2月以降の発売となるそうだ。実際の性能がどれほどか楽しみに待ちたい。
ところで,NVIDIAのノートPC向けGPUは,基本的にデスクトップPC向けGPUと同じチップ(ダイ)を用いており,それぞれのGPUコア名は,以下のようになる。
- GeForce RTX 4090:AD103
- GeForce RTX 4080:AD104
- GeForce RTX 4070:AD106
- GeForce RTX 4060:AD107
- GeForce RTX 4050:AD107
ノートPC向けGeForce RTX 4090とデスクトップPC向けのGeForce RTX 4080,ノートPC向けGeForce RTX 4080とデスクトップPC向けのGeForce RTX 4070 Tiはそれぞれ同じGPUコアを採用する。また,ノートPC向け4070は新開発の「AD106」コア,GeForce RTX 4060/GeForce RTX 4050は「AD107」コアを採用しているのがポイントだ。
AD106やAD107は,デスクトップPC向けGPU(たとえば,GeForce RTX 4060など)にも使われる可能性が高い。ノートPC向けへの供給が一段落したあたりで,これらをベースとしたデスクトップPC向けGPUが登場するのではないだろうか。
GeForce Nowが車の中で楽しめる?
このほかにも,今回のイベントで発表されたトピックについて簡単にまとめておこう。
まず,AI技術を活用したNVIDIA独自のペイントソフト「NVIDIA Canvas」が,360度のパノラマ画像制作に対応するという。ベータ版は2023年第1四半期に登場する予定で,すべてのGeForce RTXシリーズで利用できるそうだ。
実況配信向けソフトウェア「NVIDIA Broadcast」には,目線補正(EYE CONTACT)機能が加わった。本機能は,もともとビデオ会議用ソフトウェアなどを開発するためのフレームワーク「NVIDIA Maxine」で提供していたものだ。カメラで撮影した人間の目を認識して,映像に映る人物の目線が,常にカメラ目線となるように自動で補正する。こちらは,1月中にベータ版を提供するそうだ。
また,YouTubeなどでの動画視聴時に利用できるAI処理ベースの超解像技術「RTX Video Super Resolution」も発表となった。RTX Video Super Resolutionは,Webブラウザで再生中の動画に対して適応するもので,動画版のDLSSと言えるだろう。超解像処理だけでなく,MPEG映像特有のブロックノイズやモスキートノイズを低減するとのこと。対応するWebブラウザは「Google Chrome」と「Microsoft Edge」だ。
2023年2月を予定しており,GeForce RTX 30シリーズ以上のGPUで利用できる見込みとなっている。
自動車業界にも注力するNVIDIAだが,今回は車載用の新型SoC(System-on-a-Chip)「Thor」(ソー)を発表した。一般的な自動車に搭載する制御ユニットである「ECU」(Electronic Control Unit)は,スピードメーターや,搭乗者の検知,車載エンターテイメントなど,用途に応じて複数搭載していたが,Thorはこれらをひとつにまとめられるそうだ。これにより,消費電力やコストの削減が期待できる。
また,NVIDIAは,世界最大の電子機器メーカーであるFoxconnとの協業も発表した。「NVIDIA DRIVE Orin」をベースとした電気自動車向けSoCを製造して,Foxconnが製造する電気自動車に搭載するという。
変わり種の話題では,GeForce NOWが自動車で利用できるようになることも発表となった。韓国の現代自動車や,中国のBYD,スウェーデンのPolestarといった自動車メーカーが対応を表明している。これらのメーカーは,NVIDIA製品を採用しているが,NVIDIA製ではない車載用SoCを搭載する自動車でもGeForce NOWが利用できるとのことだ。
NVIDIA日本語公式Webサイト
4GamerのCES 2023記事まとめページ
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