インタビュー
[インタビュー]「魔界戦記ディスガイア7」は,“5”を越える面白さを目指した。いちファンから,シリーズを受け継ぐ立場となった責任者に聞く開発よもやま話
発売に先駆け,ディレクションを手がける日本一ソフトウェア 開発責任者 美濃羽俊介氏に,本作が開発された経緯や新たなチャレンジ,ゲームとしての魅力などを聞いた。
「ディスガイア」への熱意を買われてディレクターに抜擢
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。美濃羽さんは,2022年8月に日本一ソフトウェアの代表取締役社長を辞任された新川宗平さんから,「ディスガイア」シリーズを引き継いだ形ですよね。そこに至った経緯を教えてもらえますか。
もともとは,学生時代に「ディスガイア」シリーズをプレイしていたファンだったんです。それで面白い会社だなと思って,新卒でプログラマーとして日本一ソフトウェアに入社しました。最初の仕事はPS Vita版の「ディスガイア4 Return」で,このときは「4」に各種要素を追加したり,一部システムを変更したりといった程度でした。そして,次に担当した「ディスガイア5」では,ガッツリ関わって面白いゲームにできたという実感を得られました。
4Gamer:
入社直後から,「ディスガイア」シリーズに関わっていたんですね。
美濃羽氏:
そのあとは,海外開発タイトルのローカライズや,「ディスガイア5 COMPLETE」,それから「void tRrLM(); //ボイド・テラリウム」のプログラマーなどを担当しました。ですが,1タイトルを最初から自分で作るのは,今回の「ディスガイア7」が初めてとなります。
4Gamer:
そうなると,ディレクターを担当するのも今回が初めてなのでしょうか。
美濃羽氏:
移植版やローカライズタイトルの経験はありますが,新作は初めてです。そのタイトルが,会社を代表するシリーズのナンバリングになるとは。
4Gamer:
おっしゃるように,「ディスガイア」シリーズは日本一ソフトウェアの看板ですよね。その最新作である本作の企画が立ち上がったときは,まだ新川さんが中心にいたように思います。そこから新作のディレクション経験がない美濃羽さんが任されることになったのは,一体どんな経緯があったのでしょうか。
美濃羽氏:
そこは,実は分からないんです。会社の上層部がどう考えていたのか定かではないんですけれど,おそらく新作を作るのが決まった段階では,シリーズを新川から誰かに引き継がせようという意志があったんじゃないかと思っています。
4Gamer:
それで,スタッフの中でも「ディスガイア」シリーズがとくに好きな美濃羽さんに白羽の矢が立ったと。
美濃羽氏:
たぶん,そんな感じなんでしょうね。私は「ディスガイア6」の開発には携わっていないんですが,1人のプレイヤーとしては新川にいろいろ意見してるんですよ。それで,「こいつ,熱があるからやらせてみようか」みたいに思われたのではないかなと。
4Gamer:
日本一ソフトウェアさんは,もともとスタッフにいろいろ経験させようとしている印象があります。広報さんが全然違う部署に異動したりとかありますよね。
美濃羽氏:
上層部的に,そういった方針があるみたいですね。私自身もほんの一時期ですが,海外子会社の管理を任されてベトナムに行ったりもしています。
4Gamer:
それにしても,今回は重大ポジションを任されましたね。
美濃羽氏:
そうですね,びっくりしました。「やりたいか?」じゃなくて,「任せるから」みたいな感じでしたので。
4Gamer:
美濃羽さん決め打ちだったんですね。いつ頃の話ですか?
美濃羽氏:
2020年の夏頃です。「君に任せるから立ち上げてね」と。もちろん,新川が全面的にバックアップするという話だったので,何とかなるんじゃないかとは思っていましたが。
4Gamer:
本作の開発にあたって,どこまでが新川さんでどこからが美濃羽さん,みたいな区切りはあったのでしょうか。
美濃羽氏:
私が「こうしたい」というすべての案を出して,それらに対して新川が「いいんじゃないか」「それだったら,こうしたほうがいいよね」」と口を挟むような関係性でした。
4Gamer:
新川さんは一歩引いたスタンスだったんですね。
美濃羽氏:
そうですね。当時の私は知りませんでしたが,新川としては「ゆくゆくはこいつに全部任せるんだから」みたいな気持ちがあったんだと思います。
4Gamer:
ただ,いきなり会社の看板を背負うシリーズの開発責任者として矢面に立たされたわけですよね。どんな新作にしようみたいな構想はどのようにされたのでしょう?
美濃羽氏:
まず,「前作より面白くしてやろう」と考えました。
その一方で,「ディスガイア」らしさを担保するためには,必要以上に手を入れてはいけない部分があるのも分かっていて,そうした部分については,すべて新川のジャッジに委ねようとも考えていました。
4Gamer:
あまりやりたい放題が過ぎると,「ディスガイア」らしくもなくなると。
美濃羽氏:
そうですね。でも,本作の発表時に新川が「やりたい放題やるのが『ディスガイア』だ」みたいな話をしていたので,今となってはそうしてもよかったのかなと思っています。
4Gamer:
そもそも初代「ディスガイア」自体が,やりたいことをすべてぶち込んだものだと,新川さんに聞いたことがあります。
美濃羽氏:
私の中では,初代「ディスガイア」から「6」まで,ある程度共通した流れが存在するので,その大筋を変えない程度に,枝が生えるぐらいのものとして仕上げるといいのかなと思っていたんですよね。でも新川からすると,毎回毎回「好きなことを好きにやったらいい」ぐらいの気持ちだったようです。
「ディスガイア5」までのシリーズに積み上げられた“らしさ”の延長線を目指した
4Gamer:
それでは,あらためて本作のセールスポイントを教えてください。
美濃羽氏:
新川の「やりたい放題やる」という考え方とはズレてしまうのですが,「『ディスガイア』らしい面白さ」をベースにしようと考えました。
4Gamer:
らしさ,というのは具体的にどこだとお考えですか?
美濃羽氏:
大きな部分では,やり込み要素と,ゲーム内のルールをメチャクチャにできるという要素の2つです。
今回は,やり込み要素として自分だけのアイテムを作り出せる「アイテム転生」,無茶な要素としてはステージのマップ構成を無視できる「弩デカ魔ックス」の2つを新たに入れて,私の考える「ディスガイア」らしい面白さを表現してみました。今までのシリーズを面白いと思ってくださる皆さんには,より面白いと感じていただけると期待しています。
また「ディスガイア」には,多彩なキャラクターも欠かせません。そこで今回,汎用キャラクターは,シリーズ最大級の45体以上を用意しました。
4Gamer:
前作「ディスガイア6」で汎用キャラクターが大幅に減ったのはかなり物足りなかったので,今回増やしてもらえて嬉しいです。前作は,戦闘の自動化が便利すぎてキャラクターを育成する必然性が薄れてしまうなど,シリーズファンとして物足りないと感じた部分がいくつかあったのですが,本作ではそこにもしっかり手を入れてきた印象を印象を受けました。
美濃羽氏:
前作には関わっていないのでコンセプト的なことはあまり分からないのですが,要素を減らしてシンプルに作られているように思います。その結果,遊びの幅が狭くなったというのは事実ですから,今回はそこを「ディスガイア5」基準に戻して,往年のファンの皆さんにも満足していただける内容にすることを目指しました。
個人的に,シリーズで一番好きなのが「5」なんです。
4Gamer:
美濃羽さんは「5」のどこが気に入っているのでしょう。シリーズとしては,初代と「4」の人気が高いように思うのですが,
美濃羽氏:
確かに,初代「ディスガイア」は不動の存在として,「4」はシナリオパートが評価されて,それぞれ人気が高いです。
その一方で「5」は,確かにシナリオが少々アレだなと思うところはありますが,システム面はシリーズで一番だと思ってるんですよ。
4Gamer:
システム面で順当に進化したのは「5」でしたね。「6」は変化球でしたから。
美濃羽氏:
そういうことです。要素が一番多いし,できることが多い。コレやってアレやってソレやってと,やりたいことが次々に出てくるところが好きなんです。「6」では,そこが初心者から避けられるポイントだと判断されていろいろ削られたと思うんですが,「7」は初代から「2」「3」「4」「5」と積み上げてきたものを継承し,その延長線に持っていこうという感じですね。
ただ,これは私の考える「ディスガイア」なので,ほかの人がどう思うのかは分からないですが。
4Gamer:
いちプレイヤーとしては私も,要素が多いほうが楽しいタイプなので,その方向性は嬉しいです。
本作では,シリーズ初となる,オンラインAI対戦機能「ランクバトル」が実装されますが,こちらはどういった意図のものになるのでしょうか。
美濃羽氏:
ランクバトルは,前作の自動周回機能を何とかしたいと考えたんですよね。自動周回はシリーズファンからは嫌われがちですが,AIのエディット機能自体は絶対に面白いものだと思ったんです。
4Gamer:
確かに,機能自体はよくできているんですよね。「ディスガイア」の育成との噛み合わせがイマイチだっただけで。
美濃羽氏:
どうすれば面白くなるかを考えて,1つの案としてやってみたのが,「ターン数をできるだけ少なくしてクリアしてください」といった,ローカルで最適化するという遊びでした。ただ,それだけだと1ターンでクリアできるようになったら終わりです。そこを対戦の形にすれば,もっとプレイヤーが極められる形になるのではないかと実装したのが,ランクバトルになります。
4Gamer:
対戦はある意味,最大のやり込み要素になりますからね。
シナリオについても教えてください。これまでの「ディスガイア」シリーズは新川さんがシナリオを手がけていましたが,本作はどなたが担当しているのでしょうか。
美濃羽氏:
社内ライターの城花(城花健人氏)がやっています。彼は「探偵撲滅」の企画・シナリオを手がけた人物で,最近では「ディスガイアRPG」のシナリオ監修などもやっていますね。新川としては,「ディスガイアRPG」の過程で城花に“ディスガイア節”を引き継いだから,任せて大丈夫ということみたいです。今振り返ってみると,私の気づかないうちにいろいろ引き継ぎが進んでいたんだなと。
4Gamer:
そう聞くと,今後の「ディスガイア」シリーズも安心できますね。これまで中心にいた新川さんが突然いなくなってしまって,この先どうなるのかと思っていました。
今後の「ディスガイア」シリーズは,往年のファンの視点を重視する
4Gamer:
ところで美濃羽さんは,本作単体のディレクターということでいいのでしょうか。それとも,今後シリーズディレクターとして動かれることになるんですか?
美濃羽氏:
世間一般には,ディスガイア“シリーズ”のディレクターというイメージでいいかと思います。社内的にはシリーズの開発責任者,つまりシリーズ全般の開発における最高責任者ですね。
4Gamer:
立ち位置としては,「ディスガイア」シリーズにおける,新川さんの後継者ですよね。
美濃羽氏:
そうなります。
4Gamer:
これはシリーズを率いる立場としてでも,1人のプレイヤーとしてでも構わないのですが,「ディスガイア」シリーズの魅力をどう捉えていますか。
美濃羽氏:
先の話と被る部分もありますが,メインとなる魅力は2つあり,1つはよくキャッチコピーになっている「史上最凶のやり込み」──つまり,SRPGとしてのやり込みの面白さです。これは「ディスガイア」シリーズのファンであれば,皆さん納得してくださるところかなと。
4Gamer:
はい,そこは大きな魅力です。
美濃羽氏:
そしてもう1つは,無茶ができるところ──キャラクターを投げたりできるシステムです。こちらは誰もが同じかどうか分からないですが,私自身はSRPGをプレイしていると結構ダルくなるんですよね。相手キャラの攻撃がギリギリ届かないところまで自キャラを移動させてターンエンド,相手キャラを自キャラで囲んでターンエンド,攻撃して相手キャラを倒して,また別の相手キャラを目指して移動してターンエンド……みたいな繰り返しがダルい。
4Gamer:
おっしゃることは分かります。移動だけ済ませる準備ターン,みたいなものはどうしても発生しますから。
美濃羽氏:
でも「ディスガイア」シリーズだと,強いキャラクターを1体作ってぶん投げて,殴って終わりにできます。真っ当にクリアを目指してもいいけど,それとは程遠い形でもクリアできるところが,ほかのSRPGにはない面白さなんです。今回,弩デカ魔ックスを入れたのも,そういった無茶やズルができるようにという意図があってです。
4Gamer:
そうした部分を明言できる方がシリーズを受け継いだ,というのは心強いです。本作に関しても,美濃羽さんの言葉を借りると「5」以前のラインに戻っているのが感じられて,遊びがいがありそうでシリーズファンとして楽しみですし。
……と言いつつ,本作では「キャラ界」(アイテム界の要領で,キャラクターを個別に強化できる要素)は復活しなかったな,とも思っているので,なぜないのかを聞いてみたいのですが。
美濃羽氏:
実は今回,キャラ界の復活案はあったんですが,アイテム転生と天秤に掛けたんですよ。仮にキャラクターを強化する方向性を取ったとすると,新しいキャラクターを使おうとしたとき,そいつを1から育て直すみたいなことがメインコンテンツになってしまって,大変かなと。
一方,アイテムを強化する方向性だったら付け替えが効くので,いろいろなキャラクターを育成する遊びと相性がいいんです。新要素として伸びしろもあるんじゃないかと考えて,今回はこちらを取りました。
4Gamer:
なるほど,そう説明されると納得できます。
美濃羽氏:
キャラ界とアイテム転生の両方を作るリソースがあれば,どっちもやりたかったんですけどね。これは,次回作以降の課題にします。
4Gamer:
それでは,「ディスガイア」シリーズを今後どのように舵取りしていくか教えてもらえますか。
美濃羽氏:
まず本作は,“現状最凶”の「ディスガイア」を目指して作りました。そこから先はファンの皆さんのご意見を参考にして,「汎用キャラはもっと欲しい」というならそこを考慮しますし,「アイテム転生よりキャラ界のほうがよかった」という意見の方が多ければ次はその方向で,といった感じでやっていこうと考えています。要は,「ディスガイア」シリーズを面白いと思ってくださるファンの皆さんに向けて,どんどんカスタマイズしていくというのが私の方針です。
4Gamer:
自分がファンだったからこそ,ファンの視点を大事にするわけですね。
それでは最後に,本作の発売に向けてメッセージをお願いします。
美濃羽氏:
「ディスガイア7」は,私自身が面白いと思う「5」路線に戻しました。SNSでは「『ディスガイア6』が物足りなかったから……」みたいな投稿が見られますが,そんな往年のファンの皆さんの方を見たタイトルですので,ぜひ一度触っていただけたらと思います。ぜひ,よろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
「魔界戦記ディスガイア7」公式サイト
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