インタビュー
餓狼,龍虎,そしてサムスピへと。SNK大阪スタジオの小田泰之氏に聞く,IP再生の次なる一手。そして次の黄金期に向け,求める人材とは
SNKは,サウジアラビアのMiSK財団による出資を受け,先頃正式タイトルが発表された「餓狼伝説 City of the Wolves」以外にも,さまざまな新作を準備中とのことで,次にどんなタイトルが飛び出してくるのか,楽しみにしていた人も少なくないのではないだろうか。
そんなSNKが,なんと今回は未発表の新作を2タイトルも明かしてくれるという。しかも格闘ゲーム以外のジャンルなのだとか。アーケードが華やかな時代に築き上げてきたIPの再生を目標に掲げ,そのために100人規模の開発スタッフ増強を目指しているというSNK大阪スタジオだが,次は何を始めようというのか。
2023年3月に移転したばかりだというSNK大阪本社の新オフィスにて,第一ソフトウェア開発事業部の小田泰之氏に話を聞いた。
SNK 採用サイト
7番目の餓狼,「City of the Wolves」
4Gamer:
今日は新作の話をいろいろ聞けるとうかがって,楽しみにしてきました。まず「餓狼伝説 City of the Wolves」(以下,CotW)の話から聞かせてください。EVO 2023でトレイラーが公開されましたが,会場の様子はいかがでしたか。
小田氏:
かなりポジティブな反響でした。まあ,あの会場は格闘ゲームコミュニティの人ばかりなわけですから,ある意味,当たり前ではあるんですけど。
4Gamer:
「THE KING OF FIGHTERS XV」(PC / PS5 / PS4 / Xbox Series X)の決勝ステージも盛り上がりましたね。
小田氏:
あの決勝ステージは,実はリアルタイムで観ていないんですよ。ちょうどその後に発表がありましたから,バックステージに控えてなくちゃならなくて。なのでこう,隙間から会場の様子は見てたんですけど。
4Gamer:
じゃあ,試合の内容は後から?
小田氏:
いや,会場にいながら,配信を見てる感じで。ラグがあるから歓声が先に聞こえてくるんですよね。発表があるから仕方ないとはいえ,残念だなといつも思っています(苦笑)。
4Gamer:
ああ,我々も取材で行くとそんな感じなので,お気持ちはよく分かります(笑)。
ではそのPVですが,新しい情報がいくつも含まれていました。まず最後のロックとテリーですが,あれはプレイ中の映像ということでいいんでしょうか。
小田氏:
そうですね。開発中の画面ではありますが。皆,気合いを入れて作ってるところです。
4Gamer:
いくつかボイスが入ってましたが,あれは参戦キャラクター,ですよね?
小田氏:
はい。すべてではないですが,今出せるものを出した形です。正式な発表はまた後日になりますが,それまでは想像力を膨らませて,お待ちいただけたらと。
4Gamer:
地図にもサウスタウンやセカンドサウスの地名が出ていましたね。
小田氏:
セカンドサウスって,日本で言ったら2丁目みたいなものですから。これまでと同じエリア,同じ舞台の物語ですよ,というのを最初に明示しておきたかったんです。
4Gamer:
ということは,本作は「餓狼 MARK OF THE WOLVES」(以下,MotW)の続編――つまり,“その後”を描いた作品という理解でいいのでしょうか。
小田氏:
詳細はまだ言えないですが……。あの,タイトルロゴの右側に7本の傷がついてるじゃないですか。あれは餓狼シリーズの,いわゆるナンバリング的な位置づけであることを意味しているんです。
4Gamer:
つまり,7作目だと。
小田氏:
はい。「〜スペシャル」といった番外編を除いた,物語が進んだものを数えての7作目です。なので,そういうタイトルだと思っていただければと。少なくとも,リセットやスピンオフなどではないですね。
4Gamer:
すると,開発が途中でストップしたという「MotW2」のキャラクターも登場する可能性がありますか。
小田氏:
その辺りの残っていた設定は,リセットとまでは言いませんが,一旦脇に置いて考えています。その理由は,当時と今とでゲームの作り方がまったく違うからです。
4Gamer:
というと?
小田氏:
当時は限られた容量と,限られた開発期間で勝負する,売り切りのアーケードのビジネスモデルで作っていましたが,今はアップデートを含めた運用が求められる,コンソールのビジネスモデルで作る必要があります。当然,物語やキャラクターもそれに合わせるので,あのときに作っていたMotW2とは全然違うものになるはずです。
4Gamer:
なるほど。今はDLCなんかでキャラクターが増えていきますし,楽しみにしたいと思います。ではゲームシステムの面ではどうでしょうか。餓狼シリーズといえば,やはりラインシステムがどうなるかは,気になっている人も多いのではないかと思うのですが。
小田氏:
ゲームシステムはMotWや,それ以前のものとも異なる,まったく新しいものになります。ラインは……どうしようかな(笑)。
4Gamer:
えっ,ラインあるんですか?
小田氏:
いや,含みを持たせると期待されちゃうので……ええと,2D格闘ゲームのスタイルで作っているのは間違いないです。なので,バーチャファイターとか鉄拳みたいな3D格闘ゲームではありません。その前提のうえで「基本はワンライン」のゲームになります,という言い方でどうでしょうか。
4Gamer:
それは……「餓狼伝説3」(以下,餓狼3)のようなものも,そこに含まれますか。
小田氏:
餓狼3は,あれは3ラインなんですよ。そうではなく,ちゃんとワンラインです。
4Gamer:
なるほど……? まったく新しいゲームシステムとのことですが,ブレーキングもなくなってしまうのでしょうか。MotWの特徴的なシステムだったと思うのですが。
小田氏:
考え方としては,これまでのシリーズの特徴的なシステムから,何を残して何を残さないかを吟味して,ブラッシュアップするところからスタートしています。その結果としては,ブレーキングは前者,つまり残るシステムです,
4Gamer:
おお。今考えてみると,ブレーキングってものすごく画期的なシステムだったんじゃないかと思っていたんです。今で言う,ロマンキャンセルやセービングキャンセルに近いものですが,必殺技をキャンセルする共通システムとしては初に近いのでは?
小田氏:
どうだったかな……確かあれは当時の,「ストリートファイターIII」だったと思うんですが,スーパーキャンセル※ってあったじゃないですか。あれを分解して,手動でやるような発想で生まれたシステムだったと思います。それでコンボを組み立ててもらおう,といったような。
※必殺技を超必殺技でキャンセルするゲームシステム。1996年稼動の「ストリートファイターEX」で初めて登場し,後の「ストリートファイターIII」にも引き継がれた。
4Gamer:
ああ,なるほど。そのほうが自由度が高いですし。でも,ブレーキングの場合は特定の対応技のみでしたね。
小田氏:
そうなんです。なので,今作ではもう少し発展的な形で登場することになると思います。まだアルファ版の段階なので,これから変わっていく可能性もありますけど。
4Gamer:
分かりました。では,昨今の格闘ゲームのトレンド的なところ――例えばロールバックネットコードや簡単操作などはいかがですか。その辺りをSNKがどう考えているのか,聞いてみたいです。
小田氏:
ロールバックはもう必須なので,今作でも対応します。簡単操作,まあストリートファイターで言うところのモダン操作についても,まったく同じものではないですが,何らかの形で入れたいと思っています。
4Gamer:
簡単操作って話題になってますけど,システムとしては昔からあるものなんですよね。ただストリートファイターシリーズで採用されたのが初と言うだけで。
小田氏:
そうですね。ただ大会とかで使ったときでも,皆が納得いくくらいきっちり作り込んだのが大きいんだと思います。あとは名前ですかね。“モダン”っていうのが覚えやすくよかったんじゃないでしょうか。
4Gamer:
確かに名前は大事ですね。あとは,ゲーマーのプレイ環境の変化というのもありますね。PCに移行するプレイヤーが増えていたり,レバーレスなどコントローラの多様化だったりも大きなトピックです。
小田氏:
そうですね。メーカー側の視点だとマーケットの話になってしまいますが,ここ2〜3年のスパンで見ると,PCの比率というのは確実に伸びています。なので,もちろん重要視しています。
4Gamer:
CotWはプラットフォームはまだ発表されていなかったと思いますが,とはいえPCは入りそうですね。
小田氏:
コントローラの件は,トッププレイヤー層でもゲームパッドを使う人が増えているのが大きいですね。先ほどのモダン操作がストリートファイターに採用されたのも,一番の理由はこれなんじゃないでしょうか。
4Gamer:
確かに。ちなみにレバーレスコントローラって,開発者から見るとどうなんでしょう。別にどんなコントローラで遊んでもらっても構わない?
小田氏:
そういうコンセプトでやってます。何をおいても,まずはゲーム機付属のゲームパッドでしっかり遊べることが大前提ですが。レバーレスなんて,僕から見たらもう,曲芸にしか見えないですけどね。遊ぶならやっぱり普通のレバーがいいです。インベーダー世代の古い人間なので(笑)。
餓狼シリーズ,その変遷
4Gamer:
では,もう少し大雑把に聞いてみたいんですが,CotWはどんな格闘ゲームになるんでしょうか。コンセプトというか,目指すところをうかがいたいです。
小田氏:
そうですね……SNKとしては久々の,1対1で戦う本格格闘ゲームである,というところでしょうか。1対1は「SAMURAI SPIRITS」(PC / PS4 / Xbox Series X|S / Xbox One / Switch / AC,以下,サムスピ)もですが,あれは武器格闘なのでちょっとジャンルが違います。KOFはチーム戦なので,キャラクターの選び方やオーダーといった戦略面の比重が大きいですし。
4Gamer:
1on1と3on3では,そんなに違うものですか。
小田氏:
全然違いますね。言い方が難しいんですけど,後者の場合は試合時間が長いので,少し大味に調整しないとプレイヤーが疲れてしまうんです。攻撃力を大きくして読み合いの回数を減らすといったように。これが1on1になると,もう少し緻密に作る必要が出てきます。
4Gamer:
なるほど。小田さんご自身としては,餓狼シリーズの特徴,格闘ゲームとしての個性はどんなところにあると考えているのでしょうか。
小田氏:
そうですね……長いシリーズなので作品ごとに方向性は違うんですが,中心にあるのは“固めが面白いゲーム”なんじゃないかなと。コンボの壮快感よりも,連係を組んで技を差し込んでいくというような。オンライン対戦が主流の今,それが受け入れてもらえるかは分かりませんけど,そこはうまく調整していきたいです。
4Gamer:
MotWがまさにそうでしたね。
小田氏:
ええ,MotWと「餓狼伝説スペシャル」はとくに。
4Gamer:
過去作については,ご自身ではどう評価してらっしゃるんでしょう。餓狼3に関しては,以前のインタビューでかなり自虐的に話していましたけど(笑)。
SNK第2創業期の“大阪開発”が目指すのは,既存のIPを生かしてさらなる発展を遂げていくこと。キーマン2名にその様子を聞いてみる
前回のSNKインタビューでは,新設された東京スタジオの動向をいろいろと聞いてみたわけだが,SNKといえば外せないのは,過去から今に至るまで人気を維持し続けている各種IPだ。今回は,それらIPを取り仕切るSNK大阪本社の話を聞いてみよう。
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- カメラマン:佐々木秀二
小田氏:
餓狼3はもう,開発一同反省しかないゲームでしたからね。震災があって開発現場が混乱していたのもありますが,発売後はやはり厳しい意見をもらうことが多かったと思います。とはいえ,いい要素もたくさんあったので,それらを活かしたいと思って作ったのが,次の「リアルバウト餓狼伝説」(以下,RB)です。
4Gamer:
RBは餓狼3からあまり間を置かず出た印象ですね。当時のゲームセンターの風景を思い出しても,RBはかなり受けが良かったように思います。
小田氏:
皆で寝ずに作りましたからね(笑)。開発者としてのコダワリは捨てて,とにかくコンボが楽しいゲームを作ろうっていうコンセプトだったので,分かりやすかったんだと思います。
4Gamer:
そのRBが3作続いて,その次がMotWですね。キャラクターが一新され,ゲームシステムも大きく変化した完全新作でした。
小田氏:
RBシリーズが3作続いたので,インパクトが薄れていると感じたのと,ビジュアル的にも新しくしたかったのがMotWの開発経緯ですね。直前の「リアルバウト餓狼伝説2」は評判が良かったんですが,当時,会社の偉い人と,「あれ,もし焼き直しじゃなかったらもっと売れてたんじゃないか」といった話を,喫茶店でしたのを覚えています。それで仕切り直しをしようということになりました。
4Gamer:
それでも,キャラクターをほぼ総入れ替えするのは,けっこうな思い切りだったのでは?
小田氏:
プレイヤーが飽き始めていたので,新鮮味を出さないと,ってところですね。ブレーキングとかフェイントキャンセルといったゲームシステムも,そういう発想から生まれたものです。あとキャラクターがどんどん大きくなっていって,相対的に画面が狭いという問題もありました。のけぞり時間もやたら長くて……それならいっそ,全部作り直してしまおうと。
4Gamer:
ああ,確かにスピードアップした感はありましたね。
小田氏:
あれは,実はキャラを小さくしたからなんですよ。画面が広がったので,飛び道具とかもキビキビ動かせますし。当時やりたかったことは全部やれたので,MotWはけっこう納得が行く作り方ができたと思っています。
4Gamer:
惜しむらくは,物語が中途半端なところで途切れてしまったことでしょうか。そこは来たるCotWを楽しみに待ちたいと思います。続報がいつ頃になりそうかは,もう決まってたりするのでしょうか。
小田氏:
未定ですが,恐らく本格的に動き出すのは,2024年の年明けからでしょうね。
4Gamer:
ということは,ゴールデンウィークに開催されるEVO Japanには,何かありそうですね。
小田氏:
それはもちろん……いや,そこはお楽しみにということで(笑)。
甦る「龍虎」――令和の格闘アクションを目指して
4Gamer:
餓狼伝説の話はこれくらいにして,そろそろ新作の話に移らせてください。いくつか並行して開発が進んでいるとのことですが。
小田氏:
はい,今日の本題ですね。開発が進行しているタイトルはいくつかあるのですが,今回のものは“これから動かそう”と思っているタイトルになります。チームビルドから始めるので,正確にはまだスタートもしていないんですが,まず「龍虎の拳」の新作(以下,龍虎)を作ろうと思っています。
4Gamer:
おお,龍虎ですか!
小田氏:
ええ。あのシリーズをもう一度,作ろうかなと。それからもう一つ,格闘ゲーム“ではない”サムライスピリッツも,これから作ろうと思っています。で,そのための開発者を募集したいんですよ。
4Gamer:
サムスピもですか。ええと,では順番に聞かせてください。まず龍虎ですが,チームビルドからということは,具体的なことはまだ何も決まってないんですか。
小田氏:
そうですね。なにせ古いIPですから。シリーズとしても1990年代前半で止まっているシリーズですし,どうすれば今の時代に甦らせることができるのか,その議論――ブレストから始めなくてはなりません。
4Gamer:
確かに龍虎の拳は,対戦格闘ゲームというか……どちらかというと格闘アクションみたいなノリのタイトルです。じゃあこういうゲームにしたい,といったイメージも,まだないんですね。
小田氏:
漠然とはあるんですが,僕が言っちゃうとそれになっちゃうんで,言わないようにしています。
4Gamer:
……なるほど。龍虎シリーズは,「ART OF FIGHTING 龍虎の拳 外伝」(以下,龍虎外伝)が今のところの最終作ですが,その続編……というか続きのお話,というわけでもなく?
小田氏:
続編にはならないと思いますよ。あの続きのストーリーも実はあるんですが,それをやるにしても,最初から語り直さないと意味が分からないでしょうし。
4Gamer:
そのストーリーというのは,世に出ていないものですよね。
小田氏:
開発自体,行われませんでしたからね。龍虎外伝がうまくいかなくて,あのときの開発チームはそのまま「月華の剣士」(以下,月華)に移行していますので。だから,あの続きを入れて再構成するのもありだし,そうでなくてもいい。いろんなやり方があると思っています。
4Gamer:
……となると,かなりなんでもありなんですね。そもそも龍虎シリーズ自体が,かなり実験的なシリーズのような気もしますし。超必殺技とか,ほかのゲームに引き継がれていったものもありますけど。
小田氏:
ストーリーモードのプレイアブルキャラが2人しかいなかったりね。その分,ストーリーは凝ってましたが。あと龍虎外伝では,アルティメットK.O.とかもあったじゃないですか。
4Gamer:
ありましたね。ラウンド先取してようが,体力が少ないときに超必殺技を食らったら終わりっていう。すごく挑戦的なシステムでした。
小田氏:
そうそう。あの辺りを,この令和の時代にどう解釈して甦らせるのかが,一つ課題だと思っています。eスポーツ的に考えたら,もちろん論外なわけですけど,でもそれだったら龍虎である意味がなくなるじゃないか,とかですね。
4Gamer:
いちプレイヤーとしては,そういうのもアリな気はしますが……。
小田氏:
でもマーケティング的に考えると,この時代に果たして成り立つのだろうかって,なるじゃないですか。だから,そういう議論から始める必要があるわけです。
4Gamer:
確かに……。開発者を募集したいとのことですが,具体的にどんな人が欲しい,というのはあるんでしょうか。
小田氏:
格闘ゲーム,アクションゲームの開発経験者はもちろんですが,やっぱり龍虎シリーズに詳しい人がいいですね。年齢を問わず。
4Gamer:
若くて龍虎シリーズに詳しい人がいたら,どういうゲーム遍歴なのか聞いてみたいところはありますけど(笑)。ここでいう詳しいというのは,ゲームの世界観的な話でしょうか。それともメカニクスの話ですか?
小田氏:
両方ですね。ミカド※の大会とか見ていても,やり込んでいる人のプレイはすごく面白いですし,そういうプレイヤー側からの観点も欲しいと思っています。一方で,サウスタウンに愛着があって,設定を熟知している人もありがたいです。龍虎シリーズは,そうした側面も大事なゲームですから。
※東京・高田馬場にある老舗のゲームセンター。シューティングゲームや格闘ゲームなどの聖地として知られる。
4Gamer:
令和の龍虎シリーズを,その両面から考えられる人,ということでしょうか。
小田氏:
そうですね。収拾つくんかなって感じですけど(笑)。あと,勤務地は大阪になります。
4Gamer:
では,龍虎に思い入れのある方は,ぜひ大阪に。
小田氏:
はい。募集要項を読んでいただいて,チャレンジしてみたい人は,ぜひ応募していただきたいです。
4Gamer:
ところで,先ほど話題に上がった龍虎外伝について,もう少し聞いてみたいのですけど,あれってものすごく3D格闘ゲームを意識したゲームでしたよね。
小田氏:
ああ,そうですね。「バーチャファイター」の操作感やエッセンスが,当時のスタッフは好きだったみたいですね。
4Gamer:
つまりなんと言うか,現実の格闘技っぽさとかリアルさ,みたいな。龍虎シリーズ自体が,元々そういうリアルさを志向していたんですかね?
小田氏:
いや,どちらかというと龍虎は劇画ですね。とにかく濃ゆくて,男臭い。殴り合って分かり合う,みたいな。
4Gamer:
はいはい。キャラクターもほとんど女の子いなかったですものね。そこが餓狼シリーズとの違い,最初の分かれ道だったんでしょうか。
小田氏:
どうなんでしょうね。当時の上司の発言としては,龍虎はいわゆる「北斗の拳」で,餓狼は「ドラゴンボール」の雰囲気……ってのは,聞いたことがあります。
4Gamer:
じゃあその路線で,当時のトレンドを取り入れつつできたのが,龍虎外伝のあのテイストだったんですかね?
小田氏:
あのときは,やっぱりバーチャファイターの影響が強かったんだと思いますけど。
4Gamer:
ということは,龍虎の新作が3D格闘ゲームのメカニクスになることもあり得る?
小田氏:
今のグラフィックスなら,3D格闘でも龍虎っぽさを出せると思うので,可能性としてはあると思います。
4Gamer:
劇画調のグラフィックスで。
小田氏:
どういう創り方をしても,男臭ーくはなると思いますよ。
4Gamer:
それが一番挑戦的なんじゃないかって気がしますけど(笑)。
小田氏:
もちろん,議論の余地はあります。でもそんな声は一切無視して,例えば極端に体重差があるような組み合わせなら,ワンパンK.O.でも,いいかもしれない(笑)。
※2023年9月19日16:00修正:記事中,誤解を招きかねない表現がありましたので修正しました。
一同:
(爆笑)。
小田氏:
でもリアルにしたら,絶対そうなるじゃないですか(笑)。
4Gamer:
それでも龍虎なら,許されるんじゃないかっていう。
小田氏:
そうですね。どこまで尖れるかってことだと思います。
4Gamer:
マーケティングとのせめぎ合いですね。……ということは,「龍虎の拳2」でユリが参戦したのは妥協だったのか。
小田氏:
あれはね,不知火舞の人気が出過ぎちゃったんで,なんか必要だろうっていう話ですね。案の定,めっちゃ人気が出たわけですけど。
4Gamer:
1年で強くなるのは無理がある,とはならなかったんですか。
小田氏:
あれはね,天才なんですよ(笑)。
4Gamer:
(笑)。でもカッコイイおっさんはいっぱい出してほしいです。期待しています。
ARPGで拓かれる「サムライスピリッツ」の新たな可能性
4Gamer:
ではもう一つのタイトル,サムライスピリッツの話を聞かせてください。格闘ゲームではないということですが,ジャンルは何になるんですか。
小田氏:
サムスピは格闘ゲームとしてはもちろんですが,ストーリーを楽しむようなゲームジャンルにもマッチしたIPだと考えているんです。その昔,「真説サムライスピリッツ 武士道烈伝」というRPGがありましたが,ああいう感じでアクションRPGにできないかと思い,今ちょうど動き始めたところなんです。
4Gamer:
おお。いや,でもアクションRPGって,すごく幅が広くないですか。
小田氏:
今は,ほとんどのゲームがアクションRPGですからね。でもあえて,一番幅の広い言い方をしています。
4Gamer:
それは,どういうゲームになるのかまだ決まっていないということですか?
小田氏:
いや,龍虎と違って,こっちはある程度は固めながら進んでいます。コロナ禍前の話ですが,実はプロトタイプを作っていた時期がありまして。そのときは,鞍馬夜叉丸を操作して,フィールドを飛び回りながら敵を倒していくバトルアクションのような内容でした。
4Gamer:
それじゃあ,もうかなりできているわけですか。
小田氏:
それが,その後パンデミックがあり,会社の体制も変わったので,またイチから考え直しているところなんですよ。だからアクションRPGという,幅広いジャンルにしています。
4Gamer:
なるほど。でも今のお話だと,RPG的な要素はなかったですね。まあ,何をもってRPGなのかは,定義が難しいですけど。
小田氏:
プロトタイプは本当にコアになる部分だけだったので,そこはこれからですね。
4Gamer:
では,こちらもチームビルドから始める感じでしょうか。募集する職種としては,やっぱりアクションが作れる人ですか?
小田氏:
そうですね。アクションRPGやアクションゲームの開発経験者はぜひ。それ以外にも……まあ全職種足りてないので,やる気と自信のある人にはどんどん来ていただきたいです。プランナーにプログラマー,あと3Dアーティストですね。Unreal Engineの経験者はとくに歓迎したいです。
4Gamer:
龍虎もサムスピも,共通するのはやっぱりアクションが作れる人ってところですね。
小田氏:
そうですね。やっぱりアクションゲームを作れるプログラマーとアーティストは,どちらのプロジェクトでも必要になります。そのうえで,龍虎は格闘ゲーム寄り,サムスピはアクションゲーム寄りという感じです。
4Gamer:
格闘ゲームとアクションで,けっこう違うものなんですね。
小田氏:
全然違いますね。
4Gamer:
SNKというと,やはり格闘ゲームやアクションが有名なので,あまりRPGのイメージはないんですが,そっち方面の人材は揃ってるのでしょうか。
小田氏:
スマートフォン向けではRPGも作っていたのでそこは大丈夫ですが,RPGの開発経験者も歓迎しますよ。ほかと比べると,少数にはなると思いますが。
4Gamer:
龍虎は世界観や設定に詳しい人歓迎とのことでしたが,サムスピも同じですか?
小田氏:
いえ。詳しいに越したことはないですが,サムスピはその方面,ある程度充実してますので。新解釈を加味しつつ,世界観を組み立てていこうと思っています。
4Gamer:
分かりました。ではこちらも募集要項をよく読んで,ということですね。ちなみに大阪の開発チームって,今は何ラインで動いているのでしょう。人数は150人規模とのことでしたが。
「餓狼伝説」最新作に込めた思いとは――。小田泰之氏に聞くSNKの近況と各タイトルの開発進捗
「THE KING OF FIGHTERS」「SAMURAI SPIRITS」「餓狼伝説」など,SNKの名だたるIPをリヴァンプするプロジェクトを手がけている同社の大阪スタジオ。その大阪スタジオを取り仕切っている,SNKの第一ソフトウェア開発事業部 プロデューサー 小田泰之氏に,近況や各タイトルの開発進捗などを聞いた。
小田氏:
ラインで言うと……社内で4ライン。外部の開発会社を使ったプロジェクトもあって,そっちでも何ラインか動いています。
4Gamer:
龍虎とサムスピの新作を含めず,ですよね。ということは,ええと……。
小田氏:
KOFのアップデートを担当しているチームと,餓狼のチーム。そのほかにも未発表のタイトルがいくつか動いていて,もう150人では全然足らないですね。
4Gamer:
小田さんから見て,大阪の職場環境はどうですか。その,社風であるとか。
小田氏:
社風は,どうなんでしょう。開発がワンフロアに集まっているので,少なくとも物理的には壁はないです。精神的には……こればっかりは主観なので,分からないですけど。
4Gamer:
開発全部がワンフロアなんですか?
小田氏:
この後,見てもらったら分かりますが,すこーんと抜けてるんですよ。だから課長室とか部長室とかもなくて,「お偉いさんが捕まらん」みたいなことはほぼないですね。
4Gamer:
年齢層や国籍なんかはどうでしょうか。
小田氏:
新卒が入ったので,なかなかフレッシュにはなってきたかなと思います。国籍も,今はけっこう多国籍な感じですね。SNKのIPが好きで来てくれた人もいれば,単純に日本のゲーム会社で働きたくて来た人もいます。どちらかというと,後者が多いですかね。
4Gamer:
人材募集に向けて,何かアピールとかってありますか。
小田氏:
……綺麗なオフィスなので,早いうちに来た方がいいですよ。そのうち絶対汚くなるから(笑)。
4Gamer:
(笑)。新オフィスに引っ越したのが2023年3月でしたっけ。じゃあまだ半年ってところですね。新大阪ですし,出張にも便利そうです。
小田氏:
あ,そうなんですよ。……でも開発者って,基本的にどこにも行かないからなあ(笑)。
人生をかけられるチャレンジを,SNK大阪スタジオで
4Gamer:
それにしても,KOF,サムスピ,餓狼ときて,次は龍虎ですか。とても順調ですね。
小田氏:
そうですね……って言うと,次は月華でしょって言われちゃうから,あまり声を大にして言いたくはないんですけど(笑)。
4Gamer:
SNKプレイモアからSNKに社名が変わった2016年にインタビューにうかがったとき,小田さんが「いつの日か続編をやらないわけにはいかない」と言っていたのを覚えています。それが実現できる体制が今,整ったわけですが,この7年はいかがでしたか。
新生SNKのモノ作りはここから始まる。「餓狼MOW2」の話題も飛び出した,「THE KING OF FIGHTERS XIV」開発陣インタビュー
SNKプレイモアから8月25日の発売が予定されている「THE KING OF FIGHTERS XIV」開発者インタビューをお届けする。デベロッパとして新生を遂げたSNKは本作で何を目指すのか。答えてくれたのは,プロデューサーの小田氏をはじめとする3名の開発陣。そして先日SNKプレイモアへ移籍した格ゲー界の重鎮,Neo_Gこと石澤英敏氏だ。
小田氏:
7年……一瞬でしたけどね。開発としては,ただずっと地続きに進んできただけなので。新体制でラインを増やすことにはなりましたけど。ただ,前は一つのチームで作って作っての繰り返しだったので,複数タイトルが動かせるのは大きな変化ですね。
4Gamer:
月華は,可能性ないんですか?
小田氏:
あります。ただ綺麗に終わっているタイトルなので,もしやるとしたらリブートとかリメイクになるんじゃないでしょうか。あるいは,ガラッとジャンルを変えてもいいかもしれません。
4Gamer:
小田さんとしては,過去のIPのプライオリティをどうお考えなんですか。月華は人によって重要度が違う,というお話を以前されていましたけど(関連記事)。
小田氏:
僕としては,KOF以外の格闘ゲームは,ほとんど横並びですね。とくにプライオリティが決まっているわけではありません。
4Gamer:
ちなみに,龍虎って海外での人気はどうなんですか?
小田氏:
以前とったアンケートによると,アメリカでは餓狼シリーズと龍虎シリーズの認知度がとくに高いみたいです。ここ最近はKOFをずっと続けてきたので,そこに追いつき追い越せな状況ですけど。
4Gamer:
ということは,KOFが飛び抜けて人気なのは,アジア圏だけなんですか。
小田氏:
アジアと,あと南米での人気が高いですね。やっぱりアーケードのタイトルですから,アーケード筐体が多く出回っていたところほど,人気が根強いのかもしれないです。
4Gamer:
なるほど……やっぱり龍虎の新作がどうなるのかが,一番予想つかないですね。想像するとワクワクするんだけど,実際に出てくるのを見るのは,ちょっと怖いという。
小田氏:
そうなんですよ。皆で腹を括って作る必要があるんです。
4Gamer:
なんかアイデアはいっぱい浮かぶけど,果たしてそれでいいのかっていう。
小田氏:
居酒屋で話すネタとしては面白いけど,実際に仕事でやるとなると,プレッシャーしかない。例えば藤堂に二つ目の必殺技つけるだけで,クレーム来そうじゃないですか?
4Gamer:
確かに(笑)。
小田氏:
しかも新大阪に引っ越してきて,ある意味,人生をかけたチャレンジですからね。龍虎でそこまでできるって,応募してくる人もなかなかの根性だと思いますよ。
4Gamer:
でも龍虎って,ベルトスクロールアクションが格闘ゲームに進化していく,その端境期だからこそ生まれたタイトルだったじゃないですか。結果として,歴史は格闘ゲームを選んだワケですけど,そこには別の可能性もあった気がするんですよね。何か,まったく別のものに進化した可能性が……。
小田氏:
そうですよね。なので,改めてそこを考えてみたいんです。新しい解釈ができないものかと。
4Gamer:
ストーリーを重視するとなると,やっぱりアクションアドベンチャーとか。あっ,バトロワにするとかどうですか?
小田氏:
それも居酒屋ネタなんですよ(笑)。
4Gamer:
ああ,やっぱり(苦笑)。
小田氏:
世界観に合わないんですよね。龍虎の拳って,あんなに悪い奴らばっかり出てくるのに,みんな礼儀正しいじゃないですか。ラウンドファイトってなるまで手を出さないし,後ろから不意討ちしたりもしない。ちゃんと作法があるんですよ。
4Gamer:
確かにバトロワだと不意討ち,漁夫の利は当たり前になっちゃいますね。アウトローばかりなのに銃を出したりもしないですし。格闘家だからか,悪人でも根底にはプライドがあるのかも。
小田氏:
謎ですよね,あの世界観。
4Gamer:
でも劇画って言われると,なんか分かる気もします(笑)。では,期待は尽きないと言うことで。最後に,読者に向けたメッセージを何かいただけますか。
小田氏:
今回は餓狼と龍虎とサムスピの話でしたけど,ほかのIPも含めて,SNKとしては作りたいゲームがまだまだ山積みの状態です。やる気があればどんどんチャレンジができる会社だと思いますので,ぜひ皆さん募集要項を確認のうえ,SNKの門を叩いてもらえたら嬉しいですね。
4Gamer:
「フライングパワーディスク」とか,「武力 〜BURIKI ONE〜」とか。
小田氏:
フライングパワーディスクはウチのIPじゃないですから。でも武力は,可能性あります(笑)。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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餓狼伝説 City of the Wolves
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