インタビュー
「AEW:Fight Forever」インタビュー。プロレス愛にあふれる選手と開発者のタッグが,カジュアルに楽しめる激しいプロレスゲームを作り上げる
そんなオメガ選手が「史上最高のレスリングゲームを作るために,地球上で最高のゲームチームを編成する」として白羽の矢を立てたのが,プロレスゲーム開発に定評のあるユークスだ。同社の開発スタッフがメディアに登場することは少ないが,東京ゲームショウの会場で,本作の開発を手がける赤坂公愛氏へインタビューする機会を得た。ゲームシステムからプロレスの見方まで,気になる所を聞いたので,ぜひ読み進めてほしい。
「AEW: Fight Forever」プレイレポート。ユークスが開発する“しょっぱい試合厳禁”のプロレスゲーム
TGS 2022のTHQ Nordicブースに,新作プロレスゲーム「AEW: Fight Forever」の“SHOW BUILD”が出展されていた。プロレスゲームの老舗であるユークスが開発し,レスラーの行動でテンションが変化するユニークなシステムを持つ本作のプレイレポートをお届けしよう。
ケニー・オメガ選手監修のもと,プロレスゲームの課題に切り込む
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。実際にゲームを遊ばせていただきましたが,操作がシンプルで,頭や胴といった部分への蓄積ダメージの影響が,ほかのプロレスゲームより早く現れる印象を受けました。
赤坂公愛氏(以下,赤坂氏):
ケニー・オメガさんにどんなプロレスゲームを作りたいか聞いたところ,「アーケードライクなもの。みんなでガチャガチャとしたプレイでも楽しめる,昔ながらのプロレスゲームを,最新のグラフィックスで表現してほしい」という答えが返ってきました。具体的なタイトルも出たんですが,中にはスーパーファミコン時代やPlayStation初期のゲームもあって驚きました。
4Gamer:
さすがはゲーム好きで知られるオメガ選手だけありますね。
赤坂氏:
弊社はこれまでリアル路線のプロレスゲームを作っていたので,プロトタイプの時点では,ケニーさんが考えているものより展開が遅かったようです。「もし負けてもすぐ次のプレイをしたいと思えるよう,1試合を5分くらいにしたい」というご意見をいただき,レスラーの移動速度などの細かい部分まで,開発ツールのスライダーで調整いただいたこともありました。
4Gamer:
いわゆる“名義貸し”ではないということですね。
赤坂氏:
ゲームコンセプトの段階から,しっかり意見やアイデアを出していただきました。週に1度はミーティングして,プロトタイプを見ていただいたり,技についてのアドバイスをいただいたりしていますから,スーパーバイザーであり,企画マンですよ。
僕もプロレスファンですが「あれだけ激しい試合をしていながら,なぜゲームの会議にまで出席できるんだろう」と不思議でした。こちらで作った必殺技をご本人に見ていただくのはドキドキしましたが,そんな特別な状況で開発を進められたので,テンションも上がりました。
4Gamer:
オメガ選手からのアドバイスには,どんなものがありましたか。
赤坂氏:
かなり具体的で,例えばボディスラム※1一つ取っても「相手を一度上へ上げてから地面に叩きつけるんだよ」とビデオ会議で実演してくださったんです。また,「この技の形については,あの試合で出したものを参考にしてくれ」と資料を送っていただいたこともあります。
特に印象的だったのは,志田 光選手に関するものです。「シダのファルコン・アロー※2は,持ち上げた後に一瞬つま先立ちで浮いてから叩きつけるんだ。これは彼女の特徴だから,ぜひ再現してほしい」と。
また,本作の特徴の1つに,男女の選手で試合ができることがありますが,これもケニーさんからかなり早い段階で提言があったんです。
※1 プロレスの基本技とされる。相手の肩口と足の間に手を入れて逆さまに抱え上げ,マットに叩きつける。
※2 相手の頭を脇に抱えつつ担ぎ上げた後,相手を自分の前方へと抱え込む形へ変化し,両足を開きつつ,相手を逆さまにマットへ落とす技。
4Gamer:
自分の技だけでなく,他の選手の技の特徴まで把握されているんですね。
赤坂氏:
試合の流れについても「プロレスの試合は,いきなり大技を出すんじゃなくて,小技からスタートして観客の期待を盛り上げていくから,ゲームでも同じようにしたいんだ」と要望がありました。
4Gamer:
プレイして印象的だったのが,テンションによってプレイヤーの操作を細かく評価するシステムでした。同じ技ばかりだと「同じアクションの繰り返し」となってテンションが下がり,逆にさまざまな技を出すと「技のデパート」ということでテンションが上がりますよね。
赤坂氏:
プロレスらしい試合,その選手らしい試合をすると勝ちやすくなる「スキル」というシステムです。スキルは特定の行動をすると発動し,テンションが上がりやすくなりますが,どの行動でスキルが発動するかは,選手によって異なっているんです。
格闘ゲームなら,同じ技を繰り返したうえで,弱パンチでトドメを刺しても構わない。でも,実際のプロレスではそんな試合はありません。選手は自分の個性を表現し,より魅せる形で勝たなければいけないわけですから。
4Gamer:
勝つことに固執しすぎると有利な行動の繰り返しに終始し,プロレスの試合としてはしょっぱい(面白くない)ものになって,その選手らしさがなくなるという,プロレスゲームの大きな課題に取り組んだわけですね。
赤坂氏:
プロレスの流れと選手の個性を,ゲームシステムで表現したかったんです。実際の試合だと,ピンフォールを返すことでテンションが上がる選手もいれば,返されたことで上がる選手もいる。今までのゲームシステムだと,こうした個性は表現しづらかったのですが,「AEW:Fight Forever」ではスキルの発動条件を設定すればいいんです。
例えば,場外乱闘が得意な選手には,場外に出ると発動するスキルを持たせています。すると,その選手らしさを重視する人はもちろん,勝ちたいと考える人も積極的に場外に出るようになるわけですね。
4Gamer:
勝ちたい人と,選手を再現したい人がすれ違いがちなのがこれまでのプロレスゲームでしたが,それに一つの答えが示されたと。プロレスゲームで遊んできた身としても興味深いお話です。
赤坂氏:
選手の個性についてはもう1つ取り組んだことがあります。いままでのプロレスゲームでは,選手の入場シーンが現実さながらに作り込まれていても,結局スキップされがちだったのですが,本作ではボタンを押すといろいろなショーアップができます。あるボタンだと炎が噴き上がり,別のボタンだと集中線が出るという感じですね。
4Gamer:
入場シーンってゲームに慣れてくるほど,スキップしてしまいますよね。実際の試合を見る時はあんなに楽しんでいるのに不思議ですが,そこへの対策を入れられるのは,プロレスゲームを長年作り続けてきたユークスならではだと感じます。
打撃と投げ(掴み)が絡み合うシステムも面白いですね。防御に「ガード(打撃)」と「ガード(掴み)」の2種類があって,モーションや相手のクセから,どちらを出そうとしているかを判断することができる。
赤坂氏:
シンプルな操作で多くの方に楽しんでほしいということで,こうしたシステムになっています。ガードボタンを押しっぱなしでも試合できますが,タイミングを合わせてボタンを押すと返し技が発動する奥深さもあります。掴まれてしまった後でもこうした返し技を受け付けていて,掴みからの打撃が来ると思ったら「ガード(打撃)」,投げられそうなら「ガード(掴み)」を入力するといった読み合いも楽しめます。このとき,自分のテンションが高いほど成功率も高くなります。
4Gamer:
選手が勢いづいているほど試合運びもスムーズになるという,実際の試合に近い感覚を味わえるわけですね。
さまざまなプロレス観を吸収し,ゲーム作りに役立てる
4Gamer:
赤坂さんのプロレス観や,プロレスゲーム作りの考え方のお話も聞かせてください。もともとプロレスファンだったとのことですが,初めて見たのはどの選手の試合ですか?
赤坂氏:
新日本プロレス(以下,新日)の獣神サンダー・ライガー選手※3の試合です。コーナーポストから飛ぶのを見てびっくりしたのを覚えています。これをきっかけにプロレスを見始めて,武藤敬司※4選手のファンになりました。
※3 永井 豪氏のマンガ「獣神ライガー」とタイアップした覆面レスラー。空中殺法と骨法を使い,ジュニアヘビーらしい華々しさと格闘技の凄みを両立させたスタイルが特徴。
※4 深いプロレス愛を持つ「プロレスリング・マスター」。多くのレスラーから尊敬を集める存在で,片膝立ちをする相手に膝蹴りを入れる必殺技「シャイニング・ウィザード」は,開発した自身のみならず,多くのレスラーにも使用されている。2023年に引退予定。
4Gamer:
これまで赤坂さんがプレイされてきた中で,もっとも印象に残っているプロレスゲームは何でしょうか。
赤坂氏:
高校生の時にプレイした「新日本プロレスリング闘魂烈伝」※5ですね。新日本プロレスを見てきたこともあって,特に「3」は相当やり込みました。「打撃」「投げ」「極技」が三すくみの関係になっているシステムも面白いですし,技のアニメーションもカッコイイですから。
※5 ユークス開発のプロレスゲーム。「打撃」「投げ」「極技」が3すくみになっており,相手の動きを観察することが重要になる。このコンセプトは「AEW: Fight Forever」にも形を変えて受け継がれている。ユークスは後に新日本プロレスの経営権も獲得した(現在の新日本プロレスはブシロード傘下)。
4Gamer:
自分が好きなプロレスゲームの開発会社に入ったわけですね。
赤坂氏:
ゲームを作っていて楽しいです。実際の試合を見ていても,新しい動きや技が出るたびに「ゲームシステムとしてどう再現しようか」とか「みんなが求める形として技を出せるようにしたい」なんて考えてしまいますね。
4Gamer:
個人的にプロレスを愛しつつ,仕事としてプロレスをゲームにしていくことには,難しさもあると思います。
「プロレス」と一口に言っても,リアルファイト志向やエンターテイメント志向とさまざまな方向性がありますし,時代と共に人気のスタイルは変わっていきます。純粋に仕事として携わるなら,プロレスがどう変わろうと流行のスタイルをゲーム化すればいいかもしれませんが,趣味としてプロレスを愛してきたからには,過去のスタイルにも思い入れはあるのではないですか。
赤坂氏:
私も入社前は新日ファンとして,激しく戦うスポーツとしてのプロレスを楽しんでいましたが,入社後にエンターテイメント性の高いプロレスを持ち味とするWWEのゲームに関わることになりました。
そこで印象的だったのは,試合を決める大技「フィニッシャー」の概念でした。新日でも武藤選手のムーンサルトプレスをはじめとした大技がありますが,それが出たからといって勝敗が決まるわけではありません。
ですが,WWEのフィニッシャーは文字通り「勝利を決める技」です。ここに至るまでの流れを見せるために,試合展開や場外でのストーリーがあるわけですね。
ただ,趣味で見る団体と,仕事で作る団体のプロレス観が違っても,抵抗感はありませんでした。例に挙げた新日とWWEも,それぞれ違った面白さがあり,見ていくとハマるわけです。今回ゲーム化するAEWも,新日に近いスポーツライクで激しい試合の中,選手は自分の個性をどう見せていくかを考えているわけですし。
4Gamer:
いろいろなスタイルがあれど,プロレスは面白いと。
赤坂氏:
ファンの方にもそれぞれの好みがあるとは思いますが,今回の「AEW:Fight Forever」は,どのスタイル,どの団体が好きな方にも楽しんでいただけると思います。選手の皆さんが創意工夫して考えた技を,選手のアドバイスを受けてゲーム内で再現して,プロレスゲームとして面白いものになっていますから。
4Gamer:
プロレスの魅力はどういったところにあると思っていますか。
赤坂氏:
戦い自体の面白さはもちろんですが,そこに自分の気持ちを投影できることですね。応援している選手がいて,試合の中で優勢になったり劣勢になったりする中で,感情も一緒に動くわけです。そして,プロレスのいい所は,その試合だけで終わるわけではなく,その選手にまつわるストーリーがずっと続いていくことにあると思います。今週の試合で負けても,次回へとストーリーが進んでいくことで感情の移入を新たにできるわけです。
4Gamer:
1試合の中での短期的な感情移入と,ストーリーによる長期的な感情移入の両方がある。
赤坂氏:
そうです。ストーリーにしても,前座の選手が大化けしてメインの戦線に食い込んできたり,ほかの選手とチームを組んだり裏切られたり,いろいろな展開があります。また,選手の皆さんが活動される期間が非常に長いことも魅力だと思います。武藤選手も最近引退の報道がありましたが,僕が中学生の頃から見ていた選手ですし,選手生活は38年にもなっているわけですから。
4Gamer:
プロレスラーだと引退後に復活のケースも珍しくありませんからね。これまでプロレスを知らなかった人向けの楽しみ方はあるでしょうか。
赤坂氏:
誰か1人の選手に注目することでしょうか。好きになるきっかけは,イケメンであるとか,可愛いとか,強いとか,なんだっていいんです。試合のルールもいろいろあるんですが,そこはひとまず気にしないで,選手が躍動する姿を見るだけでも面白い。目の前の試合をシンプルに見ていただくだけでも充分楽しめるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
その選手を「AEW:Fight Forever」で見つけるのもよさそうですね。では,発売を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
赤坂氏:
「AEW:Fight Forever」は,現在最高のグラフィックスで,シンプルなアーケードライクの試合を実現しているゲームです。アーケードライクだからこそ,プロレスゲームを遊んだことがない人や,他ジャンルのゲームのファンも楽しめる内容になっています。多くの方に遊んでほしいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
プロレスを愛するスタッフがプロレスゲームを作る。ユークスはプロレスファンから長年信頼されているが,その秘密の一端に触れられたインタビューだった。プロレスゲーム長年の課題に取り組み,アーケードライクに遊べる「AEW: Fight Forever」。AEWファンやプロレスファンはもちろん,はじめてのプロレスゲームとしてプレイしても楽しめる作品になりそうだ。
「AEW: Fight Forever」公式サイト
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