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年末年始は,2023年の“隠れた名作”をプレイ! Steamで「圧倒的に好評」なのに,レビュー数少なめの3タイトルを紹介
「まだ全然遊び足りない」という人も,「遊びたかったタイトルはすべてクリアした」という人もいるだろうが,そんな人たちの冬休みのお供に,2023年にSteamで配信されたタイトルを紹介したい。いずれも「圧倒的に好評」な作品ながら,レビュー数は少なめという,いわば「隠れた名作」だ。
Steamを運営するValveは,レビューの評価基準の詳細を明らかにはしていないが,実際にそのゲームをプレイした人だけが評価できる点だけ見ても,誰でも参加できるレビューより信頼度は高いと言えるだろう。それなりのSteam歴がある人なら,その内容にも納得できているのではないだろうか。コアユーザーたちが行った独自調査でも,「圧倒的に好評」の条件はかなり厳しいものになっているようだ。
そんな高い評価を受けながら,まだ「知る人ぞ知る」的な位置に留まっている作品たちを,年末年始にぜひプレイしてほしい。
一見ロックマン風,しかし実体は格ゲー!?
「Gravity Circuit」
ゲーム画面を見たなら,恐らく誰もがあの作品を思い出すに違いない。そう,「ロックマン」シリーズから大きな影響を受けた2Dアクションゲームが「Gravity Circuit」だ。
ファミコン時代を思い出させるようなレトロなグラフィックスで,未来の世界を舞台にしたロボットたちの戦いが描かれる。主人公カイの行く手に立ちはだかるのは,さまざまなサーキット(回路)能力を持つ,同じロボットの敵だ。
ゲームスタート時から使えるアクションは,移動,ジャンプ,壁スライド,壁ジャンプ,しゃがみ,スライディング,ダッシュ,フックショットとさまざまで,フックショットにもスイングや上昇,掴み,投げといった派生アクションが用意されている。また,攻撃方法も方向キーで変化するうえ,エネルギーを消費して放つバーストスキルも用意されているなど多彩だ。最初はチュートリアルで基本操作に慣れるといいだろう。
プロローグにあたるステージをクリアすると基地が開放され,パッシブスキルや必殺技的な位置付けの「ブースターチップ」「バーストスキル」を仲間たちが販売してくれるようになるほか,次に挑戦するステージを選択可能になる。
実は筆者,ロックマン系のゲームをちゃんとプレイするのは,今回が初めて。これまで遊ぼうと思った機会はたくさんあったのだが,そのたびに周りから,「難しいよ?」「まだその時じゃない」「今なら引き返せる」などと散々脅され,毎度尻込みしてしまっていたためである。
だが,「Gravity Circuit」のプロローグステージをノーマルモードでプレイしたところ,大きなつまづきもなくクリアできてしまったので,この後もなんとかなるだろうというポジティブシンキングのもと,さらにゲームを進めることにした。
プロローグステージに近いというだけの安易な理由で,まずは「廃品置き場」と「山岳地帯」からプレイしてみることに。ミッションの内容を読むと,敵の調査や道を切り開くというものなので,激しい戦闘は少ないはずだ。多分。
残機の概念がなくチェックポイントから無限にリスタートできるシステムには救われたのだが,当初の予想は大きく外れ,ゲームオーバーが続く。なんか難しくないですかー!?
最終手段のイージーモードに手を出すしかないのか……とうなだれながらリトライを繰り返すうち,ふとあることに気付く。どうもなにか勝手が違うと思ったら,「Gravity Circuit」の基本攻撃には,ロックマンの「ロックバスター」のような飛び道具がないのである。
初期から装備しているフックショットは,天井からぶら下がったりできるほかに,少し離れた敵に攻撃したり,ダウン中の敵を掴んで投げに使うこともできるのだが,あくまでフックショット。距離の制限があるし,投げは単発だったりするので,弾数を気にせず遠くまで飛ばせる系の武器ではない。
ただ,その代わりとでもいうかのように,通常攻撃の近接打撃が強い。例えば,敵によるミサイルなどの攻撃はパンチで破壊できるし,方向キーを組み合わせたキックを使えば,敵に蹴り返すことも可能だ。連打すればコンボにもなり,程よい爽快感を味わえる。
複雑なコマンド入力こそないが,要するに本作は,近接技を敵に叩き込むのが基本の,格ゲー寄りの2Dアクションだったのである。
ロックマンへのオマージュが込められた作品でありながら,ただの“焼き直し”には終わらず,近接攻撃メインという大胆なアレンジが加えられた本作。ロックマンだけでなく格ゲーへのあふれんばかりの愛を感じてしまい,何度もゲームオーバーになった苦い思い出は水に流すことにした。
そして驚いたのは,そんな本作が日本ではなくフィンランド発のタイトルだったということだ。
「Gravity Circuit」はBGMもなかなかかっこいい。環境が許すなら大音量でテンションを上げてのプレイがおすすめだ。
奇妙なのにしっとりとした雰囲気の癒やし系パズルADV
「Birth」
人造人間をつくるゲームがあるとしたら,みなさんはどんな内容を想像するだろう?
昔のヨーロッパでは,黒魔術や魔法を扱う錬金術師が,人の体液や馬糞などをフラスコに入れ,小人(ホムンクルス)を作り出したというが,今回紹介する「Birth」では,プレイヤーが骨や臓器を集め,自分の寂しさを紛らわせてくれる「友達,あるいはパートナー的な存在」を作り出す。なかなか不気味なテーマなのだが,どういうわけか,おぞましさや暗い雰囲気とはかけ離れたゲームになっているのが特徴だ。
主人公が向かうのは,多くの住人たちが生活する街のなか。散策中には,「亜麻色の髪の乙女」「ジュピター」「ジムノペディ」「アマデウス」といったクラシックの名曲がアレンジされた,柔らかな音色のBGMが流れる。
グラフィックスも手描きの絵本のような温かみがあり,骨や臓器といったものであっても,生々しさは感じられない。
とは言っても,住人たちの顔は一様にしてバッファロースカルのような見た目で,会話もないに等しい。そのうえ,虫を食べたり,アクセサリーにしたりというような,かなり尖った感性の持ち主なので,彼らは何者なのか? という疑問と,うっすらとした気味の悪さは常につきまとうのだが。
街には薬屋やパン屋,喫茶店,コインランドリー,図書館,アンティークショップなど,さまざまな店や施設があり,そこで主人公が出会うのはたくさんのパズル。それらを解くと,なぜかパートナーをつくるためのパーツが手に入る。
パズルは奇妙なものばかりで,決して難解ではないが,単純に解けるようなものだけではない。あからさまに怪しいアイテムをクリックしていけばスムーズに解けるものもあるし,そうでないものもある。
例えば,机の引き出しやキャンディマシン,コンセントといったものから,現実では考えられないものが飛び出してくることも。とてもヘンテコな世界なので,もしパズルで詰まったら常識的な発想を捨て去り,手当たり次第に試してみるのがいい。「バタフライエフェクト」というか「風が吹けば桶屋が儲かる」というか,そのくらいの心持ちで挑むのがちょうどいいだろう。
それでも無理なら,一旦あきらめて先に進むのもアリだ。場合によってはそれが正解ルートのこともある。
本作の開発者は,もともと医療関係ソフトのプログラマーだったそうで,その仕事に携わるうちに人体への関心が高まっていったのだという。
パズルとそこから入手できる人体のパーツについて,筆者がつながりらしきものを見出だせたのは,せいぜい「パブにあったパズルから“肝臓”が手に入ったとき」くらいだったのだが,こうした背景を知ると,気付けなかっただけで,作中にはもっと多くの寓意が隠されているのかもしれないと思う。
「Birth」の世界は,一見平和で穏やか。しかし,原色のない風景はともすれば精彩を欠き,喜怒哀楽の希薄さも感じさせられる。傷付いても血が流れる様子がなかったり,植物が生えたりしている住人たちの身体,そこここで見かける虫たちの存在は,虚ろさや腐敗を意識させもする。
何回目かの起動で,メニュー画面のBGMが教会の厳かなオルガン曲のように聞こえたことがあってからは,「主人公もつくりものではないのか?」「そもそも住人たちは生きているのか?」などと考えるようになってしまっていた。
クリア自体は数時間で可能な難度とボリュームの作品だが,この奇妙な世界の雰囲気に浸かりながら,作者が込めた意図に思いを巡らせるのも悪くない。
心地よい穏やかなBGMに耳を傾けて,ミステリアスなパズルに頭を悩ませながら,あれこれと考えているうちに,いつの間にか心地よくなり,うつらうつら。
かわいらしいものや,きれいなものが描かれているわけでもないのに,なぜか優しさを感じてリラックスしてしまう,なんとも不思議なひとときを体験したのだった。
シンプルながら押したり引いたりの駆け引きが楽しめる
「将軍 対決」
「将軍 対決」はローグライクなターン制のバトルゲーム。プレイヤーはデッキを構築して,将軍が率いる軍隊に挑む。
「将軍」と聞くと,「暴れん坊将軍」「ヴァンプ将軍」「ショウグンギザミ」など,人物や動物を思い浮かべる人が多いと思うが,本作における将軍は「この地の呪い」という,もっと概念寄りの存在のようだ。
最終的にプレイヤーが目指すのは,その将軍が待ち構える「ショウグン城」なのだが,そこまでには「竹林」「水簾洞」「港都市」「寺門」「温泉城」「ヒデヨシ城」「ノブナガ城」などといった和テイストあふれるステージがあり,それぞれで雑魚敵やエリアボスが待ち構える。倒されてしまったら,再び竹林からやり直しだ。
プレイアブルキャラは複数用意されていて,固有の特殊能力を持っている。今回は「位置の交換」という能力を持った「流浪セシ者」で挑戦してみた。
敵との戦いは,攻撃タイプと補助タイプ(移動など)の2種類に分けられる,「行動タイル」というカードのようなものを使って行う。
この行動タイルを,攻撃編成の枠に「セット」し「実行」することで,敵にダメージを与えたり,間合いを取ったり詰めたり,ということができるようになっている。
「セット」や「実行」,ステージ内の「移動」(反転含む)などにもターンを消費するため,どういった順番でアクションを組み立てていくかが考えどころになってくるというわけだ。
例えば,次の画面のような状況なら,先攻の自キャラが攻撃実行でまず合計4ダメージを敵に与えることができる。右側にいる敵のHPは3ブロック(キャラ下の緑のブロックがHP)なので,このターンで倒すことができ,2ダメージの反撃を受けることはない。
Steamのストアページなどでは「デッキ構築型」とされている本作だが,より正確を期すならば「手札構築型」という説明が近いだろう。今回のプレイでは,ランダムに出現したタイルを集めて,最大で6枚を保有したのだが,それらはすべて手札として収まり,山札から引くようなことはなかった。そのため,「次にどんな札が手元にくるか」と気を揉むことがない。
また,強化前の多くの行動タイルには複雑な条件がないため扱いやすく,思っていた以上にすんなりとゲームシステムを理解できた。
こうした点は,特にこのタイプのゲームに慣れていないプレイヤーの目には,非常に遊びやすいものとして映るはずだ。
だからといって,ゲーム自体が浅いわけではない。
デフォルト状態だと自キャラのHPは10ブロックしかなく,回復アイテムも頻繁には手できないため,相手の攻撃を受けないことがとても重要になる。
ステージでは5〜9マスの範囲で左右にキャラを動かせるのだが,“HPを温存する立ち回り”ができるかどうかで,戦況が大きく変わっていく。
具体的には,単に待機する,攻撃を回避する,クールダウンタイム稼ぎに使う,敵の反対側に回り込み,別の敵からの攻撃への盾にする……といった感じだ。
このように,敵を最速で倒すのが最適解とは限らないし,自分の向きとは逆の位置に敵がいる場合もあえて反転せず,前後方同時攻撃の行動タイルを活用してターンを節約したほうがいい場合もある。こういった押したり引いたりの要素には,少しばかりチェスや将棋の雰囲気も感じられる。
強化した行動タイルのほかに,パッシブ系のスキルやステータス異常にするアイテム,そして左右の移動などを組み合わせての駆け引きバトルに慣れてくると,どんな戦術で倒すのかを考えるのが段々と楽しくなっていくだろう。
最初のショウグンに勝利すると,難度が上がった2周目(ゲーム内の用語では2日目)が開放される。「流浪セシ者」で進めてもいいし,異なる特殊能力を持ったほかのプレイアブルキャラでチャレンジしてもいい。
紹介したように,カードゲームの経験がなくても比較的プレイしやすいタイトルだが,不安があるなら,まずは体験版を試してみるのがいいだろう。
まさに三者三様のタイトルを紹介した。いずれもが個人やごく少人数のチームによって開発されていることもあり,ひとまずのクリアまで100時間もかかるようなボリュームではないし,好き嫌いがはっきりと分かれる内容かもしれない。ただ,実際にプレイしてみると,コンパクトながらも目指した形からブレることなく仕上げきった出来に,とても満足げな表情の開発者たちの姿が目に浮かんだのだった。
来年も,こんなまっすぐで小気味よい作品たちと,たくさん出会うことができますように。
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