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キックで敵を蹴散らすFPS「Anger Foot」をデベロッパFree Livesがプレゼン。それはジャムセッションのようなゲーム開発だった
そんな本作を南アフリカのケープタウンで制作したFree Livesの開発メンバーが,京都で開催されたインディーゲームイベント「BitSummit Drift」のメインステージに出演。「Just for Kicks」と題したプレゼンを行った。
登壇者はプロデューサーのAnja Venter氏,ゲームデザインとプログラムを担当するRobbie Fraser氏とJem Smith氏,アートディレクターのLuc Wolthers氏で,それぞれの担当のゲーム解説や開発エピソードを語った。
ちなみにJust for Kicksとは,「理由とかないけど,なんか面白そうだから」くらいの意味合いの慣用句である。ケリが重要なAnger Footについて語るセッションにとって,いろいろな意味でぴったりな名前だろう。
話題の個性派シューターは,開発陣のノリと勢いをどう生かして成功に導いた?
最初に,Robbie Fraser氏が本作のゲームデザインについて熱っぽく語り始めた。
「怒りのままに,同じステージ(レベル)を何度も繰り返してみないか? ドアを蹴り開け中に踊りこみ,数人の敵を撃ち,誰かを蹴り,その銃を奪ってさらに撃ちまくる。気がつけば熱狂の真っただ中でステージをクリアしているような,まるでジョン・ウィックになったみたいな気になれるゲームを!」と。
とはいえ,プレイヤーにそんな高揚感を味わってもらう仕組みを作るには,難しい課題がいくつもある。そこで「Anger Foot」では,それらの課題をクリアするため,以下のふたつのアプローチを行ったそうだ。
まずひとつは,一個のステージを短く,迷わないように作るということ。これなら角待ちしていた敵にやられても,短いサイクルのためリスタート時にそれをしっかり覚えて対処でき,またプレイするごとに上達する感覚を味わえる。
もうひとつは,ゲーム全体をジョークやバカげたアイデアでいっぱいにすることだ。
敵にやられても,敵がへんてこなダンスをしていてつい笑ってしまうような,そんな感覚を目指したという。
後者に関しては,そもそもFree Livesのゲーム作りにおいて最も重要なテーマでもあるそうだ。
どんな馬鹿げたアイデアでも,つい笑ってしまったらNoとは言わずゲームに入れるというルールがあり,そうすることで作り手側の「遊び心」をプレイヤーに伝えたいという。
Robbie Fraser氏は最後に「我々はシリアスなゲームは作りたくない。それが伝われば幸いだ」とまとめた。
次にJem Smith氏が,本作とシューズとメタゲーム(敵を倒す以外の枠組みの部分)について説明する。
氏は本作のゲームプレイが反復的なので,ステージに多様性とリプレイ性を取り入れたいと考えたそうだ。その方法のひとつが,プレイ中にアンロックできるシューズである。
本作のシューズは大別すると「プレイを楽にするもの」と「縛りプレイ」になるものの2種類があって,そこにはさまざまなプレイスタイルを試してもらう意図があるという。
例えば「ソウルサッカー」というシューズは,5秒ごとに敵を倒している限り無敵だが,それが途切れると死んでしまうというもの。そんな極端な性能のシューズを装備したプレイヤーは,ガンガン突っ込んで敵を倒すようになる。
そのうちに「このシューズがなくても,実は似たような戦い方ができるのでは?」と気づいてもらいたいのだそうだ。
ステージの特性とシューズの特性がうまくからむと,作り手側も困惑するようなシナリオが生まれることがあるという。
たとえば敵が天井や屋根からくるステージと,体が小さくなるシューズが組み合わさった場合。通常は敵をどんどん屋根から蹴り落としまくるステージとなるのだが,体が小さくなったことで家具から屋根に飛び移っていくという,まったく違った遊び方が可能になる。
「これはとてもクールな遊びで,発見できて本当に良かった」と,Jem Smith氏は冗談めかしつつ話を締めくくった。いや,案外これは本心からの言葉なのかもしれない。
続いては本作のリードアーティストでもあるLuc Wolthers氏がアートワークについて語った。
同スタジオのゲームの作り方は非常に型破りで,先にプリプロダクション(実制作を行う前の準備。企画や設定など)を行うことがあまりないそうだ。「ゲーム作りは動いている列車のようなもので,私はその動きに合わせて線路を敷いているだけ」と,氏は自らの仕事をそう例える。
そんな本作の美術の柱となっているのは実は音楽で,グランジなナイトクラブカルチャーがあらゆる面に影響を与えている。「トミー・キャッシュ(エストニア出身のラッパー)のバカバカしいミュージックビデオやBoiler Room(2010年にロンドンで生まれたクラブミュージック系のライブイベント/プラットフォーム),ベルリンのアンダーグラウンドの雰囲気が大好き」なのだとか。
もうひとつの大きな要素が90年代のアニメで,「レンとスティンピー」「スポンジボブ・スクエアパンツ」のようなちょっとグロくて楽しいテイストを取り入れている。
ここで氏はキャラクターの設定を見せながら説明を続けていく。キャラクターを作成するときとくに重視したのは,面白さとカッコよさのバランスを取ること。「カッコよすぎてもダメ」だそうだ。
また本作のキャラクターは象徴的なシルエットにするために,動物の頭などを取り入れたデザインになっている。というのも,ゲーム展開がスピーディなため,プレイヤーが敵を認識して倒すまでの時間はごくごく短い。それでもしっかり認識できる敵が必要だったわけだ。
動物だけにこだわったわけではなく,頭が爆弾,中指を立てた手,モロトフカクテル(火炎瓶)をモチーフにした敵なども登場する。それらはこの作品のアングラ的な世界観や,ユーモアの表現ともつながっている。
そしてゲームの舞台に関しては,彼が生まれ育った都市・南アフリカのヨハネスブルグの雰囲気も色濃く影響している。
「どこまでも広がっていて,そのすべてが崩壊しつつあるような……」そんな彼の脳裏に染み付いた都市の特徴や質感が「Anger Foot」を形づくっているわけだ。一方,避けたかったのはネオンで彩られた“ありふれた某2077な”イメージだったとのこと。
また背景はそこに登場するギャングたちの雰囲気に合わせてもいる。
最初はギャングについても「下水道青少年団」的な,面白い設定を考えていたそうだ。
だが,開発の終盤でシンプルで遊び心のあるものに変え,現状の「ただただ街を汚染することを目的とする汚染ギャング」「詐欺で儲けたいビジネスギャング」「ピザ食って騒いで暴れたいだけのギャング」の3地域3系統の敵になったそうだ。
最後に,話のバトンは再びAnja Venter氏へ渡される。
彼女がチームに加わったのは開発が始まってから2年ほど経ったころで,「彼らに自由を与えることや,議題から少し遠ざけること」が開発目的を達成するためにとても重要だったという。
このゲームの開発には,そもそもプリプロダクションが存在しない。必要なアセットのリストがなければ,マイルストーンもない。だが,だからこそ創造的な自由が確保され,アイデアを大胆に表現できたそうだ。
要するに,ジャムセッションならぬジャムゲーム開発のようなもので,まずプロトタイプを作り,そこにそれぞれが爆発的な演奏を加えていく。それが8時間のジャムセッションであろうと,週末いっぱ,いや1週間に渡るものであろうと,アイデアを出して実際に演奏するのみ。それが同スタジオの哲学の大きな部分を占めている。
こうしてできたプロトタイプはitch.io(利用者がインディーゲームを開発,販売,ダウンロードするためのサイト)で無料公開し,人々の反応を見るのだそうだ。
上の画像はitchでのビュー数とダウンロード数だが,両者には一貫性が見て取れる。また口コミでその数が有機的に成長してもいる。それはけして大きな数字ではないが,可能性を感じられる数字の伸び方だったそうだ。その後は資金の投資を受けて開発を進め,現状のような“大成功”を収めたわけである。
以上,なかなかに驚くべき開発プロセスを経て生まれた「Anger Foot」。すべてのチームで同じアプローチが可能とは思えないものの,小規模なチームが世界を相手に存在感を示すには,こうしたやり方を考慮してもいいのかも。ただ「Free Livesの後に道はなし」かもしれないが。
BitSummit Drift公式サイト
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