プレイレポート
[プレイレポ]ジョエルとエリーの旅がついにPCでも! PC版「The Last of Us Part I」は,最新グラフィックスで原点を思う存分楽しもう
本稿では,オリジナル版の発売から数えればほぼ10年という年月を経て,新しいプラットフォームで,“最新版”として帰ってきたThe Last of Usの魅力を改めてお伝えできればと思う。
パンデミックの惨劇から20年。すべてを失った運び屋ジョエルと,世界を救うカギを握った少女エリーの長い旅が幕を開ける
2013年のアメリカ合衆国。この国は今,重大な危機に瀕していた。正体不明の奇病が人々に伝染し,その混乱が各地に広まりつつあったからだ。
後に判明するこの病気の元凶は,キノコのような菌類。感染すると人間の脳を乗っ取り,数時間から数日で理性を完全に失わせて人に襲いかかる“ゾンビ化”させるだけでなく,時間が経つと手がつけられない凶悪なモンスターに変貌してしまい,さらには接触あるいは空気感染で広まるという恐ろしい特性を有している。ただ,多くの人々にとってその脅威はまだ目前には迫っておらず,表面上は平穏な日々が続いていた。
事態が大きく変わったのは本作の主人公である一児の父,ジョエルの慎ましいバースデーが終わってからだ。最愛の娘に腕時計をプレゼントされて喜びを隠せないジョエルだったが,その数時間後,自宅が感染者の襲撃を受けてしまう。すでに隣人まで感染が広がっており,パンデミックは完全に制御不能の状態に陥っていたからだ。慌てて娘を連れ出して逃げ出すものの,すでに街は大パニックに陥っており,至る所から感染者が沸きだし,人々は逃げ惑うしかない状態にまでなっていた。
娘を連れて必死に街を抜け出すジョエル。だが奮闘もむなしく娘はその混乱に巻き込まれ亡くなり,ジョエルは失意の底に沈むことになる。
それから20年後,ジョエルは“崩壊後”の世界で合法,非合法を問わず働く運び屋として生計を立てていた。とある仕事の顛末から“人を運ぶ”ことになった彼は,その対象であった少女のエリーが,実はこの奇病により滅びかけた世界を救うカギであることを知る。こうしてジョエルとエリーの,アメリカ大陸を股にかけた長き旅が始まることになった……というのが,冒頭の物語の流れだ。
本作は,三人称視点のアクションアドベンチャーだ。プレイヤーは,運び屋であるジョエルや時には非力なエリーを操り,かつての秩序が崩壊した世界を感染者や敵対的な生存者に対処しながら,目的地への旅を続けていく。ステージはチャプターごとに分かれており,基本的に一本道だが,道中に複数のルートやアイテムが用意されており,探索のしがいがある仕組みだ。
一本道ゆえに敵やイベントの配置は十分に練り込まれており,ある程度平穏な探索シーンと緊張感のある戦闘シーンが適時切り替わって進むようになっているため,プレイ中に単調さを感じない作りになっている。ゾンビ物らしく,一難去るとより一層大きなトラブルが降りかかってくることも定番であり,上手く立ち回らないとゲームオーバーになるイベントもしばしば起こるので,特に危険な状態では気が抜けない。
プレイヤーキャラクターにはレベルや経験値という概念はなく,武器の性能とスキルを消耗品のアイテムを使い,強化させる仕組みになっている。性能を上げるために使用するのは,武器の場合は部品,スキルの場合はサプリメントだ。これらはフィールドの各地に落ちているため,細かく探索するほどジョエルの能力が上がりやすくなる。
また回復用の包帯,特に感染者を一掃しやすい火炎瓶,多くの敵を一撃でステルスキルできるナイフなどを作成できる各種の素材や,武器を使用するのになくてはならない弾薬なども,基本的には探索で入手することがメインであり,なおさら物資を探す重要性は高い。本作のフィールドは,特に最近の基準で言えば決して広くはないのだが,物資を探すという要素も相まって十分なボリュームを感じられる。
なおポストアポカリプス(文明崩壊後)の作品としては定番であるが,本作の世界もインフラに壊滅的な影響を受けたせいで,物資は全般的に足りないバランスになっている。敵を片っ端から倒す,といった行動は物資の供給量的にほぼ不可能で,ステルス行動が基本だ。
そのため,プレイヤーには「聞き耳」というアクションが用意されており,敵の動きを壁越しでも白い影で確認することができる。これを活用し,敵の通らないルートを探したり,逆に近くにレンガなどを投げて敵を集めて一網打尽にしたり,といった戦術を取ることがスムーズに進むコツだ。道中は多勢に無勢の戦いを強いられるジョエル達にとって,聞き耳とステルスは生き残るための切り札であり,同時にプレイヤーの腕の見せどころでもあると言えるだろう。
より美しく,よりプレイしやすくなったラスアス1。PC版ではプレイヤーに合わせ,非常に細かいグラフィックスの調整が可能に
以上はリメイク前の初代The Last of Usから続く本作の特徴だが,フルリメイク版となるPart Iではベースは変わらないものの,多くの部分が時代の流れに合わせて刷新されている。まず一番大きなポイントは,グラフィックスの大幅な強化だ。元々PS3で発売されたThe Last of Usは,当時としてはハードの性能を限界まで引き出した作品と賞賛されたが,流石にこれは10年近く前のこと。したがってPart Iでは,現行のハードに合わせ,新たにキャラクターや世界が再構築されている。
結論から述べてしまうと,そのクオリティは元が10年近く前の作品とは到底思えないほどで,新作に相応しい仕上がりになっている。日差しが照りつける日中の屋外は,廃墟が続くものの自然に囲まれた美しい世界として堪能でき,逆に暗い屋内は,懐中電灯だけが頼りの感染者の脅威が常につきまとう恐ろしい場所として描かれている。初代から比べると,リアリティは段違いに高まり,その没入感は比べものにならないほどだ。
またこのグラフィックスはPC版というハードウェアの特性に合わせ,プレイヤー側で非常に細かくクオリティを調節できるようになっており,それぞれの環境に合わせたゲームプレイが可能になっている。基準としてグラフィックスメモリの使用量が常に確認できるようになっているので,面倒な場合はプリセットに任せるのがいいが,こだわって試行錯誤を重ね“詰めて”いくのもいいだろう。また,NVIDIAのDLSSやAMDのFSRにも対応しているので,対応ハードを利用してるなら,ONにすることによってより高いフレームレートを目指せる可能性がある。
さらに21:9のウルトラワイドや,32:9のスーパーウルトラワイドのアスペクト比にも設定できるので,対応したディスプレイを所有している場合は,さらに大迫力の画面でプレイ可能だ。16:9などに比べると描画する範囲が広がる分,相応のハードウェアスペックが必要になるが,より没入感を高めることができるのが嬉しいところ。
同じハードウェア面では,PS5の標準コントローラである「DualSense ワイヤレスコントローラー」の有線接続に対応しており,USBケーブルでPCに直接つなぐことによって,ハプティックフィードバックやアダプティブトリガーを利用できる。通常のBluetoothの無線接続でも,もちろんDualSenseコントローラーを利用できるが,有線接続なら天候や近くのオブジェクトに合わせたより繊細な振動や,弓などを使用した状況に合わせたトリガー負荷などのフィードバックが手元に起こるので,PS5版とほぼ同等のプレイ体験ができるのだ。
なおコントローラ接続時に注意画面が表示されるが,アダプティブトリガーなどを利用するには有線接続するだけでなく,Steam側の「PlayStation設定サポート」を設定から切る必要がある。うまく動かないときは,ランチャーとなるSteam側の確認をしておきたい。
それ以外では,オリジナル版では初級や上級など段階的にしか選べなかった難度が,入手できる物資の量や敵の強さなど個別の要素ごとに好きに設定できるようになった。またアクセシビリティの項目で,敵に正面から近づいても発見されないステルスモードを利用したり,一度掴んだ敵が逃げなくなったり,聞き耳にアイテムや敵の場所を表示させるソナーのような効果を追加したりと,非常に多様な設定オプションが追加されている。
詳しくは後述するが,本作はポストアポカリプス世界を舞台にした激動のストーリーが大きな見どころの一つであり,アクション部分で詰まってしまい先に進めなくなるのは非常にもったいない。だがプレイヤーそれぞれどうしても経験や腕前の差はあるので,こういった細かいところに手が届くオプションは,充実しているだけ望ましいと感じる。
普段アクションゲームをあまりプレイしない人でも,難度を最低まで下げてプレイをアシストするオプションを可能な限りONにすれば,恐らく詰まってしまうことはないはずだ。
腕に自信があるゲーマー向けには,死亡時に自動でセーブデータを消す設定や,一度クリアすれば利用可能になるタイムアタックモードなどが用意されている。それぞれの好みに合わせて,存分に充実したオプションを使いこなして欲しい。
最新技術で甦った不朽の名作。プラットフォームの関係でプレイする機会がなかった人は,ぜひプレイしてもらいたい
上でも少し触れたが,本作の目玉となるキモの部分は,厳しい旅と共に描かれる映画やドラマ顔負けの骨太のストーリーだ。かつて最愛の娘を失って心に深い傷を負い,それでもパンデミックを生き残った中年の運び屋と,崩壊後の世界しか知らない跳ねっ返りの少女。元々はギクシャクしていたその関係が,数多くの出会いと別れ,そして幾多もの危機を共に乗り越えることによって,ある種の親子の絆を超えた関係を築いていく。
ドラマチックなストーリーそのものも印象深いが,ゲームならではの“プレイヤー自らがキャラを操作し,物語を紡いでいく”という特徴も相まって,一人でも多くのゲーマーに体験してもらいたい物語になっているのは間違いない。今回のリメイクでも,シナリオの部分はオリジナルからほぼまったくと言っていいほど手が入っておらず,それだけ当初から完成度が高いものになっているのだ。
一方システム面では進行中に頻繁にQTEが挟まるなど,ある程度時代を感じる部分もあるが,グラフィックスやモーション等は作り直されているため古くささを感じることはあまりなく,時代に合わせた形に仕上がっている。クラフトやアップグレードの仕組みも単純なままなので,今回がシリーズ初体験でもすぐに慣れるだろう。聞き耳システムもシンプルな仕組みながら,今を基準に考えてもステルスアクションと相性がよく,ヒントでありながら緊張感も高まる良いバランスになっている印象だ。
ただ一定の頻度で懐中電灯が消えるイベントは,今の時代ならオプションでオフにできても良かったのではないかとも思う。
PC版ならではの要素と言えば,やはりグラフィックスの詳細な調節機能だと思うが,残念なことに著者がプレイしたバージョンでは,それより先にシステム全体があまり安定していない点が気にかかった。ゲームプレイ中不意に,特にイベントシーンなどでゲームごとクラッシュする場面があり,ソフトのアップデートやグラフィックスドライバのホットフィックスなどで大幅に安定していったものの,完全に改善されるまでには至らなかった。
グラフィックスの調節がプレイヤー側で自由にできるゆえに,スペックギリギリの設定にしてしまった可能性もあるが,可能ならば素早い対応をお願いしたいところだ。なおあくまで著者の環境ではあるが,ゲームそのものが(設定から考慮して)異常に重い,といったことは感じられなかった。
作品としてはオリジナル版発売当時に触る機会がなかった,あるいはプラットフォームの関係でプレイできる環境になかったのなら,手放しでオススメできる一作となっている。いわゆる“ゾンビアクション”だが,前述のとおりに難度関係のオプションは極めて充実してるため,多少苦手でも手詰まりになってしまうことはない。もちろん難しく調節することも可能なので,手ぬるいゲームには興味がないゲーマーでも大丈夫だ。
またPS3のオリジナル版をプレイ済みでも,流れた月日の分だけの進化を感じられる出来なので,何年ぶりかでジョエルとエリーの旅を再体験するのも十分にありだ。すでに筆者はThe Last of Usを何度もプレイしているが,緩急が効いた緊張感のある2人の旅を今回再び,十分に楽しめた。ひとりでも多くの人にプレイしてもらいたい。
「The Last of Us Part I」公式サイト
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