インタビュー
[インタビュー]「バイオハザード RE:4 ゴールドエディション」が2月9日リリース。平林良章氏と熊澤雅登氏にプロジェクトを振り返ってもらった
「RE:4」プロジェクトの締め括りとなるゴールドエディションのリリースに合わせ,ゲーム本編のプロデューサーを務めた平林良章氏と,有料DLC「セパレート ウェイズ」及びPS5版無料DLC「バイオハザード RE:4 VRモード」のプロデュースを手がけた熊澤雅登氏に,プロジェクトを総括してもらった。
「バイオハザード RE:4」公式サイト
スタッフそれぞれが1ファンとして原作「バイオハザード4」に向き合った
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「RE:4」は世界的に好評で,2023年3月24日のリリースから2日で300万本,続く4月7日には400万本,無料DLC「ザ・マーセナリーズ」の配信を経て,今年の1月31日には累計販売本数が648万本に達したとのアナウンスがありました。これだけ多くの支持を集めた要因を,どのように分析していますか。
初めに多くの方にプレイしていただけたことに感謝を伝えたいです。本当にありがとうございます。皆さんからは,「原作のバイオハザード4で楽しんでいた部分を,RE:4でもしっかり感じられた」という声が多く寄せられました。それは我々が今回原作をリメイクするにあたって,「ここはそのままお客さんに伝えたい」「ここはより改良する」とくだした判断が,皆さんの感覚と近しいものだったからだと捉えています。
4Gamer:
リメイクは,原作から変わりすぎても変わらなさすぎても,熱心な原作ファンから反発を受けると思います。そのバランスを取るのはかなり難しいと思うのですが,何を意識して調整したのでしょうか。
平林氏:
大きく分けて,2つの軸でアプローチしました。1つは「自分たちが1ファンとしてしっかり原作に向き合うこと」です。そのため,多くのスタッフが何度も原作をプレイし,何を残して何を改良するか,それぞれがしっかりと考えました。
ただ,そうやってスタッフが原作に向き合ったと言っても,チームの人数以上の意見や感想は出ません。そこでもう1つ,原作ファンの皆さんの思い出をリサーチし,「原作をどのように見てくださっていたのか」ということの把握に努めました。それら2つを照らし合わせて,実際に我々がやるべきことの調整を進めていきました。
4Gamer:
チーム内で意見の食い違いは出なかったのでしょうか。
平林氏:
当然ありました……と言うよりも,スッと決まることのほうが少なかったように思います。やはり,スタッフそれぞれが原作に抱く思い出同士の戦いですから。
「セパレート ウェイズ」の開発にあたっては,「本編に入りきらなかった,原作場面のリメイク」をコンセプトの1つとして大きく掲げていました。たとえば本編でカットされた,通称“レーザー部屋”を「セパレート ウェイズ」で登場したところ,プレイした皆さんから非常にポジティブな反響をいただけました。
4Gamer:
「セパレート ウェイズ」には,「RE:4」本編でカットした部分をあらためて取り上げるという側面もあったわけですか。
熊澤氏:
そうなんです。「セパレート ウェイズ」は,もともと原作の本編をクリアするとプレイできるコンテンツ「the another order」のリメイクなのですが,それをDLCにすることにより,「RE:4」本編では,この部分を大切にする」という取捨選択をしつつ,「このシーンは,エイダが暗躍するDLCに持っていくほうが,本編を含めたストーリー全体の噛み合わせがよくなる」といったようなバランスを取りながら開発を進めました。
「バイオハザード」らしさを大切にしつつも,現代のゲームとしてナラティブを意識
4Gamer:
結果としてプレイヤーからはポジティブな反応が多くありましたが,「RE:4」リリース前の平林さんの発言からは,非常にプレッシャーを感じていることが読み取れました。
平林氏:
「どう受け止めてもらえるだろうか」と不安になる部分もありました。
「RE:4」は我々からの一方的な押し付けではなく,皆さんの大切な思い出を引き継いでいる。我々は作り手として,皆さんにお届けするわけですが,それだけでは今回のプロジェクトは成立しないんです。皆さんがプレイして,楽しんでいただいて初めて成立する。
そういうプロジェクトであるがゆえに,大きな反響をいただけたことについては,開発中の「どう受け止めてもらえるだろうか」という不安に,「多くの皆さんが同じ気持ちになってくださった」という答え合わせができたと,チーム全体が感じました。
4Gamer:
開発中の印象に残っているエピソードがあればぜひ教えてください。
平林氏:
原作ファンにとって,古城に設置された城主・サラザールの巨大な像が追いかけてくる場面が強く記憶に残っているだろうという話になったのですが,非常に個性的な要素であったがゆえに,「思い出としてどうあるべきか」という議論をしました。
「そのまま残したほうがいいんじゃないか」「ナラティブの積み上げを踏まえると,そのままではなく,もっと違う形にしたほうがいい」「そもそも面白すぎて怖い感覚が薄れるから,カットしてもいいんじゃないか」といった,さまざまな意見が出たんです。最終的に原作にあった要素を何か所かに分散させたわけですが,本当に紆余曲折ありました。
4Gamer:
熊澤さんはいかがでしょうか。
熊澤氏:
VRモードの話なんですが,もともと「RE:4」をそのままVR化することを前提に開発を進めていたんです。そのため,最初にレオンの視点で一人称のカメラを置いてVR化して,どんなところを面白く感じるのかを試してみたんですが,身長通りのレオンの視点の高さですと,ガナードなどの敵が少し小さく見えてしまったんですよ。
そのままにすると「バイオハザード」シリーズが大切にしている“サバイバルホラー感”が若干薄れてしまうと感じたので,ゲームでは実際のレオンの視点よりも少し低い位置にカメラを置いています。いろいろテストをするなかで,そういった気付きがあったのは興味深かったですね。
4Gamer:
先ほどサラザールの巨大な像のくだりで「非常に個性的」という話がありましたが,「バイオハザード4」はホラーでありつつも,どこかホラーととらえ切れないシーンがありますよね。それをリアルなグラフィックスで現代風にリメイクするのは非常に難しいと思うのですが,どのように調整をしていますか。
平林氏:
おっしゃるとおりで,とくに「バイオハザード4」は,皆さんに楽しんでいただくためのプレイリズムが意識されていて,サバイバルホラーでありつつも,思想が根幹にあり,そのため多彩なユーモアが入っているんですよ。それらのユーモアをどうリメイクするかが,「RE:4」の大きな課題となりました。
仮にそのまま残すとなると,ナラティブ性が減る場合もあります。しかし,サバイバルホラー一辺倒のストロングスタイルでは,肩に力が入りすぎたものになりかねません。プレイしていて肩に力が入るところ,逆にフワッと力が抜けるところ,グッと身構えるところと思わず笑ってしまうようなところのバランス調整は,何度もディスカッションしながら進めました。その意味でサラザール像のシーンは,落としどころを見つけるのにとても時間をかけました。
4Gamer:
1プレイヤーとしては,序盤のチェーンソー男と遭遇するシーンが「バイオハザード」らしさをとても感じました。レオンがナイフ1本でチェーンソーを防ぐなど,現実的にはあり得ないだろうけど,それでもホラー感を大事にしているし,何よりカッコいい。かなり議論のあったシーンなのではないかと思ったのですが。
平林氏:
実はあのシーンは,何か狙ったわけではなく,非常に真面目に作りました。ただ,「チェーンソーに立ち向かったら,ナイフが折れるのでは」という意見があったのは確かです。でも「折れるからナイフを使わない」という選択肢は,ゲームの楽しさとしてどうなんだろうと。
最終的に「ゲームとしての楽しみを伝える部分が必要だ」「カッコいいからいいじゃん」と決着をしました。
4Gamer:
原作も「RE:4」も,ナイフが重要な存在ですが,あのシーンでナイフの存在感がより増した気がしています。
平林氏:
まさしくあのシーンは,「いざというときにナイフはあなたを守ってくれます」という象徴的なものとして作ったんですよ。「ナイフはすごく頼れる」と感じていただきたかったんです。
「セパレート ウェイズ」とVRモードの反響と手応えは
4Gamer:
話が少々前後しますが,「セパレート ウェイズ」の反響についても教えてください。レーザー部屋が好評だったとのことですが。
熊澤氏:
全体的にポジティブなコメントが皆さんから寄せられました。とくに「RE:4」本編とは違ったフックショットを使ったアクションの拡張や,ストーリーのボリューム感を評価していただきました。コンセプトの1つに掲げた原作の場面のリメイクに関しても,レーザー部屋や敵の登場シーンなどについて,懐かしくありつつも新しさを感じていただけたようで良かったです。
4Gamer:
主人公のエイダは,シリーズでも屈指の人気キャラです。演出やアクションなど,今回こだわった部分を教えてもらえますか。
熊澤氏:
原作や「RE:2」,あるいはそのほかのタイトルもそうですけれども,エイダはエージェントとしてのカッコいい面が描かれていますよね。ディレクターが話していましたが,「セパレート ウェイズ」には,エイダ主体のストーリーだからこそ表現できる,エイダの人間らしい面を描きたいと考えていました。本編の,エージェントらしいクールさと,こちらのウエットな部分,両方合わせたのが本当のエイダだと。
4Gamer:
今回のエイダの仕上がりについて,平林さんはどう感じましたか。
平林氏:
「RE:4」本編と「セパレート ウェイズ」をひっくるめての話ですけれども,レオンやクラウザーとの関係など,エイダを取り巻く周囲との関係性が,今回リメイクするにあたって大きなポイントになったと感じています。原作の印象的なシーンを残しつつ,この物語にエイダをどう関わらせれば,彼女をより謎めいたエージェントとして魅力的に表現できるのか。その意味では,「RE:4」としてのエイダは本編,「セパレート ウェイズ」を通して良い形にまとまったのではないかと感じています。
4Gamer:
エイダと言えば,原作からの衣装変更も話題になりました。
平林氏:
衣装はかなり勇気を出してチャレンジしました。原作のままですと,印象的ではあるのですが潜入捜査という点においてはナラティブ感は薄い。そこで「RE:4」本編では変えようという話になったんです。エイダらしさはチャイナドレスとは違う形で絶対表現できるはずだと腹を括りました。
ただ,チャイナドレスという要素も原作で愛された要素の一つであったという思いもあり,「セパレート ウェイズ」で実現してもらいました。結果的に皆さんに届けるまで時間がかかり,不安にさせてしまったかもしれませんが,「大切にしたい」という気持ちは共有できたかなと思います。
4Gamer:
原作の衣装の話をすると「バイオハザード4」に限らず,「ちょっと任務に適したものじゃないな……」と感じるものもありますよね。
平林氏:
ナラティブに対する皆さんの解釈・造詣が深まってきたので,「ゲームだから」というのが通用しなくなりつつあります。ただそうは言っても「ゲームなんだから」というのも真理ですから,今回は体験していただける順番を変えたというわけです。そこは非常に意識しました。
4Gamer:
原作にあった要素を完全にカットするのではなく,楽しめるところも用意していますよというのは,ファンとしてもうれしいです。
平林氏:
サバイバルホラーと銘打っているIPですから,「RE:4」本編ではまず「怖いながらもハラハラドキドキ」を体験していただく。そこからの膨らみの部分で,皆さんが「好きだった要素」への体験もどうすれば可能になるかを考えて,リメイクを進めました。
4Gamer:
原作から大胆に変更を加えることで,より面白くなっている部分もありますよね。「RE:4」本編のトロッコのシーンは,すごく現代的になったと言うか,遊びとして拡充された感があります。
平林氏:
トロッコのパートは,原作にも携わったスタッフが,「より楽しめるように」という気持ちを込めて作ったんです。実はVRモードでも,トロッコのパートは評判がいいんですよ。
熊澤氏:
VRモードでは,身体を傾けながらトロッコの車体を調整するというVRならではの遊びが入っています。もともとスティックでレオンの体を傾けてバランスを取るというシステムだったのですが,VRなら自分の体でやりたいよね,とチームで話して実装しました。トロッコも含めて,乗り物のパートは面白い遊びが実現できるので,チームのイチ押しです。
4Gamer:
VRモードは,レオンの視点にこだわったというお話もありましたが,そのほかに注力した部分などを教えてもらえますか。
熊澤氏:
チームが一丸となってこだわったのは,やはり銃ですね。「RE:4」はシリーズの中でも,銃の種類がかなり多いタイトルとなっています。レオンになりきるために,さまざまな種類の銃を使いこなす。その銃の使いこなし感が,VRモードの醍醐味の1つになっています。ほかにもガンマニアしか判らないような細かいネタを仕込んだり,スライドを一気に引いたときと中途半端に引いたときとで効果音が変化したりといったように,VRモードのゲーム性を象徴する要素の1つとして,銃にはこだわりました。
4Gamer:
VRモードに対する反響はいかがでしたか。
熊澤氏:
銃にこだわった甲斐がありまして,「いろいろな銃をやり繰りして楽しめた」というポジティブな感想を多数いただけました。また「RE:4」を象徴する要素である,ナイフを使ったパリィアクションも本作ならではのもので楽しめたという感想もいただいています。自分も東京ゲームショウ 2023のVRモードブースの周囲にいて,皆さんがプレイされている姿を見ていたんですけれども,VRがもたらす没入感によって「RE:4」の世界に丸ごと入って楽しんでいただけていると強く感じました。
4Gamer:
「RE:4」は,ホラーとして怖すぎず,アクションも多いので,VRに向いているのかもしれませんね。
熊澤氏:
そうですね。繰り返しですが銃の使いこなし感やパリィ,トロッコといった各要素が,VRのゲーム性にマッチしていると思います。ディレクターも,VR化してより楽しいゲームになったという手応えを感じたと話していました。
4Gamer:
「RE:4」は,プロモーションもチャレンジしていましたよね。リリース前には,日本アニメーションとのコラボPV「バイオ名作劇場 ふしぎの村のレオン」が公開され,大きな反響がありました。
熊澤氏:
プロモーションチームからの提案の1つに,日本アニメーション様のアニメ「世界名作劇場」シリーズと,「バイオハザード4」が“名作”と言われていたことを引っ掛けてコラボしてみたらどうだろうかというものがあったんです。
社内的にも「これが実現したら面白いんじゃないか」と盛り上がったので,先方にアタックしてみたところ,奇跡的にタイミングがよかったこともあって,快く引き受けていただけました。そこから「バイオハザード」シリーズの既視感のある場面や“バイオあるある”,そして「世界名作劇場」で見たことのあるような場面を盛り込みつつ,PVを制作していったんです。
4Gamer:
「バイオハザード ヴィレッジ」のプロモーションでも,人形劇「バイオ村であそぼ♪」を配信していましたけれども,新規のプレイヤーに“ホラー”という言葉がもたらす先入感を必要以上に与えないようにする狙いがあるのでしょうか。
熊澤氏:
確かに「バイオハザード ヴィレッジ」に関してはシリーズ最恐とされた「バイオハザード7 レジデント イービル」の続編ということで,これから遊んでいただく方に「続編も怖すぎてプレイできない!」という印象を与えないよう,ぜひ多くの方に手にとってもらいたいという思いで提案がなされました。それで人形劇や,吉 幾三さんとのコラボをやったんですね。
一方,「RE:4」ではとくにホラー感のくだりは意識せず,日本アニメーション様の著名なアニメIPとのコラボがフックになるだろうというのが狙いでした。「バイオ名作劇場 ふしぎの村のレオン」のオフィシャルグッズもあり,AmazonではTシャツ,カプコン公式ストアのイーカプコンではアクリルスタンドやシールなどを販売していますので,ご興味があればぜひ。
4Gamer:
2月9日の「ゴールドエディション」のリリースが,「RE:4」プロジェクトの締め括りということですが,今後の「バイオハザード」シリーズのリメイクはどのように展開していくのでしょうか。
平林氏:
以前,別の機会に同様のご質問をいただきまして,そのときは弊社の安保(RE:4ディレクター 安保康弘氏)がコメントしたのですが,基本的に回答は変わりません。これまでRE ENGINEでの「バイオハザード」シリーズのリメイクは3タイトルリリースしており,いずれもプレイした皆さんから非常に手応えを感じるコメントをいただいて,大変感謝しています。現状,具体的にお伝えできることは特になく恐縮なのですが,今後も期待に沿えるように頑張っていければと思います。
4Gamer:
それでは最後に「ゴールドエディション」のリリースを機に「RE:4」に触れてみようかどうか迷っているゲーマーの背中を押すよう一言をお願いします。
熊澤氏:
「ゴールドエディション」は「RE:4」本編と「セパレート ウェイズ」,コスチュームや武器などを入手できる「Extra DLC Pack」が1パッケージで楽しめ,かつ価格もお手に取りやすくなったすごくお得な商品です。もちろん無料DLCの「ザ・マーセナリーズ」と「VRモード」も楽しめますから,「RE:4」と一口に言ってもさまざまな楽しみ方ができるパッケージに仕上がりました。「まだ触ったことがない」「昔,原作をプレイしたので興味がある」という人にはうってつけの商品だと思いますので,ぜひこの機会にお楽しみください。
平林氏:
すでに「RE:4」をお手にとっていただいた皆さんには,本当に感謝しかありません。まだ「RE:4」を手に取っていないという方は,いろいろなゲームを楽しんでいる最中だとは思いますが,本作RE:4は,本編や「セパレート ウェイズ」などサバイバルホラーはもとよりそれだけでないいろいろな楽しみが詰まった作品になっております。ぜひこの機会に手に取っていただければ幸いです。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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