「書を捨てよ、町へ出よう」
寺山修司による評論集の題名,およびそれをベースとした同氏による戯曲ないし映画の題名です。ざっくり言うと
「ゲーメストムックを読んで家庭用移植版でCOM戦ばかりしていたって対人戦の腕前は上がらないんだから,ゲーセン行こうぜ」的なことですね。実際,社会風俗をアイロニカル&シニカルに切り取って××タマが大きいの小さいのと言ったりする本なので,おおよそマジでそんな話です。
とは言え,入院中の寺山が大量に読んだ書籍の中からその一文を見出して借用したように,そもそも書を持っていなければ「書を捨てる」ことはできません。卒業生となるには,まず入学しなければならないわけです。
ただ,本ってけっこう高価ですよね。筆者は趣味で読んでいるものの他,ゲーム関連の資料集めや,本連載の冒頭で毎度やってる「格言や名句で仰々しく始まってバカしか言わない」ボケのため,たびたび書籍を買い込むのですが,秋葉原の書泉ブックタワーから退店するときに白目を剥いて煙を吐いたりしています。て言うか,冒頭のボケは何なんでしょうか。案外と手間がかかるんですが,アレをやらないと自分の中の自分が収まってくれないんですよ。お前は誰だ俺の中の俺。さっきまで原稿だったものが辺り一面に転がる。「どこも狂ってないぜ」なんて,すでに正常(くる)ってる奴の言う虚言(ことば)。“存在が罪”(アマゾンズ)でも,都合で変わる正義(アンサー)より自由(あした)を護るべきなのだから,呼吸(いき)の根がいつか止まるまで
うまぴょい! うまぴょい!
※2022年6月4日,6月18日の連載は休載いたしました。ご案内が遅れたことをお詫びいたします。
そんなこんなで無様を晒しても生きるためだけにEAT, KILL ALL。だからと言って
ウォーウォーウォー提供はAmazoーnというわけでもないですが,読書環境を効率化するために利用を始めてみたのがAmazon.co.jpの
Kindle Unlimitedと,
「Fire 7」(第9世代)です。もしスポンサードがあったら
「Fire HD 10」など,もっといいやつを買っていたところですが。て言うかDASUNGの「BOOX」シリーズや「Paperlike」シリーズが欲しいんですが(お値段!)。
あだしごとはさておきつ。Kindle Unlimitedは,高価な画集や物理書籍が絶版の書籍などを相対的に安価で利用できるので,なかなか重宝しています。「わんぱっくコミック・リバイバル」シリーズが対象だったので(※現在は終了)読んでいたところ,「この本を買った人はこんな商品も買っています」枠に目を引かれました。幻想迷宮ゲームブックの「
悪魔に魅せられし者 ドルアーガの塔」や「
ブラックオニキス・リビルド」です。
わんぱっくコミック・リバイバルでも
「ゲームコミック マドゥーラの翼」が出ていたよなーなどと思いつつ調べてみると,Kindle向けのゲームブックがいろいろ出ているんですね。しかも復刊モノがけっこうある。筆者の知性が畜生並だった頃に読んでいた
「にゃんたんのゲームブック (ポプラ社の小さな童話) Kindle版」なんてものも。
「にゃんたんのゲームブック」と,にゃんたんシリーズ第1作の「にゃんたんのなぞ?なぞ?」(電子版では“にゃんたんのゲームブック”シリーズ)。Kindle以外にも複数の電子書籍ストアで,シリーズ初期の9作が配信されています
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ゲームブック。ゲームに飢えていて「ドラゴンクエスト バトルえんぴつ」やら「レッツ&ゴー ミニ四駆 レースえんぴつ」やらで,隙あらば何かしらのゲームをやっていた小学生の頃,学校の図書室にゲームブックがあったので(詳細は失念しましたが,スパイものや遺跡探検ものだったような),ちょいちょい遊んでいました。ただ中学生以降は,富士見書房の
「マギウス」シリーズをやったりはしたものの,アーケードゲーム至上主義に走っていたので,アナログゲームに触れること自体が激減したのですが。
1980年代に東京創元社から刊行されていたビデオゲームを原作とするゲームブックが,今ではスマートフォンやタブレットで利用できる。これもまた一種のレトロゲームです。幻想迷宮ゲームブックによる復刊は,けっこう前から行われているのですが,
「アーケードアーカイブス ドルアーガの塔」(
PS4 /
Nintendo Switch)が発売されたり,アートワークを担当された虎井安夫氏がTwitterアカウントを開設されたりしましたので,せっかくだから今回はゲームブック
「悪魔に魅せられし者 ドルアーガの塔」でやっていきましょう。
これで書をゲットして……捨てる? いや,まあ,この場合は捨てるのはナシで。本を焼く者は人間も焼くようになるんですから,ちゃんとライブラリに収めたり本棚にしまったりしておきましょう。
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スマートフォンで遊べる完全新作ゲームブック「護国記」が,幻想迷宮書店より2018年10月にKindleストアで配信された。スマホゲーム全盛の時代に,ゲームブックにこだわる理由は何なのか。その魅力や可能性について,幻想迷宮書店の代表である酒井武之氏と,「護国記」の作者・波刀風賢治氏に聞いた。
[2018/12/08 12:00]
BEAST INSIDE
ゲームブックは選択肢を選んでページをジャンプしていく
「テキストアドベンチャー型」と,戦闘などでのダイスロール要素も含んだ
「TRPG型」に大別できますが,「悪魔に魅せられし者 ドルアーガの塔」は後者のタイプ。冒頭のルール説明の中で,キャラクタービルドを行います。幻想迷宮書店の公式サイトではステータスを記入する「
アドベンチャーシート」が公開されていて,書籍内にリンクが埋め込まれたりもしています。もとは1986年に刊行された書籍(電子書籍版のベース自体は2006年の復刊版)にハイパーリンクが埋め込まれているのは,なかなかシュールな光景です。
ステータスを設定するにはダイスを振らなければなりません。そう言われてダイスをひょいと取り出せる人は一部に限られますが,これも今の時代なら簡単に解決できるところ。例えばGoogleに
「2d6」と入力してみましょう。
こんな感じで,Googleの画面上で2個の6面ダイスを振れます。TRPGなどでロールプレイにがっつり入り込みたいときには,いささか興ざめかもしれませんが,恐らく一番シンプルかつ使いやすいデジタルダイスはコレです。
「悪魔に魅せられし者 ドルアーガの塔」の序文では「ゲームブックの中でも比較的、メモや数字を記録する頻度が高い作品です」や「塔の中は複雑な迷路になっていますので、地図を書くことをお勧めします」(いずれも原文ママ)と述べられていて,実際そのようにマッピングが重要です。
マッピングも「
方眼紙アプリ」や「
マッピングツール(仮)」などいろいろなツールがあり,とくに最新のものではDeepnight Gamesの「
RPG MAP EDITOR 2」があったりします。「RPG MAP EDITOR 2」は壁をマス目の中に描くタイプなので,壁がマス目の外枠として定義されている「悪魔に魅せられし者 ドルアーガの塔」との親和性は優れませんが,UI的には抜群なので一見の価値アリです。
ざっくりと「RPG MAP EDITOR 2」でマッピングを試みたもの。ちなみにサイトで配信されているブラウザ版と,itch.ioで配信されているスタンドアロン版があります |
機能をしっかり使えば,かなりリッチな雰囲気に(画像は公式サイトで公開されている作例)。まあ,どちらかと言えば「TRPGでGMがプレイヤーにシチュエーションを提示するための画像作成ツール」ですね |
以上のように現代では,やろうと思えば
ペーパーレスでゲームブックをプレイできます。何か壮大な
アイデンティティクライシスが起きている気もしなくはないですが,そこは気にしないでおきましょう。
GAME OF THE BUTCHERS
ただアレですね。ゲームブックという媒体の性質上,「プレイしていて何が起こったか」を述べると,それ自体が
ネタバレとなってしまいます。
「ポートピア連続殺人事件」で「この人が死ぬよ」とバラすようなもので,何を言ってもこれからプレイする人の興を削ぐ可能性は否めません。そんなわけで「取り上げるにはマジでセレクトを間違えたな?」と戦慄しつつ,言及は大枠までに留めましょう。
犯人はヤス!
デジタルゲームの「ドルアーガの塔」はフロアごとに構造が変わるものの,行うことは戦闘と探索の一辺倒でした。ゲームブック版では塔の内部にモンスターの巣窟があったり、囚われた人間を閉じ込める監獄があったり,コロシアムが設けられていたりと,邪悪の複合施設となっています。またゴブリンやトロールなど,初代「ドルアーガの塔」の時点では存在しなかったモンスターが多く登場します。
遠藤雅伸氏が描いた公式の“バビロニアン・キャッスル・サーガ”とは,正直なところまるっきり別物ながら,ゲームブック版には「ダンジョンが生き生きしている」と言える,独特な魅力が感じられます。ゲームを翻案した名著と言えば,
「Wizardry」の構成要素を巧みに小説へと昇華させたベニー松山氏の作品や,
「ドラゴンクエスト」(天空シリーズ)のシナリオを大幅に補完した久美沙織氏の作品などが有名ですが,それらともまた違った味わいです。
その辺りは恐らく,ゲームブック版「ドルアーガの塔」シリーズの著者である鈴木直人氏の手腕によるものでしょう。ダンジョン探索の醍醐味である
「何が入っているのか分らない箱を,怯えつつも中身に期待しつつ開ける」ような雰囲気を演出するため,プレイヤーに準備をさせたり選択させたりといった要素が効果的に盛り込まれています。これは先述の「TRPG型」だからこそ実現できる面白さですね。
「悪魔に魅せられし者 ドルアーガの塔」と続刊の
「魔宮の勇者たち ドルアーガの塔」,最終巻の
「魔界の滅亡 ドルアーガの塔」は,それぞれダンジョン構成や謎解きのシステムが異なっています。鈴木氏は「魔宮の勇者たち〜」のあとがきで「マンネリになってはいけない、迷路のバリエーションだけで読者は満足してくれない、というプレッシャーが常に頭の片隅にありまして」(原文ママ)と述べているあたり,自縄自縛になるほど
“プレイヤーを驚かせること”が好きなのでしょう。
意外性を突かれるから面白いというのは,いかに敵や宝箱の配置を覚えて効率的かつ的確に立ち回るかという本家「ドルアーガの塔」とは,良い意味で対照的です。その他にも,「魔宮の勇者たち〜」から登場する魔術師・メスロンを主人公としたスピンオフ作品「
パンタクル」シリーズが展開されていたり,同著者の「ブラックオニキス・リビルド」と(仄めかす程度に)リンクする要素があったりと,バビロニアン・キャッスル・サーガとは異なる,独自の世界が築かれています。
IP管理が厳格化され,メディアミックスにしても特定のユニバースで完結することが求められる現在では,言ってしまえば換骨奪胎である鈴木氏のような作風は,版元から好まれないでしょう。ですが,「原作をベースにしつつ,原作と真逆のことをやる」からこそ可能な作品世界の構築や,その世界の広がり方は,他にない特有の面白さが感じられます。メディアミックスが当たり前になった今だからこそ,“スピンオフのあり方”を考えるうえでも,ゲームブック版「ドルアーガの塔」シリーズは面白いタイトルです。
YELLOW BRICK ROAD
ゲームブックは,
「ファイティング・ファンタジー・コレクション」シリーズの受注生産が行われたり(締切済み),「ファイティング・ファンタジー」シリーズを原作としたゲームの邦訳版が発売されたりと,近年になって“流れ”が発生しています。だらねこげーむずの開発による,5月21日に発売されたゲームブック風RPG
「いのちのつかいかた」はSteamで“非常に好評”の評価を得たりもしています。もっと往年の名作の復刊や,インディーズデベロッパの参入があったら,ちょっとしたブームが巻き起こるかもしれません。
そんなタイミングだからこそ,例えばホビージャパンさんが,十数年前に物議を醸し出した「
デストラップ・ダンジョン」など,例のシリーズを復刊されるとですね。いかがでしょうか。いかがか。やっぱアレですか。アレか。
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