筆者・COSIOが,いくつか音楽ゲームの開発に携わってきたことは,そのジャンルに詳しい人ならご存知だろう。そんな筆者が最近,とあるリズムアクションゲームに出会った。
そのゲームは「グラフィックスがスタイリッシュ」や「曲がカッコいい」というのはもちろんだが,なんと
「音に合わせてボタンを押さなくてもいい」のだ。「代わりに足で踏む」や「モーションセンサーで遊ぶ」といった話でもない。
そのゲームこそ,Berzerk Studioが開発した
「Just shapes & beats」だ。本作の
Xbox One版が2022年5月31日に発売されたので(
PC /
Nintendo Switch /
PS4 / Stadia版はリリース済),
他の音楽ゲームとは一線を画す本作のレビューを,開発者目線からの評価を交えつつ,前のめりにお届けしたい。
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※上の記事は開発中のバージョンをもとにしたものなので,製品版とは一部仕様などが異なる。
弾幕×アクション×音楽が一作に融合!
ざっくりと本作がどのようなゲームなのかを言い表すと,
「ステージBGMに敵の動きや攻撃が同期した弾幕シューティング風アクションゲーム」だ。
リズムアクションゲームよろしくBGMはステージごとに決まっていて,楽曲の長さは2〜3分となっている。ステージには幾何学的なオブジェクトやボスキャラが登場し,さまざまな攻撃をしかけてくる。攻撃はシューティングゲーム的な弾幕や高速弾の他,画面を覆い尽くすような広範囲攻撃だったり,画面の大半をオブジェクトや敵が埋め尽くしたりすることもある。なかなかに苛烈だ。
それに対するプレイヤーキャラクターはショットを撃てたりせず,ひたすら上下左右に移動して敵の攻撃を避け続けなければならない。ただ,普通の移動だけですべてを避けきるのは難しいので,
“ダッシュ”という能力が与えられている。
ダッシュは緊急回避アクションで,無敵状態になって一定距離を高速移動する。使用直後には若干の硬直が発生するため連続使用はできず,とくに注意したいのが移動先と敵の攻撃が重なることによる被弾だ。
敵の攻撃に当たると,プレイヤーキャラクターの形状が徐々に欠けていき,何回かの被弾でブレイク(死亡)してしまう。逆に,移動とダッシュを駆使して攻撃を避け続け,BGMの終わりまで生き残ればプレイヤーの勝利となる。
突如ピンク色の何かに侵食されてしまった世界の解放を目指すストーリーモード。ステージ間にミニゲームが登場することがあるのが,このモードの特徴だ。一見すると単純そうなワールドマップにこういった仕掛けを入れてくるところにも,Berzerk Studioのこだわりと丁寧さが感じられる
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チャレンジモードはステージへの挑戦に特化していて,通常ステージ×2+ボスステージをノンストップでプレイする。BGMはランダムに選曲され,通常ステージでは3つの候補から任意の曲を選択できる。また,チャレンジモードではHARD難度でのプレイが可能なので,腕に自身のある人は挑戦してみよう(なお筆者は1ステージもクリアできなかった)
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プレイリストモードでは今までプレイしたステージの一覧や実績を見ることができる。ストーリーモードでプレイしたことのある楽曲でプレイリストを作り,好みのセレクトでステージに挑戦することも可能だ。こちらでもHARD難度を選択できる
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パーティーモードは純粋にBGMとビジュアルを楽しめるもので,ここでは何回被弾してもやり直しやゲームオーバーにはならず(ブレイク自体はするが),最後までプレイできる。ただしBGMは開放済みの楽曲からランダムで選択される
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あらゆる設計がカタルシスの礎に
さて、このような特徴を持つ本作を筆者がプレイしてみたところ
- どのBGMも“どストライク”
- BGMを映像的にコンバートしたような一体感のあるビジュアル演出
- 思ったより辛口
- クリアした瞬間に得られる“BGMを征服した”ようなカタルシス
といった点が最も印象に残った。それぞれ詳しく解説しよう。
チップチューン&EDMを強烈にフィーチャー!
まず言いたいのは,筆者のようなエレクトロ系・クラブ系が大好きな人間にとってBGMが“どストライク”過ぎるということだ。本ゲームには
チップチューン(※1)や
EDM(※2)の要素を多分に含んだBGMが多く,どの曲も身体が自然に動くようなノリとスタイリッシュさを兼ね備えている。音楽ゲームの中でもKONAMIの
「beatmania」シリーズや,タイトーの
「グルーヴコースター」シリーズなどが好きな人は,ぜひともプレイしてほしい。“どストライク”な選曲センスに心を奪われるだろう。
※1 1990年代以前のPCやゲーム機に搭載されていた音源チップ,ないし音源チップのエミュレートやサンプリング音源で制作した音楽の総称
※2 Electronic Dance Musicの略。広義にはダンスミュージック系の電子音楽全般,狭義にはその中でもとくにポップで高揚感を煽るものを指す
本作のBGMは,ほとんどの楽曲が書き下ろしでなく,既存曲を採用している。オリジナル曲を中心とした音楽ゲームも,それはそれで“音楽ゲームっぽい”世界観が演出されるのだが,さまざまなアーティストが自分にとってのカッコよさやセンスの高さを追求した楽曲がオムニバス的に収録されていると音楽的な広がりを感じられて心地良い。
ただ残念ながら,そういった形式のため“Just Shapes & Beatsのサウンドトラック”が存在せず,収録曲を純粋に聴きたかったら,自分で調べて曲を集めなければならない。とはいえSpotifyでは配信曲で構成された公式プレイリストが公開されていたり,それ以外の曲も含んだリストを有志がまとめていたりするので,興味のある人は検索してみよう。筆者もそういったものを経由して,いくつかのアルバムを購入した。
視覚で音楽を楽しめる演出の数々
そして本作では,その“どストライク”選曲に重ねて
「BGMを映像的にコンバートしたような一体感のあるビジュアル演出」を見ることができる。
最高か!?
ビジュアル演出はBGMのリズムに同期しているだけではなく,曲の展開にもきっちり合わせて構成されている。特にEDM系のBGMによくみられるビルドアップ(クラップなどを刻んで盛り上げる部分)からのドロップ(いわゆるサビ部分)という展開が,ダイレクトに映像で伝わってくることで,エモさが倍どころか3倍返しだ。
ちなみに開発的な視点で言うと,このようなBGMの展開と一体化した演出を作るためには,かなり細かくBGMの展開を分析し,それにマッチしたユニークな演出パターンを考えなければならない。
一般的なリズムアクションゲームでは,どちらかと言うと展開よりもリズムや音符の分析に重点が置かれ、演出パターンは共通化されることが多い。そうすることによって,少ないリソースでより多くの楽曲の実装を実現しているのだが,本作はその逆。BGMを厳選し,1曲のステージ化におそらく相当の……想像するに一般的な音楽ゲームと比べて数倍のリソースと工数をつぎ込み,ひとつひとつ時間をかけて丁寧に作られているのだろう。 Berzerk Studioの並大抵でない情熱に,ただただ敬服するばかりだ。
スパイシーな難度……だからこそ!
ここまでBGMやビジュアルについて紹介してきたが,肝心なゲームの内容は,"思ったより辛口”だ。もともと筆者は弾幕シューティングゲームが得意ではないので余計にそう感じたのかもしれないが,ストーリーモードの最初のステージから容赦ない弾幕や広範囲攻撃が飛んでくるので,ブレイクを繰り返して早々にゲームオーバーとなってしまった。
通常ステージはチェックポイントがあるのでまだマシだが,ボスステージにいたっては「あと少しでクリア!」というところまで進んでも,ブレイクすれば容赦なくリスタートとなるので,徒労感がハンパない。シューターならば、このシステムは当たり前のことなのかもしれないが……(そういえば最近のシューティングゲームは“その場復活”が基本なので,どちらかと言えば本作は1980年代のタイトルに近いのかも)。
敵はBGMに合わせて攻撃してくるのだが,場合によっては初見殺しを仕掛けてくることもあるので,ある程度はBGMと,それに伴う敵の攻撃を覚える必要がある。細かいメロディまで覚える必要は無く,あくまで展開のレベルで覚えればいいのだが,一般的なリズムアクションゲームやシューティングゲームをプレイするようなつもりで挑むと,感覚の違いに戸惑うことが多いだろう。
しかし,繰り返しになるが“どストライクなBGM”に“一体化したビジュアル”を持つ本作だからこそ,"辛口”ぶりがスパイスとして効き,ステージをクリアしたときに"曲を征服したような感覚”を得られる。このカタルシスこそ,他のゲームではなかなか味わうことのできない,本作の一番の魅力だ。
典型的なリズムアクションゲームに食傷気味となっている音ゲープレイヤーや,音楽ゲームに興味を持ちつつも手を出す機会に恵まれなかったシューターは,本作をプレイしてみると新たな世界が広がること間違いなしだ。