インタビュー
大型アップデートを経て,目覚め始めた「ホロアース」。カバーCTOとプロデューサーに聞くメタバースの形,そしてVTuberの未来
2022年11月のβ版リリース以来,機能を限定したサービスが続けられている本作において, アバタークリエイトやサンドボックスといった“ゲーム然”とした機能が追加された今回のアップデートは,ようやくその片鱗が見えるものとあって,ファンにとっては待望のアップデートと言えるのではないだろうか。
とはいえ,機能としてはまだ限定的で,その全貌は謎に包まれている。今回のアップデートを経て,本作はこれからどこに向かおうとしているのか。開発陣に話を聞いてみた。インタビューに応えてくれたのは,カバー取締役CTOの福田一行氏と,統括プロデューサーの大岡祐輝氏だ。合わせてVTuberカルチャーの未来図にも触れているので,興味のある人はぜひ読み進めてほしい。
「ホロアース」公式サイト
β開始から1年,「ホロアース」のこれまでを振り返る
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。まずお二人の自己紹介も兼ねて,それぞれの経歴を聞かせてもらえますか。
はい。カバー取締役CTOの福田です。会社全体の技術統括を担当しています。「ホロアース」では,リアルタイム通信といった技術を取り入れるときの判断や,エンジニアの組織体制の統括などをしています。
4Gamer:
確か,以前はソニーにいらっしゃたんですよね。
福田氏:
ええ。当時はちょうど地上波が地デジに切り替わるタイミングで,放送局のシステム設計や,納品オペレーションを担当していました。ですが元々Webの技術を研究をしていたこともあり,よりネットに近い場所で仕事がしたくて。次に移ったのがソーシャルメディアのマーケティングを行っているアジャイルメディア・ネットワークという会社でした。個人で活動するクリエイターを応援したいと思ったんです。
4Gamer:
今のカバーにも通じる理念ですね。ちなみにカバーCEOの谷郷さん(谷郷元昭氏)とは同じ大学(慶應義塾)のご出身ですが,交流は在学中から?
福田氏:
いえ,世代が違うので在学中はないです。最初に会ったのは,先の会社で企画したスタートアップのイベントだったと思います。谷郷がそこに登壇者として参加しいて。ちょうどIoTやVRといった,スマホの次に来るものを模索していたタイミングで,同じVRに可能性を感じた谷郷と一緒に始めたのが,今のカバーというわけです。
4Gamer:
ちなみに,今はVTuberというコンテンツビジネスに関わられているわけですが,ゲームやアニメといったコンテンツは元からお好きだったんでしょうか。
福田氏:
そうですね。ゲームやアニメ,漫画といったサブカルチャーには,一通りは触れてきたつもりです。むしろ,今ではサブどころか日本のメインカルチャーかもしれませんが。
4Gamer:
分かりました。大岡さんには,以前の取材時にもうかがいましたが,元はフリーランスだったとか。
そうですね。元々はスマホゲームを中心とした開発に,エンジニアとして15年ほど携わり,その後はバーチャルライブやイベントのディレクターなんかもやっていました。ホロライブのタレントが出演するイベントをお手伝いしたりとか。
4Gamer:
では,カバーにはその縁で?
大岡氏:
ちょうどフリーランスになったタイミングで,カバーのスタジオの引っ越しがありまして。そのお手伝いをしていたら……いつの間にかジョインしていたという(笑)。
4Gamer:
「ホロアース」のプロジェクトが始まったのが,その時期だったんでしょうか。
大岡氏:
あれは2019年頃だったと思いますが,メディアミックス企画である「ホロライブ・オルタナティブ」がスタートしたのが,その頃ですね。「ホロアース」は,そうしたメディアミックスの中から自然と生まれてきたものなので。
4Gamer:
ああ,「ホロライブ・オルタナティブ」が先なんでしたね。
大岡氏:
はい。「ホロライブ・オルタナティブ」は,タレントさんの活動外でもキャラクターや世界観が広がっていくように,運営側でタレントさんを援護するものとしてスタートしたプロジェクトです。タレントの皆さんの活動時間には,どうしても限界がありますから。
そこから,この世界設定を活かしたサービスができるんじゃないかということになり,生まれてきたのが「ホロアース」です。
4Gamer:
「ホロライブ・オルタナティブ」が,ある種のイメージボードの役割を果たしているということですね。
大岡氏:
近いと思います。「ホロライブ・オルタナティブ」があることで,一貫した世界観でクリエティブを効率よく,かつハイクオリティに進められる側面があるので。
4Gamer:
では,今の「ホロアース」へとつながるアイデアを発案したのは,お二人ということになるのでしょうか。
福田氏:
どちらかというと,CEOの谷郷と大岡がメインでした。
大岡氏:
自分としては,当時自分がやりたかったことが,谷郷と福田がやりたいこと――つまりは会社として目指すべき目標と合致したのだと考えています。「ホロアース」と「ホロライブ・オルタナティブ」は,当初の構想としては別のものでしたが,シナジーがあると考え,合流させた形です。そこからサンドボックスの原型を作り始め……「これならいけるんじゃないか?」という感覚を一つ一つ積み上げながら,ここまで来た感じです。
4Gamer:
現時点での手応えはいかがですか。2022年11月にロビーβ版が公開されてから約1年,その間には「プロトライブ」や「ヤマトファンタジア」といったバーチャルライブも開催されましたが。
大岡氏:
バーチャルライブには,人数が集まることによるサーバー負荷の検証や,我々のオペレーションの問題を洗い出すためのテストの側面もありました。おかげさまで色々な課題が見えてきましたし,ライブ自体もクオリティの高いものが提供できたと思っています。
4Gamer:
「ヤマトファンタジア」では,アクセスの集中によって開始が遅れたり,入場が制限されたりといったトラブルもありました。
大岡氏:
はい。その節は大変ご迷惑をおかけしました。アクセスの集中はある程度想定していたのですが……ファンの皆さんの熱量が,我々の想像を遙かに上回っていたということだと思います。その点は反省と共に,重く受け止めています。
4Gamer:
とはいえライブは大盛り上がりでしたし,リプレイ公演もありましたから,皆納得しているとは思います。
大岡氏:
最初の1回目を楽しみたかった方もいらしたと思うので,それをご提供できなかったのは大きな反省点です。もう少し,しっかりと石橋を叩いて進めないといけないですね。
4Gamer:
対策は,すでに行われていると考えていいのでしょうか。
大岡氏:
システムのコア部分に問題が見つかったので,それはしっかりと補っています。実際,「ヤマトファンタジア」の再演では同様の問題は起こりませんでした。今後もテストを重ねていきますし,サーバーの増強も実施していきます。
4Gamer:
ということは,開発は順調と考えていいのでしょうか。
大岡氏:
スタート時点で引いたマイルストーンどおりではあるので,順調と言っていいと思います。開発メンバーのモチベーションも高いですし。
4Gamer:
開発チームの規模は,今はどの程度なのでしょうか。2023年6月には,新オフィスにも移られたそうですが。
大岡氏:
オフィスが広くなって,1年前に比べたらおおよそ2倍の人数になりました。ほかにもライブ演出などでは外部のクリエイターやパートナーにもご協力いただいているので,それも含めたらかなりの人数になります。
福田氏:
引越し前はオフィスが分かれていて使い辛かったので,それも移転を決めた理由の一つなんですよ。
大岡氏:
ブレーカー事件もありましたし(笑)。
4Gamer:
え,なんですかそれは。
大岡氏:
普段,ハイスペックなPCで開発しているのですが,チーム全員でPCを立ち上げたら,フロア全体のブレーカーが落ちちゃったんですよ。それに比べたら,今は遙かに快適な環境になりました。隣に実験用のモーションキャプチャースタジオもあって,研究開発も捗りますので。
4Gamer:
なるほど(笑)。開発が順調なことは分かりましたが,あえてお聞きします。それでもなお,開発の歩みが遅いと感じる人もいると思いますが,その点はいかがですか。
大岡氏:
プレイヤーさんから見て,そういう印象になってしまうのは,ある意味仕方ないかもしれません。システムの土台しかないような,開発初期の段階でβ版を公開しましたし,バックエンドの開発というのは,プレイヤーさんから進捗が見えづらいところがあります。開発しようとしているものの規模を考えれば,決してスピードが遅いわけではないのですが……。
4Gamer:
開発の初期段階を抜ければ,あとは早いということですか。
大岡氏:
そうですね。2024年にリリースしていく機能は,プレイヤーの皆さんからも分かりやすい,フロントの部分が主になります。その進化の過程を,ぜひ間近で見守っていただけたらと思います。
目覚め始めた「ホロアース」――アップデート“Ver.0.5”について
4Gamer:
ではここからは,12月14日に実装されるというアップデートについて聞かせてください。サンドボックスやアバタークリエイトなど,プレイヤーにとっては待望の機能が追加となりましたが,手応えはいかがですか。
※本インタビューは,アップデート前の12月5日に収録している。
大岡氏:
今回のアップデートでは,「ホロアース」の世界を体験してもらうための要素を多数追加しています。まだ検証の段階なので機能は制限されていますが,いずれも“遊べる”コンテンツなので,プレイヤーの皆さんには喜んでいただけるのではないかと。
4Gamer:
まずアバタークリエイトについてですが,詳細を教えてください。一部の機能が制限されているとのことですが……。
大岡氏:
テスト段階ということもあって,選択できるパーツをかなり絞ってあるんです。内部的には,かなりのバリエーションを用意してあるので,順次開放していけたらと思っています。なので,まずはシンプルな選択肢の中でもこれだけの表現ができるというところを楽しんでもらえたらうれしいですね。
4Gamer:
では,将来的にはかなりカスタマイズできるようになる?
大岡氏:
今後のアップデートでは,前髪/中髪/後ろ髪といったように,部位ごとの細かなカスタマイズも可能になる予定です。変更可能な部位の数としては,他社さんのタイトルなどと比較しても遜色ない点数を用意しているので,完全な状態になればアバターにこだわりたい人にも満足していただけるものになると思っています。
4Gamer:
アバターのキャラクターデザインは,アニメ「SSSS.GRIDMAN」などで知られる坂本 勝氏とのことですが,氏に白羽の矢を立てたのはどういった経緯だったのでしょうか。
大岡氏:
「ホロライブ」のファンの皆さんや,それを支えるクリエイターの皆さんに向けたメタバースですので,やはり大切なのは“ジャパンアニメルック”だと思うんですね。それならばアニメのキャラクターデザインをしている方にお願いするのが一番ですし,そのうえで「ホロライブ」やカバーの持つ明るい・モダン・未来感といったキーワードに合致するデザインをと考えたときに,しっくりくるのが坂本さんだったと。お忙しい方なのでお声掛けしたときはダメ元ではありましたが,偶然スケジュールが空いていて……ご縁があったという感じですね。
4Gamer:
海外人気も意識したのかなと思いましたが,そこはいかがですか?
大岡氏:
それは,あまりないですね。むしろ日本でウケがいいものなら,海外でも人気になるはず,というのが我々の考えです。この辺りは,「ホロライブ」が海外でも人気を集めている理由に近いかもしれません。
4Gamer:
坂本氏のデザインを「ホロアース」に落とし込むにあたっては,なにか苦労はありましたか。
大岡氏:
坂本さんのセル塗りのイラストの魅力を,3Dグラフィックスでどう表現するか――影の付け方やライティングなどは,とくにこだわった部分です。あとは坂本さんのキャラクターが持つ……なんというか美形過ぎない,等身大なキャラクターの魅力でしょうか。それを再現したくて,かなり試行錯誤しました。
もちろん,坂本さんにお願いしたのはキャラクターのベースの部分なので,アバタークリエイトに必要なバリエーションの部分は弊社のイラストレーターの仕事ですが,最初に方向性を示していただけたのは,大変感謝しています。
4Gamer:
これまでの「プロトライブ」や「ヤマトファンタジア」では,観客が三角の共通アバターで表示されていました。ではこれからは,自作のアバターでバーチャルライブに参加できるのでしょうか。
大岡氏:
今のところ,ライブ中は従来どおりの共通アバターで参加していただくことを考えています。というのも,同じエリアに数百人が集まるようなケースだと,描画にかかる負荷が大きすぎるんです。結果としてステージ演出を“盛れなく”なってしまいますし,あるいは客席が目立ちすぎてライブに集中できないことにもなりかねない。
4Gamer:
よく分かるお話です。
大岡氏:
ただライブは客席も含めた体験だと思うので……例えば公演が終わったあとのアフターパーティーなどでは,人型のアバターで参加できるような。そんな場を設けるのは面白いかもしれません。
4Gamer:
ああ,皆でライブTシャツを着て記念撮影できる,みたいな(笑)。
大岡氏:
そうですね(笑)。そういったイベント限定の服飾パーツやタレントさんが身に着けているアイテムなどは,推し活の一環としてアバターに取り入れたいと考えています。「ヤマトファンタジア」ではペンライトを配りましたし,この辺りはお待たせせずに実装できると思います。
4Gamer:
ちなみにアバターの描画が重いなら,例えばタレントさんのマスコットアバターを選択できたら面白いと思うのですが,いかがですか。“あん肝”とか“野うさぎ”とか……三角だとあまりに寂しいですし。
大岡氏:
そうですね……。ああいったマスコットも,実は意外と負荷が大きかったり,動かすのが難しかったりするんですよね。人型よりも難度が高いくらいで。ただニーズはあると思うので,かなり前向きに考えています。まず人型アバターをしっかり作り込むことが優先なので,その次のステップになってしまいますが。
4Gamer:
楽しみにしています。では,もう一つのウリであるサンドボックス機能についてうかがいます。今回のアップデートの目玉だと思いますが,これは現時点での完成度はどの程度と考えればいいのでしょうか。
大岡氏:
これは難しい質問でして。そもそも,どこまでいったら完成と言っていいのか……。
4Gamer:
分かります(笑)。オンラインゲームの場合は終わりがありませんから。
大岡氏:
そうなんですよ。ただ……「素材を獲得して家を建てる」といったサンドボックスの基礎の部分で考えると,60〜70%くらいなのではないかなと。我々チーム内でも間隔や見解が異なる部分なので,あくまで参考程度ではありますが。
4Gamer:
おお。思ったより高いです。
大岡氏:
今回,シンプルなバージョンで公開に踏み切ったのは,この基盤の部分を皆さんに確認してもらおうと思ったのが大きな理由なんです。例えば「Minecraft」で言うところの,“地面をピッケルで掘っているだけで楽しい”といったような,プレイフィールの部分を大事にしたいので。
4Gamer:
確かに大事な部分ですね。では,プレイヤーからのフィードバックがほしいと。
大岡氏:
はい。もちろんある程度の楽しさは担保できていると思いますが,まずはここを固めないことには前に進めません。むしろ基盤が固まりさえすれば,あとは拡張を積み上げていくだけですので。
4Gamer:
拡張の余地は,確保してあると。
大岡氏:
はい。本作のサンドボックスは,入れようと思えばどんな機能でも実現できるくらい,拡張性を重視した設計になっています。ですので,皆さんからのご支持をいただけるのなら,長くアップデートされていくものになると考えています。
4Gamer:
ちなみに大岡さんの考える,サンドボックスの面白さってなんでしょうか。
大岡氏:
そうですね……アイテム収集し,バトルなどを通してリソースを積み上げていく「冒険」の軸と,クリエイティブな要素である「ハウジング」の軸,皆で集まって遊ぶ「マルチプレイ」の軸の3つでしょうか。「ホロアース」には,この3つの軸で楽しめる要素を,随時追加していこうと考えています。
4Gamer:
具体的なアイデアが,何かありますか。
大岡氏:
分かりやすいところでは,まずバトル要素の実装を考えています。すごく派手なアクション……とまでは言えませんが,ほかのサンドボックス系タイトルと遜色ないシステムにしていきたいと思います。
4Gamer:
なるほど……。いや,なんというか,本作ならではの部分というのが見えにくいのですが。例えば「ARK: Survival Evolved」における恐竜のブリーディングや,「Rust」における拠点防衛のような,既存のサンドボックスゲームとの差別化をどう考えているのでしょうか。
大岡氏:
本作のサンドボックスは,「ホロアース」内に数あるコンテンツの一つという位置づけなので,ゲームとしてはかなりベーシックなものを目指しています。だからサンドボックスの外側にあるコンテンツとの連動こそが,本作の特徴になると思います。
4Gamer:
例えば……バーチャルライブなどで手に入れた衣装を,サンドボックス内で着用できたりとか?
大岡氏:
そうですね。「ホロアース」というテーマパークに,サンドボックスというアトラクションがあるイメージです。だからサンドボックスそのものにはゲーム的な縛りを極力設けず,プレイヤーの皆さんが自由にコントロールできる選択肢を用意していきたいです。
4Gamer:
ああ,マイルームというか,「VRChat」のワールドみたいな感じですか。いや,「どうぶつの森」の自分の島ですかね。
大岡氏:
イメージ的には近いですね(笑)。サンドボックス内には,素材を集めて作れる家具やアイテムをたくさん用意していますし,中には何に使うのか分からないようなものもあるかもしれない。どう活用するのかは,プレイヤーの皆さんに委ねたいと思っています。
4Gamer:
……サンドボックス内で人狼ゲームをしたり,テーブルトークRPGをしたりとか,できたら面白いかもしれないですね。アイテムに各種サイコロがあったら,ほかにもいろいろできそうですし。
大岡氏:
そうですね。サイコロを作るために,モンスターを倒して素材を集め,クラフトをする。「ホロアース」のサンドボックスは,そんな風に楽しんでもらえたらうれしいです。
4Gamer:
今回のアップデートでは,ほかにもさまざまな新要素がありますが,とくにここを見て欲しいといった部分はありますか。
大岡氏:
直近の見どころとしては,ホロライブの公式番組を同時視聴できるシアターエリアでしょうか。年末年始に「ゆくホロくるホロ」「いろはにまったりお正月」といった特番の配信を予定していますので,ぜひ参加してみてください。
4Gamer:
シアターエリアにはアバターで入れるんですよね。同じ空間で一緒に配信を見るのは,なかなか盛り上がりそうですね。
大岡氏:
あとはフォトモードも,じっくり触ってみてほしいです。ドローン撮影のように視点を変えながら,エモートなどを使った撮影が可能です。新しく実装したオルタナティブ・シティのほか,年始には「ヤマトファンタジア」の特設会場であるキョウノミヤコも,初詣会場としてリニューアルオープンしますので,記念撮影を楽しんでもらえたらと。
4Gamer:
オルタナティブ・シティは建設中の状態ですが,これはどういう場所なのでしょうか。
大岡氏:
オルタナティブ・シティは,「ホロアース」のメインストリートとも言える常設エリアです。今のところ何もない場所ですが,今後のアップデートでいろいろと追加されていくことになります。将来的には,UGC(ユーザー生成コンテンツ)に関連した要素も入ってくることになるでしょう。
4Gamer:
UGCについては,現時点では情報がありませんが,これはどういったものになるのでしょうか。
大岡氏:
2024年中には詳細をお伝えできると思っています。ただ同じ場所に集まって楽しむだけでなく,プレイヤーの皆さんと共に世界を作り上げていく体験が,「ホロアース」の肝ですので。
4Gamer:
ということは,今のところはフォトスポットという感じですか。
大岡氏:
機能的にはそうなります。ただ今後の発展を予感させる要素を散りばめてあるので,あれこれ想像してもらえたら嬉しいですね。完成形をいきなりお出しするより,徐々に街ができあがっていく過程を楽しんでもらいたいです。
4Gamer:
なるほど。フォトモードは,もう少し細かい設定ができたら面白いかもしれません。被写界深度やライティングを変更できたりとか。記念撮影するなら,ほかのプレイヤーと位置合わせしやすい機能なんかもあると助かります。
大岡氏:
そうですね。フォトモードも,現在公開されている機能だけでは終わらない予定なので,期待していただけたらと。位置合わせも,タレントさんの配信などで似た事例があったりするので,解決方法があるかもしれません。あとは入力のインタフェースとかも……。
4Gamer:
入力のインタフェースって,何です?
大岡氏:
ええと……まだ秘密ということで(笑)。
4Gamer:
分かりました(笑)。あとはナビゲーションキャラクターのミスラですが,彼女はその……何なのでしょうか。今回のアップデートから喋るようになりましたが。
大岡氏:
ミスラは「ホロライブ・オルタナティブ」と関連した,実はしっかりしたバックストーリーが用意されているキャラクターだったりします。でも今のところは,プレイヤーをサポートしてくれる存在……と,思っておいていただければと。
ちなみにキャラクターデザインは,タイキさん(代表作に「LORD of VERMILION IV」「Fate/Grand Order」など)で,ボイスは若山詩音さんに担当いただいています。
4Gamer:
プロの声優さんが声を担当しているのは,少し驚きました。
大岡氏:
「ホロアース」は弊社のタレントの活動の場であると同時に,こういった形でさまざまなクリエイターさん,アーティストさんに活躍いただく場でありたいと考えているんです。弊社のタレントのファンだけなく,クリエイターやアーティストのファンの皆さんにも遊んでいただきたいですし,そうすれば弊社のタレントを知ってもらうきっかけになると思うので。
4Gamer:
今後のアップデートについて,現時点でお話いただけるものはありますか。
大岡氏:
先ほども少しお話ししましたが,サンドボックス内でのバトル要素の実装や,作成済のアバターの衣装や髪,メイクなどを再調整できる機能などを2024年内に実装の予定です。またオルタナティブ・シティエリアも順次拡張していきますので,こちらもご期待ください。
4Gamer:
「ホロライブ・オルタナティブ」自体の新展開も気になっているのですが,こちらはいかがですか。
大岡氏:
お待たせしているのは重々承知していますが,進行していますのでご安心ください。「ホロアース」とも連動していく予定で,今後は恒常コンテンツとして実装されるものも出てくると思います。
メタバース,そしてホロライブが目指す世界
4Gamer:
アップデートについては概ねお聞きしましたので,「ホロアース」が目指すメタバース像について,改めて質問させてください。「Roblox」や「VRChat」「フォートナイト」など,メタバースを標榜するタイトルはいろいろありますが,「ホロアース」はそれらとどう違うのでしょうか。
大岡氏:
場所であり舞台,そして体験そのもの――つまり“バーチャルでできること”を広げるというのが,一つの答えだと思っています。その“できること”の一例が,バーチャルライブであったり,サンドボックスであったり,UGCであったりするという。
4Gamer:
つまり目指すのはゲームではなく,プラットフォームだと?
大岡氏:
プラットフォームの定義にもよりますが,ゲーム的な側面とSNS的な側面,その両方を備えたものになると思います。
4Gamer:
……少しうがった見方かもしれませんが,“脱YouTube”を目指したい,ということなんでしょうか。
福田氏:
(笑)。
大岡氏:
“脱”というよりは,選択肢を増やしたいということですね。例えばライブの前にフェスに参加して,ペンライトを準備して開演までの時間を過ごし,そうしてライブの幕が上がる。そうしたリッチな体験は,YouTube上では作れないものです。
一方で,ライブは動画で見るのが一番というファンの皆さんも絶対にいるわけで。そうした人に向けては,YouTubeでの配信も並行して行っていく。「ヤマトファンタジア」でも,実際にそうしています。
4Gamer:
なんというか,「ホロアース」ってメタバースとしては世界観が“強い”タイプですよね。例えば「Roblox」「VRChat」などと比べると,ハイコンテクストで縛りが大きいように感じるんです。
大岡氏:
「ホロアース」は「ホロライブ・オルタナティブ」と世界観を共有していますが,それはあくまで舞台装置であって,縛られすぎるのはよくないと思っていて。世界が閉じてしまうことは避けたいので,そこから外れた企画なども許容できるようにしています。
4Gamer:
では,「ホロライブ」ファンが交流するためのメタバース,というわけでもないのでしょうか。
大岡氏:
「ホロライブ」ファンだけではなく,ゲームやアニメ系のコンテンツが好きな人達が集まるメタバースに育てていきたいです。そこからタレントのファンになる人が,出てくるでしょうから。
4Gamer:
オンラインゲームがいわゆるサードプレイス――居心地の良い場所たり得ることは,ゲーマーならよく分かる話だと思うんです。ですが「ホロライブ」のファンではない人達が,あえて「ホロアース」を選ぶ理由って,何なんでしょうか。
大岡氏:
一番大事なファクターは,やはり“ジャパンアニメルック”の世界であることだと思っています。「ホロライブ・オルタナティブ」は,むしろそれを構築するために必要だったわけで。もちろん,ゲームとしての面白さもしっかり担保するつもりではありますが。
4Gamer:
なるほど……。
大岡氏:
例えばVTuberというのは,アニメルックの3Dキャラクターであることが重要だったと思うんですね。そこに新しい体験――例えばストリーマー活動や,アイドルらしい3Dライブなどを付加したのが「ホロライブ」だと,我々は考えていて。「ホロアース」がやろうとしていることもそれに近くて,アニメルックの3Dゲームに新しい価値を付け加えるということなんです。
4Gamer:
バズワードとしてのメタバースは,一時期より勢いが落ちている感もありますが,そのあたりはいかがですか。
大岡氏:
「ホロアース」はメタバースを謳ってはいますが,呼び方はなんでもいいと思っています。企画が走り始めた当初は,メタバースという言葉を使っていませんでした。「ヤマトファンタジア」でのファンの熱量を見るに“バーチャルな体験”にニーズがあるのは間違いないので,そこが明確であればブレることはないと思います。
4Gamer:
確かに,そこは「ホロアース」の強みですね。
大岡氏:
ええ。これまでは,バーチャルタレントとファンの交流は画面越しが限界でした。でもファンの方にもアバターというバーチャルの肉体があれば,その境界線を越えられる。バーチャル世界の中で,人と人との出会いの場を広げられる。
4Gamer:
福田さんはいかがですか。
福田氏:
そうですね。今後は誰もが3Dのアバターを持つ世の中になってもおかしくないと思っています。今ではVTuberが職業として成立しているように,将来的にはさまざまなメタバース空間で活躍する方が増えるでしょう。そのときの活動拠点の一つとして,「ホロアース」が選択肢に挙がるようになればいいなと。
4Gamer:
分かりました。「ホロアース」からは少し離れるのですが,今回はCTOの福田さんが同席しているので,ホロライブプロダクションとしての取り組みについても,いくつか聞かせてください。技術的な挑戦ということでは,直近だと4Gamerでも取材させてもらった,新スタジオのオープンが話題になりましたが。
福田氏:
新スタジオはまさに自分の統括なのですが,かなり広いクロマキースタジオが用意できたので,リアルのタレントさんとの共演も楽に制作できるようになりました。またトラッキングが優秀になったことで,地上波のバラエティ番組に近いものも現実的になりましたね。
4Gamer:
例えばタレントさんが個人で行っている料理配信なんかも,新スタジオでなら複数人同時にできそうですね。
福田氏:
恐らく可能ではありますが,スタジオには高価な機材が多いので,料理配信はちょっと怖いですね(苦笑)。
「ホロライブ」の映像はここから生まれる! 27億円をかけたカバーの新スタジオはどこがすごいのか
「ホロライブプロダクション」を運営するカバーは,2023年5月,東京都内某所に独自の新スタジオをオープンした。高精度のモーションキャプチャ設備を備えた広い収録スタジオやレコーディングスタジオなど,最新の設備で映像や音声コンテンツの制作を手がけるという。そんな施設の中身を見てみよう。
4Gamer:
二次創作ゲームブランド「holo Indie」のニュースや,それから少し変わった取り組みとして,「AIこより」なんていうのもありました。
福田氏:
「holo Indie」は制度なので技術的なものではありませんが,VTuberというもの自体が,アバターというツールをタレントさんに提供して,コンテンツを生み出す仕組みと考えることができます。同じように「holo Indie」も「ホロライブ」というIPの中で,クリエイターさんが活躍できる場や機会を提供するものとしてスタートした形になります。
4Gamer:
「AIこより」はいかがでしょうか。
福田氏:
「AIこより」はとりあえずやってみましょう,という軽いノリで始まったもので(笑)。実はAIを使ったVTuberも考えていたんですが,それよりも既存のタレントさんをサポートする形で,一度試してみるのがいいかなと。博衣こよりさんから提案された企画なので,それに応える形で作りました。
4Gamer:
AIには,やはり可能性を感じますか。
福田氏:
AIが同時通訳や翻訳をしてくれるのではと期待していることもあって,クリエイターさんに向けたツール開発などを色々と試している段階ですね。
4Gamer:
ほかにも技術的な挑戦をいろいろ試されていると思うのですが,現時点で可能性を感じるものは何かあるでしょうか。お答えいただける範囲で構いませんので。
福田氏:
3Dグラフィックス技術や新しい表現の研究は,システムの開発とスタジオの充実の両側面から,常に行っています。例えば今年のクリスマスライブでは,自社で開発したARシステムを初めて使用する予定で,ライティングも含めた表現には,とくにこだわって準備を進めているところです。
4Gamer:
おお。ARということは,スタジオ撮影ではないんですよね?
福田氏:
そうですね。誰でも入れるエリアでAR撮影をしています。同じ仕組みを使えば,今後はロケ配信なんかも可能かもしれません。我々としては,出演できる場所が限られることが現状のVTuberの課題と考えていて,この壁をいかに崩していくかが重要だと思っています。これもまた,そういう試みの一つですね。
4Gamer:
それは楽しみです。「ホロアース」の話に戻りますが,バーチャルライブは演出面でもさらに進化できるのではないかと思うんですが,そこはいかがですか。
大岡氏:
ライブそのものの演出は既にあるものの組み合わせでしかないので,あまり変わらないと思います。それよりは,連続的な体験としての部分を強化していきたいですね。ライブが始まるまでの緊張感や,ライブグッズを買ったりすることで生まれる一体感といったような。
4Gamer:
分かります。ただ……これ伝わるかどうか分からないんですが,3Dグラフィックスを使ったライブ演出の目指すところって,「マクロスプラス」のシャロン・アップルのステージのようなものなんじゃないかなと。
福田氏:
ああ(笑)。
4Gamer:
伝わったようでなによりです(笑)。本当はバーチャルライブに限らず,現実でのライブもそうあってほしいくらいなんですが,バーチャルなら技術的により現実的だと思うので。せっかくバーチャルなんだから,一点からステージを眺めるだけではもったいなくないですか。
大岡氏:
なるほど(笑)。そういったことは可能ですが,まずは外堀から埋めていきたいところです。ただ演出を派手にしていくだけではすぐに陳腐化してしまいますし,それよりは「ホロアース」ならではの部分を充実させていきたい。そして準備が整ったら,演出面も追求していきたいですね。
4Gamer:
無茶を言ってしまってすいません(苦笑)。では最後に,読者に向けたメッセージをお願いできますか。
福田氏:
今回のアップデートが,プレイヤーの皆さんの期待に応えるものであることを祈っています。2024年はさらにチャレンジしていく予定ですので,一緒に「ホロアース」を盛り上げてくれたら嬉しいですね。
大岡氏:
「ホロアース」は皆さんからのフィードバックを元に,今後も機能の追加や改善を行っていく予定です。厳しい意見でも構いませんので,お問い合わせフォームやSNSへの投稿で,声を聞かせてもらえたらと思います。
皆さんと共に作り上げていく本作は,VTuberと同じく,成長をドラマとして体験できるコンテンツだと思います。ただ遊ぶだけでもデータが蓄積されますので,ぜひたくさんプレイして応援してもらえたらと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「ホロアース」公式サイト
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