インタビュー
ホロライブが夢見る,メタバースとの幸せな関係とは――不定期連載「原田が斬る」,第9回はカバーCEO・谷郷元昭氏がVTuberの未来を語る
「鉄拳」シリーズプロデューサー・原田勝弘氏による対談企画「原田が斬る!」の第9回をお届けする。
原田氏が今回の対談相手に選んだのは,大手VTuber事務所として知られるホロライブプロダクションの運営元・カバーの代表取締役社長CEO 谷郷元昭氏だ。
一過性のブームという段階を超え,今やネット上のエンターテイメントのいちジャンルとして確立した感のあるVTuberだが,そのトップランナーの一人であるカバーはVTuber事業のさらなる広がりを期したメタバースプロジェクト「ホロアース」を発表し,その開発に注力していると言う。
一見してまったく別ものとも思えるメタバースとVTuberの間にはどんなシナジーがあり,氏はその先に何を見ているのか。また立ち上げから5年で大きく成長したVTuber事業の裏には,いったいどんな苦労があったのか。今回の対談ではこうした点にフォーカスし,原田氏が鋭く斬り込んでいる。
また対談の後半では,「ホロアース」の開発に直接携わるプロデューサー,大岡祐輝氏にも同席いただき,開発の現状についての話を聞くこともできた。「ホロアース」に期待を寄せるファンの皆さんも,ぜひ目を通してもらいたい。
「hololive(ホロライブ)」公式サイト
「ホロアース」公式サイト
キャラクターではなく,タレントとしてのVTuber
4Gamer:
本日はお忙しいところ,お時間をいただきありがとうございます。
まずはカバーさんが手がけておられるVTuber事業について伺ってみたいのですが……原田さんはVTuberにどんな印象をお持ちですか?
原田勝弘氏(以下,原田氏):
ゲーム作りの参考になると思って追いかけていたので,ずっと注目はしてました。かなり前ですけど,対戦ゲームにそういう仕組みを入れられないか考えていた時期もあります。もちろん,いち視聴者としてですけど。
4Gamer:
では,お二人とも今回が初対面なんですね。谷郷さんは,原田さんのことはご存じでしたか?
はい,お話は常々。御社にも仲良くさせていただいている方や,元同僚なども働いていますので。
原田氏:
ああ,ならけっこう身近ですね。僕もインタビュー記事などは拝見していて,お名前は存じ上げておりました。今日はズバリ本音を聞きたいと思って来たんですが,谷郷さんはVTuberの事業を始めたとき,ここまで大きくなるって予想されていましたか。
谷郷氏:
まったく予想してなかったですね。当時はキズナアイさんもまだデビューしてない時期でしたし。
原田氏:
やっぱり。最初はそうですよね。
谷郷氏:
ただVRの機材を使ってキャラクターを動かす遊びは流行り始めていて,ちょっと面白そうだなっていう空気はあったように思います。なので「ときのそら」をタレントとしてデビューさせて,挑戦してみることにしたんですが……。
原田氏:
うまくいかなかった?
谷郷氏:
当初はぜんぜん視聴者がつかなくて。いったいどうなるんだろうって感じでした。いつになったらトンネルを抜け出せるのか,みたいな。
原田氏:
その“トンネル”を抜けた感覚を感じたのは,いつ頃ですか。
谷郷氏:
そらちゃんが17Liveで配信したとき(2017年11月)ですかね。そこで同接(同時接続者数)がググッと伸びたので。
原田氏:
17Liveというのは意外です。あれは本来はリアルなタレントさん向けのサービスじゃないですか?
谷郷氏:
そうですね。でも,そこでいわゆる”バズった”状況になったんですよ。
原田氏:
それは,どういうバズり方だったんです? リアルじゃないタレントが入ってきて,「なんじゃこりゃ?」みたいな?
谷郷氏:
そうですね。でもどちらかというと「かわいい! なんじゃこりゃ!」みたいな感じでしょうか。17Liveの有名なライバーさんがシェアしてくれて,その最初の配信だけですごいランキングが上がって,海外を含めてかなり大きな話題になりました。
あとは当時ウチで使っていた配信システムがライブ配信向きだったこともプラスに働いたと思います。Viveってバッテリーが続く限りは安定して配信できるので。
原田氏:本日バーチャルJK、ときのそらが17Liveで18:30〜配信する予定です。是非17Liveのときのそらのアカウントをフォローして、視聴してみてください!https://t.co/nWx8FgVSDG #sora_ch
— ホロライブプロダクション【公式】 (@hololivetv) November 16, 2017
17Liveを見ているリアルなタレントさんが好きな層と,VTuberが好きな層って,けっこう違いがあるようにも感じるんですが,そうでもないですか。
谷郷氏:
違う面もあれば,似ている面もある,というところでしょうか。タレントを応援して楽しむという点では一緒なので,そこで理解はしてもらいやすかったんじゃないかと。その中からファンになってくれた人がいたんだと思います。
原田氏:
それぐらい,反響が大きかったんですね。
谷郷氏:
はい,僕らとしてもびっくりするくらいに。「ああ,届くべき人に届く場所なら,面白がってもらえるんだな」という手応えを感じた瞬間でした。
原田氏:
なるほど……僕も予想が当たらないタチではあるんですが,VTuberは絶対来ると思っていました。実はバンダイナムコでもキャラクターの動きを遠隔地から操作する技術――例えば幕張メッセのモニターに映るキャラクターの動きを,品川のスタジオにいるアクターの動きと同期させるシステムを研究していまして。それを見たときにビビッと来たんですよ。「俺もアイマスのキャラになれるじゃん!」って。
4Gamer:
そこはアイマスなんですね(笑)。
原田氏:
だって3Dグラフィックスのキャラクターに入って,声もカワイイ感じに変えれば,僕だってアイドルになれるんだよ? そういう変身願望って,今のVTuberにもつながる欲求じゃないですか。その体験が一部「サマーレッスン」に活かされたりもしてるんです。だからVTuberが世に現れて人気を博すようになったときには,「ほら見ろ!」と思ったものです。
谷郷氏:
ありがとうございます(笑)。ただ17Liveで手応えを感じたあとも,なかなか大変ではあったんです。動画ではなくライブ配信が主体になっていく中で,ホロライブが軌道に乗るまではかなり紆余曲折がありました。
原田氏:
軌道に乗るというのは事業として,という意味ですか。
谷郷氏:
そうですね。ビジネスとして軌道に乗るようになったのは,アイドル路線に切り換えた,というか集中するようになった2019年頃からです。グループとしての分かりやすさが大切だったんだと思います。
原田氏:
そのビジネスモデルのところが,僕はいまいち分かってないんですが,例えばリアルのアイドルだったら,タレントさん本人が持っている才能とか魅力とかがあって,それを見出されることで誕生するわけじゃないですか。だから活動の指針も,基本的にそれに沿ったものになる。でもVTuberの場合,カバーさんが生み出したキャラクターをタレントさんが演じていく側面がありますよね?
谷郷氏:
いえ,それは違います。僕らはキャラクターを作っているわけじゃないんです。リアルのアイドルがそうであるように,VTuberもまたタレントなんです。ゲームがうまいとか,歌がうまいとか,そういうタレント一人一人が持っているスキルが活動の指針になっていく。イラストや3Dモデルは,あくまでアバターなんですよ。
原田氏:
重要なのは,あくまで配信者の個性だと。しかし,アバターのデザインなんかはどうやって決めていくんですか。そのプロセスは気になります。
谷郷氏:
それはケースバイケースですね。元々アバターのデザインが決まっていて,それに合わせてオーディションすることもありますし,逆にタレントさんが決まっていて,その人に合ったアバターを考えることもあります。
原田氏:
ああ,アバターが先に決まっていることもあるんですね。では,いわゆる設定的な部分はどうなんですか。例えばウチの「アイドルマスター」だと,ゲームとしてのストーリーがあって,それに基づいたユニットがあって……みたいな枠組が最初にあるわけですけど。
谷郷氏:
そこもリアルのタレントさんと同じだと思います。ホロライブではデビューの時期ごとに1期生,2期生という枠組があって,それがユニットのように機能しています。そうやって生まれた人間関係から,設定というか物語が出来上がっていくんだと思います。
原田氏:
なるほど,そういうことか。じゃあそこは本当にアイドルのプロデュースと同じなんですね。ビジュアル的にはゲームと近しいように見えて,その実はまったく違うと。バンダイナムコとも親和性が高いように見えて,ヘタに手を出すとまったくうまく行かないヤツですね,これは(笑)。
谷郷氏:
そうかもしれません(笑)。表現手法こそ近しいですが,ビジネスモデル的にはやっぱりアイドルプロデュースが近いと思います。
原田氏:
じゃあ,VTuberのプロデュースという仕事の中で,一番大変なことというと,どこになりますか。ゲームだったらバグが一番怖いわけですけど,VTuberならではの苦労というのが,どこかにあると思うんですけど。
谷郷氏:
そうですね……先ほどの話にもつながるんですが,あくまでタレントさん中心であることが,難しさでもあります。
タレントさんは生身の人間ですし,一般的な声優さんともまた違っていて,発注された案件をこなしていくタイプの仕事でもない。タレントさん自らが活動の方向を決めて,我々との二人三脚で前に進んで行かなくてはならない。そういう苦労は,日々感じるところです。
原田氏:
なるほど。まさに,芸能事務所という感じですね。
谷郷氏:
あとはやっぱり,関わる人数が多いところでしょうか。タレント中心であると同時に,VTuberにはゲームと同じで,チームで一つのヒット作を作り上げていく側面がある。ウチの場合は,そのためにどうしても外部のクリエイターさんとコミュニケーションを取っていく必要があって……そこに難しさを感じることがあります。
4Gamer:
芸能事務所であると同時に,コンテンツ制作会社でもある,という感じでしょうか。
谷郷氏:
そんな感じです。
原田氏:
採用の面でも,求めているのはタレントマネジメントの能力と,コンテンツ制作の能力ということになるわけですか。
谷郷氏:
はい。カバーとしても,軌道に乗ってからはタレントマネジメントの人材を中心に入ってもらっています。そういう意味ではバンダイナムコグループとも近いところがあるかもしれません。
原田氏:
今ってどれぐらいの規模感なんですか。社員数とか。
谷郷氏:
今は300人ぐらいですね。
原田氏:
ああ,会社って200人から300人ぐらいのときに入るのが,一番楽しいですよね。いい会社だなあ。優秀な人が集まりそう。ちなみにカバーで働く魅力って,どこにあると思っていますか。いや,別にこれ,リクルート記事じゃないですけど(笑)。
谷郷氏:
個々の裁量が大きい点でしょうか。300人というとそこそこの規模ですが,いろんな事業をやっている都合上,事業ごとで見るとそんなに人が多いわけではなくて。だから個人のアイデアが通りやすい職場環境だと思います。
原田氏:
責任もあるけど裁量も大きい。けっこう外資っぽい感じですね。
谷郷氏:
海外ファンが多いので,海外の社員もかなり多いんです。日本だけじゃなく,海外を意識した仕事ができるのも特徴だと思っています。ゲームでもコンシューマ系ではすでにそういう状況だと思いますが,スマホなんかは今でも市場が国内向けですから。
原田氏:
ゲーム業界は開発にお金がかかるようになった結果,グローバルを“見据えないわけにはいかなく”なってしまいました。僕の仕事も今はもう,開発者と言うよりグローバルマーケティングのほうが本業なくらいです。
あとバンダイナムコもグループとは言え,会社が違うと接点があまりなくって。最近になってようやくシナジーを感じるようになりましたけど,やっぱり会社によって人材がぜんぜん違います。誤解を恐れずに言えば,人種が違うというか。
谷郷氏:
ウチもそんな感じですよ。キャラクターを開発する人,タレントをマネジメントする人,グッズを作る人と,部署ごとに全く違います。雰囲気でけっこう分かるんですよね。この人は音楽系だな,みたいな(笑)。
4Gamer:
バンダイナムコさんも,元バンダイなのか元ナムコなのか,なんとなく分かりますよね(笑)。
原田氏:
なんとなくどころじゃなく,一目瞭然なんだよなあ(苦笑)。
飽くなきテクノロジーへの興味から生まれたホロライブ
原田氏:
VTuberの仕組みは少し分かってきたので,谷郷さんご自身についてちょっと掘り下げさせてください。確かキャリアをスタートされたのはイマジニアでしたよね。
谷郷氏:
そうです。大学は理系だったんですが,大学時代はセガのゲームセンターでアルバイトをしていたこともあって,ゲームの会社に入りたかったんですよね。なので新卒時はゲーム会社しか受けませんでした。
原田氏:
僕とほとんど同じだ(笑)。世代的にも近いですし,そういう時代だったんでしょうね。
谷郷氏:
イマジニアに入ってからは,まずコンシューマゲームのプロデュースを担当することになりました。PlayStationやゲームボーイ向けの,主にサンリオさんと組んだキャラクターゲームを担当することが多かったです。
原田氏:
慶応の理工学部ですよね。理系から入ったのにプロデュース側だったんですか?
谷郷氏:
はい。理工学部でも大卒って,基本は文系就職になっちゃうんです。なので,普通にビジネス職として入社しました。
原田氏:
僕はてっきり,エンジニア出身なのかと思っていました。
谷郷氏:
今のスクウェア・エニックスさんなんかと同じで,イマジニアって基本的にパブリッシングが本業の会社だったんですよね。自社開発ではありましたけど。
原田氏:
確かにそうですね。
谷郷氏:
その後コンシューマーゲームを離れたあとは,携帯コンテンツ事業のマネジメントなどを担当し,イマジニアを辞めてからはアットコスメという化粧品の口コミサイトをやっている会社でeコマースの事業責任者とかをやっていました。そこを退職して,また1社を経たくらいで創業したのが,30min.という前の会社です。それを売却してカバーを始め,今に至るという感じです。
原田氏:
ゲーム業界を離れて,eコマース事業に行こうと思ったのはなぜなんです?
谷郷氏:
iモードのビジネスに,かなり閉塞感を感じていたのが大きいですね。結局,キャリアさんの庭で商売しているに過ぎないわけで。インターネットって,本来そういう制約がない場のはずですし,もっと広い世界で戦えるビジネスにしないと,将来的にしんどいだろうという予感がありました。
原田氏:
それは何歳ぐらいの頃です?
谷郷氏:
28とか,それぐらいだったと思います。
原田氏:
ゲーム作りに興味を持ってキャリアを始めたことを考えると,考え方が経営側というか,ビジネス寄りの視点を持つのが早かったんですね。
谷郷氏:
そうかもしれません。そういった意味では,やっぱり僕はゲームそのものよりもテクノロジーが好きだったんだと思います。ただ,大学時代にはもうインターネットがありましたけど,当時はテクノロジーの先端だったゲーム会社以外に,就職するイメージが持てませんでした。
原田氏:
分かります。まだ「IT企業」って言葉すらない時代ですから。
谷郷氏:
イマジニアでiモードの担当になったことで,それに気付いたんです。結局,自分は新しいものが好きで,それが楽しいんだなって。それに大学の同期や友人でクリエイター志向だった人達は,はっきりとその道を歩んでいる。そうやってキャリアを積み上げていっている人達とどう戦えばいいのかを考えたときに,自分はビジネスサイドにまわった方が結果を出せるんじゃないかと。
原田氏:
1990年代後半から21世紀初頭は技術革新とパラダイムシフトの時代でしたから,そこは僕もよく分かります。前の会社を畳まれてカバーを立ち上げたとのことですが,それはどういう狙いだったんですか。起業するからには,なにか目指すべき目標というか,志があったと思うんですが。
谷郷氏:
前の会社は売却こそちゃんとできましたが,自分の中で心残りではあったんです。コンテンツビジネスについて自分は人よりも詳しい自負があったのに,その強みを活かすことができなかった。後から思えば,ソーシャルゲームにも挑戦しておくべきだった,と。
原田氏:
その心残りを清算したかったわけですか。
谷郷氏:
そうですね。でもカバーの立ち上げ時はスマホゲームの流行の波も一段落したタイミングで,正直勝算が見えませんでした。コンテンツビジネスって,やっぱり新しいテクノロジーが出るタイミングでしか伸びないじゃないですか。
原田氏:
分かります。ゲームはまさにそういう世界ですね。
谷郷氏:
なら,これはもうVRに賭けるしかないって思ったんです。カバーの立ち上げまでにいろんなプランを考えはしましたが,やはり自分はコンテンツビジネスへ返るべきだと。そう思い至って,気付いたら新幹線に飛び乗って,当時Oculusにいた近藤さん(現・エクシヴィ 代表取締役社長の近藤義仁氏)と名刺交換をしていました(笑)。
原田氏:
ああ,そういうつながりなんですね。まあ,あの人はこの界隈の全員とつながってる感じではありますが。
谷郷氏:
VRに取り組むようになったのは,そこからです。ビジネスになるか断言はできないけれど,とにかくここに賭けるしかない。そういう心境でした。
原田氏:
なるほど。けっこう思い切りましたね。
谷郷氏:
ええ。でも不安とかはなかったですね。iモードの担当をしていたときも,周りからは「絶対流行らない」みたいに言われましたし,新しいプラットフォームのローンチ時は,皆が半信半疑なもので,だからこそチャンスだと分かっていましたから。
ただ,いろいろ調べていくうちに焦りは感じました。VRを活用するにはハイエンドPCが必要なのに,日本では全然普及してないよねって。
原田氏:
そうなんですよ。VRは環境を整えるハードルが高いんです。
谷郷氏:
触ったら,皆「VRスゴい!」って言ってくれるけど,ビジネスにはならないという意見が大半だったんです。だからこのままVRに懸けていいんだろうか? って自問自答することは多かったように思います。
原田氏:
今はVRの意味もちょっと変わってきましたよね。テクノロジーとしてのVRから,価値感としてのVRになりつつある。でも,そこから始まって,どうして今のVTuber事業に行き着いたんですか?
谷郷氏:
VR事業は,今のカバーのCTO(最高技術責任者)である福田(福田一行氏)と一緒に始めたんですが,彼は純粋にインターネット畑の人間で,僕は“いちおうコンテンツビジネスの経験もある”という程度のキャリアでした。だから,純粋に「すごいゲームを作る」戦いになると,バリバリのゲーム畑の人に勝つのは難しいと思ったんです。
それならインターネットならではのビジネスにすべきということで,モバゲー的なゲームプラットフォームを作ろうというアイデアに行き着きました。カジュアルなVRゲームを遊びながら,プレイヤー同士でコミュニケーションが楽しめる,というような。
原田氏:
あくまでベースはゲームなんですね。
谷郷氏:
それと並行して,もう一つやりたいと思っていたのがキャラクターコンテンツでした。3Dグラフィックスでキャラクタービジネスをやるなら,「初音ミク」的なモデルはアリだなと,当時は考えていました。これは音楽コンテンツという意味ではなくて,さまざまなクリエイターさんが3Dモデルやいろんなアセットを持ち寄ることで,何かを生み出せないかというものです。ある意味,食べログに近いサービスを考えていたんですけど。
4Gamer:
食べログですか?
谷郷氏:
「初音ミク」のビジネスって,僕は食べログにすごく似ていると思うんですよ。あれは食に興味を持つ人が残したレビューを集積した結果として,レストランガイドが出来上がるサービスじゃないですか。同じように,音楽クリエイターが「初音ミク」を使って楽曲を生み出していった結果として,「初音ミク」という多くの楽曲を持ったアーティストが生み出されている。この構造は,同じだと思うんですね。
原田氏:
なるほど。
谷郷氏:
そうした発想を起点にして,試しに作ってみたのが「Ping Pong League」という卓球ゲームでした。卓球を選んだのは,単に福田が卓球部だったからなんでけすど。合わせて,そのプレイを実況する3Dのキャラクターも作って,Steamに置いてみたんですが……海外に同じようなコンセプトのものがあったりして,ビジネスとして継続するのは難しいということになりました。
原田氏:
そこは難しいですよね。ソーシャルを軸にすると成功しそうなイメージをもたれがちですが,ゲームの部分でお客を絞っちゃうので。
谷郷氏:
でも,ここで作った“キャラクターを動かす仕組み”には可能性を感じました。そこから開発をがんばって出来上がったのが,3Dキャラクターをリアルタイムに動かす技術――今のホロライブの原型になるシステムだったんです。
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