連載
Hiro師匠とレゴブロック「Atari 2600」を組み立てよう! せっかくだから任天堂のアレも持ってきたよ(「買い物Surfer」第10回)
レゴブロックは,素晴らしい。
スタッド(凸部)を基点として自由に連結できるブリック(レンガ状の基本パーツ)は,無限のイマジネーションを励起させてくれる。シンプルなそれらを積み重ねるだけでも建物,機械,生物,概念など,さまざまなものを表現できるし,特殊パーツを使えば表現力や再現力はさらに向上する。
LEGO(社名)が有するレゴブロックの特許権や実用新案権は1988年に期限切れで失効し,立体商標は2009年に無効とされたため,今では同規格のブロック玩具が複数社から多数発売されているが,それでも高い品質と優れたデザインから,レゴ(ブランド)はブロック玩具界の頂点であり続けている。グローバルスタンダードかつデファクトスタンダードにしてトップランナー。何らかの“制作”に携わる人間ならば,その在り方に憧憬を抱かずにはいられないはずだ。
それゆえゲーム業界にも,小島秀夫監督や坂口博信氏などレゴマニアは多い。小島監督の,「メタルギア ソリッド」開発初期に“3次元的に破綻のないマップ”を検証するため,レゴブロックを用いたというエピソードも有名だ。
LEGO自体もゲーム市場での展開を積極的に行っている。Warner Bros. Gamesはレゴゲームの定番デベロッパ・TT Gamesによる「レゴ スター・ウォーズ/スカイウォーカー・サーガ」を4月に発売し,LEGO GamesはRed Gamesの開発による「LEGO Brawls」を9月2日に(国内向けコンシューマ版はバンダイナムコエンターテインメントから10月20日に発売),ClockStoneはThunderful Publishingの開発による「LEGO Bricktales」を10月13日にリリースした。
また,Unityはレゴをモチーフとしたミニゲーム制作キット「LEGO Microgame」を一般向けに提供しており,2021年にはゲーム開発コンテスト「BUILD YOUR OWN GAME!」や「LEGO NINJAGO & 1-Button Game Challenge」を開催した。さらにEpic Gamesは「子供達が楽しく安全に遊べるメタバース」開発に向けたパートナーシップをLEGOと締結したことを4月に発表し,期待を集めている。
その他,Google創業者のLawrence Edward Page氏とSergey Mikhailovich Brin氏は大学在籍時に研究用マシンの筐体としてレゴブランドの低年齢向け製品・デュプロを用いたり,ガレージキット複製に使う型枠のデファクトスタンダードだったり,レゴはさまざまな分野で人々の役に立っている。レゴブロックは何を作っても,何に使っても良い。レゴブロックに関する「間違った使い方」は,ブリックを口や鼻といった生物の開口部に入れる行為や,巨大な塊を作って他人の頭部に振り下ろすような暴力的行為,他人が踏むようにブリックを撒くなどのブービートラップ的利用,SCP-387をレゴブロックの類似品と接触させることくらいのものだ。
レゴはゲーム業界ともいろいろな接点があるうえ,近年はゲームの世界を表現した製品が複数発売されている。「スーパーマリオ」,「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」,「オーバーウォッチ」,「マインクラフト」,「Horizon Forbidden West」……。
そんなゲーム関連レゴ製品のひとつとして,Atariの設立50周年を記念するアイテムである「Atari 2600」が8月1日に発売された。今回の「買い物Surfer」では,それを紹介しよう。
「レゴ Atari 2600」をAmazon.co.jpで購入する(※Amazonアソシエイト)
レゴの新セット「Atari 2600」が8月1日に登場。付属のカートリッジを挿入可,ジョイスティックも“実物そっくり”に動かせる
レゴの大人向け製品ブランド・LEGO ICONSから,懐かしの家庭用ゲーム機「Atari 2600」を再現した新セットが登場する。付属のカートリッジを挿入できたり,ジョイスティックを動かせたり,1980年代のゲーム部屋をイメージした仕掛けがあったりと,なかなかに面白そうな商品だ。
Pitfall!!
だが,しかし。どうだろう。
「発売されました。買いました。組み立てました。おしまい」では面白くない。ニュース記事ならば情報の過不足が無い“完璧な普通”こそ目指すべきところだが,企画記事で“普通”をやるなんてのは冒険的知性の敗北である。それに,前担当回からの繰り返しとなるが,筆者のモットーは「やりすぎくらいでちょうどいい」だ。
とは言え,「ニンジャゴーのお城を移植してAtari 2600に天守閣を生やしました!」とか「レゴテクニックのモーターを内蔵して,これが俺の自走式Atari 2600だ!」とかをやろうかと思っても,そこまでの予算を絞り出すのはさすがに厳しい。
それに,ざっくり調べたところレゴの組み立て時間は「1ピースあたり0.2〜0.3分」くらいが目安のようなので,2532ピースで構成される「Atari 2600」の場合,1ピースあたり0.25分かかると仮定すると,概算的な組立時間は633分=10時間33分である。そこまでの時間を絞り出すのもやっぱり厳しい。
そこで閃いた。今回は「レゴ好きのゲーム業界人とレゴを組み立てる」という企画にするのはどうだろうか。というわけで,お呼びしました。Hiro師匠!
●Hiro師匠 レゴ作品ミニギャラリー
アウトラン
ドリームキャスト
セガ・エンタープライゼス(当時)から1998年に発売された家庭用ゲーム機・ドリームキャスト。複雑な曲線を描く上面を,細やかなブリック選びで表現している。ディスクドライブの蓋を開閉させられるギミックが備わっていて,ほぼ1/1サイズなので実際にGD-ROMを入れられる
また,2人で作っても10時間33分÷2=5時間16.5分と,まだまだ厳しいので「“埋められた”でおなじみのAtari 2600用ソフト『E.T.』所持者」である某ゲーム系イベンターS氏と,「幼少期はレゴなどのブロック玩具に囲まれて育ったが現在は家庭用ロボットを育児中」である某ゲーマーB氏を「おい,レゴ組まねえか」的なノリで(サプライズとするため詳細は伝えず)招集。10時間33分÷4=2時間38.25分なので,これなら人間が許容しうる拘束時間のうちに完成できそうだ。
4Gamer:
ところで“レゴ好き”で知られるHiro師匠ですが,レゴの魅力といったらどこだと思いますか。
Hiro師匠:
想像したものが形になるところですね。
4Gamer:
そうやって作られたものですと,お持ちいただいたアウトランとドリームキャスト以外ではどのようなものがあるのでしょうか。
Hiro師匠:
初代iPadやクリスマス飾り,宇宙船などを作りました。干支の動物を作って,それで年賀状を作ったりもしていたんですよ。全12種類を作って,それが二周りくらいしたはずです。
4Gamer:
24年も……。Hiro師匠は,規定のガイドに従って作るよりも,独自の作品を作るというタイプなのですか。
Hiro師匠:
そうですね,そっちがメインです。昔は自分の作りたいものがあるから,それに必要な部品の入っているセットを買ったりしていました。
4Gamer:
昔はというと,今は?
Hiro師匠:
今は副業制度で音楽的個人活動ができるので,クリエイティブ魂が作曲のほうを向いているんですよね。
昔のセガは副業がダメだったから,家で曲を作ったとしても,なかなか発表できないわけです。レゴにハマったのは,そんなクリエイティビティを発散させたくて昔遊んでいたものに手を着けてみたという経緯がありました。
4Gamer:
幼少時にレゴに触れていて,社会人になってから改めてレゴにハマったと。
Hiro師匠:
そうなんです。ただ,子供の頃はレゴブロックだけでなく,任天堂のブロックもあったんですよ。それも触っていました。
4Gamer:
そういう話にも触れるかと思いまして,せっかくなのでご用意しました。任天堂のブロックです。
テッテレー!(華やかなSE)
Hiro師匠:
ええっ!? しかもこれ,俺が持ってたやつだ!
4Gamer:
事前調査でお持ちだったと知ったのですが,折り良く同じものを入手する機会がありまして。
もはや「買い物Surfer」の趣旨とは無関係だが,そういう機会があったのだからしょうがないし,Hiro師匠をお呼びするにあたってこのくらいのぶっこみはしなければいけないと思ってしまったのだから輪をかけてしょうがない。かつて任天堂が販売していた「N&Bブロック」の,Hiro師匠が幼少時に触れていたという「ロケット」である。
「N&Bブロック」が発売されたのは,おおよそ半世紀前の1960年代末頃。スタッド間隔などの基本的な設計はレゴブロックとほとんど同じなので,双方を混ぜて遊べるほどの互換性を持つ。そのためLEGOは訴訟を起こしたが,LEGOが特許を有する“stud and tube”構造のうち,N&Bブロックはtube(底面の筒状部分)を模倣していないことから,訴えは棄却されたという。しかし品質面で勝るレゴブロックが市場を席巻したため,N&Bブロックの商品展開は1970年代初頭で早々に終了している。ちなみにゲームボーイ用ソフト「スーパーマリオランド2 6つの金貨」の“マリオゾーン”では,N&Bブロックをモチーフとしたステージが登場する。
左がレゴブロック(1970年代のもの),右がN&Bブロック。底面の構造が異なることに注目してほしい。色合いはレゴブロックのほうが若干明るめ |
N&Bブロック特有の,両端部が円状となったブロック。嵌め込んだ部分をヒンジ的な可動部にすることもできる |
4Gamer:
ところで近年ゲーム関連製品が増えているレゴブロックですが,Hiro師匠的に「レゴになってほしいゲーム関連アイテム」はありますか?
Hiro師匠:
メガドライブです。ぜひともLEGOさんに作っていただきたいですね。
LEGO様およびレゴジャパン様。「レゴ メガドライブ」(仮)の企画・開発に関してのご検討を,なにとぞお願い致します。筆者的には,パーツ選択でGenesisとメガドライブを作り分けられると,より良いんじゃないかと思います。
Combat!!
いったん終着駅まで行って戻ってきたレベルの脱線はともかく,いよいよ「Atari 2600」を作っていこう。
まずはHiro師匠が本体の主要部分,筆者が本体の側面やギミック,S氏&B氏がカートリッジやビネットなどという役割分担で組み立てていく。ちなみに組み立て手順書はWebで公開されているので,付属の冊子(けっこう分厚い)をバラしたりコピーしたりすることなく,気軽に役割分担での組み立てが可能だ。「レゴ マインドストーム」の時代に応じた変化もそうだが,レゴは積極的に現代技術を吸収している。
Hiro師匠による,パーツを収めておく自宅の「レゴ棚」の話や,某競技型TV番組から出演オファーがあった話,国内では流通していない特殊パーツをebayで購入した話など,ぽつぽつとレゴトークもあったりしたが,用意した1.5リットルのお茶が開封されることもなく,いい大人が4人してレゴの組み立てに没頭する。空気感としては「カニを食べるとき自然と無口になる感じ」を想像してほしい。
メディアの批評的な目線から改めてレゴを見ることで思ったのだが,レゴはまず素材のプラスチックが非常に優れている。この「硬すぎもせず,柔らかすぎもしない」プラスチックは,長時間組み立てを行っても手が痛くなりにくく,それでいてしっかりとパーツが結合する。
擬音を考えてみよう。プラモデルを組んでいるときの擬音は,“パチ組み”という言葉もあるくらいだし,おおよそ「パチパチ」だろう。しかしレゴは,もっと柔らかくパーツがつながる。なかなか名状しがたい感触だが,筆者が表現するならば,柔らかさと硬さを踏まえて「モキモキ」といったところだ。
ゲームにとって“触感”に相当する概念は“操作性”だ。プレイヤーキャラクターの動きに妙な癖や慣性などが存在する「操作性の悪い」ゲームはプレイヤーをイライラさせるが,プレイヤーの思った通りに動くゲームはそれだけで気持ちよさをプレイヤーに提供する。操作性と言えば入力遅延もハードルになるが,レゴブロックは言わずもがな完全アナログなので,ラグは脳から指先までの神経伝達速度ぶんだけだ。
また,ゲームの設計ではプレイヤーに成功体験を積ませてプレイのモチベーションを維持させることが重要だ。筆者としてはUbisoftのゲームに顕著だと思うのだが,リズムアクションゲームでコンボが全然つながらなくてもゲーム内では大盛り上がりだったり,レースゲームで最下位になっても「スジがいいな!」とNPCが言ってきたりと,プレイヤーの気分をアゲる工夫が施されたゲームは多い。レゴブロックでは,個々のパーツから「これが何になるのか」が分かりにくいため,組み立て手順書通りに作っているだけでも,ある程度の形が出来上がるたびにパズルゲームの1ステージをクリアしたような気持ちよさを得られる。これが組み立て前から概形の分かるプラモデルや,関節だけのボールジョイントではこうはいかない――意識的なデザインではないにしても「プレイヤーをアゲる」設計に通じるポイントだ。
LEGOは,不安神経症などの改善に役立つされるマインドフルネス向けアイテムとしても自社製品を展開したり,ビジネスシーンでのチームビルディングなどに効果的とされるシリアスゲーム向けの製品「レゴ シリアスプレイ スターターキット」を販売していたりするが,それらもレゴブロックの「ゲームで言えば操作性が良い」や「プレイヤーをアゲる」というプリミティブな気持ちよさがあるからこそだろう。もしハメ込みが固くて使用者をイライラさせるようなブロックだったら,精神は沸騰・蒸発してビジネスシーンでのチームビルディングは血で血を洗う大乱闘となるはずだ。まあ,ガチギレブラッディオフィスパーティーも筆者は嫌いではないが。
Breakout!!
というわけで,ハイ完成ー! 所要時間は,おおよそ2時間30分。だいたい計算通りの結果に収まった。
Atari 2600は販売時期によって形状が若干異なる。本品のデザイン的なベースは,6スイッチの初代・CX2600 "Heavy Sixer"や,そのマイナーチェンジ版・CX2600 "Light Sixer"ではなく,1980年から販売された4スイッチ(+裏面3スイッチ)のCX2600-Aというモデルだ。ざっくり言えば「セガにおけるセガ・マークIII」のような“馴染み深い普及機”のポジションだろう。
Atari 2600本体およびコントローラの他,セットにはゲーム内のイメージを表現したビネットと,カートリッジも含まれる。カートリッジはもちろん本体に挿入できるうえ,カートリッジを収納するための棚も付属する。
カートリッジのラベルは本物そのままではなく,人物がミニフィグになったりしているレゴ仕様の描き下ろしだ。単に「Atari 2600を再現した」のでなく,「レゴでAtari 2600を表現した」のだという雰囲気を強めてくれている。
本体上面をスライドさせると,中から1970年代的な北米ゲーマーの部屋が出てくる。中のミニフィグはAtari 2600で「Asteroids」をプレイ中という,ちょっとした入れ子構造になっているのも遊び心があって面白い。
4Gamer:
完成しての感想をお聞かせください。
Hiro師匠:
久々に大物作ったけど楽しいね! 時間があれば1人で作りたかったくらい(笑)。
「Atari 2600」は,模型的な魅力はもちろんのこと,「スライドさせると,せり上がってくる」というメカニズムの面白さや,ミニフィグを使った“お部屋”系の楽しみも盛り込まれた,レゴの基本的な“遊び”を一通り味わえるキットだ。「大人が遊ぶレゴブロック」の入門としても適した製品だと言える。
また,レゴのstud and tube規格は半世紀以上前から変わっていない。本物のAtari 2600が発売されるよりも前に出荷されたブリックでも,現行製品と混ぜて遊ぶことが可能だ。
レゴブロックは過去と現在が折り重なった,不思議な魅力を持つ製品だ。4歳の幼児から(※)人生でやっておきたいことをやり尽くした人まで,触れるに早すぎるも遅すぎるもない。レッツ,レゴ。
※4歳未満のお子様には,安全のため「デュプロ」シリーズを推奨します。
Hiro師匠:
次はNES作ろうか!
4Gamer:
前向きに検討っしゃーっす! よろっしゃーっす!!
■■早苗月 ハンバーグ食べ男(4Gamer編集部ではない)■■
4Gamer誌面の極北に棲まうダンシングメタルマシーン。編集部ではなくMusic 4Gamerとかをやってる方の部署に所属しているが,普段聴くのはSlipknotやJuno Reactorや猫 シ Corp.なので管弦楽はよく分かっていない。「アストロシティミニ」インタビューの担当が降ってくればFM音源中心にしてみたり,「デスクリムゾン」新録サントラが発売されるとなればインタビューを組んでみたり,hally氏にタイトーサウンド黎明期についてのインタビューを依頼してみたり,COSIO氏がI'veファンなので高瀬一矢氏と対談してもらったり,4Gamerに海外製レコードの情報が載るよう仕向けたりと,ゲーム音楽周りでいろいろやったりやらなかったりしている。弱点は釘バット(顔面にフルスイングされると死ぬ)。
レゴ公式サイト
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