プレイレポート
[プレイレポ]「LOOP8」はAIによって生み出される“何度も続く,1度きりの夏”を体験できる。登場人物の生命を感じるジュブナイルRPG
※PC(Steam)版は6月7日発売予定
そんな本作のSwitch版を発売前にプレイできたので,どのような作品なのかを紹介しよう。
ループする8月の1か月間で描かれる,懐かしさのある日本の夏の日常とそれを描く背景,プレイヤーの選択によって人物関係やイベントが変化する“エモーショナルAI”こと「カレルシステム」によって生まれる,“何度も続く,1度きりの夏”が格別なジュブナイルRPGだ。
「LOOP8」公式サイト
永遠かのように繰り返す,1度きりしかない8月の日々を生きる
タイトル名のとおり,本作は8月を何度もループする物語が描かれる。舞台となるのは,インターネットが普及されるはるか昔,スマートフォンはもちろん携帯電話も一般的ではなかった1983年の,“昭和レトロ”な風景が印象的な日本の田舎町だ。
世界は“ケガイ”と呼ばれる厄災によって崩壊へと向かっており,国家や主要都市はすでに壊滅的で機能していない状況となっていた。生き残りをかけた人類は,居住可能な宇宙ステーション「きぼう」への移住を進めるが,それも失敗。ケガイに襲われ,きぼうは破壊されてしまう。
本作の物語は,人類の“希望”が打ち砕かれた出来事からおよそ8か月が過ぎた,1983年の8月1日に始まる。
主人公のニニは,そんな宇宙ステーションきぼうの生き残りである,“宇宙育ち”の若者だ。ケガイの襲撃で両親を失ったが,どうにか母方の親戚を頼り,日本の田舎町「葦原中つ町」へと移住。葦原中つ高等学校に転入し,1年生として同校に通い始める。
山に海,自身が暮らす古びた家。葦原中つ町は,ケガイの厄災が嘘のように穏やかで,宇宙ステーションが世界のすべてだったニニにとって,すべてが新鮮なものだった。
このまま,平和な町で新しい友人たちと交流し,たった一度の高1の夏を謳歌する……となればよかったのだが,そんな葦原中つ町にも,人知れずケガイの魔の手が伸びていた。
顕現への依代にするため,葦原中つの人々に近づくケガイたち。ニニは,とある理由によって,人の心へ巧みに入り込み,人を乗っ取ることで町を滅ぼそうとするケガイを祓う“撃譲(げきじょう)”を任されることに。
ケガイによって葦原中つ町が滅ぼされると,連鎖的に世界が滅び,そして時間が巻き戻り,8月1日からまたケガイ撃譲の日々が始まる。この,過酷な運命に向き合うことになったニニは,災厄を退け,夏の終わりである8月31日を迎えることができるのか。
キャラクターが“命と感情”をもってプレイヤーと接するカレルシステム
日本の片隅にある小さな町の出来事や人間関係が世界に大きな影響を与え,行動の結果によって8月の日々を繰り返す。いわゆる“セカイ系”な設定や物語のループものというところで,興味を持つ人も少なくないだろう。
一方で,こういった疑問を持つ人もいるのではないだろうか。
「ゲームオーバーの度に,何度も同じイベントやシーンを見せられるのはしんどいなあ……」
そんな懸念を打ち壊してくれるのが,エモーショナルAI「カレルシステム」だ。
本作特有のゲームシステムで,プレイヤーの選択が,AI制御の主要な登場人物(NPC)の感情や人間関係に変化をもたらし,発生するイベントや登場人物のセリフが変わっていく。
簡単に説明すると,NPCたちが“それぞれ感情や意思を持つ人間”として登場するようなものだろうか。彼らがどう考えたかによって“1度きりの夏”は変化し,それを“何度も体験”できるのだ。
雰囲気や気分,欲などさまざまなパラメータがあり,それらすべてが,人それぞれの“感情や意思”で変化する |
登場人物たちの揺れ動く感情は,主人公の特殊な力「見鬼の才」で“見る”ことで確認できる |
選択肢によって,登場人物のセリフや行動が分岐するゲームはとくに珍しくはないが,とにかく“影響するモノ”がほかに類を見ないほどに多彩で,またそれぞれが感情を持つ“人間”のため行動は一貫せず,プレイするたび想像できない展開になるのが面白い。
発生するイベント,イベントの起こるタイミング,敵(ケガイ)の種類,味方の存在,住民同士の人間関係,etc,etc……。とにかくたくさんのものが,主人公の行動とそれに影響されたキャラクターたちの心境によって大きく変わるのである。
何度もループすることで物語を進めていくのが基本のゲーム進行となるのだが,そのとき経験する夏の日々は,“1度たりとも同じ日はない”。少々オーバーに聞こえるかもしれないが,そう思わされるほど新鮮な出来事が,ループするたびに待っているのだ。
さて,“カレル”というワードとシステムの内容を見て,ピンときたというゲームファンもいることだろう。このカレルシステム,本作のゲームデザインとシナリオを手がける芝村裕吏氏が,かつて「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(以下,「ガンパレ」)などの作品に搭載していた同名のシステムの“進化版”である。
である……と言いながら恐縮な話だが,筆者はその名はもちろん知っていたものの,世代的なところもあってガンパレに触れておらず,カレルがどう進化したかを伝えられない。しかし,だからこそ「ガンパレを知らなくてもシステムをすぐに理解できるし,そしてめちゃくちゃ楽しめる」ということは声を大にして言いたい。
というのも,ゲームプレイを通じて,カレルシステムには驚かされることばかりだったのだ。
あるキャラクターは人懐っこく,仲良くなると何度もこちらの行動に割り込んで話しかけるようになり,またあるキャラクターは嫉妬深く,ほかのキャラクターと仲良くしていると静かに怒ってくる。キャラクターそれぞれの性格によって異なる反応,微妙な心境の変化で異なる態度など,本当に人間と接しているようだ。
葦原中つ町を移動しているときにも,それは感じることができた。主人公に好意を寄せている一部のキャラクターは,よくニニが立ち入る場所に来るようになる気がするのである。
これに関しては有用な検証ができていないので,本当に“気がする”だけかもしれないのだが……関係性によって,キャラクターの行動範囲が変わることもあるのかもしれない。もしこれがたまたまだとしても,「こういう動きをするのは,感情があるからなのでは?」とプレイヤーに思わせるほど,「カレルシステム」は奥深さを感じさせてくれるシステムなのだ。
個人の感情によって自発的に行動を起こすことも少なくないため,プレイヤーがNPCの行動を完全に制御することは恐らくできないだろう。主要キャラクターは12人と多く,その一人ひとりがプレイヤーに,命と感情を持った“人間”を相手にしている実感を与えてくれる。カレル未経験の人にとっては,非常に新鮮なゲーム体験となるだろう。
もちろんシステムだけではなく,登場するキャラクターも魅力的である。ニニのことを父親だと言ってはばからない青年に自称残念美少女なロボ娘,狐耳&もふもふしっぽを持った幼女ら,一癖も二癖もある,個性的な面々が勢ぞろいだ。
そんな彼らと友情や愛情を育み,そしてときにぶつかり合いながら,“繰り返すひと夏”を暮らしていく。舞台が田舎町であり,コミュニティが狭いこともあってか,主人公が誰かと仲良くしていると,それはすぐ周りの人たちに伝わる。
それが誤解や嫉妬を生むことも……? 「あの人はこういう人だよね」なんてうわさ話をされるなど,実にこのあたりも現実的だ。
これまたなんともニクいのが,主人公と良い関係になったキャラクターとは,よく目が合うようになったり,よく話しかけてくるようになったりするところ。キャラクターたちの行動に定型がないこともあり,自然に心境の変化が伝わるというか,「あっ,いま,俺のこと……見てたよな」とすっごくドキドキできるのである。
……最高だぜ,カレルシステム!
そういった好意の感情があるということは,しっかり嫉妬の感情もある。多くのキャラクターからの愛情を集めて何股もかけているような状態だと,ガッツリ嫉妬の炎で燃やされることに。八方美人とはよく言ったもので,誰にでも好意的に接していることが嫌われる要因にもなり得るのである。
恐いよう……でもそれはそれで燃えてくるぜ,カレルシステム!
ニニの遠縁で,一緒の家で暮らすコノハはとくに嫉妬の気が強い。かわいくて嫉妬深いのは人によって“ご褒美”ではあるが,それはそれとして恐くもある |
こちらは嫉妬されている最中の朝の食事シーン。冷ややかな表情と淡々とした言葉が刺さるなあ…… |
かわいい女の子に気持ちが行くが,男同士と友情を育むのもまた楽しい。とくに筆者としては,鉄道,ジオラマ,オカルト好きなナナチがプレイする前から気になっていたので,積極的にアプローチ(?)してみた。
田舎町という閉鎖的な環境でオタクとして生きる彼は,自らオタクを名乗るものの肩身の狭さは感じているようで,最初は「僕には話しかけないほうがいい」なんて調子だ。しかし,話しかけるうち心を開いてくれて,少しずつ自分の話をしてくれるようになった。この変化が自然だ。
この夏,最も一緒に過ごしたい男,ナナチ。「俺に近づくな,お前もオタク扱いされるぞ」といった感じで,ニニを遠ざけるような言葉を放つが…… |
仲良くなると,ちょっとした恋愛絡みの話もしてくれる。いいんだ,オタクだって胸キュンなことを夢見たって! ……分かるよナナチ。俺の胸で泣け…… |
キャラクターとの関係性が深まると,その人物のパーソナルな部分だけではなく,本作の物語の本質に関わる情報も手に入ることがある。
メインのストーリーでは,プレイヤーの想像の余地を残すかのように,“この世界で何が起き,いまどうなっているのか”の細かい部分は語られていないが,町の人々との交流でこの世界の輪郭がしっかりと浮かび上がってくるのだ。
ループの度に人間関係はリセットされ,また新たな人間関係を構築しなければならないが,つまり,これまでの“周回”であまり話していなかった相手と新たに交流することで,今まで知らなかった情報を入手できるわけだ。これもまた,ループに飽きを感じさせない要因のひとつだろう。
なお,ニニの人間関係だけではなく,登場人物同士の人間関係もしっかりと存在する。こちらからけしかけて特定の2人を仲良くさせるといったことも可能なので,いろいろ試してキャラクター同士の関係性の発展を見守ってみてほしい。
仲良くなったキャラクターは,非日常パートでのケガイの撃譲(げきじょう)――つまりダンジョンでのバトルのパーティとして参加してくれる。
最大3人(ニニ+2人)でパーティを編成できるバトルは,ターン制のコマンドバトルで基本的に指示を出せるのはニニのみ。仲間は自身の感情やパーティメンバーとの人間関係によって各々行動する。関係性によって見事な連係攻撃を見せるときもあれば,足を引っ張り合うことも。キャラクターへ直接命令はできない分,どのような人間関係を築いているかが重要となるのだ。
戦略的な部分は簡素な印象。日常パートでしっかりと良好な関係を築くことが勝利につながる |
それぞれ良い関係性を築けている2人を呼ぼう! なんて思いでパーティに選出したら,人間関係がヨメ(嫁)と恋人!? 二股状態でギスギスして戦いどころではないかも…… |
なんだかんだで夏を満喫している日常パートとは異なり,非日常のケガイとの戦いはなかなかシビアなものがある。この戦闘でやられたキャラクターは日常の世界からもいなくなり,次のループが発生するまでは二度と会うことができなくなるのだ。
愛を育んだ相手や親友を失うのは,たとえ次のループで復活すると言っても正直悪夢である。とくに“生命”を感じられるカレルシステムだからこそ,喪失感もとんでもない。大事な人を失うことも,ひと夏の経験……ではあるが,それがつらいと思う人は,戦いに行く前に手動セーブをしておくことをオススメする。
「カレルシステム」による,“生命”を感じられる登場人物たちの人間らしい行動と,それによって生まれる想像できない物語の展開が大きな魅力の本作。ノスタルジックな日本の夏の日々や風景を存分に感じられるグラフィックスも素晴らしく,とくに照り付ける日差しの表現や入道雲といった空の描き方にはこだわりを感じられる。
一方で,挑戦的なシステムやハイクオリティなグラフィックスも影響してか,ロードに時間がかかる場面があった。試遊したのが発売前のバージョンなので改善されているかと思うが,製品版がどうなっているかは気になるところ。
世界観の設定やメインストーリーは謎が多く,ここで多くを語ることはできないが,選択の連続で進行する予想できない物語は,懐かしくも新しいゲーム体験を与えてくれるだろう。
ゲーム史に残り,語られるシステムであるカレルの進化版によって描かれる,少年少女たちの夏の日々は,きっとあなた(プレイヤー)にとっても特別な夏になるはず。ぜひ「LOOP8」で,一足早い“あなただけの夏の思い出”を作ってほしい。
「LOOP8」公式サイト
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(C)2022 Marvelous Inc.
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