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AMD,2024年のノートPC向けAPU「Ryzen 8040」を発表。AI処理機能「Ryzen AI」を強化
Ryzen 8040シリーズの発表に合わせて,AMD独自のAIアクセラレータ技術「AMD Ryzen AI」に関するアップデートも行われたので,合わせて概要をまとめてみたい。
Ryzen 8040が2024年におけるノートPC向けプロセッサの最高水準に?
本稿執筆時点におけるAMDのノートPC向け主力APU製品には,薄型ノートPC向けの「Ryzen 7040U」シリーズと,高性能ノートPC向けの「Ryzen 7040HS」シリーズがある。中国市場向けに限定して出荷されているRyzen 7040Hシリーズを含めると,3つのシリーズからなるRyzen 7040シリーズ搭載PCが登場したのは,2023年5〜6月頃からだった。
Ryzen 7040シリーズを搭載する実製品が出始めてからはまだ半年程度というタイミングで,後継のAPU製品が発表されるのは異例と言っていいだろう。先回りしておくと,Ryzen 8040シリーズのアーキテクチャは,Ryzen 7040シリーズからほぼ変わっておらず,主としてRyzen AIの強化に力点をおいた製品となっている。
製品ラインナップは下のスライドのとおり。
Ryzen 7040シリーズと同様に,末尾「HS」の高性能ノートPC向けと,末尾「U」の薄型ノートPC向けがラインナップされている。それぞれに上位モデルとなる8コアのRyzen 9およびRyzen 7,6コアのRyzen 5,そして4コアのRyzen 3がラインナップされているのも,Ryzen 7040シリーズと変わらない。
現行のRyzen 7040シリーズと比べたときに特徴的なのは,Ryzen 8040 HSシリーズのRyzen 9,Ryzen 7,Ryzen 5のそれぞれに,モデル番号4桁の下位に「45」と付いたモデルがラインナップされている点だ。「45」のモデルはConfigure TDP(cTDP)とブーストクロックが,「40」型番よりも少し引き上げられた高性能版だ。
ちなみに,Ryzen 7040シリーズにおける「45」モデルは,デスクトップPC向けのCPU製品をノートPC向けに転用した「7x45HX」シリーズだけだった。一方,Ryzen 8040シリーズにおける「45」モデルは,ノートPC向けのAPU製品であり,消費者が混乱しそうに思える。とはいえ,近年のAMD製APUにおけるモデル番号は,混乱を極めている感じだったので今更かもしれない。
話を戻そう。Ryzen 8040シリーズの統合GPUは,Ryzen 7040シリーズから変わっておらず,RDNA 3アーキテクチャに基づくCompute Unit(CU)数12基の最上位GPU「Radeon 780M」,CU数8基の「Radeon 760M」,そしてCU数4基の「Radeon 740M」というラインナップとなっている。
ブーストクロックも現行のRyzen 7040シリーズからほぼ変わっておらず,一体何が違うのかといった感じだが,先にさらっと触れたようにRyzen 8040シリーズの目玉は「AI性能の向上」に尽きるようだ。
AMDによると,大規模言語モデル「LLama 2」におけるRyzen 8040シリーズの性能は,Ryzen 7040に対して1.4倍,また画像生成モデルも1.4倍という大幅な高性能化をはたしているという。
AMDが,NPUを統合した初のAPU製品であるRyzen 7040シリーズで「Ryzen AI」という用語を使い始めたのは,4Gamerでも報じたことがある。AMDの説明によると,Ryzen AI=NPUというわけではないそうだ。Ryzen AIとは,NPUによるAI処理に加え,CPUとGPUによるAI処理性能を総合した「RyzenプロセッサにおけるAI処理全体」を表しているという。
Ryzen 8040シリーズのNPUの性能は,前世代の10 TOPSから16 TOPSに,Ryzen AIの総合性能は,前世代の33 TOPSから36 TOPSに向上したと,AMDは述べている。NPUの性能は1.6倍ながらも,総合性能は1割ほどの向上にとどまるあたりが面白い点だろう。
また,AI性能だけでなく,とくにマルチスレッド性能が向上しているとAMDは述べているが,Intelの第13世代Coreプロセッサとの比較しか提示していないので,Ryzen 7040からどの程度向上しているのかは不明だ。
これらの特徴により,AMDは,「Ryzen 8040シリーズが,2024年におけるノートPC向けCPU製品の最高水準になると確信している」と豪語する。その言葉の裏には,Intelが近日中に発表すると見られている次世代のノートPC向けプロセッサ「Meteor Lake」があることは間違いない。どちらが覇権を握るのか,興味津々といったところだろうか。
ところで,Ryzen 7040からほとんど変わっていないRyzen 8040で,マルチスレッド性能やAI性能が向上した理由はなぜかと,疑問を抱いている読者もいるだろう。AMDは「ドライバファームウェアを改善して,プラットフォームを最適化するという素晴らしい仕事を行った結果」としか説明していなかった。つまり,ソフトウェアの改善とハードウェア設計の最適化によって,Ryzen 7040から多少の性能向上を果たしたのがRyzen 8040と理解すればいいのだろう。
なお,AMDは今回の発表に関連して,APU製品のロードマップの一端を明らかにしている。それによるとAMDは,開発コードネーム「Strix Point」と呼ぶ次世代のノートPC向けAPU製品を,2024年中に市場に投入する計画とのことだ。
Strix Pointは,性能が大幅に向した次世代の「XDNA 2」アーキテクチャに基づくNPUを統合することで,「あらゆるAIワークロードをクラウドサーバーに頼ることなく,ローカルで実行できるようになる」と予告している。ゲーム用途にはあまり好影響がなさそうなのは残念だが,Strix Pointの名は覚えておこう。
2024年にはRyzen AIの真価が発揮される?
以上のようにAMDは,Ryzen AIにすべてを賭けているといっていいほど力を入れている。ただ,Ryzen AIを搭載したAPU製品が市場に出回り始めて約半年が経過した現在,ユーザーがRyzen AIの恩恵が得られる状況には,まだなっていないと言っていいだろう。
AMDは,「Ryzen AIのような新しいテクノロジを普及させるという課題には,ハードが先かソフトが先かという,鶏と卵のような関係がある」と説明する。そしてAMDは,ハードウェアを先行させるという「困難な道を選択した」と自画自賛していた。つまり現時点で,ユーザーがRyzen AIの恩恵を感じられないことは,仕方のないところもあるというわけだ。
Ryzen AI対応のハードウェアの提供という第1段階を終えたいま,AMDは第2段階として,2つの試みに力を入れているという。ひとつは,有力なソフトウェアデベロッパに対して,Ryzen AIの採用を働きかけるというもの。
たとえば,Adobe SystemsやMicrosoftといった企業に対して,採用の働きかけを行っている。これらの企業のソフトウェアは,機械学習向けのAPIセット「DirectML」を使用したAIアクセラレーションを,すでにサポートしているとAMDは主張する。AMDは,DirectMLのアクセラレーションに対応したGPUを手かけてきた実績があり,「その関係を活用して,NPUへの対応を推進している」と説明していた。
第2段階におけるもうひとつの取り組みは,幅広い開発者に対してソフトウェア開発を働きかけるという活動で,「そのための開発環境は,すでに整っている」とAMDはアピールする。具体的には,既存の機械学習モデルを,AMDが公開しているツールを使ってNPU向けに量子化を行ったうえで,AMDが公開している「Open Neural Network Exchange」(ONNX)ランタイムで実行するという形だ。
AMDは,ドキュメントや,ツールに各種サンプル,Ryzen AIで動作するモデルなどをすでに公開しているので,開発者はチェックしてほしいと呼びかけていた。
以上のように,AMDが推進している第2ステップの成果は,「2024年に多数が実現することになる」そうだ。現状,Ryzen 7040に内蔵されているNPUは宝の持ち腐れ状態になっているユーザーが多いと思うのだが,AMDの予告どおりならば,来年には,NPUを活用するアプリがより身近になるだろう。
AMD公式Webサイト
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