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ノートPC向けRyzenや3D V-Cache版Ryzenの正体とは? AMDの講演で明らかにされなかった新CPUと新GPUの詳細が判明
本稿では,ゲーマーの関心が高いであろうRyzenやRadeonの話題にフォーカスしつつ,基調講演終了後にAMDが公開した資料の内容や,CES 2023におけるAMDのブースを取材した情報も加えて,AMDの発表内容を総括したい。
ノートPC向けRyzen 7045の正体はデスクトップPC版Ryzen 7000?
なおAMDは,CPU/APU製品の型番末尾に,「U/HS/HX」といった接尾語を付けているが,これは,製品のターゲットとなるノートPCのカテゴリを表している。
「U」は,長時間のバッテリー駆動が求められるノートPCや薄型軽量ノートPCを対象としており,想定TDP(Thermal Design Power,
発表となったRyzen 7035/7030/7020シリーズのうち,Ryzen 7035/7030シリーズは,いわゆるリネーム(名称変更)品だ。
Ryzen 7035シリーズは,2022年登場の「Ryzen 6000」シリーズ(開発コードネーム:Rembrandt,レンブラント)に改良を加えてリネームしたもので,「Rem
一方,Ryzen 7020シリーズ(開発コードネーム:Mendocino)は,2022年にあまり目立たない形で発表となったローエンドクラスのAPUである。
Ryzen 7045シリーズは,GPUを内蔵しているものの,演算ユニットクラスタである「Compute Unit」(以下,CU)が2基構成という最小限のもので,多くのノートPCでは,単体GPUと組み合わせることになる。
ノートPC向けRyzen 7040のグラフィクス性能はPS5に肉迫する
さて,CPUダイが同じなので言うまでもないが,Ryzen 7045シリーズは,デスクトップPC向けRyzen 7000シリーズと同じく,CPUダイとI/Oダイを相互接続して1パッケージ化した,いわゆるチップレット構成のCPUだ。
それに対して,Ryzen 7040シリーズは,CPUとI/O部分を単一のダイで製造したAPUだ。CPUと統合型GPUの組み合わせは,CPU側にZen 4アーキテクチャ,GPUにはRDNA 3のアーキテクチャを採用する。
Zen 4 CPUとRDNA 3 GPUといえば,両方とも最新世代。それを組み合わせるとなれば,それだけでかなり重要な話題なのだが,Ryzen 7040シリーズにおけるポイントは,もうひとつある。それは「AMD Ryzen AI」と名付けられた専用の推論アクセラレータを搭載することだ。
AMDは兼ねてから,「AMD XDNA」という名称で「自社プロセッサにAI向けIPを統合する」構想をほのめかしていたが,今回のRyzen AIが,それを最初に具現化したものということになる。AMDによるとRyzen AIは,同社が2020年に買収したFPGA大手であるXilinxのコンフィギュラブルアクセラレータをベースとしているとのことだ。
なおRyzen 7040シリーズは,最大でCU 12基のRDNA 3ベースGPUを内蔵しているので,内蔵GPUにも推論アクセラレータが載っていることになる。RDNA 3では,CU 1基あたり推論アクセラレータを2基搭載しているので,CU 12基構成のRDNA 3内蔵GPUでは,総計で24基の推論アクセラレータがGPUに載っているわけだ。Ryzen AIとの使い分けがどうなるのかは,気になるところだ。
Ryzen 7040シリーズの内蔵GPUは,「Radeon 780M」という名が付けられており,最上位の「Ryzen 9 7940HS」と,その下位となる「Ryzen 7 7840HS」では,CU 12基構成となっている。
Ryzen 9 7940HSのRadeon 780Mは,動作クロックが3GHzとのことなので,32bit浮動小数点(FP32)理論性能値を求めてみるとこうなる。
- 12 CU×128 SP×2 FLOPS×3GHz=9.2 TFLOPS
これは,PlayStation 5(以下,PS5)の10.3 TFLOPSに迫る高性能な内蔵GPUであることが分かる。
地味なネタだが,今世代からRyzenシリーズにおける型番のルールが変わったことも補足しておこう。
最初期のRyzenシリーズは,通常のCPU製品とAPU製品で型番が被っていたので,違いが分かりにくかった。その後,型番における千の桁をCPU製品とAPU製品で分けるルールに変わったのだが,APU製品は千の桁をCPU製品よりも大きくしたので,製品の新旧関係がよく分からなくなった。
それがRyzen 7000型番からは,7x45/7x40/7x30/7x20がAPUで,7x50/7x00はデスクトップPC向けCPU製品を表すルールに変わったのだ。ただ,先述したとおり7x40はデスクトップPC向けCPUと同一ダイなので,GPU性能は限定的なものになる。
これで分かりやすくなったかどうかはなんとも言えないが,Zen 4世代の製品が7000型番で(ほぼ)まとまったことは良い点だとは思う。
デスクトップRyzen 7000シリーズに「3D V-Cache」が合体
2022年9月に登場したデスクトップPC向けRyzen 7000シリーズにも,新製品が加わった。それが「3D Vertical Cache」(以下,3D V-Cache)搭載版のRyzen 7000シリーズだ。
3D V-Cacheとは,AMDが誇るチップレットアーキテクチャの一種で,独立したキャッシュダイをCPUダイの上に重ねて,貫通配線(Through Silicon Via,TSV接続)させる技術のこと(関連記事)。
今回発表となった「Ryzen 9 7950X3D」と「Ryzen 9 7900X3D」は,Zen 4ベースのCPUダイを2つ搭載しているのだが,3D V-Cacheが実装されているのは,なんと片側のCPUダイのみなのだ。
これについてAMDは,3D V-Cacheを1ダイに適用した場合と,2ダイに適用した場合とで性能を比較すると,ほとんど差がなかったことを大きな理由として挙げている。
また,3D V-Cache搭載CPUダイのほうが非搭載CPUダイよりも,駆動電圧が高く,消費電力も高いという。CPUダイの両方に3D V-Cacheを搭載することは,TDPの目標を120Wに設定したこともあり,叶わなかったようだ。ちなみに,3D V-CacheなしのRyzen 9 7900X系はTDP 170Wであり,3D V-Cache搭載版のほうがTDPは低い。ブーストクロックは同じだが,ベースクロックはRyzen 9 7950Xが4.5GHzであるのに対して,Ryzen 9 7950X3Dは4.2GHzと低く設定されているのだ。
AMDによると,キャッシュヒット率を上げて性能を向上させることと,動作クロックを引き上げて性能を向上させることのバランス取りは難しいという。
Ryzen 9 7900X3Dシリーズの場合,3D V-Cacheを搭載するCPUダイよりも,搭載しないCPUダイのほうが高クロック動作しやすい傾向にある。AMDの説明担当者は,3D V-Cache搭載ダイ(キャッシュヒット率優先)と非搭載ダイ(動作クロック優先)のどちらにスレッドを割り振るか,CPU用のドライバーソフトウェアが動作中のソフトウェアを認識して制御する仕組みがあるようなことをほのめかしていた。ただ,詳細は明らかにされなかったので,今後,明らかにしていきたい。
さて,先述のとおり,TDPはRyzen 9 7950XよりもRyzen 9 7950X3Dのほうが低いのだが,スレッド割り当ての適応型制御によって,アプリケーションの実行性能は高くなっているそうなので,ベンチマークテストが楽しみである。「高性能が手に入るならば,いくらでも金を出す」系のヘビーユーザーには嬉しい発表だろう。なお,発売は2023年2月を予定しているが,価格については明らかになっていない。
ノートPC向けのRDNA 3ベースのGPUはミドルクラスから
Radeon RX 7600MシリーズのGPUダイは,すでにデスクトップPC向けに発売済みのハイエンドGPU「Radeon RX 7900 XT」シリーズの「Navi 31」とは別もので,開発コードネーム「Navi 33」であるという。Navi 31はチップレットアーキテクチャを採用していたが,Navi 33は単一ダイのGPUであるそうだ。
Navi 33は,TSMCの6nmプロセスを用いて製造され,ダイサイズは204mm2,総トランジスタ数は約130億3000万個と公表されている。グラフィックスメモリは,メモリクロック18GHz相当のGDDR6メモリを8GB採用しており,。メモリインタフェースは128bit,メモリバス帯域幅は288GB/sだ。
動作クロックは2.3GHzで,ブーストクロックは2.61GHz。Compute Unit数は32で,総シェーダプロセッサ(SP)数は2048基だ。ただ,前世代のRDNA 2アーキテクチャと比べて,32bit浮動小数点(FP32)のSIMD32演算器が倍増しているので(関連記事),FP32実効性能は,RDNA 2での4096基相当になる。
この情報をもとに,上位モデルとなる「Radeon RX 7600M XT」のFP32理論性能値を求めると,以下のとおりになる。
- 2048 SP×2倍×2 FLOPS×2.61GHz=21.38 TFLOPS
ミドルレンジクラスのノートPC向けGPUが,PS5 GPUの理論性能値(10.3 TFLOPS)より2倍も高い性能を有するようになるとは感慨深い。なお,下位の「Radeon RX 7600M」は17.3 TFLOPSだ。
なお,基調講演では触れられなかったが,基調講演終了後には,製品ラインナップに「Radeon RX 7700S」と「Radeon RX 7600S」がひっそりと追加された。
これらは,Radeon RX 7600Mシリーズと同じNavi 33ベースのGPUで,最大消費電力を若干下げて,薄型ノートPCへの採用を狙ったバリエーションモデルに相当する。具体的には,GPU消費電力が120WだったRadeon RX 7600M XTをもとに,100Wに引き下げたモデルがRadeon RX 7700S。GPU消費電力が90WのRadeon RX 7600Mを,75Wに引き下げたモデルがRadeon RX 7600Sとなる。
ちなみに,Radeon RX 7700Sの理論性能値は20.5 TFLOPS,Radeon RX 7600Sは15.7 TFLOPSとなっている。
なお,Radeon RX 7600M XTの低消費電力版がRadeon RX 7700Sの名前で,理論性能値が低くなっているにもかかわらず,なぜか上位型番が与えられている。これについてAMDの担当者は,「Radeon RX 7600M XTは,性能重視のノートPC向けGPUで,Radeon RX 7700Sは,薄型軽量ノートPC向けのGPUなので,搭載ターゲットが違う。デスクトップPCとノートPCのGPU型番と採用GPUダイの対応が異なるのと,同じようなことと考えてほしい」と述べていた。つまり,対象ノートPCのカテゴリが違うので,GPU型番の付け方も別々になったという言い分だ。ちょっとややこしい。
とはいえ,ミドルクラスのGPU性能が底上げされたことはゲームファンにとって嬉しいことだ。また,AV1エンコードに対応したビデオプロセッサが,ミドルクラスGPUにも実装されたことは,動画実況勢にも吉報だろう。
今回発表となったノートPC向けのRadeon RX 7600シリーズを含めた,2023年のノートPC向けGPUラインナップをまとめたスライドを示そう。
ちなみに,巷ではすでに「Navi 32」の登場が噂されており,これがデスクトップ版のRadeon RX 7800〜7700系,およびノートPC版の7900〜7800系になると予想されている。
競合であるNVIDIAは,ノートPC向けGeForce RTX 40シリーズをハイエンドからエントリーまで発表済みだ。そう考えると,AMDの対抗製品投入は,予想以上に早いかもしれない。
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