プレイレポート
[プレイレポ]「野狗子: Slitterhead」メディア向け試遊会インプレッション。人間に憑依し,身体を使い捨てながら謎の脅威と戦え
「野狗子: Slitterhead」クリエイターの外山圭一郎氏と作曲家の山岡 晃氏にインタビュー。謎多き“ホラー×エンタメ”作品に込めた思いとは
Bokeh Game Studioが開発中の「野狗子: Slitterhead」とは,果たしてどんなゲームなのか。同作クリエイターの外山圭一郎氏と,音楽を担当する作曲家の山岡 晃氏に話を聞いた。インパクトのあるタイトル名とトレイラーで話題となった同スタジオのデビュー作は,どういった経緯で誕生し,どんな思いで制作されているのかをお伝えしよう。
人間に憑依し,身体を使い捨てながら,謎の「野狗子」と戦え。プレイするうちに人としての価値観がブレていく
「野狗子: Slitterhead」は「SILENT HILL」「SIREN」「GRAVITY DAZE」などの作品を手がけた外山 圭一郎氏が立ち上げたBokeh Game Studioのデビュー作だ。
これまで謎に包まれていた本作だが,Summer Game Fest 2024にて発売日が発表されたほか,プレス向けにもプレイ機会が設けられた。今回の試遊会はSummer Game Fest 2024と同じバージョンが出展されていた。
タイトルになっている「野狗子(やくし)」とは,中国の古典怪奇小説集「聊斎志異(りょうさいしい)」に登場する妖怪だ。舞台となる混沌の街「九龍」では,脳がなくなった死体が次々に見つかる連続殺人が起きており,「まるで野狗子のしわざのようだ」と噂されている(つまり,聊斎志異に出てくる妖怪,そのままではない)。
プレイヤーが操作するのは,「憑鬼」と呼ばれる謎の意識体で,九龍に住む一般人たちの身体を渡り歩き,協力者である「稀少体」とともに戦うことになる。
今回プレイできたのは,序盤と中盤の2シーンだ。序盤のシーンはいわゆるチュートリアルで,記憶も肉体も失った憑鬼が,自分の能力を思い出していく。中盤のシーンでは稀少体「アレックス」「アニタ」とともに,黒社会のアジトへと向かう。
憑鬼は肉体のない魂のような状態で,周囲にいる生物に「憑依」できる。憑依した身体を自由に動かせるのに加え,犬なら匂いを嗅ぐなど能力も使える。九龍は輝くネオンと底知れぬ闇が同居した美しくも恐ろしげな場所で,このまま犬としてうろつきたくなる魅力があった。
面白いのが,この憑依に関する制限が少ないことだ。一定範囲内にいる者なら自由に憑依できるし,消費するリソースや時間制限もない。
例えば,ビルの屋上に行きたいとしよう。普通なら入り口を探し,階段を昇るというプロセスを踏むが,「憑鬼」は路上から歩道橋の上にいる人間に憑依した後,ビルの中程に住む人間を中継して,さらに高い所にいる人間に憑依することで,ビルの屋上まで登れるのだ。
憑依は結構遠くまで届くうえ,別の人間へ憑依する際,身体から抜けた憑鬼が高速でカッ飛んでいくのが気持ちいい。
九龍にはあちこちに人間がいるので,憑依相手には困らない。ごく普通に通行しているおじさんやおばさん,お兄さん,お姉さんといった一般人たちの身体を拝借するのはなんとも奇妙な体験だ。
一般人とはいえダッシュやジャンプも可能なのだが,身体能力は並なので,無茶なアクションを取ったり,走ったりすると辛そうなモーションを取る。そんな不甲斐ない一般人の身体に憑依していると,「もっとちゃんとした身体が欲しいな」と思うなど,じょじょに思考が人間離れしていく。
憑依している生物が死ぬと憑鬼は追い出されてしまい,一定時間内に新しい身体に憑依できなければゲームオーバーになってしまう。逆に言えば,乗り移れる身体が周囲にあるなら,今の身体はどうなってもいいということでもある。
チュートリアルでは,ビルの屋上に登った憑鬼が,手っ取り早く下に降りるために「憑依した身体を飛び降りさせる」という非人道的な手段を取るシーンがあった。
さっきまで憑依していた身体は地面に叩きつけられて瀕死になってしまうが,憑鬼は落ちている最中に別の人間に乗り移るため、何の傷手もない。“発作的な飛び降り自殺”に野次馬が集まってくるが,憑鬼は悠々と歩いて行くのだ。
特筆すべきは,一連のシーンがムービーではなくプレイアブルということ。飛び降りさせるのも,別の人間に乗りうつって平然と次の目的地へ向かうのも,すべてプレイヤーが操作して行っているのだ。
このように,憑鬼の倫理観は人間のそれと完全にかけ離れている。これを実感……というか,痛感させられるのが戦闘システムだ。九龍の雑踏には人間に擬態する怪物・野狗子が紛れており,憑鬼に襲いかかってくる。憑鬼は憑依した人間の身体を操り,野狗子と戦う。
一般人とはいえ,憑鬼に乗りうつられると「凝血武器」で攻撃し,「ディフレクト」で身を守れる。凝血武器は,乗りうつった人間の血から作ったと思しき武器で,棍棒など近接武器の形態を取る。野狗子の攻撃を何度もガードすると壊れてしまい,HPに相当する「血」を失う。
これを防ぐのがディフレクトで,[R]スティックを野狗子が攻撃してくる方向に合わせてタイミング良く入力すると,攻撃を弾いて状況を有利にできる(どちらから攻撃してくるかは,ガイドが表示される)。
どこにでもいそうな一般人が,血の固まったような棍棒で不気味な野狗子をブン殴り,反撃されても達人の如く弾くというインパクトは抜群だ。
とはいえ,所詮は一般人。野狗子の攻撃を何度か受けるとHPが尽きてしまうのだが,ここでゲームオーバーになるわけではなく,周囲にいる別の一般人に乗りうつれば戦闘を続行できる。つまりは,襲撃に巻き込まれた一般人を使い捨てにしつつ,戦っているということで,なんというか恐ろしくなってくる。
そして,本作のストーリーとバトルを彩るのが,特別な人間「稀少体」だ。稀少体は一般人よりも強く,憑依すれば特別な凝血武器と特殊なスキルを使用可能。一般人と違って憑依されても自分の意志を保っており,憑鬼が別の身体に移った後も自動で戦ってくれる。いわゆるヒーローやヒロインといった存在ということだろう。
例えば,序盤のシーンに登場した稀少体の少女はかぎ爪のような凝血武器を持っており,舞うように野狗子を切り刻む。それならずっと稀少体に憑依したまま戦えばいい……と思うかも知れないが,そうもいかない。シナリオの展開上,稀少体から一般人に乗り換えなければならない所も多く,バトルの緊張感が失われることはない。
中盤のシーンでは,憑鬼と稀少体「アレックス」「アニタ」が黒社会のアジトへと向かう,多数の野狗子と戦うことになる。
アレックスは剣のような凝血武器と,ショットガンのようなスキルを持つ稀少体で,血の重力場を発生させる「ブラッドホール」で野狗子をひとまとめにし,ショットガン「ブラッディブラスト」でブチ抜く。
そして,アニタはカギ棒のような凝血武器と,憑依できる一般人を呼び寄せる「デビルズセント」,人間に敵を攻撃させる「マインドハック」という搦め手のスキルを持つ。これらを駆使すれば,アクションRPGにおけるペット職のような戦い方もできた。
憑依のシステムを理解すれば,さらに奇想天外な戦いが可能だ。例えば,敵がガードの体勢に入った場合,正面から殴ってもロクにダメージを与えられないが,ガードしている敵の後方にいる人間に憑依すれば,背後から攻撃できる。
また,HPは身体ごとに独立しているため,元気な一般人に乗り換えればいい。たとえ,野狗子に捕らえられても,別の身体に乗りうつれば問題なく戦い続けられる。一般人をどんどん使い捨てつつ,野狗子に立ち向かうのだ。
一般人にもスキルはあり,敵の注意を惹く「ウォークライ」が面白い。ウォークライの後に憑依している身体を自爆させる「タイムボム」を使えば,集まってきた敵を巻き込んで爆発し,広範囲にダメージを与えられる。
さらに,倒れた一般人を蘇生したい際,まずはウォークライで敵を惹きつけた後,別の身体へと乗りうつってから蘇生に向かうという戦法も可能だ。身体から身体へノーリスクで乗りうつれるというフィーチャーが,戦術に結びついているわけだ。
本作では回復すらも暴力的である。敵を攻撃したり,自分の攻撃に人間を巻き込むと地面に血溜まりができ,これを吸い込めばHPが回復する。ゲーム的にいうと“フレンドリーファイアあり”な状態だが,所詮は使い捨ての一般人なので気にもならない。
一般人も人間ではあるのだが,プレイしているうちに「稀少体が生きていれば一般人はどうでもいい」といった思考に侵されていくのが,何とも恐ろしい。
ただ,周囲にいる一般人に次から次へと乗り移りつつ,あらゆる方向から攻撃を仕掛け,スキルを組み合わせて戦うのは純粋にゲームとして面白い。もっと上達したい,もっといろいろなスキルを使って見たいと思わされる。
ストーリーについては,今回カットシーンをほぼ見られなかったため,物語はまだまだ謎に包まれた状態だ。稀少体である少女とアレックス,アニタの人となり,そして憑鬼の過去や目的については明かされていないので,今後の情報公開を待ちたいところだ。
会場では外山 圭一郎氏と山岡 晃氏,そしてキャラクターをデザインした吉川達哉氏に話を聞くことができたので,その内容をお伝えして本稿の締めくくりとしたい。
4Gamer:
よろしくお願いします。システムがユニークというか,事前の情報や映像から予想していたのとはまったく違った内容で驚きました。改めて「野狗子:Slitterhead」は,どういうゲームなのかを聞かせてください。
外山 圭一郎氏(以下,外山氏):
不安や恐れを感じつつキャラクターが普通ではない能力を持っていかに怪異に立ち向かうかにホラー的なエッセンスを足して描いたタイトルになります。
純粋なホラーというと敬遠される方もおられるかもしれませんが,生きるか死ぬかの瀬戸際で,異能の力を使って怪異に立ち向かう主人公を描くことで,ホラーの楽しさがより広い層の方に届けばいいなと思って作りました。
4Gamer:
バトルのシステムが非常に特殊なのが印象的でした。憑鬼が一般人の身体を乗り換えつつ,使い捨てつつ戦うといったシステムはどこから着想を得たのでしょうか。
外山氏:
昔作った「SIREN」のキーワードを再解釈するところからスタートしました。この作品には他人の視界を乗っ取る「視界ジャック」というシステムがありましたが,身体を乗っ取ることをゲームの根幹にしたらどうかと考えたんです。
これを私と大倉純也という者がゲームデザインに落とし込んで,今の形となりました。普通とは違うアクションアドベンチャーができたかなと思います。
4Gamer:
一般人というリソースのマネジメント的なところが重要になるなど,かなり独特な体験ができますよね。
外山氏:
一般人はたくさんいるから使い捨てていき,主人公が種として勝つ。最初は葛藤しつつもだんだんとそれに慣れていき,最後は麻痺していって感覚が変わる,ということをフィクションの中で体験して欲しいと思っています。
人の命を軽んじるというのは現実ではあってはいけないことですが,ゲームというフィクションの中で,生き物の尊厳や優先度が揺らぐところを表現したいと思ったんですね。
4Gamer:
尖った内容ですし,オンリーワンの体験だと思いました。稀少体たちのドラマはどのように描かれていくのでしょうか。
外山氏:
稀少体たちの人間ドラマはしっかりあります。憑鬼が人をコマのように扱うゲーム性とは逆に,キャラクターの行く末がどうなるだろうかというのが肝になっていますし,濃厚な人間ドラマがあるので,ご期待ください。
4Gamer:
吉川さんは,稀少体たちに加え,憑鬼が取り憑けるたくさんの一般人をデザインされたわけですが,稀少体たちと一般人,どちらのデザインが難しかったですか。
吉川達哉氏:
稀少体たちの方が断然難しかったですね。特徴はあるんだけれど,九龍の雑踏に紛れていても違和感がないくらいに特徴がない……という矛盾した雰囲気を持たせるため,調整にすごく苦労しました。
一般人たちについては,街中の写真をたくさん観察し,平均値を取って作っています。一方,稀少体たちは外山さんの思い出やストーリーが入っており,それが表情や目つき,肌の質感に現れているわけですね。こうした部分を描き分け,ちょっとずつ差を付けていくのに気を使いました。
4Gamer:
山岡さんに聞きたいのですが,以前のインタビューで,ゲームと向かい合ったうえで,“耳から入る表現”すべてに気を使って作る……という旨のお話がありました。「野狗子:Slitterhead」の“耳から入る表現”を手がけるうえで難しかったポイントはありますか。
山岡 晃氏:
PCや車で音楽を聞いたり,TVや映画を見つつ音を聞いたりするのとは違い,ゲームでは,プレイヤーが「音を聞こう」という思考をしてはいないという点が重要だと考えています。
僕らが海外のスタジオでレコーディングしていくら“いい音”を作っても,そこには意味はありません。だからといって,邪魔にならない音を作っても意味はないんですね。
つまり,ゲームに寄り添って,遊んでいる人の集中にプラスになるような音作りがいいんじゃないかと思っています。
単に「データを渡して納品しました」という姿勢ではこうした作り方はできません。何らかのハウツーがあるというより,Unreal Engineを立ち上げ,何度も音を入れて試行錯誤を繰り返すしかないんです。もちろん,無音でもダメですし。ゲームのオーディオならではのやるべきことを見つめるということですね。
4Gamer:
まさにゲームに寄り添う音作りがされているわけですね。最後に,本作を楽しみにしているファンに向けてメッセージをお願いできますか?
外山氏:
唯一無二の体験ができることに注力したゲームです。予定調和ではない,新しい何かを見極めたい……という濃いモチベーションを持つ方に,なるべくフラットな状態で体験していただきたいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
「Bokeh Game Studio」公式サイト
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