インタビュー
[インタビュー]フランスの個性派メーカーは新たなパブリッシングレーベルの設立でどう変わったのか? Quantic Dreamのギヨーム・ド・フォンドミエール氏に話を聞いた
「Quantic Dream」公式サイト
2018年にリリースされた「Detroit: Become Human」が高い評価を得たQuantic Dreamだが,1997年に設立され,今年で25周年を迎えたフランスの経験豊富なメーカーだ。処女作である「Omikron: The Nomad Soul」(1999年)はDreamcastとPC向けにリリースされたが,その後はPlayStationをメインプラットフォームに,「Farenheit」(2005年),「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」(2010年),「Beyond: Two Souls」(2013年)と,寡作ながらも着実なペースでゲームを開発してきた。
ゲーム技術に興味のある人なら,Quantic Dreamが2006年に公開したテクノロジーデモ「The Casting」を記憶しているはずだ。PlayStation 3を使用してリアルなキャラクターを表現するという試みだったが,以来,モーションキャプチャーを進歩させ,アクターの動作や声,表情まで取り込む「パフォーマンスキャプチャー」については,業界でも有数の技術を誇るメーカーになった。2012年に公開された技術デモ「kara」は,ゲーム関係者以外からも大きな注目を集めた。
そんなQuantic Dreamは,「Detroit: Become Human」のリリース後の2019年,「PlayStation以外のプラットフォームでのリリース」を念頭にNetEase Gamesの支援を受けること発表し,2022年8月には完全子会社になったことがアナウンスされた。NetEaseの資金が,彼らの新作として2021年12月にティーザートレイラーが公開された「Star Wars Eclipse」に使われるのは疑いないところだ。
「Star Wars Eclipse」公式サイト
買収以前からパブリッシング事業にも手を広げており,2021年4月にはJo-Mei Gamesが開発した「Sea of Solitude: The Director's Cut」の販売権を取得して,初となるサードパーティタイトルのリリースを行った。2022年8月には,インディーゲームパブリッシングレーベル「Spotlight by Quantic Dream」の立ち上げが発表されている。
現在,Spotlight by Quantic Dreamのラインナップには3つの新作タイトルが並んでおり,東京ゲームショウ2023にもプレイアブル出展された。内訳は,12月14日発売予定の海底アドベンチャー「Under the Waves」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / PS4 / Xbox One)と,言葉を武器にするアドベンチャー「Dustborn」(PC / PS5 / Xbox Series X|S / PS4 / Xbox One),そして,時間を巻き戻して過去の自分の幻影と共に戦うアクションゲーム「Lysfanga: The Time Shift Warrior」だ。
東京ゲームショウ2023に合わせてフォンドミエール氏が来日したのも,そうした,新たなQuantic Dreamの活動の表れだろう。
Spotlight by Quantic Dreamというレーベルが発足してから約1年,CEOという視点でゲーム業界の流れを見てきたド・フォンドミエール氏に,Quantic Dreamはどのように変わったのか,そして変わっていないものは何なのかを聞いた。
4Gamer:
昨年,Quantic DreamはNetEase傘下に入りましたが,以降の1年を振り返っていかがでしょうか。
正直な話,大きな変化はないといったところです。2018年にNetEaseと初め会ったとき,我々は,独立してゲーム開発を行える環境を維持したいことと,パブリッシャとして成長したいことについて話をし,向こうは,それを可能にするための支援を約束してくれました。
2019年には,我々の意思を受け入れたうえで非支配株主になってもらい,その体制で3年ほど良好な関係を維持して信頼関係を構築したのちに,完全子会社になるためのステップへ移行したという流れです。
現在も,当初の基本的な合意は変わっていませんので,我々の立場としては,資金的に恵まれた状況でゲームを開発し,我々のビジョンで新しい事業を進めていくことをスピード感を以てできるようになりました。それ以外に,大きく変わった部分はありません。
4Gamer:
ビジョンというのが,Spotlight by Quantic Dreamというパブリッシング事業なわけですね。
フォンドミエール氏:
ええ。実際には,かなり以前からゲームデベロッパの人と会うたびに,「どうしてQuantic Dreamはパブリッシングをしないのか」「私たちのゲーム販売を助けてほしい」という話を持ちかけられていました。そうした期待に応じて2021年にリリースしたのが,「Sea of Solitude: The Director's Cut」です。これまでQuantic Dreamは,作りたいと思ったゲームを作ってきましたから,ほかの開発者たちの「自分たちのゲームを作りたい」という希望も受け止めたいですし,彼らの成功を後押ししたいのです。
4Gamer:
“スポットライト”とは,そうした作品に光を当てる意図を持っているわけですね。
フォンドミエール氏:
そうです。パブリッシングをしたいと思わせる作品の絶対条件は,我々がこれまでエモーショナルなナラティブデザインを心がけてきたのと同じような「ユニーク」さを持つことです。特定のジャンルである必要はありませんが,とにかくユニークなゲームにスポットライトを当てたいと考えています。
4Gamer:
現在,Spotlight by Quantic Dreamには3つの新作が控えています。
フォンドミエール氏:
フロアで公開したParallel Studioの「Under the Waves」は,深海を探索するアドベンチャーですが,とにかくストーリーテリングが巧みなゲームです。哀しい過去を持つ孤独なダイバーの“サバイバルと悲しみ”をテーマにした作品で,プレイすれば,そのユニークさが伝わると思います。Parallel Studioは,わずか20人の開発者であれだけのゲームを作ったのですから,彼らの将来も楽しみです。
4Gamer:
なるほど。ほかの2作についてはどうでしょう?
フォンドミエール氏:
Sand Door Studioから「Lysfanga: The Shift Warrior」のプレゼンテーションを受けたとき,斜め見下ろし視点のハック&スラッシュRPGは,あまりにもライバルの多いジャンルなので成功が難しく,エキサイティングには感じませんでした。
しかし,詳しく聞いたあとでは,そのゲームメカニクスに惚れ込んでしまいました。キルされると時間が巻き戻り,別の自分が登場するのですが,そのように複数の分身と一緒にプレイしてアリーナにいる敵を一掃するという戦略性がユニークだったのです。
また,パブリッシングを発表したばかりのRed Thread Gamesの「Dustborn」は,言葉を武器にする能力という,これまでにはなかったアイデアとプレイが体験できます。ストーリー重視のゲーム性や,コミックスタイルのグラフィックスなどにも独自性が感じられ,ベテラン開発者らしい作品になっていると思います。
4Gamer:
もし,これを読んだ日本のインディーデベロッパがQuantic Dreamにプレゼンに行くとしたら,何を求めますか。
フォンドミエール氏:
それはもちろん,我々がキーワードにしているユニークさです。ゲーム文化をさらに前進させるような,アイデアの詰まったプロジェクトに期待します。
Quantic Dreamがゲーム作りを始めた1990年代と違って,現在は年間に何千,何万本もゲームがリリースされます。ですが,多くは過去に熱中したゲームを自分で作ってみたとか,流行の作品やジャンルを模倣したものだったりします。我々がスポットライトを当てたいと思えるような,独創性の高いクリエイティビティを示してもらいたいですね。
4Gamer:
パートナーには,例えばパフォーマンスキャプチャーなど,過去25年間にQuantic Dreamが培ったノウハウを提供しているのですか。
フォンドミエール氏:
あくまでもデベロッパのやり方を重視しているので,こちらからアプローチすることはありません。しかし,我々の持つモーションキャプチャースタジオを貸し出す用意はありますし,クリエイティブ面でのコンサルティングも行います。そのほか,アニメーションやシネマ,Q&A,ローカライズ,マーケティングなど,ゲーム開発や販売に必要なサポートは用意しており,パートナーが必要とするのであればサービスを提供します。
4Gamer:
マーケティングというと,Quantic Dreamはゲームのリリース前に,「The Casting」や「Kara」といった映像を次回作の技術デモとして公開して,そのつど大きな話題をさらっています。技術力をアピールして期待感を高める見事なマーケティングだと思いますが,5年に一度ぐらいなのが残念です。
フォンドミエール氏:
良い物を作るには時間がかかりますからね(笑)。最近公開したのは「Star Wars Eclipse」ですが,我々のデモの進化は感じられたことと思います。
4Gamer:
キャラクターよりも広大な世界やモーションを重視した,今までとは違うタイプの映像でした。開発の進歩状況はいかがでしょうか。
フォンドミエール氏:
厳重に保護されているIPなので,今はまだ詳しく話せませんが,「良い物を作るには時間がかかる」ということを繰り返し言わせてください(笑)。
4Gamer:
ちなみに現在,Quantic Dreamには,どれほどのメンバーがいるのでしょうか。
フォンドミエール氏:
現在は400人体制で開発していますが,2024年中に,さらに100人ほど追加する予定です。
4Gamer:
500人ですか!
フォンドミエール氏:
「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」は80人ほどで開発しましたが,「Detroit: Become Human」で200人に増え,さらに「Star Wars Eclipse」では500人と,新作のたびに,前作の2倍以上に成長していることになります。
もちろん,Quantic Dreamの目指す「良い物」を作るためにはリソースが必要であり,それがNetEaseとのパートナーシップで可能になっているわけです。創業者でありクリエイティブを担当するデヴィッド・ケイジ(David Cage)が時間をかけて基本コンセプトやストーリーを作ったり,プログラマーがゲームエンジンを改良したりといったプリプロダクションのプロセスがほかのメーカーに比べて長いため,開発が本格化すると一気に人材が必要になります。
4Gamer:
つまり,「Star Wars Eclipse」はかなり進行しているということですかね。
フォンドミエール氏:
良い物を作るには時間がかかるんです(笑)。
4Gamer:
分かりました。本日はどうもありがとうございました。
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