インタビュー
[インタビュー]「龍が如く8」とTBSラジオ「アフター6ジャンクション2」のコラボは,どのようにして生まれたのか。異常な熱量が注ぎ込まれたコンテンツの制作秘話を聞いた
メインストーリーが進むごとに,物語に沿う内容で,それでいて「アトロク」そのものとしか思えないような番組が次々と開放されていく過程に,度肝を抜かされた人も少なくないはず。
そこで今回,「龍が如く8」の制作総指揮 横山昌義氏(「龍が如くスタジオ」代表)と,同番組をプロデューサーとして立ち上げた橋本吉史氏(TBSラジオ UXデザイン局・UXビジネス局 コンテンツ制作部 担当部長),同番組パーソナリティの宇多丸さん(RHYMESTER),ゲーム内番組で音楽制作を担当したRAM RIDERさんに,このコラボの制作に関するエピソードを聞いた。聞き手は,週刊連載「男色ディーノのゲイムヒヒョー ゼロ」で,ここのところ「龍が如く8」について書き続けていた,男色ディーノ選手が務める。
「龍が如く8」公式サイト
TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」公式サイト
RHYMESTERファンのセガ社員がつないだ
「龍が如く」と「アトロク」の不思議な縁
男色ディーノ選手(以下,DD):
本日はよろしくお願いします。
今回,「龍が如く8」とTBSラジオ「アトロク」のコラボに深く関わった皆さんにお集まりいただきました。宇多丸さんはまず,ゲーム内にキャラクターとしても登場されているんですよね。
宇多丸さん:
はい。韓国マフィア「コミジュル」のエージェントで横浜ダンジョンの窓口を務める「ウタマル」として出演しています。
DD:
そして,宇多丸さんがパーソナリティを務める「アトロク」のオリジナル番組がゲーム内で聴けるという,なかなか複雑なコラボになっていると思うんですが,そもそもどういう経緯でこの企画が立ち上がったんでしょう。
うちの社員に,長年のRHYMESTERファンの女性がいるんです。そんな彼女からずっと「RHYMESTERをよろしくお願いします」と売り込みをされていました。
「龍が如く4 伝説を継ぐもの」(PlayStation 4 / PlayStation 3)にRHYMESTERのMummy-Dさんに参加していただいたこともあるんですが,当時も「ラジオでMummy-Dさんが『龍が如く』について話してました」とか,「『アトロク』で宇多丸さんが『龍が如く』についてこんなことを言ってました」という報告と,「だから次は宇多丸さんどうですか?」みたいな感じで(笑)。
橋本吉史氏(以下,橋本氏):
僕もRHYMESTERのファンで,同時に番組の熱心なリスナーである彼女が,セガさんにいらっしゃるということは知っていたんです。連絡も取り合ったりしていまして。それで「龍が如くスタジオ」が新体制になったタイミングで,彼女を通じて横山さんと会ってみることになったんですね。
横山氏:
最初は,何かご一緒できることがあるとして,番組とのコラボとして宇多丸さんに出ていただけませんか? ぐらいの感じだったんです。でもそれだけじゃ普通なので,何か+αの要素が欲しいということで,いろいろ話し合っているうちに……。
橋本氏:
僕は僕でゲームが好きだし,海外のゲームなんかだとゲーム内で音楽を中心としたラジオ番組が聴けるものもありますけど,そういったものではなく実在するトーク中心のラジオ番組がゲーム内に入るというのが,「龍が如く」の世界なら実現できるんじゃないか? と提案してみたんです。
横山氏:
その話を聞いて,すぐに「いいですよ,やりましょう」という話になったんです。でも最初は,リアルタイムで放送している「アトロク」を,そのままゲーム内で流れるようにしたかったんです。
でも法律や技術の問題であるとか,それこそ放送ではOKだけどゲーム内での表現としてはNGな発言が出たりした場合,どうやって規制するのか? といった課題が見つかって。
とりあえずそのあたりは継続して考えていくことにして,まずは宇多丸さんの顔をキャプチャーしましょう,と。それはそれは綺麗なデータがとれたんですよ。
DD:
その時点で宇多丸さんは,「龍が如く」シリーズについてどれぐらいご存じだったんですか?
シリーズはもちろん全部やってきましたし,「JUDGE EYES:死神の遺言」(PC / PlayStation 5 / Xbox Series X|S / PlayStation 4)には僕の後輩であるKICK THE CAN CREWのMCUが出演していたこともあって,主人公を操作して後輩をボコボコにするという倒錯した遊びを楽しんでいました。だから,「龍が如くスタジオ」作品がどういうものなのかは,そもそも理解できている状態で。
DD:
じゃあ出演の話が来たときにも,宇多丸さんとしてはとくに引っかかるところもなく?
宇多丸さん:
そりゃもう,二つ返事でOKでした。
DD:
宇多丸さんがキャプチャーされた時点では,まだラジオの話は本格的には動いていなかったんですよね。
宇多丸さん:
その時点では,キャプチャーしてセリフを吹き込んでっていうぐらいでしたね。ただ,けっこうセリフの量があることに驚いたのは覚えてます。この「プクク……」っていうのは,このまま「プクク……」って言うの? とか。
今にして思えば「ドンドコ島」でのセリフだったんですけど,「B‐BOYイズムを感じたぜ」とか,何に使うんだ? って(笑)。
橋本氏:
あの時点ではちゃんと説明してなかったんです。
宇多丸さん:
「全部は説明できないんですけど,島がありまして」みたいな感じで,こちらとしては「分かりました!」と応えるしかなくて。役柄に関してはある程度の枠は決まっていたんでしょうけど,ラジオについてはその時点では僕は何も知らなかった。
橋本氏:
弊社の宇内(梨沙アナウンサー)が出るサブストーリーは,録っていた段階なので,ラジオをやることまでは決まっていたんですけど,どんなコーナーをやるかとか,どんな構成にするかは未定でしたね。
宇多丸さん:
その後,「ラジオも入ることになりました」と聞いて。え? この間,録ったやつと関係あるの……? でも,それも面白そうだね,みたいな。
メタ視点を排除せよ!
ゲームの世界に生きる人々によるトーク番組の制作
そしていざゲーム内でラジオをやるということになって,実際のところ現実世界でのラジオとの違いみたいなものはありましたか?
宇多丸さん:
作り方としては,橋P(橋本氏)と作家の大野君がゲームの世界の設定を生かして練りに練ったリスナーからのメールを用意して,それをもとに僕と宇内さんがフリートークをするという感じだったので,これ自体はいつもと同じなんですよ。いつだってメールは初見で読んで話してますし,ゲームの中で起こったこととしては認識していない体だけは守りつつ。
ただ,実際のところ「龍が如く」シリーズは僕も宇内さんも遊んできているものだから,ついついメタ的な発言をしてしまって,それを後で削ったりはしましたね。
橋本氏:
最初はメタっぽいのが多すぎたんです。
宇多丸さん:
「神室町って,こういうところでこういうことがありますよね」みたいな匂わせが多すぎて。でも実際に橋Pがその録音を聴きながら「龍が如く7 光と闇の行方」(PC / PlayStation 5 / Xbox Series X|S / PlayStation 4 / Xbox One。以下,「龍が如く7」)をやってみたところ,僕らのメタ発言がノイズになっていると言われてしまって。
本当にここで暮らしているDJがいて,本当に神室町に行って感じたことだけをしゃべるべき,というディレクションがありました。
DD:
つまり感覚としては,宇多丸さんと宇内さんはゲームの世界に行きつつも,どこか俯瞰で見てしまっていた,と。
宇多丸さん:
これがまた複雑な話なんですけど,歌舞伎町も神室町も,伊勢佐木町も横浜・伊勢佐木異人町も,どっちも僕らは行ったことがあるんですよ。だから,「龍が如く」シリーズの世界に入り込んで,行ってる実感の話をするのはそんなに難しくなかったんです。あそこにあの店があるよねとか,映画館に行くときにあそこに寄るよねとか,あのメニューがあるよねとか。
DD:
では,「ノイズ」というのは具体的にどういうことだったんでしょう?
宇多丸さんと宇内アナがいて,このコーナーはこんな感じで,リスナーから届きそうなメールもあって……というセッティングができていれば,台本をかっちり作り込まなくてもラジオっぽい感じのトークが絶対にできるという感触は最初からあったんです。あとは,そのトーンをどうチューニングするか,という話なんですよ。
例えばこの回はゲーム内でこういう出来事があった日の放送です,という設定をどこまで説明するか。宇内が登場するサブストーリーの場合,なぜ彼女はそこにいたのか,とか。
宇多丸さん:
ロケで横浜に行ったときにご飯を食べに行こうと思ったら,ガラの悪い連中に絡まれたっていう話なんですけど,異人町のあの方向には飲食店がないということを,あくまで「そこに本当に行ったことがある人」の視点で話さないといけないんです。
橋本氏:
プレイヤーの視点で話すんじゃなくて,あの街を歩いている人の視点,つまり主人公として歩いている感じじゃなくて,モブとして歩いている感じでしゃべれば,ラジオっぽくなるという説明をしたところ,うまくいきました。
当初プレイヤー視線でのメタ的な話が多くて,それはそれで面白いんですけど,聴いているとゲームに入り込めずに現実に引き戻されるというか,さめちゃう感覚があったんです。それを「ノイズ」と表現しましたね。
宇多丸さん:
メタ視点って,どんなメディアでも危険なんですよ。さめさせる装置として機能することがあるので。
DD:
確かにゲーム内で番組を聴いたときのことを思い出すと,春日一番の目線にならないようにしていらっしゃいましたね。
宇多丸さん:
そこなんですよ。こっちは春日一番がこれまで何をしてきて,今何をしているのかは知らないはずの存在ですから。そこはあくまで,すっとぼけ続けないといけない。
でも最初に音源を聴いたときはマジで驚きましたよ。本当に「龍が如く8」の世界で街を歩いていた人がしゃべっているようなラジオにしか聞こえないんですよ。開発チームもみんなびっくりしていました。もっとびっくりしていたのは,この15分ぐらいの番組が10本もあることで。開発チームのみんなは,せいぜい2本ぐらいだと思っていたんです(笑)。
だけど10本もあるものだから,開発終盤はみんなこれを聴きながら,楽しくデバッグができたみたいですね。
DD:
ドンドコ島で一日分の作業をしながら聴くと,尺も含めてちょうどいい気がしたんですけど,ひょっとしてこれって……?
横山氏:
そこに関しては狙ってない(笑)。
橋本氏:
結果的にちょうど良かったというだけですね(笑)。
DD:
では横山さんが,このラジオに求めたものって何だったんですか?
横山氏:
「アトロク」のことは知っていても,じゃあゲーム内の番組としてどこまで何ができるのかなんて分からないわけですよ。ただ機能的な部分でいうと,プレイヤーをゲームに飽きさせないものが欲しいとは思っていました。
DD:
ほう?
というのも「龍が如く0 誓いの場所」(PC / PlayStation 4 / Xbox One / PlayStation 3)のとき,ゲームの舞台と同じ1980年代のヒット曲が入ったコンピレーションアルバムを販売して,これに付いている特典コードを使うと,ゲーム内のウォークマンでCDに入っている曲を再生できるようにしたことがあるんです。
ゲームってプレイ時間が長くなりがちな割に,本来“何かをしながら”には向いてないんですけど,ゲームをやりながら別の音楽を聴くとか,そういうのってけっこう楽しいし,何より間が持つんだなってことがそのときに分かりました。今回の企画もそういう狙いはあったんですけど……予想以上の仕上がりになったというのが正直な感想ですね。
橋本氏:
僕自身,ラジオに関しては多岐にわたるジャンルの番組を作ってきたので,大体のものは完成形が想像できるんですけど,今回に関しては想像がつかなかったですね。ゲームプレイの邪魔にならないようにするというのは,心掛けていましたが。
ただ一度,開発中のゲームを触らせてもらったときに,ハワイの街のクオリティとボリュームに腰が抜けてしまって,そのとき作っていた構成演出のままだと釣り合わない! やばい! と思ったんですよ。そこですでに録音していたトークを録り直したり,第3回でハワイのエピソードも入れたりしたんですけど,それはプレイヤーがハワイに着いたときに感じる解放感とか,そういった感覚に寄り添うエピソードが必要だろうと判断してのものです。
横山氏:
ゲームで章が進むごとに新しい回が追加される形で,ストーリーの内容にも沿っているんですけど,これってともすれば危険なんですよ。プレイヤーはいつその回を聴くのかが分からないですし,まとめて聴くこともあるでしょうし。
だから実装してみるまでは不安も大きかったです。3年という開発期間で,最後に納品された外部データがこれでしたし(笑)。
DD:
ちなみに過去にも外部データの納品が遅れたことなんかはあったんですか?
横山氏:
アーティストに依頼したオリジナルの楽曲が,かなりギリギリになるというのはありがちではあるんですけどね。
橋本氏:
いやあ,本当にお待たせしてしまって恐縮です。
でも普通,企業同士のコラボプロジェクトって,納期の急かし合いみたいになるのが普通なんですけど,そういうのがまったくなかったんです。この開発チームは器が大きいなぁと感動すらしました。
横山氏:
番組に出させてもらったこともあるし,この方達だったら何とかしてくれると信じてましたから。
橋本氏:
ありがとうございます!
この世に存在しない架空の映画のサントラを
コラボ番組のためだけに制作
DD:
ちなみにRAM RIDERさんは今回,番組内で流れる音楽の制作を担当したそうですが,どういった経緯でお話が来たんですか?
橋本さんとはこれまでもいろいろと仕事をさせてもらってきて,常日頃から「次は何をやろうか?」みたいな話をしているんです。その中で,実は「龍が如く」の新作でこういう話が……という形でオファーを受けました。
僕自身,第一作で神室町の入り口にあるドン・キホーテのビジュアルに衝撃を受けて以来,ずっと遊んできたシリーズなので二つ返事でやらせていただくことになったんです。
DD:
具体的にはどんな流れで制作を進めたんでしょう?
RAM RIDERさん:
最初に30曲分ぐらい,このパートにこういう音楽が欲しいという仕様書が届きました。それを一つ一つ準備しつつ,トークのデータが届いたらそこにはめて確認をしては直していくという流れだったんですが……。
DD:
ですが?
RAM RIDERさん:
「ムービーウォッチドラゴン」という映画批評のコーナーの音楽が,けっこう大変で。というのも,これは元々,本家「アトロク」の「ムービーウォッチメン」という看板コーナーのオマージュなんですね。
橋本氏:
でも番組で使っている曲をそのまま使うのは権利の問題があって難しいのもあり,そこも新規でお願いしたんです。
RAM RIDERさん:
なので,まずはあの曲をリライトするような感じで作りつつ,「ムービーウォッチメン!」のタイトルコールも僕がTBSラジオのステーションジングルを作ったときにお願いした方に来てもらって,「ムービーウォッチドラゴン!」というボイスであらためて収録して。これはいい感じに表現できかなと思います。
次に,本家では取り上げる映画のサントラをBGMとして使っているので,ムービーウォッチドラゴン内で宇多丸さんが批評する「シャーク・バカンス!」と「ライフ・オブ・シープ」いう架空の映画の音楽を作りました。
橋本氏:
この2つは「龍が如く7」のプレイスポット「名画座」で上映されている架空の作品なんです。
RAM RIDERさん:
「シャーク・バカンス!」では最初,「ジョーズ」のパロディみたいなトラックを作ったんです。ところがその後,収録された宇多丸さんによる「シャーク・バカンス!」評を聴いてみたら,「モンスターパニック映画といえば,『ジョーズ』とかいろいろありますけど」という話をしていて。
あ,ゲームの中でも「ジョーズ」という映画は実在するという設定だったら,「ジョーズ」のパロディじゃダメだと。それでコメディタッチも入ったB級モンスターパニック映画のサントラを一から書き直した,という流れでしたね。
宇多丸さん:
やっぱり,その微調整は必要かぁ。
RAM RIDERさん:
さっきの話題とも同じですけど,メタになるとノイズになってしまう大事な部分だったので。気付いちゃったらやらなきゃ気が済まないんですよね。納期はきつかったですけど(笑)。
橋本氏:
トークの収録,編集をして尺が決まらないと,BGMの尺も決められないので,RAMさんには一番時間的にも厳しい最後の作業をお願いする形になっちゃいました。
RAM RIDERさん:
でも楽しかったですよ。ゲームの仕事はやりたかったので,自分にとってもチャンスだと思って。
橋本氏:
この仕事はRAMさんじゃないとできないと思ってお願いしたんです。「アトロク」と「龍が如く」への理解度が高くて,納期もフレキシブルに対応してくれて。しかもLINEで細かい打ち合わせも頻繁にできるし,お互いに遠慮なくものを言い合える関係ということもあって。そのうえで,こちらの想像を越えてくるものを作ってくれるからありがたかったです。
横山氏:
分かりますよ。そういう人がいないと無理なことって多いんですよね。僕にとっては声優の中谷一博さんがそういう存在で,どんなイベントにも声をかけられるし,プライベートでも飲みに行くし。とくにイベントなんかだと,作品と現場への理解度が高いからこちらの意図もすぐに汲んでくれて。いつも助かってます。
橋本氏:
そういうことなんですよね。僕もRAMさんとはイベントなんかで顔を合わせるたびに,少しずつ仕事の話をしていたりと,そういう関係があったんで。
宇多丸さん:
投稿コーナーの「低み」も,オリジナル風のジングルを作ってくれて。
RAM RIDERさん:
あれは,「オリジナルの時点で選曲候補には挙がっていたんだけど,選ばれなかったほう」みたいなイメージで作りました。
横山氏:
すごいな。そんな細かい部分まで気を使ってくれていたんですね。
「神は細部に宿る」という言葉でいうところの,「細部」を作るんだ! という気持ちで取り組みました。ゲーム好きとして,こういう形でゲームに携わることができて,奥行きを作るお手伝いをさせてもらえたのが本当にうれしいですし,それもこれも「龍が如く」シリーズ自体の懐の深さがあってこそだと思います。
横山氏:
また機会があったら,何かお願いします。
RAM RIDERさん:
もちろんです。
DD:
ちょっとお話が逸れますが,サウンドつながりでいうとゲーム本編の音楽を担当された方々は,「龍が如く8」ではどんな苦労をされていました?
横山氏:
それで言うと,「龍が如く7」のときのほうが苦労はしていましたね。ジャンルがRPGに変わったことで,戦闘もアクションからコマンドバトルになって,そうなるとそれに合うサウンドってテンポ感からして違うんですよ。そこでいろいろなRPGを研究してました。
ただ,そのときにベースはできたので,「龍が如く8」ではさほど迷うこともなかった気がしますね。実はこれ,サウンドだけじゃなくてストーリーに関してもそうなんですけど。
DD:
ジャンルが変わるとストーリーの描き方も変わるが,それもまた「龍が如く7」の段階でベースはできていたということですね。
横山氏:
バトルに関しても,「龍が如く7」で足りなかった部分を改善するイメージで。今回,バトルも良くなったと好評なんですけど,突発的なイノベーションがあったわけではなく,トヨタ方式の「カイゼン」の成果です。
ラジオっぽさを生み出すために
嘘CMを3本制作
RAM RIDERさん:
そういえば宇多丸さん,架空の映画のレビューって台本はきっちり存在していたんですか?
宇多丸さん:
映画のあらすじと,2〜3個の裏設定みたいなものだけをもらいました。そこから,どうも評判が悪いらしいというところからふくらませて,普段のムービーウォッチメンと同じようにノートにみっちり台本を書いて話すという形で。
橋本氏:
一応,リスナーがその映画の感想を書いて送ってきたという体のメールは少し用意しました。
DD:
すげえ……。それであれだけしゃべれるんですね。
横山さんはシャークバカンスの映画評については,どう思われました?
横山氏:
いやぁ……そもそも,「龍が如く7」のときは,くだらなくて寝ちゃうという設定だったんですよ。いかにくだらなくてつまらなそうな映画なのかっていうところで,じゃあ「シャーク」と「バカンス」だね! ぐらいの。
元々,第一作から劇場前通りに架空の映画の看板なんかはあったんですけど,あれってデザイナーが自由に使える素材と適当な文言を組み合わせてでっちあげたものなんです。それを「龍が如く7」でプレイスポット化したんですけど,細かい設定に関しては本当に何も考えてませんでした。
宇多丸さん:
春日一番が映画を観ながらひと言感想をつぶやいたりしていたので,こっちも実際に映画を観たような錯覚はしていたんですよ。それが根っこにあったんですよね。
DD:
じゃあ実質,「シャーク・バカンス!」に命を吹き込んだのは宇多丸さんという。
宇多丸さん:
まあまあまあまあ。大体こういう感想のメールが来る映画のときは,それを受けて自分ならこういうことを言うかもなとか,きっとこういう事情があったんじゃないの,みたいな感じで話しますし。
橋本氏:
僕らの仕込みの中のポイントとしては,そのメールのリアリティを作り出すことだったんですよね。そこは作家の大野君と一緒に作ったんですが,実は大野君って「アトロク」の作家ではないんです。「龍が如く」が大好きな放送作家ということで依頼をして,彼には「アトロク」を聞き込んでもらって,「アトロク」に届きそうなメールを勉強してから作ってもらいました。
宇多丸さん:
リスナーのメールってけっこう,僕が前に使った言い回しが流用されていたりするんですよ。「ヒップホップ的な●●」とか。それで大体,リスナーのほうが辛らつだから,僕は少し諫めるようなことを言ったりね(笑)。
横山氏:
いやぁ……なんかに特化した才能が集結して,細部の中の細部に神が宿る感じですね。もう二度とこんなことはできないんじゃないかな。
DD:
実際,またこういうラジオをゲーム内で流してみたいという思いはありますか?
“ながら”でやれるゲームだと,ラジオはハマるっていうのは今回実感できました。でも,世の中は変わっていきますし,そのときの食い合わせのいいものを選ぶことになると思うんですよ。ただ,ここまでの話を聞いていると,じゃあまたラジオをやりましょうとなったとして,同じようなことができる人達はほかにはいないよなぁって(笑)。
そういう意味でちょっと残念なのは,この番組をゲーム内で楽しめるのは日本語音声だけなんですよね。じゃあ全部翻訳して字幕を入れて流したとして,それを海外の人に面白がってもらえるか? というと,それも違うでしょうし。
DD:
そうですよねぇ……。
作り手としては,全世界に向けてある程度同じように受け止めてもらいたいというような意識はあるんですか?
横山氏:
意識はあります。ただやっぱり「龍が如く」も「アトロク」も日本の文化圏で成り立っているものだから,これで世界中の人達に同じような面白さを提供できるかとなると……。やっぱりエリアによって歴史も違うし文化も違うので,なかなか難しいところではあるんですよね。
DD:
私の本業のプロレスでも,日本だとギリ許されるものがアメリカだとNGとか,そういうこともいろいろあるんですよ。もっとも私の場合はちょっと特殊ではあるんですが。
音楽やラジオの世界でもそういった,リスナーの文化圏ごとに異なる受け止められ方を考慮して,何かを変えなければいけないことなんかもあったりするんでしょうか?
宇多丸さん:
僕はもう,そこまで考えてはいないというか,自分では気にしないようにしています。そういうのを気にするのは,ほかの人の仕事だろう,と。
RAM RIDERさん:
僕の場合,自分のソロ活動に関しては自由にやるんですけど,アイドルや声優さんに楽曲提供をするときには,その人が過去にやってなさそうな楽曲をとりあえず提案してみますね。自分が関わるなら,その人にとっての新しいものを引き出したいなって。それが既存のファンにどう受け止められるかは,マネージメントさん側のジャッジだと思って割り切ってます。
ラジオは,より不特定多数の人が聞くメディアではあるんですよね。だからマスを狙うのはもちろんなんですけど,じゃあマスを狙うとは何か? ラジオだと,もう少し小さいコミュニティが対象だったりもするので,その中間をうまく狙って個性を出さないと聴いてももらえないという難しさはありますね。
そういう意味では,「龍が如く8」に「アトロク」を入れることについても,「アトロク」が好きな人もいれば,聴いたことのない人もいるわけで,そこのバランスには気を配りました。それこそ,コーナーの説明がまったくないと置いてけぼり感が出てしまうだろうし,かといって説明しすぎても……という。
宇多丸さん:
そういう意味じゃ,「低み」なんて,よくやったよね。
橋本氏:
あれは,ナンバが常に“ミスター低み”みたいな話をしているから,相性がいいと思ったんですよ。
宇多丸さん:
確かにそうなんだよねぇ,本当にちょうどいいチョイスで。
橋本氏:
「アトロク」のリスナーなら気付くと思うんですけど,ゲーム内で流れるコーナーの半分以上は「龍が如く8」のためだけに作っているんです。「スタミナン川柳」なんて最たるものなんですけど,日本のトークラジオの投稿コーナーっぽさに対する共通のイメージを再現したくて。
実際のラジオでも,フリートークで話題に出た商品が,翌週その企業から送られてきたり,そこからスポンサーになっていただいたりすることもありますし。そういう“あるある”みたいなものも入れています。
宇多丸さん:
そういうのもあって,すごくラジオっぽい仕上がりになってるんだよなぁ。
橋本氏:
付け加えると,ラジオCMも3つ入れてるんですよ。入れなくても成立するんですけど,よりラジオっぽさを出したかったんです。それに「龍が如く」シリーズは街中に実在する企業の看板やお店があることでリアリティを生んでいる側面もありますよね。それもあって,ラジオを流すなら嘘CMが必要だと思ったんです。
それを理解しいただけるであろう,名代 富士そばさん,すしざんまいさん,養老乃瀧さんにご協力いただきつつ,TBSラジオ内のいつもCMを作っているチームに社内で発注したんです。CM用の声優さんに依頼して,ベタベタのAMラジオのCMっぽいやつを作ってもらって。
横山氏:
すしざんまいさんは普段,ラジオCMなんてやってないでしょう? なのに,昔からやっているような仕上がりになっているからすごいですよね。
DD:
そもそも関わった皆さんの,この熱量がすごいですよ。
橋本氏:
でも実際にやってみて,もっとやれることはあると思っちゃいましたから(笑)。
宇多丸さん:
「龍が如く8」をプレイしながら聴いていると,全10回じゃ物足りなくなるんですよね。いくらでも遊べるゲームだから。あの話の続きはないのか! って。
横山氏:
まあでも,この間,「龍が如くスタジオ」の公式配信の「龍スタTV」に宇多丸さんと宇内さんに来ていただいたとき,番組冒頭の15分は追加コンテンツみたいな感じでやってもらえましたから。
橋本氏:
ゲーム内の最終回である第10回って,オフトーク回なんですよね。でも「龍スタTV」では,第9回の続きみたいなつもりで作ったので,ゲームをやりながらでも聴けるものになっていると思います。
DD:
そうやって「龍が如く8」の外側でも,「龍が如く8」の延長を現実世界で作り続けるっていうのは,かなりどうかしてますね(笑)。ということで,本日はありがとうございました。
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