プレイレポート
[TGS 2021]渋すぎるがあまりに濃いダンジョン探索RPG「DUNGEON ENCOUNTERS」は,コマンド選択型バトルの魅力とスリルが詰まっている
本作は,「FINAL FANTASY IV」で「アクティブ・タイム・バトル(ATB)」を考案し,「FINAL FANTASY V」「ファイナルファンタジータクティクス」「ファイナルファンタジーXII」のバトルデザインをした伊藤裕之氏が手掛ける,ダンジョン探索RPGだ。
はっきり言って,あまりに尖った新作であり,間違いなく万人向けではない。1980〜1990年代のRPGに似たプレイ感を楽しめるが,ゲームシステムやプレイのテンポは最新ゲームのものという,不思議な作品である。
グラフィックスはシンプルで,CG技術を駆使した美麗なカットシーンや,有名声優の名演があるわけでもない。しかし,ゲームシステムには,コンピューターRPGの根源的な面白さが詰め込まれている。「バトルシステムを咀嚼し,自分なりに最適解を見つけていく面白さ」「最適解の戦法だったはずが,状況のブレで崩れた時の恐怖」「そうしたピンチを自力で切り抜けた時の喜び」といった魅力を,存分に楽しめるのだ。
伊藤氏らしい,数字のやり取りの面白さを追求したゲームシステム,と書くと無味乾燥な字面になる。しかし,そこから生み出される,コマンド選択の一手一手の価値が重く,ギリギリのスリルが楽しめる戦いは,刺さる人には深く刺さるものだ。
“刺さる人”の例を挙げるなら,「1980〜1990年代にコンピューターRPGを遊んでいた人」「パラメータの1ポイント,その上下に一喜一憂できる人」「想像力が豊かで,シンプルなグラフィックスやフレーバーテキストからゲーム世界を妄想できる人」「Steamでインディーズゲームを漁り,ダンジョンクロウルものに心惹かれる人」だろうか。ビビっときた人は,Steamやニンテンドーeショップ,PlayStation Storeのカートに「DUNGEON ENCOUNTERS」を突っ込もう。SteamとNintendo Switchでは,間もなく予約受付がスタートするとのことだ。
“刺さる人”の条件には当てはまらないが,本作が気になる人に向けては,以下で詳しく掘り下げるので,ぜひ読んでほしい。
本作の舞台は,ダンジョンから出現する魔獣に襲われている,とある町だ。魔獣討伐隊が出撃するも成果はなく,ダンジョンに多くの戦士たちが消えた。そんな中,プレイヤーは戦士養成所「アカデミー」に残されたわずかな戦力を指揮して最大4人のパーティを編成し,ダンジョンへと挑むのだ。
「とある町」と述べたが,その町のマップは下の画像である。まったく町に見えないというか,意味不明だと思うが,システムを理解すると,ここが間違いなく「安全な町」であることに気付く。
本作のマップは非常にシンプルで,四角いマスの連なりに「01」とか「0A」といった白い数字や黒い数字が記されているだけ。まるで昔のゲーマーたちが方眼紙に書いたお手製マップのように見える。
白い数字は迷宮内のイベントだ。「01」は下り階段,「06」はHP回復,「14」は武器屋というように,それぞれの数字に固有のイベントが割り振られている。この番号があるマスに行くと,イベント(施設の利用なども含む)が発生するのだ。
黒い数字はモンスターの群れで,「01」は「ゴースト」と「ワイルドボー」,「06」は「スケルトン」と「エビルハウンド」など,数字に対応したモンスターが出現する。ダンジョンの奥に行くほど黒い数字も大きくなる。つまり,番号の大きなマスの敵は強い。
数字は16進数で,迷宮の奥に行くと,四角の連なりの中に「1A」とか「0F」といった数字が並ぶ。イベントやモンスターが16進数の数字で管理されているのを見ると,解析や裏技でゲームデータを直接覗いた時の不思議な感覚,現実とゲーム世界の狭間に立っているかのような興奮が蘇ってくる。
現代のゲームに慣れた人からすると面食らうマップ画面だと思うが,心配はご無用。ゲームに没入すると四角の連なりが迷宮に,数字が迷宮の施設やモンスターに見えてくる。黒数字の「20」がいると「マズイ!アンコウと鎧の男の群れだ!」と恐怖に怯え,白数字の「06」を見つければ「回復ポイントだ! ヤッター!!」と心底ホッとする。グラフィックスはシンプルだが,迷宮の恐怖が十二分に表現されているのだ。
バトルはコマンド選択式+ATBだ。システム的には,最近ピクセルリマスター版も発売されたATBの始祖「FINAL FANTASY IV」に近いが,HPの回復手段が限られており,モンスターからの一撃が重い。そして,独特の防御力システム(詳細は後述)が悲劇を生み出す。コマンド選択式RPGをプレイしていると,“敵をできるだけ少ない手順で倒せるよう,コマンドの選択を最適化していく”ことに魅力を感じる人も多いと思うが,そうした楽しみを味わえる仕組みなのだ。
バトルが始まると,時間経過に伴って敵味方の「ATBゲージ」が増加する。これが溜まった者から戦闘コマンドを選んで攻撃やアビリティといった行動を取れる。ATBゲージの増加速度は能力値や装備品で決まり,素早さの高い者や軽い装備をした者ほど先手を取りやすい。しかし,バトル開始時に敵味方のATBゲージがどれぐらい溜まっているかはランダムで,状況には揺らぎが発生する。
本作のバトルを特徴付けているのが,キャラクターと敵それぞれに用意された「防」「魔防」ゲージだ。武器攻撃と魔法攻撃に対するバリアのようなもので,まずこれを破壊しないとHPを減らせない(=敵を倒せない)。武器で殴ると「防」,魔法攻撃で「魔防」を減らすことができ,バリアを破壊した(値を0にした)後に攻撃することで,初めてHPにダメージを与えられるのだ。「物理攻撃には強いが,魔法に対する防御が0なので,魔法で攻めればすぐに倒せる」「物理攻撃と魔法攻撃のどちらにも強く,なかなか守りを崩せないがHPは1しかないので,崩した後は簡単に倒せる」というように,パラメータで魔物の個性が表現されている。
ここで面白いのが,「防」「魔防」による,本作独特の戦略性である。
「防」「魔防」は,それぞれ武器攻撃と魔法攻撃しか防げない。例えば,武器攻撃で「防」を0にしたが,「魔防」は残っているとしよう。ここで魔法攻撃しても,「魔防」が減るだけ。HPを減らすには武器攻撃が必要だ。“せっかく「防」を0にしても,次に行動できる仲間が両手に魔法を装備しているため,トドメを刺せない”なんてことが起こるわけだ。
また,いくら攻撃力が高くても,バリアを破壊した攻撃で,余ったダメージがHPに届くことはない。極端だが,攻撃力100万の武器で「防」の残量1の敵を叩いても,その攻撃は1を削るだけで,トドメは次の仲間に任せるしかない。コマンド選択を誤ると倒すのが遅れてしまい,敵からダメージを食らう可能性が高まる。HPの回復手段が限られているうえ,後述するように敵の攻撃が厄介で,全滅に対するペナルティががある本作では,一手早いか遅いかで大違いなのだ。
もちろん,味方の「防」「魔防」も同じ性質を持っているので,敵の行動時は連携がうまくいかないよう,祈ることになる。“攻撃されて「防」を0にされたが,続く敵が魔法を使ってきたので,残った「魔防」でしのぎ切ってギリギリ生き残った”というシチュエーションも珍しくない。これらのゲージは戦闘が終わると全回復するため,ちゃんと装備を整えていれば,強い敵に連戦連勝することも可能だ。
加えて,本作の武器や魔法はダメージが固定されているものが多い。例えば,「ダメージ値固定」となっている攻撃力40の武器や魔法は必ず40のダメージを与える。そのため,あと何手で倒せるかを簡単に予想できるぶん,しっかりとした計算が求められるわけだ。
一般的なRPGのようにランダムの振れ幅を持つ武器や魔法もあるが,乱数の不思議から期待したほどの値が出ない。そして,敵のランダム攻撃はなぜか大抵いい値を出す(……気がする)のが腹立たしい。ではランダムダメージの武器が使えないかというと,装備に必要な条件が緩いという大きなメリットがあり,これもまた悩ましい。
敵からできる限り攻撃を受けないよう,武器と魔法を使い分けて攻撃していくのは緊張感がある。敵味方のATBゲージを見比べ,味方の攻撃力と敵の「防」「魔防」ゲージを見比べて戦術を組み立てるのだが,封殺できれば気持ちいいし,コマンド選択をミスして敵に攻撃を許してしまうと悔しい。
効率よく魔物を倒す立ち回りを磨いていくことは,強くなるためにも重要だ。
そして強くなるには,良い装備が必要だ。防具の質は「防」「魔防」の値やATBゲージが増える速度に直結し,複数体の敵に同時攻撃できる武器もある。ゲーム序盤は,地上の店には在庫がほとんど残っていないため,敵を倒してドロップを狙わなければならない。毎回生きるか死ぬかの戦いをしていたのでは効率が悪い。より多くの数をこなすために効率の良い戦い方を編み出していくことになるだろう。
本作のバトルはテンポが良く,今回体験したPS4版では,マップの切り替えやバトルへの突入でロード時間が発生することはなかった。そのため,ドロップ狙いの戦いも楽しくなってくる。敵を倒す。違うフロアに行って敵を復活させる。戻ってきて敵を倒す。溜まったお金を見てニヤニヤする。敵を倒す。レベルが上がって良い装備が使えるようになる。敵を倒す。効率が良くなってニヤニヤする……と,ミニマルな繰り返しの気持ち良さは懐かしいRPGのそれだ。
グラフィックスこそシンプルだが,本作のバトルは心を揺さぶる。「仲間の連携がうまく決まって,ノーダメージで敵を倒せた!」「ああ,ちゃんと先を見越して『防』を削っておけば,1手早く敵を倒せたのに」「敵から『魔防』を0にされたけど,続く敵がなぜか物理攻撃をしてきたので助かった!」というように,ドキドキの連続だ。
バトルのグラフィックスもシンプルだが,想像力を刺激してくれる。例えば,美女モンスター・ラミアは「脳みそ吸い取り」なる技を使い,食らったキャラクターの顔グラフィックスがぐにゃりと歪む。また,手にチェーンソーを仕込んだデストロイヤーの「解体」や「破壊」は,顔グラフィックスがバラバラのモザイク状になる。キャラクターがどんなことをされているのか,直接描写がないだけに恐ろしい。この辺りは,筆者が思うに「FINAL FANTASY V」っぽい手法で,特に印象深いネオエクスデス戦のメッセージ「宇宙の 法則が 乱れる!」が頭をよぎる人も多いだろう。
細かなミスが積み重なってパーティが全滅してしまうと,キャラクターは迷宮のその座標に残る。もちろん戦闘不能となった彼らは自力で歩けない。地上に残ったキャラクターで新たにパーティを編成し,死体を回収しに行かなければならない。
キャラクターたちを満遍なく育てていれば回収も容易だが,そうでない場合は救出するためのメンバーの育成が必要だ。とはいえ,こうした育成は最初よりスムーズに運ぶ。どこにどんなイベントやモンスターがいるかは明らかになっており,迷宮のあちこちには地上からショートカットできるワープポイントもある。プレイヤーの側にノウハウという名の経験値が蓄積されており,効率よいプレイが可能になっているのである。筆者はテストプレイ時にあえなく全滅したが,意外にも「いつもと違うキャラクターをゼロから育成できる!」という喜びがあった。初回プレイと感覚が違うのが面白く感じられたのだ。
なお,すべてのキャラクターが倒されてしまった場合,ゲームオーバーとなって,いくつかの項目を引き継いで再出発となるとのこと。
ちなみに,先に「ダンジョンに多くの戦士たちが消えた」と述べたが,彼ら魔獣討伐隊のメンバーたちも,同じ方法で助け出せる。どの座標で戦闘不能に陥っているかは迷宮を進むと知るすべがあるので,自分で解き明かしていこう。先輩冒険者たちは,いずれも高いレベルを持っている強者たちなので,助け出せれば戦力になるはずだ。
キャラクターが背負う物語に関しては短いフレーバーテキストで触れられるのみだが,良く見るとドラマチックな物語や意外な人間関係があったりして,世界の広がりが感じられる。アカデミーの校長。伝説の戦士。獣人。大罪人。お掃除ロボ。なぜか死んだ弟と同じ眼差しをしている犬。雇い主に復讐するために武器を集め始めたが,いつの間にか目的が武器コレクションにすり替わった使用人。現実世界から迷い込んだゲーマー。猫型の生物(?)など,いずれも個性的で,想像のしがいがある。関係あるキャラクターを揃えてパーティを組みたくなる人も多いのではないだろうか。
本作は「数字のやり取りの面白さ」「最小限の描写からゲーム世界を想像する楽しさ」など,RPGらしい面白さに満ち満ちている。こうした要素は,形を変えて現代のRPGにも受け継がれているものであり,決して特異なものではない。当時を体験した人にはたまらないし,若い世代のプレイヤーにも,ハマる人は少なくないはずだ。
「町とダンジョンだけがある,シンプルなゲーム世界」「強いパーティで道を切り拓けば,後続パーティの育成がそれだけ容易になっていく」「パーティが全滅した場合は,死体を回収する救出隊を出さなければならない」といったように,本作のあちこちには「ウィザードリィ」を思わせる要素が散りばめられている。しかし,ゲームシステムはまったくの別物で,精神的続編でもオマージュでもない。「防」「魔防」のゲージや固定ダメージの装備が織りなす,一手でも早く敵を倒すスリルにフォーカスしたバトルシステムと,スピーディなゲーム展開は,明らかに現代的なものだ。
そうした意味で,本作は昔の手法を用いて当時を振り返るゲームではなく,コマンド選択型RPGの魅力とスリルを楽しめる,尖った新作である。コンピューターRPGの歴史,その積み重ねの上に作られた作品であり,こうしたゲームが老舗であるスクウェア・エニックスから出てきたことには,大きな意義があると筆者は感じている。
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CHARACTER DESIGN: Ryoma Ito
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