プレイレポート
カードとダイス,そしてゲームマスターの語り。アナログ感にこだわった異色のRPG「Voice of Cards ドラゴンの島」プレイレポート
本作は,公式に“脳内再生RPG”を謳い,ダイスとカード,そしてゲームマスターの語りといった,アナログゲームの雰囲気を色濃く漂わせた,異色のタイトルだ。クリエイティブディレクターにヨコオタロウ氏,音楽制作に岡部啓一氏,キャラクターデザインに藤坂公彦氏と,「ドラッグ オン ドラグーン」や「ニーア」シリーズを手がけたクリエイター達が開発に参加しており,個性的な作品になるのも納得である。そんな本作のプレイレポートをお届けしていこう。
できるだけネタバレは避けているが,新鮮な気持ちで遊びたい人はご注意を。
コマにダイス,ゲームマスターの語り。アナログ感にこだわった演出
本作の舞台となるのは,魔物と人が戦う,剣と魔法の世界だ。邪悪なドラゴンが復活してしまい,王家は討伐の戦士を募る。見事ドラゴンを討ち取った者には,永遠の栄誉と莫大な報酬が与えられるという。
主人公・ダスト(名前変更可能)は,勇者を自称するも金に敏感な,大物なのか俗物なのか分からない戦士だ。相棒である魔物のメルブール,そしてドラゴンを恨む魔術師のクロエといった仲間たちと共に,ドラゴン退治に旅立つ。彼らのライバルは,皆の尊敬を集める「白の教団」の勇者たち。品行方正で腕も立つ彼らは,ダストたちと正反対だ。果たして,どちらのパーティがドラゴンを倒すのだろうか?
本作最大の魅力と独自性は,ボードゲームやTRPG,ゲームブックなどのアナログ感が再現されているところにある。
例えば,マップは無数のカードで構成されており,その上にパーティを示すコマを移動させていく。カードは最初は裏向きに置かれているが,パーティが移動するにつれて周囲のカードは表向きにされ,街道や森,町といった地形が明らかになる。
このとき,カードがパラパラと一気にめくれるアナログ感が心地いい。これだけのカードを用意して並べ,コマの移動に合わせて表にするというのは本当のアナログだとかなりの手間だが,本作はデジタルゲームなので,そうしたことを考える必要はない。いわばアナログとデジタルのいいとこ取りの演出と言える。
そして,イベントシーンでのキャラクターたちや,そこで選ぶ選択肢までもがカードで表現されているのもユニークだ。“単にメッセージウインドウがカードの体裁になっている”だけでなく,ボタンを長押しして選択肢のカードを選ぶとき,ちょっとずつ押すと中身がちらりと見えるなど,カードっぽさを想起させる仕掛けがあるのも面白い。
イベントシーンでは,キャラクターたちを表現したカードが,手で動かされているような動きをして,感情が表現される。キャラクターが喜ぶ時はカードが踊るようにぴょいぴょいと動き,謝るときは頭を下げるかのようにひょいとカードが傾くといった具合で,ちょっとした動作が可愛らしい。
貧しさから薬を盗んだ女を見逃すか否か。選択肢もカードで表現される |
画面中央部下の井戸から,水をガブ飲みするメルブール。カードは手で動かしているように動く |
魔物との遭遇時には,小箱やロウソク,金貨の袋が置かれた古びた木製ボードの上に,キャラクターやモンスター,スキルを表すカードがズラリと並べられた,雰囲気ある空間で戦闘が行われる。キャラクターやスキルをカードで表現すること自体は珍しくないが,戦闘に伴う各種のエフェクトもアナログ感にこだわっているところがポイントだ。
例えば,毒や凍結といった状態異常が起これば,カードに「Poison」「Freeze」といったシールが貼られる。また,キャラクターが魔物に攻撃するときも,カードは手で動かしたかのように動く。先述したイベントシーンと同様,その動きにはどこか温かみと愛嬌が感じられる。
キャラクターが強力なスキルを使うときに必要なリソース「ジェム」も宝石で表現されており,小箱の中にころり,ころりと音を立てて配られていく。
探索や戦闘中,各種の判定時は,6面体や10面体のダイスを,コントローラの決定ボタンを押すことで“振る”。思わずボードゲームを遊ぶ時のように「良い目が出ますように……!」と念じてしまうことだろう。普通のデジタルゲームでも,こうした判定は内部で自動的に行われているが,本作ではダイスを3Dモデルとして用意し,これを“振る”というアナログゲームのプロセスで再現しており,感情移入しやすい。
アナログゲームらしさへのこだわりの最たるものが,声優の安元洋貴さん演じるゲームマスター(GM)の語りだろう。GMとは,TRPGでは必須となる,情景描写から戦闘の処理までをこなす,ゲームの神にして司会進行役だ。
ヨコオ氏によれば,本作のコンセプトはオタクのGMと遊ぶことであり,「安元さんがGMとして,付き合って3年目の彼女とテーブルトークRPGをやっている」感覚を目指したという(関連記事)。
本作のGMの語り口は,プロの声優が演じているのに,極めて平坦だ。これは,「オタクのGMが声優のように演技できるはずはない」ということで,あえてこうしているそうだ。キャラクターが怒っていようと,笑っていようと,男だろうと女だろうと関係なしの平坦な読み上げは,実にそれっぽい。特に,黒ずくめの美女・クロエや,露出度高めの美少女・リディといった女性キャラクターたちの台詞が,安元さんの低音系イケボで平坦に読み上げられるギャップと,これを聞くときのちょっとした気恥ずかしさに,友達と一緒にTRPGを遊んでいた記憶が溢れ出す。合間合間に入るギャグシーンがちょっとベタなところも,オタクGMが一生懸命に考えたものだと思うと微笑ましく感じられる。
GMがナレーターに徹するだけではないのもポイントだ。戦闘時にダイスでいい目を出せば「ほお……」と感心の声を漏らしたり,難しいキャラクターの名前を言い間違えたり,洞窟の奥で任務を達成すると「(歩いて帰るより)脱出(コマンド)を選ぶ方が早いですよ」と助言をくれたりする。システムメッセージを読み上げる神の声というよりは,一緒にゲームを楽しんでいる友達のようだ。特にヘッドフォンでプレイすると臨場感が強く「これ,もしかすると安元GMに萌えるゲームなんじゃないのか」と感じてしまうほどである。
魔物の研究をしている男・コポラスキュイーブル。かなり長い名前で,写真では分からないがGMも言い間違えている |
洞窟の奥で任務達成。わざわざ歩かなくても,「脱出」コマンドを選ぶと即座に戻れると教えてくれる |
ゲームブック風のイベントや,ターン制バトルに懐かしさが漂う
システム的な部分にも触れておこう。前述のとおり,プレイヤーは自称勇者・ダストの一行を操作し,ドラゴンを倒すために探索や戦闘を行う。マップのあちこちには,ゲームブック風のイベントが存在し,例えば「野原に望遠鏡が落ちていて,覗くと遠くに魔物のような姿が見える。走って近づくか,ゆっくり近づくか,それとも迂回するか」といった感じで,探索のアクセントとなってくれる。イベントの中には複数回起こるものもあり,答えを知っていれば最適解を選べるあたりもゲームブックっぽい。
イベントはゲームブック風。このイベントでは,望遠鏡を覗くと何やら刃物のようなものが見える。どうすべきか? |
イベントの中には,ダイスで出た目で結果が変化するものも |
戦闘はランダムエンカウントのターン制だ。キャラクターのスキルがカードで表されてはいるが,無数のカードからデッキを組んでギリギリの勝利を目指していくトレーディングカードゲーム的なものではなく,プレイフィール自体はコマンド選択式に近い。手持ちのジェムの数を睨みつつ,「ジェムを使うが強力なスキル」と「何も消費しないがそこそこの効果のスキル」を使い分けて戦っていく。経験値が溜まるとキャラクターが強くなり,新たなスキルを覚えるが,戦闘に持っていけるスキルの枠には限りがあるため,うまく組み合わせていくのが面白い。
スキルにエフェクトが付いているあたりは,デジタルゲームならでは |
「マッスルチョップ」は,チョップするかのようにカードの角で敵にアタック。カードの道具感にこだわった動きも面白い |
物語は,金のためにドラゴンを追うダスト一行の冒険を描くもので,いろいろなところに盛り込まれた笑いが場を和ませる。中には「NPCが同じ台詞しかしゃべらないのを茶化す」といった,初期のコンピュータRPGの雰囲気を今に伝えるネタもあり,当時を知る人には懐かしく感じられるだろう。どのような結末を迎えるかについては,ぜひ自分の目で確かめてほしい。
プレイ中に特定の条件を満たすと,NPCやモンスターについて語るカードの“裏面”も読めるようになる(「ニーア」シリーズの経験者にはウェポンストーリーっぽいもの,とと言えば伝わりやすいだろうか)。端から見ているだけでは分からない真の姿,文字通り“裏面”を見られるというわけで,そのギャップにゾッとしたり驚いたりすることだろう。
ダストは金に汚く,新しい仲間を迎える時も賞金の分け前の心配ばかりしている |
洞窟の奥で出会った男は,クロエとそっくりの服装をしている。果たして彼らの関係は? |
「雰囲気溢れる小道具を用いてTRPGやカードゲームを楽しみたい」というのは,アナログゲーマーの夢であるが,本作は小道具を用意したり並べたり片付けたりする必要なく,そんな夢の雰囲気を味わわせてくれる。
GMの語りが醸し出す,独特のTRPG感も面白い。プレイヤーがアドリブで行動できないため,厳密にはゲームブックに近いが,語りがプレイヤーの想像力を刺激してくれる。平坦な語りから頭の中には情景が浮かび,ダストたちも活き活きとしゃべり始めるのだから不思議なものだ。
こうしたアナログ感が楽しめる人であれば,“刺さる”ゲームなのは間違いないので,ぜひプレイしてもらいたい。
また,本作をプレイしてみて,TRPGという遊びの贅沢さに改めて気づかされた。なにしろ,GMと複数のプレイヤーが時間を合わせて同席し,信頼関係の元「ゲーム(セッション)をより良いものにしよう」と協力していくのだから,スケジュール的にも人間関係的にも,そうそうできるものではない。現在TRPGを遊べる環境にある人は,これを大事にしてほしい。
同時に,こうした難しさをコンピュータが肩代わりしてくれることのありがたさも再認識した。できることなら,本作をシリーズ化して,違ったシナリオも遊ばせてもらいたいところだ。
「Voice of Cards ドラゴンの島」公式サイト
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