業界動向
SHIFT UPのIPOに向けた記者会見をレポート。積極的なIP拡大を計画し,約500億円規模の資金調達へ
2024年6月25日,SHIFT UPはIPO(新規公開株式)に向けた記者会見を韓国の汝矣島(ヨイド)で開催し,上場後の事業戦略やビジョンを発表した。発表詳細を記しておこう。
SHIFT UPの売上高は,2022年の約661億ウォン(約75億円)から2023年の約1686億ウォン(約193億円)へと1年で約155%の成長を記録している。EBITDAマージンも2023年には67%(!)を記録し,大変良好な成果を示している。
「勝利の女神:NIKKE」(PC / Android / iOS)がしっかりと売上を支えており,「Stellar Blade」(PS5)の売上も右肩上がりが予想されるため,今後は積極的にIP拡大に取り組む計画だ。
会社の総公募株式数は725万株で,すべて新株であり,1株当たりの公募希望価格範囲は4万7000ウォン〜6万ウォン(約5400円〜6900円)。公募規模は,公募価格範囲上限基準で4350億ウォン(約500億円)である。
6月27日までに機関投資家の需要予測を通じて公募価格を確定し,7月2日と3日に一般投資家の申込みを行い,7月中に上場する予定だ。
公募を通じて得られる資金は,「NIKKE」と「Stellar Blade」などの既存IPの強化と拡大,現在開発中の「Project Witches」などの新作開発とゲーム開発インフラ強化などに投入し,持続的な成長動力を確保する計画だという。
SHIFT UPは7月中の上場を目指す。「NIKKE」のサービス地域拡大やPC版「Stellar Blade」の展開など,今後のビジョンが明らかに
SHIFT UPは2024年6月25日,IPOに向けた記者会見を韓国で開催し,上場後の事業戦略やビジョンを発表した。会見に出席した同社CEOのキム・ヒョンテ氏は,今回のIPOで調達する資金を元に,「NIKKE」「Stellar Blade」ら既存IPの強化を図るほか,新規プロジェクト「Project Witches」の開発を進めるという。
本格的な内容紹介に先立ち,SHIFT UPのキム・ヒョンテ代表は「SHIFT UPは,開発者中心の企業文化を基に開発効率を高め,市場に高品質のゲームを迅速に提供している。上場後,ゲーム開発インフラなどの開発能力を強化して会社の競争力を高め,これを基盤に“意図された成功”を継続していける会社に成長させたい」と述べた。
「NIKKE」は,TPSゲームと収集型RPGの要素をサブカルチャージャンルと融合させたゲームで,高品質のグラフィックスとストーリーライン,定期的な大規模コンテンツアップデートで人気を博している。とくに,アジア圏と北米市場で特に良い成果を示している。
「Stellar Blade」は,PS5プラットフォームで発売されたアクションアドベンチャーゲームで,ダイナミックなプレイと高品質の3Dグラフィックスに重点を置いたゲームだ。米国,英国,カナダ,日本など8か国で販売本数1位を記録し,その作品性が認められている。
そんなSHIFT UPは,投資核心要素を3つ掲げている。
まず最初は,「NIKKE」や「Stellar Blade」などゲームIPだ。PLC(プロダクトライフサイクル)が初期段階であるため,今後も持続的な成長が可能なIPと言える。そのような観点から,今後はフランチャイズIPとして愛されるようになるだろうという見解を示した。
そのために,安定的なコンテンツアップデートを行う計画だ。「NIKKE」は,コラボと2周年記念アップデートを行い,新規ユーザーの流入と継続率増加を目標にしており,サービス地域拡大も行う。
一方の「Stellar Blade」は,新しいフォトモードとキャラクタースキン,IPコラボ,DLCをリリースする予定だ。また,プラットフォームをPCにも拡大し,シークレット(続編)の発売を通じて,グローバルフランチャイズIPとしての価値を強化する計画だ。
2点目は,プラットフォームを網羅する開発力だ。特定の国やプラットフォームではなく,市場全体をターゲットにしてゲームを開発している。モバイルゲームをPCプラットフォームに拡大し,成果の上向きに取り組む計画であり,これは「NIKKE」を通じてすでに検証されている。さらに「Stellar Blade」によって,AAA級コンソールゲームを開発する能力も備えている。
3つめは,開発者のスキルだ。キム・ヒョンテ代表は言わずもがな,「NIKKE」のユ・ヒョンソク ディレクター,「Stellar Blade」のイ・ドンギ テクニカルディレクター,「Project Witches」のチ・ヒョグン アートディレクターなどの優秀な開発者を採用して揃えている。それだけでなく開発者中心の企業文化を作り,継続的に最高の開発陣を揃えている。
そして次回作から,SHIFT UPならではの“差別化されたAI技術”を使っていく予定だ。これにより開発効率を高め,制作過程を迅速化するという方針だ。コンセプトの段階から事前制作段階を経て制作段階とポスト・プロダクション段階まで各開発過程を最適化し,高品質のゲームを低コストで,迅速なスピードで市場に投入する計画だ。
以下,会場で行われた質疑応答をまとめておこう。
――IPO後は「Project Witches」の発売まで,特に予定がないようですが,何か計画はありますか?
ミン・ギョンリブ CSO:
2つのIPが,多くのポテンシャルを持っていると思っている。特定の時点でイベントや計画を明らかにするのは難しいが,IPとしての収益創出の可能性が多いため,この部分に注目してほしい。
――AIを強調していましたが,ユーザーは好意的に見ていないという傾向もあります。具体的にどのように開発に適用するんでしょうか。
キム・ヒョンテ CEO:
AIは,ユーザーに向けての成果物を作るわけではない。開発の中間段階までの効率を,図ることになる。
ミン・ギョンリブ CSO:
「デスティニーチャイルド」や「NIKKE」,「Stellar Blade」には,AIで作った成果物は何もありません。それはまだ研究過程で,制作工程上で効率的に稼働できる部分を探している。製品ではなく,開発者の観点から効率的な部分を探していると思ってほしい。
――「Stellar Blade」のPC版はいつ頃発売ですか?
キム・ヒョンテ CEO:
検討中の事案であり,契約関係があるためにまだ公開できません。
――「Stellar Blade」が成功を収めたが,悔やんでいる点や修正すべき点はありますか?
キム・ヒョンテ CEO:
「Stellar Blade」は,収益の最大化を目標としたものではなく,ワールドワイドでのユーザーファンダムを形成する過程で,そのブランディングを確実にするためのハイバリューポジションのIP製作が目標だった。これは達成できたと思っている。
小額決済など,様々な面でユーザーが拒否感を持つような要素を少なくしていったが,ユーザーが納得できる範囲で反映する予定なので,すぐには反映されないだろう。シナリオやスクリプトのクオリティ,翻訳に関する問題は,クオリティをもっと強化して次回作に反映させるために努力するつもりだ。
――上場で比較したところが「スクウェア・エニックス」と「KADOKAWA」だったが,歴史が古いIPで恐竜にすぎない。比較する対象としては正しいんでしょうか?
IPOの準備過程で,比較企業の選定については多くの議論をしました。各社特徴が異なるため,似たような会社を探すために深い議論を行いましたが,ゲームジャンルの類似性でアプローチし,最も近い会社を見つけるために努力しました。
――IPの拡張による追加売上計画は?
ミン・ギョンリブ CSO:
2つのIPは非常に高いポテンシャルを持っていて,多くのユーザーから愛されています。今はまだ初期段階なので,さまざまなパートナーと事業機会を模索しています。
――国別の計画はどうなってますか?
ミン・ギョンリブ CSO:
私たちは,特定の国やユーザーをターゲットにはしていませんが,ゲームごとに成績が異なるのは事実です。目標は,国やユーザーの傾向を超越して愛されるものを作ることです。
――企業価値が3兆ウォン(約3438億円)以上と予測されているが,何か感想はありますか?
開発中心の会社としての,アイデンティティを失わないことが目標です。ほかの会社は,上場後に会社を大きくしようとするが,私たちは確実に成功できるプロジェクトを慎重に作るのが目標です。
またIPOを通じて,良い開発者を獲得することも目標です。実力のある開発者が開発するということが一番重要だからです。初心を失わないようにしたいです。
――「Stellar Blade」の,有料DLCの発売計画は?
キム・ヒョンテ CEO:
ユーザーが,追加で何かを購入しなくても楽しめることを目標に制作されたゲームです。しかし時間が経過して外部コラボを行うときは,有料でリリースされる可能性が高いでしょう。
――AIによる開発の効率化は,繰り返し作業を減らすことに注力しているんですか?
ミン・ギョンリブ CSO:
ゲーム制作の工程では反復作業が多いのは事実ですし,そのような部分を減らすことに重点を置いています。
――自社パブリッシングの計画はないのか?
ユ・ジュンソク CBO:
最高のゲームを制作し,パートナーにそれを提供することに集中したい。中長期的には開発に集中し,長期的に見ればパブリッシングの能力を備えていくつもりだ。
しかしそれは今すぐの計画ではなく,最高のパートナーと協業して,インサイトと能力を備え,今後出す新作が最高の効果を発揮するために自社パブリッシングが必要であれば進めることになるでしょう。
――需要予測を長くしてきたが,反応はどうでしたか?
アン・ジェウ CFO:
海外で多くの関心を持たれていますが,詳細な内容は公開できません。
――金融監督院の訂正要請を受けて訂正をしましたね。
訂正は2回行われましたが,多くの箇所が訂正されたわけではありません。投資家保護のために,リスク要素を追加する方向の修正が行われました。
――「デスティニーチャイルド」のファンダムがまだいると思いますが,コラボや続編の計画などで再会できるようなことはあるだろうか?
キム・ヒョンテ CEO:
「Stellar Blade」と「NIKKE」のIPは,お互いに肯定的なシナジーを出す機会を検討してりうので,結果物を見せることができそうです。
――Tencentが35%の主要株主だが,それを不安がる投資家もいます。
ミン・ギョンリブ CSO:
多くの持分を保有していることと,売却の可能性に対して不安を感じるかもしれません。しかし,経営はTencentと関係なく独立して行われており,株主の利益を最優先にしています。
Tencentとは非常に友好的な関係であって,相互補完的な関係です。今後,良好なパートナーシップを継続していくことになるし,関係が維持される限り,長く続くのではないかと思っています。
――中長期的な株主還元や自社株買いを構想しているか?
ミン・ギョンリブ CSO:
上場後,上場がうまく終われば,株主価値の最大化のために真剣に検討する予定です。
アン・ジェウ CFO:
上場直後に株主構成が変わり,株価の流れが安定したら策定する計画です。その重要性は認識しており,一定期間経過後,株主還元政策のロードマップを公開します。(著者:パク・サンボム,ザン・ヨングォン)
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