企画記事
「ゼルダの伝説 TotK」の“おきあがりこぼし”実験レポート。リアルさと不思議さが同居した動きをするギアの正体とは?
主人公のリンクが持つ特殊能力「ウルトラハンド」や「スクラビルド」などで,プレイヤーの創造力が存分に活かせるゲームということもあり,今も飽きることなくプレーしている人は多いだろう。
中でもユニークなのが「ゾナウギア」だ。単体では役立たないものもあるが,ウルトラハンドやスクラビルドで別の物体と組み合わせることで,さまざまな機能を実現できる。水に浮かぶ木の板に扇風機を取り付けて船のように移動したり,動力付きのタイヤを組み合わせた車やバイクで悪路を走破したり,盾に取り付けたロケットで空を飛んだりといったこともできてしまうのだ。
正直に言うと,筆者は非常に画面酔いしやすく,画面が目まぐるしく動くゲームはまずプレイできない。そのため,自分で遊ぶことはしていなかったのだが,ゾナウギアを使ったプレイをいくつか見せてもらったところ,非常に興味が沸いてきた。
とくに面白いと思ったのは,ゲーム内の世界(ハイラル)でのみ通用する,通常の物理法則とは異なった現象だ。例えば,帆を張った台車の上に乗り,帆に向かって団扇で仰いだ場合を考えてみよう。現実世界では台車はほぼ動かないが,ハイラルでは台車が動き,仰いだ方向へと走り出す。
この,現実から微妙にずれている物理法則と,特殊な機能を持つゾナウギアを組み合わせると,思いもよらない動きが作れるのではないか,と考えるのは当然だろう。実際,ゾナウギアを使ったさまざまなものが開発され,ブログやSNSなどで多数公開されている。
これらを真似するだけでも十分楽しめるが,自分で考え,試行錯誤しながら作ったほうが,完成したときの喜びは大きく,ゲーム自体もより面白く感じられるはず。
そこで,ゾナウギアの特性を知るために実験・観察を行い,どんな特性があるのかを調べてみようと思ったが,ゾナウギアの種類は多く,組み合わせになると無限にも思えるほどだ。
そこで,1つのゾナウギアに対象を絞り,これについて詳しく調べてみることにした。
そのターゲットにしたのが,「おきあがりこぼし」だ。名前の通り,起動すると起き上がるだけのシンプルな人形だが,使い方によっては「なんでそんな動きになるの?」という疑問が湧くほど不思議なギアだ。
すぐに3D酔いしてしまう筆者の代わりに,担当編集者にプレイしてもらいながらいろいろと調べてみたので,本稿を参考に,ぜひ自分だけの使い方を見つけてほしい。
おきあがりこぼしとは?
おきあがりこぼしがよく使われている用途が,「カタパルト」だろう。棒状の素材と組み合わせ,「垂直に立ち上がる」力を利用して,リンクやほかの対象物をブン投げるというシンプルなものだ。
動作原理としては,テコに近い。力点の小さな動きを,遠い作用点の大きな動きにし,その移動量で遠くへと投げ出すわけだ。
もうひとつよく使われるのが,姿勢制御だ。おきあがりこぼしには「垂直に立ち上がる」だけでなく,「垂直になり続ける」性質もあり,これに注目したもの。タイヤを使ったバイク,扇風機を使ったエアロバイクなど,操作性や安定性に若干不安があるものでも,制御しやすくなる。
動作のイメージは,揺れを小さくするスタビライザーやジャイロなどに近い。
このように,おきあがりこぼしは「垂直に立ち上がる時の力」「垂直になり続ける性質」という2つの特徴があるが,当然ながらこの動作は,現実の世界と大きく違っている。「おきあがりこぼし」という名前の印象のまま使うと,期待通りの動作にならないことも多いのだ。
そこで,おきあがりこぼしの動作や性質を細かく分析し,どのような特性があるのかを改めて探ってみた。
どんな原理で動いているのか?
まずはひとつめの特徴である「垂直に立ち上がる時の力」について考えてみよう。
現実世界のおきあがりこぼしは,半球の底面に重りが入っており,重力の力で起き上がる。これは,本体の大部分がスカスカで,重心がかなり低くなっているからこその動きだ。そのため,上部に重量のある棒などを付けてしまうと重心が高くなり,起き上がれなくなる。
これに対してゾナウギアのおきあがりこぼしは,頭を指で引き起こすような動きとなるのが大きな違い。テコの原理に当てはめてみると,底面が支点,頭が力点と考えるのが分かりやすい。上部に棒を付けても,引き起こす力が強ければそのまま起こすことができる。この力がかなり強く設定されているため,カタパルトのように物体を投げることもできるわけだ。
もちろん,どんなものでも持ち上げられるわけではない。重くなれば起き上がっても動きがゆっくりで投げられないし,さらに重ければ,そもそも満足に持ち上がらない。
試しに岩を棒の端に固定し,逆端におきあがりこぼしを付けてみたところ,なんとか持ち上げられたが,岩を3つに増やしてみたところ,いったんは垂直近くまでいくものの,重さに耐えきれず傾いてしまった。
これが,「垂直に立ち上がる時の力」の基本的な動きとなる。
さて,ここからが実験だ。まずはこの引き起こす力を変えることができるのか,という部分を考えてみよう。
引き起こす力は変えられるか
重たいものが持ち上げられないのであれば,引き起こす力を強くすればいい。最もシンプルで効果的な解決方法だと思われるのが,使用するおきあがりこぼしの数を増やすことだ。
ここで少し悩むのが,どう数を増やすかという問題だ。縦に積み重ねて直列にするのと,横に並べて並列にするのとでは,力の強さが変わったりしないだろうか。
まずは直列から試してみよう。試すといってもシンプルで,2段に重ねたおきあがりこぼしの上に岩を3つ固定した棒を付けただけだ。
予想通り力が増強され,ほぼ垂直にまで持ち上がってくれた。続いて並列を試してみよう。これは,おきあがりこぼしの横に,もう1つおきあがりこぼしを固定する方法。
本来ならば2個並べたおきあがりこぼしの両方に棒を固定すべきだが,それができなかったので,もしかすると力が伝わらないのではないか……と思いつつ試してみた。
結果は見ての通りで,並列でも直列と同様に,何の問題もなく持ち上げることができた。固定する位置に関係なく,力は増強されると考えていいだろう。
位置に関係ないということは,棒の下側ではなく,上側に付けても持ち上がるだろうか。
試しに上側に2つ,おきあがりこぼしを固定してみたところ,問題なく持ち上がってくれた。それならばと,上下に1つずつに分けて固定してみたが,やはりこちらも問題なく持ち上がった。
力が分散すると,ウルトラハンドによる固定が外れてしまうかなとも思ったのだが,そこまでシビアではないようだ。取り付ける位置はあまり関係なく,力の向きさえそろっていれば,縦横どちらでも力が増強されると考えていいだろう。
カタパルトの投射距離を伸ばしたい場合など,おきあがりこぼしの力を強めたいときは,このことに注意して増強すると効率的だ。
なるほどなーと感心しながら,ふと気になり,上側1つだけにして起動してもらったところ……なんと持ち上がってしまった。
取り付ける位置で力の強さが変わるのかとしばらく悩んだが,よく考えてみると,支点から作用点までの距離が変わっていることに気づいた。下側に付けた場合の作用点までの距離は,起き上がりこぼしの底から岩を固定しているところまで。これに対し上側に付けた場合は,棒の下端から岩を固定していることころまでと,おきあがりこぼしの高さぶんだけ短くなっている。
現実世界の物理法則を基準とするなら,この長さの変化で持ち上げられるようになったと考える方が自然だろう。
逆向きに取り付けると打ち消し合うのか
向きを揃えれば力が増強されるということは,逆向きにすると打ち消し合うのかが気になるところ。試しに棒の両端に逆向きに取り付けてみたところ,どちらの方向にも持ち上がらず,予想通り打ち消し合っているように見えた。
面白いのは,この状態で岩の上に載せてシーソーのようにすると,どちらに傾くでもなく水平になろうとしたことだ。支える位置をずらしても,常に水平になろううとする。どうも打ち消し合っているのではなく,お互い持ち上げようとした結果,双方の力が拮抗して水平になろうとしているようなのだ。
それならばと,両端に1つずつではなく,片方を2つにしてみた結果がコレだ。
2つ付けた方の力が強くなるため,微妙な角度で持ち上がった。打ち消し合うのであれば垂直に立ち上がるはずなので,やはり打ち消し合っていない。
面白いのは,棒自体は水平になるものの,回転軸方向にはこれといった力がかからないことだ。
両端に起き上がりこぼしを向かい合わせに付け,これに小さなタイヤを組み合わせると,そのままでは転倒してしまう。ゾナウギアを起動しても,ひっくり返ったままタイヤが回転するだけだが,小さなタイヤを下にして置き直してやると,そのままの姿勢で走り出す。
なお,おきあがりこぼしを付けた棒はかなり重たく,小さなタイヤ1つだとまともに動かなかったため,2つに増やして試している。
取り付ける物体の長さで力が変わるか
いろいろといじっているのを見て気になったのは,棒の“底面”と“側面”それぞれにおきあがりこぼしを取り付けた場合,必ず底面に取り付けたおきあがりこぼしが下になること。側面に2つ取り付けても,底面にあるほうが下になるのだ。
2つ付けた方が力が強いため下になるかと思うのだが,実際はそうならない。おきあがりこぼしを起動したとき,上(地面と垂直方向)に長くなる方が,力が強くなるという仮説が考えられる。
そこで,同じ板を2枚用意し,短辺,長辺におきあがりこぼしを取り付け,水に浮かべる実験をしてみた。浮力は水を押しのけた体積に比例する。つまり,長さで力が変わるのであれば,短辺に取り付けた方がより深く沈むと予想したわけだ。
結果は見ての通りで,どちらの辺に取り付けた場合でも,板が約半分沈んでいる。つまり浮力は同じ。取り付ける物体の長さでは,力が変わらないということになる。
ではなぜ,長い方が下になるのだろうか。思いつくのは,おきあがりこぼしの力は角度が水平に近いほど強く,垂直に近づくにつれ弱くなっていくのではないか,という仮説だ。
これを検証する方法が思いつかなかったため仮説止まりとなっているが,何かいい方法があれば確認してみたい。
「垂直になり続ける性質」の面白さ
動きとしては同じだが,現象として異なるものに見えるのが,「垂直になり続ける性質」。垂直に立ち上がる時の力を利用するのではなく,姿勢制御に利用しようというのがこの性質を利用したものだ。
カタパルトでは垂直に立ち上がる時の力を利用するため,棒を縦に取り付けたが,これを横に取り付けてみると,垂直になり続ける性質が視覚的によくわかる。
ちょっとリーゼントっぽくなっているが,こんな感じに重力に逆らって棒を支持できるわけだ。ただし,これは重力の影響を受けていないのではなく,持ち上げる力が異常に強いだけ。試しに,同じ棒を4本ほどつないで試してみると,棒は水平ではなく明らかに傾いた。
ただ,よく見ると棒は斜めになっているものの,おきあがりこぼし自体は垂直近くにまで立ち上がっているように見える。どうやら,重力に負けているのはおきあがりこぼしではなく,接着面かもしれない。
いずれにせよ,通常では明らかにバランスを崩してしまうだろう偏った重心位置でも,平然と逆らって垂直近くにまで立ち上がるというのがわかった。
面白いのは,この垂直になり続ける性質が自重にも勝てること。どういうことかというと,先の棒を横に付けたおきあがりこぼしを崖に置くと,落下せずに引っかかるのだ。
おきあがりこぼしの自重よりも,垂直になろうとする力の方が強く,結果,こんなことができてしまっている。なお,棒の長さを伸ばしていくと,さすがに重力に逆らえなくなってくる。試しに,長めの棒2本を取り付け,箱に引っ掛けてみたのがこれだ。
見ての通り,おきあがりこぼしがある方が下がってきており,更に伸ばすと,落ちてしまうことは容易に予想がつく。無限に伸ばせるわけではない点には注意したい。
動作を詳しく知れば,活用のアイディアも浮かぶ……かも
おきあがりこぼしについて詳しく知らなくても,見よう見まねでカタパルトの動力,姿勢制御の安定器としての利用はできるし,結果も得られるだろう。しかし,自分で工夫して新しい動きのものを作ってみたいとなったときは,動作の詳細を知らなければ,工夫のしようもない。
おきあがりこぼしに限らず,「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」のプレイ中,「何となくこうなりそう」と感じても,実際に調べて確認してみた人はそう多くないのではないだろうか。ハイラルの物理法則を掘り下げ,さらに多くのゾナウギアへの理解を深めれば,きっと新しい発見ができるはずだ。そして,その発見があれば,新しい動作のギミックを思いつく可能性が高くなる。
手段を目的とするようなものだが,せっかくの何でもありのオープンワールド。ある意味,これもゲームの楽しみ方といえるのではないだろうか。
「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」公式サイト
- 関連タイトル:
ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム
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