プレイレポート
[プレイレポ]SF都市ビルダー「IXION」を紹介。孤立した宇宙空間でサバイバルをおこないながら健全なホワイト企業を目指そう
ちなみに,Kalypso MediaのSFシムというと「スペースベース スタートピア」(関連記事)を思い出す人もいるかもしれないが,本作はモチーフこそ似ているものの,大きく特徴が異なったハードなSFサバイバルとなっている。
人類の大きな希望を背負った宇宙ステーション「タイクーン」。広大な銀河のフロンティアに発進……できない!
近未来,環境破壊が進む地球で1つのプロジェクトが進んでいた。主導するのは宇宙開発企業「DOLOS」。その目的は人類のゆりかごである地球を脱出し,移住可能な惑星を探し出すこと。地球の近くに浮かぶ「タイクーン」は,そのために開発された大型の宇宙ステーションであり,大人数のクルーの生命維持や工業製品の生産をおこなえるだけでなく,技術の粋を集めた「EKPエンジン」によって,惑星間移動すら可能な施設として完成を目前にしていた。
プレイヤーは,そんなタイクーンであらゆる権限をもつ「管理者」として着任することになる。しかし実際に到着してみると,タイクーンはとんだ見かけ倒しの宇宙ステーションだった。何せ内部は建材の資源が乱雑に置かれているだけの“がらんどう”で,乗組員の居住施設はもちろんのこと,資源を蓄えていく保管場所すらないのだ。こうして管理者は,貯蔵庫や居住区,食堂といった生活に最低限の必要なものから建設するハメになってしまう。
「食堂すらない!」というクルーの切実すぎる悩みを解決したり,施設を増やしたら今度は電力不足で停電するシステムに右往左往したりしながら,何とかEKPエンジンの完成にこぎ着けた管理者は,ミッションのためにタイクーンを月に移動させる。目的はエンジンのテストをかねて,プロキシマ・ケンタウリにステーションごと移動し,各種の調査を現地でおこなうこと。地球でおこなわれる盛大な式典と共に,タイクーンは宇宙の大海原に発進する……はずだった。
しかし,期待はとんでもない形で裏切られることになる。何らかの不具合により,タイクーンの発進と同時に目の前の月が砕けて崩壊してしまったからだ。さらにその影響なのか,はるか先にジャンプしたはずのステーションはその場からろくに移動もできなくなる。そして,各部に甚大なダメージを負って構造に致命的な問題が発生したうえ,なぜか地球との通信も途絶してしてしまう。
こうして管理者は,宇宙を漂流するガラクタのようになってしまったタイクーンを維持しつつ,乗組員の保護,資源の確保,情報の収集,そしてミッションの継続などさまざまなタスクをこなす必要に迫られる……というのがチュートリアル部分までの物語となっている。
冒頭で軽く触れたが,本作はリアルタイム型の宇宙ステーション管理シムだ。プレイヤーは山のような問題を抱えたタイクーンを運営しながら,住民をなだめ,施設を充実させ,情報収集を進めつつ宇宙空間でのサバイバルを行う。サバイバルというのは文字通りの意味で,何らかの理由でステーションを物理的に維持できず整合性(耐久度)がゼロになればバラバラになってしまうし,そうならなくてもクルーの信頼を失えば反乱が起こり,管理者の任を力尽くで解かれてしまう。しかもそれは,後述するように遠い未来に起こる出来事,というわけではないのだ。
ゲーム画面は,それぞれ「タイクーン内部」「タイクーン外部」「惑星系マップ」に分かれており,見える範囲が違えばそれぞれできることも違う,という仕組みだ。
メインとなるタイクーン内部は,文字通りステーション内部の居住可能な空間のことだ。ドーナツの一部を切り取ったような形状になっており,若干丸みを帯びていることを除けば,平らな金属製の床が一面に広がっている。
入植直後こそ至る所にコンテナが山積みにされているが,これは初期開発をおこなうための資材だ。まずは貯蔵庫を作って保管場所を確保し,敷設コストがゼロの道路で施設をつなぎ,作業場を設置してドローンを派遣することで資材を使えるようにできる。本作は道がつながっていない施設は,まったく機能しないので,まずはタイクーンの“血管”となる道を作っていこう。
タイクーン内部に建設することになるのは,多くが生活の維持に必要不可欠となるものだ。寝泊まりする居住区はもちろん,食堂で使用する食料を作り出す昆虫農場,船外活動をおこなうためのEVAエアロック,そして鉄から精製できる特殊な合金「アーロイ鋼」を作り出す鉄工所など,大小さまざまな施設が必要になる。
とはいえエリアの広さ自体は限られており,スペースが足りなくなれば隔壁を開き,新たなセクターをアンロックする必要がある。ただセクターは基本的に別管理になっており,独立採算のようなルールになっている。指示を出すことで資源をほかのセクターから運ぶこともできるが,融通は利かない。準備が整わないまま不用意にアンロックすると,むしろ管理者のピンチを招きかねない,一種の諸刃の剣のような特徴も持っている。
2つ目のタイクーン外部は宇宙ステーションの外郭部分であり,ステーションの構造自体を維持している部分だ。こちらに建造できる施設は内部に比べて種類は乏しいが,施設を稼働させるのに必須となる電力を生み出すソーラーパネルや,タイクーンを動かすためのエンジンなど,非常に重要度の高いものが多い。
さらにあらすじ部分でも触れたが,タイクーンはテスト起動時に重大なダメージを負ったため,乗組員が外に出て外部から修理し続けないと崩壊してしまう。修理自体は自動でおこなわれるため,眺めている時間自体は短いが,役割としては極めて重要なのがこのタイクーン外部だ。
最後の惑星系マップは,タイクーン自体が浮遊している宇宙空間そのものを指している。すでに触れたようにタイクーンは“航海できなかった”ため,チュートリアルを終えてもお馴染みの太陽系に位置している。
このマップでおこなうのは,無人探査機による一定エリアのサーチと,有人科学船による実地調査,技術ツリーのアンロックに使う知識(ゲーム内では「智識」表記)ポイントの収集,そして輸送船による資源の調達や移動などで,外部での活動がほぼここに集約されている。
タイクーンは宇宙ステーションであり,維持管理に必要なほとんどのものは外部から調達してこないと運営が成り立たない。つまりある意味内部より重要なのが,この惑星系マップなのだ。
具体的な手順としてはまず,探査機スキャナーを起動して,センサーの反応が高いところチェックし,無人探査機を送り込む。発射すれば探査機は自動で指定された場所に向かい,到着すれば周囲にある資源や惑星,コロニーといった重要なものが眠る場所が明らかになる。後はそれが資源ならば採掘船が自動で移動し各資源を掘り出してくれるし,コロニーのような人工物なら,別途科学船を派遣して詳細を確かめるという流れになる。
特に重要なのが後者の人工物がある場所で,ここでは多くのイベントが待ち構えている。管理者がどう判断するかで何を取得できるかや,逆に何を失うかが決まり,うまくいけば,少なくない資源や知識を集めて技術ツリーを進められ,よりマシな生活をタイクーンのクルーに与えられる。しかし,失敗すれば手間暇をかけた割に大した見返りがなく,場合によっては科学船のクルーを失ってしまうこともある。
平時なら妥当な選択のはずが,サバイバル時には逆効果になる選択肢も珍しくないのが,管理者を悩ませるところだろう。タイクーンが置かれた状況もあり,この惑星系マップでのイベントの数々は,実益とスリリングさを兼ねたゲームの良いスパイスになっていると感じる。
簡単にまとめると「ステーションに足りないものを建設する → 資源がなくなるので探査機を飛ばす → 見つかった資源(人的資源を含む)や知識を回収 → その資源を元にステーションを維持し,知識で技術を開発 → さらに施設を増やす」というサイクルが,本作のプレイの基本だ。これがうまく回っている時は宇宙空間の探索が面白く,科学船の派遣で結果がわかるさまざまなイベントに一喜一憂したり,次に何の資源を集めようかと鼻歌交じりで計画を立てることができる。
とはいえ,そんなお気楽な時間はそう長くは続かず,すぐに管理者にはトラブルの山が降ってくるのだが……。
船体構造の弱体化,資源の枯渇,管理者を追い詰める数多くの難問。だが本当にタイクーンを破滅に導くのは……?
最初のテスト運行で途方もないトラブルが発生したタイクーンだが,実はここは苦難の道のスタート地点でしかない。とりあえず“現状維持”を目指すだけでも,多くの困難が待ち受けている。
ハッキリ言ってしまうと本作の難度はかなり高く,簡単に詰み状態になってしまって,以前のロードデータからやり直すのも日常茶飯事だ。というわけで,前半からガンガン登場する“死にポイント”をいくつか紹介しておこう。
まずすぐに直面する問題は,ステーションの受けたダメージが大きすぎる点だ。前述のようにタイクーンは外部で修理作業を続けないと崩壊してしまうのだが,それには当然,資源と人手が必要になる。崩壊した月はもちろん,地球とも資源の定期的な補給ができなくなったタイクーンは,自分で資源を調達するしかなくなってしまう。
廃棄されたコロニーのような,かつて人がいた施設なら直接合金も手に入るが,それには限りがあるため基本的には「鉄を探査機で捜索 → 採掘船を派遣 → 輸送船で資源を回収 → 鉄工所で合金に加工する」という手順を踏む必要がある。つまりタイムラグがどうしても発生してしまうため,資源量に余裕を持たせておかないと簡単に底を付き,ステーションの崩壊がどんどん進んで手遅れになってしまうのだ。
さらにスペースが足りないからと新たなセクターを開放すると,ステーションの強度が減少して崩壊が進む速度が上がってしまうので,なおさら修理に手がかかるようになってしまう。
補給が望めないという点で,食糧問題も起こりやすい。基本的な食料を生産する工場はありがたいことに資源を必要としないが,その代わりに建物自体が占めるスペースが広めで,生産速度はかなり遅い。
本作の人口増加の主な手段は,SF作品らしく「外部で回収した冷凍保存の人間を解凍する」という方法になっているため時間が短くてすむのだが,その代わりに適切に管理していかないとあっという間に増えてしまう。すぐに調達する方法がない以上,食料も足りなくなってからでは遅く,さらに飢えはクルーの信頼を大きく損なう。貯蔵庫の食料が空になった時点で,“詰み”の可能性は非常に大きくなるはずだ。
さらにクルーは,メンタル面でも大きな問題を抱えている。自由に地球に戻れなくなった人々は「地球病」という病気にかかり,恒常的に管理者への信頼度にペナルティがかかる。単独なら何とかなるマイナス効果なのだが,別の問題が発生して士気が下がったときのとどめになったり,イベントの選択次第でさらに大きな問題を引き起こしたりと,じわじわとプレイヤーを苦しめる。
メンタルケアをおこなう施設もあるが,ただでさえ足りない資源と労働者を使用する施設でもあり,優先順位をどうするかに悩むことになるだろう。
以上のように問題だらけのタイクーンだが,実はもっと深刻なトラブルがある。それは何かといえば,端的に表すなら「労働問題」だ。「この非常時に一体何を言ってるんだ?」と思うかもしれないが,実際に筆者のプレイで起こった例を挙げて,具体的に紹介しよう。
序盤を乗り越えたある日,「新たなセクターを開放してくれ」とクルーから嘆願が起こった。セクターの解開放には一定の資源と人員が必要だが,最低限の蓄えと若干の人的余裕があったので,要望に応えることに。準備期間を経て新しいセクターは問題なく開かれ,そこに残された資源を元に,集中して開発をすることにした。
居住区を建て,食堂を作り,複数の貯蔵庫を建築……とチュートリアルと同じように,初期の開発はサクサクと順調に進んだ。しかししばらくすると,元のセクターの方で事故が何度も起こるようになっていった。施設の修理自体はワンクリックで終わるが,明らかに発生頻度が上がっていって,その内に修理が終わる間もなく,別の事故が起こるようになる。診療室はけが人で溢れ,ついには入院できないクルーすら現れるようになっていった。
不思議に思い調べてみると,原因は「労働力不足」だった。余裕があると思ってクルーを別セクターに移動させたので,労働力が足りなくなり,時間外労働……要するに残ったクルーの慢性的な残業が発生するようになったのだ。
多少の人員不足ならクルーも耐えられるが,恒常的に続いていくと労災の起こる確率が上がっていき,至る所で施設が機能不全を起こす。例えば貯蔵庫で事故が起これば,収束するまではその施設は一切使えず,中の資源は消費できなくなる。
それより大きな問題は,事故が起こればけが人の発生が免れないということだ。けが人は入院する必要があり,かなり長い間,労働者としては機能しなくなる。結果どうなるかといえば,その人員を埋めるために更なる人手不足を招き,時間外労働は過労となってさらに事故の可能性が跳ね上がる。つまり人手不足が更なる人手不足を招き,診療室は満員になって死亡者すら発生し,タイクーンのあらゆる施設が機能不全に陥るのだ。
慌てた著者は,急いで人員の確保に乗り出すことにした。前述のようにクルーは冷凍保存された人間を解凍すれば増やせるので,輸送船を使ってステーションの周囲からどんどん集め,次々に解凍していった。
タイムラグがあるのですぐには労働環境は改善しなかったが,優先度が低い施設を停止するなどして何とかしのぎ,じょじょに労働問題は改善していったので,事態は収束に向かうかと思われた。
だが,ここでクルーは「食べるものがない!」と騒ぎ始めた。労災に気を取られて失念していたのだが,クルーを増やせば当然,それだけ食料を消費し,居住区も圧迫する。現状を改善することのみに注視した結果,そのほかのことをすっかり忘れていたのだ。
見れば貯蔵庫の食料は底を付いており,昆虫農場のキャパシティも一杯で,おまけに合金の在庫も底を付きかけていた。実はすでにステーションの修理もままならない状態で,組織的なストライキこそまだ起こっていなかったが,再び施設の事故も多発し始めていた。
こうして右肩下がりになっていく船体の耐久度と,急速に失われていくクルーの信頼度を眺めているしかなかった管理者がその後どうなったかは,改めて述べる必要はないだろう。決して無理な開発をおこなったつもりはないのだが,あっという間にあらゆる事態が坂道を転がるように悪化していく姿は,宇宙空間のサバイバルの厳しさを再確認させられた。
そして筆者は「万難を排して労働環境の改善に努める」と誓った。人もうらやむホワイト企業でなければ,宇宙で生き残ることはできないのだ。
人は選びそうだが,大人数でのサバイバルに何が必要なのか考えさせられる一作
本作は,見た目は宇宙開発とコロニービルダーのイメージが強いが,その実,クルーマネージメントが非常に重要な要素になっている。何せステーションにせよ宇宙船にせよ人間が動かす必要があるので,“そこ”が機能不全を起こせば何も出来なくなるからだ。サバイバルというと「飲まず食わずの極限の状態」的な印象が強い人も多いだろうが,IXIONの場合はそうなっては“終わり”と言ってもいい。
つまり,いかに危機的状態を事前に避けるかが進行のキモであり,そのためには常に資源と労働者の余裕を一定程度保ち,「安全第一」の標語を職場に掲げ,人口も適切に管理することが求められる。ギリギリでのステーション運営は,数回の事故で致命的な悪循環に陥る危険があり,結果的に管理者の立場を追い詰めるからだ。タイクーンの維持管理に,ブラック企業の出番はない。
プレイ全般としては難度の高さもそうなのだが,思ったほどプレイスタイルの幅がないのが気になった。技術ツリーは「一定のランクのものをすべて取得しないと,次がアンロックできない」仕組みだし,特定のイベントをこなさないと取得できないものもある。何か特定の要素を狙って伸ばすと,違ったアプローチで問題が解決できる……なんて仕組みがあると,プレイヤーごとに進行のパターンが変わり,より面白くなりそうだなと思う。
また宇宙空間のイベントはともかく,要望という形でクルーが管理者に迫るイベントは,ほとんどが「何かしてくれ」というものだけだし,メリットにつながるものが少ないのが少し寂しい。ただでさえ管理者の胃はいつも痛いのだから,もう少し飴があるとイベントを開始する楽しみも増えそうなのだが。
冒頭でも少しだけ触れたが,本作は宇宙ステーションに施設を建てて労働者として働かせるという点は,同社の「スペースベース スタートピア」と同じだ。
一方で異なる点も多く,コメディチックだった「スペースベース スタートピア」と打って変わって,世界設定はシリアスになり,ストーリーに適度な謎を残しつつ,多くのプレイヤーの興味を引きそうな展開になっているのは面白い。
本作はシティビルダーではあるのだが,都市の拡大や豊かさを目指す「シムシティ」タイプではなく,どちらかといえば(人間を含めた)リソース管理のために都市を作成する「Frostpunk」に近いような作品だ。それ故に施設を一個増やすにもタイミングを悩んだり,常に資源の残りを見ながら慎重に運営を続けることになるので,爽快感には乏しい。正直なところ,高い難度もあって若干人を選ぶのは間違いないだろう,
とはいえ,本当にハードなサバイバルを求められるのも,腕に覚えのあるゲーマーには嬉しいところだろう。個人的には,もう少し手心が欲しいと感じてしまうことも多かったが,プレイヤー自身が失敗から学んで次に生かせば上達を実感できるシステムでもある。タイクーンの行く先は困難ばかりだが,興味あれば管理者を買って出て,人類の未来に足跡を残してみよう。
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