プレイレポート
幻想水滸伝の開発者監修による「百英雄伝 Rising」プレイレポート。百の住民と共に紡ぐ前日譚には,懐かしき“RPGらしさ”が漂う
4Gamerでは,序盤を2時間程度遊べるプレビュー版のプレイレポートを以前に掲載しているが,今回は製品版をクリアまでプレイしてみたので,あらためて紹介してみよう。なお,本稿でのボタン表記はXbox One用コントローラのものだ。
幻想水滸伝のクリエイター監修,「百英雄伝 Rising」プレビュー。スピンオフ作品は百英雄伝の前日譚を描く横スクロール型アクションRPG
「幻想水滸伝」シリーズを手掛けたスタッフによる新作RPG「百英雄伝」。その前日譚を描くスピンオフタイトル「百英雄伝 Rising」の序盤を遊べるバージョンをプレイする機会を得たので,プレイレポートをお送りしたい。
「百英雄伝」公式サイト
徐々に顔見知りになっていく住民たちとの交流。
街の復興に手を貸せば,それは自分の助けにもなる
本作の物語は,スカベンジャー(遺跡漁り)を生業としている一族の少女“CJ”が,お宝を求めてニューネヴァーの街に訪れるところから始まる。街の近くで未知の遺跡が見つかったらしく,お宝発見のチャンスというわけだ。
ただし,遺跡を探索するには「採掘許可証」が必要。そして許可証の発行には,10万バッカ(この世界の通貨)を支払わなければならないという。
そんな大金を持ち合わせていないCJに提示されたのは,「スタンプカードにスタンプを集めてくる」という方法だ。スタンプは街の住人が持っており,困っている人の頼みを聞いてあげるとスタンプを押してもらえる。つまり,住人を助けまくれば,いずれ採掘許可証が手に入るという話だ。
街では3か月前に地震があったらしく,崩れている建物が多い。当然,住民は復旧に追われており,街としては採掘権をエサにして,お宝目当ての冒険者に復旧の手伝いをさせているようだ。ただ,遺跡がお宝発見のチャンスであることには変わりなく,採掘許可証を手に入れるため,CJは地道にスタンプを集めていくことにするのだった。
住人の頼みはクエストとしてリストに載り,解決すると住民がスタンプを押してくれる。一度に複数のオファーを受けられるので,目的地が同じダンジョンのクエストを同時に進めたりすると効率がいい。
クエストの内容は,街周辺のダンジョンを探索して,何らかのアイテムを入手してくるものがほとんどだ。ダンジョンには魔物が徘徊しているが,倒せば経験値が手に入り,アイテムを落とすこともある。まさにアクションRPGらしいパートだ。
ダンジョン内では,拾える素材のほか,魔物が落とす素材もある。これらを入れる資源袋には上限数があり,1回のダンジョン探索で持ち帰れる数には限りがある。資源袋がいっぱいになってしまったら,手持ちのアイテムを何かしら捨てないと新しいものを入れられない。
ダンジョンから出ると,資源袋のアイテムは倉庫へ送られる。資源袋があふれるかどうかが,そろそろ街へ戻るかどうかの判断材料になるだろう。
また,ダンジョン探索中にダメージを受けて瀕死になると,回復手段は回復アイテムしかない。回復アイテムはショップで買えるものの,序盤〜中盤の財布事情は結構厳しいので,なるべく節約しておきたい。街にはCJが滞在する家があり,ここで休むと全快する。危なくなったらすぐに帰還して,家で休みたいところだ。
ダンジョンから目的のアイテムを持ち帰り,クエストをクリアしていくと,スタンプだけでなく経験値やお金も獲得できる。魔物を倒して経験値を稼いだり,ダンジョンで採取した素材を売却したりもできるが,クエストを達成するのが最も効率的だろう。
さらに,困っている武器屋のクエストを解決すると,武器屋の品揃えが良くなったりして,より強い武器が手に入るようになる。人助けの結果,CJが宝探しをするための戦力増強にもつながるというわけだ。
一筋縄ではいかないダンジョン探索。
仲間と共に魔物を蹴散らし,道を切り拓く
さて,人助けも結構だが,CJの目的はお宝探しだ。採掘許可証を得ると,遺跡内の探索ができるようになり,冒険が本格化していく。
ダンジョン内には「元素塊」という障害物が道を塞いでいることがあり,これは属性に対応する色になっている。たとえば,黄色の元素塊は土属性であり,「土のルーン」を装備した状態で攻撃すると破壊できる。
元素塊には火属性の赤,氷属性の青などがあり,対応するルーンが手に入るまでは先へ進めない。逆に言えば,新たなルーンが手に入ると探索範囲が広がることが約束されたようなもので,メトロイドヴァニア風の楽しみがある。
また,遺跡には「メンヒル」と呼ばれる古代の石柱が設置されており,街周辺のいろいろな場所にワープが可能だ。遺跡を探索していくうちに別の場所へと飛ばされ,雪原や溶岩地帯などのバラエティ豊かな地形が待ち受けている。
上の画像を見て,「画面左上にCJ以外のアイコンが……」と気付いたかもしれないが,本作の冒険者はCJだけではない。ストーリーが進むとカンガルー獣人の“ガルー”,町長代行のイーシャが仲間になり,行動を共にする。3人はそれぞれ,ダンジョン探索で役立つ技能を持っており,状況に応じて交代しながら進んでいくのだ。
仲間の切り替えは,魔物と戦う際のアクションにも影響する。
たとえば,CJ操作時にYボタンを押すと,通常はガルーに交代する。しかし,XボタンでCJの攻撃が当った直後にYボタンを押すと,ガルーの攻撃がコンボ攻撃としてつながる。これが,本作のアクション面の特徴である「リンクアタック」だ。
リンクアタックが難しいと感じる人には,オプション設定の「シングルモード」が用意されている。これはXボタンの攻撃を連打しているだけで,ガルーやイーシャが勝手に出てきて攻撃をつなげてくれるというものだ。
自動的にコンボ攻撃が発生するので便利なのだが,ボタン連打の際にプレイヤーの意思に反してキャラクター交代が行われることがある。CJの2段ジャンプやステップを駆使して進んでいるときにガルーに交代してしまうと,操作キャラをCJに戻す手間が発生するのだ。できることならば,デフォルトの「ノーマルモード」に慣れたほうがいいだろう。
3人の能力は,ダンジョンで遭遇するボスとの戦いでも活躍する。素早い回避や連続攻撃をしたいときはCJ,重い一撃を与えたいときはガルー,一時的に地面から離れたいときはイーシャといったように,適宜切り替えることで戦いを有利に進められるのだ。
3人の個性を生かして,キャラクターを切り替えながらボスと戦う。一見,難しそうに思われるかもしれないが,まったくそんなことはない。ボス戦の前には大体道しるべが設置されているので,事前にセーブしたり,一旦街に戻ったりしてしっかりと準備できる。負けても再戦は容易だし,初見で撃破できるボスも珍しくはない。
もし「敵が強いな」と感じたら,それはプレイヤーの腕前ではなく,武器と防具の強化が遅れているのが原因だと言い切っていい。というのも,筆者が後回しにしていたクエストをクリアしたら,防具の強化ラインナップがグンと増え,「このクエストを先にやっておくべきだった!」と後悔することが多かったからだ。強化前と後では,防御力が段違いになっていてビックリしてしまった。
本編をクリアすると難度「HARD」を選べるようになるので,やりごたえを求めるゲーマーも安心してほしい。本編クリア時には強力なアクセサリも手に入るため,それらを使いこなしてHARDで暴れてもらいたい。
本編のクリアまでは10〜15時間ほど,全クエストクリアや実績のコンプリートを目指すと20時間以上といったところだろう。冒頭で触れたとおり,本作はスピンオフタイトルであり,お手頃な価格(PC版は1580円,コンシューマ版は1650円。共に税込)であることから,それなりのボリュームだと思っていたら,良い意味で裏切られた。本作は,しっかりと作り込まれたアクションRPGだ。
懐かしさを覚える“RPGらしさ”。
物語とキャラクターが印象的な良作
ストーリーの大半を占めるのは“おつかい”クエストだが,移動に関する利便性の高さがそれを苦にさせない。また,スタンプカードのシステムによって,クエストは淡々とこなしていくものではなく,積み重ねたときにリターンが返ってくるのもいい。
ただ,既存のアクションRPGにはない斬新な要素や,現代でなければ作れないような要素は見当たらない。その意味では,非常にオールドスタイルな横スクロールアクションRPGだと言えるのだが,プレイ後には高い満足感が得られた。その理由を考えてみると,ゲームの物語を描く際に“芯”の部分となる「キャラクター」が大事に作られているからではないだろうか。
本作の物語はCJを主人公として,ガルーやイーシャらが中心となって展開する。一方で,「ニューネヴァーの街」を主人公とする群像劇のようにも感じるのだ。それほどに住民達の存在感が強く,他愛のないおつかいクエストで少し関わっただけでも妙に記憶に残る。
住民とのやり取りは,基本的にイベントシーンの会話のみ。時々,エモートマークで感情を示すこともあるが,主役級のキャラクター以外は動きもほとんどない。それでも,これだけのキャラクターが記憶に残るのは不思議な気がする。
それぞれのキャラクターが発するセリフのセンスによるものかもしれない。このあたり,喜怒哀楽を映像で具体的に表現することが難しかった時代に,わずかな動きやテキストで個性を描き分けていた“昔のRPGの良さ”を感じさせる。久々にあの頃のRPGをプレイしているような,個人的には懐かしい思いだった。
ニューネヴァーの街は地震からの復興中だが,遺跡の発見とイーシャの策によって,多くの冒険者が集まっている。よそ者が街の中を闊歩するのを心よく思っていない住民と,復興には人手が必要であり,街の活性化につながるならと肯定的な住民。ゲーム開始時,街にはさながら保守派と改革派のような構図がある。
そんななか,よそ者であるCJ(=プレイヤー)は警戒されながらも,生来の人の良さから手助けをして,人々の信頼を得ていく。警戒していた住民も徐々に態度が変化し,打ち解け,街の復興に寄与しつつ,本来の目的であるお宝探しにも邁進する。まさにWin-Winの関係であり,実に気持ちのいい展開だ。
アウェイの地に放り込まれるように幕を開ける本作だが,クリアする頃にはニューネヴァーの街が好きになっているだろう。
ふと,気になって,ニューネヴァーの街に暮らす人々を数えてみた。クエストの完了リストから住民の名前をチェックして,名簿を作ってみたところ,なんと100人を超えている。「冒険者の男」のように名前が設定されていないNPCもいるが,本作もまた「百英雄伝」だったのだ。
「幻想水滸伝」シリーズは多数のキャラクターが登場するだけでなく,その膨大な数を仲間としてパーティに編入できるRPGだったが,個々の登場人物をしっかりと描いていたからこそ,今も名作として知られている。
果たして,「百英雄伝」ではどのようなキャラクターが描かれるのか。そのプレリュードとなる「百英雄伝 Rising」は,“百の住民”を通じて期待を高めてくれる。個性豊かなキャラクターが登場するRPGが好きな人には,ぜひプレイしてほしいと思う。
筆者は本編をクリアしたものの,全クエストクリアを目指して,もう少しCJやガルーらとニューネヴァーの街を拠点に冒険を続けるつもりだ。この街で,まだやり残していることがあることが嬉しい。そんな作品なのだ。
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