インタビュー
楽器教習ゲーム「Rocksmith+」をユービーアイソフトの大阪スタジオで体験。ギターに挫折した筆者が音楽の楽しさを再発見した
もともと音楽が好きだった筆者は,バンドサウンドに憧れて「あんな風にギターが弾けるとカッコいいし,楽しいだろうな」と思い,実は楽器屋に足を運んだことがある。そうして初心者向けの一番安いエレキギターと教則本を買い,ワクワクした足取りで家に帰った……のだが,独学では難しかったし,かといって講習に行くのも金銭的な理由や手間でハードルが高い。結局のところ挫折してしまったのである。
だが,いまもどこかで憧れは持っている。いつか弾けるようになれば楽しいだろうと思っているが……思っているだけで止まっていたのだ。そんなこともあり,Rocksmith+には強い興味を持っていたところに今回の打診である。
というわけで,ユービーアイソフトの大阪スタジオの様子や,Rocksmith+の感触,そして開発陣へのインタビューを通して,本作の魅力を紹介していこう。
ギター挫折者が楽器の楽しさを再発見!「Rocksmith+」の魅力とは
Rocksmith+は,Ubisoftが開発・販売している音楽学習ソフトだ。ギター,ベース,ピアノといった楽器の練習ができ,冒頭でも紹介したように日本では6月7日にサービスが開始された。
Green Dayといった洋楽の人気バンドの楽曲から,あいみょん,ちゃんみな,ゲスの極み乙女。,コブクロ,tofubeats,yonawoといった日本の音楽シーンでもお馴染みのアーティストの有名楽曲が多数収録されている。
今回,筆者はギターを中心にプレイさせてもらったが,ゲーム感覚で楽器の練習ができるのはすごく肌に合っていた。筆者がゲームファンであることもそうだし,数々のビデオゲームを手がけてきたユービーアイソフトが,ゲームらしい演出や体験を音楽学習ソフトに盛り込んでいるのも理由の1つだと言える。
その演出や体験にはいくつかの種類がある。いわゆる音楽ゲームらしい演出がその1つだ。画面の手前にギターの弦を表す6本の線が表示されており,画面の奥から,このタイミングでここの弦を押さえて弾くというのを表すノートが流れてくる。この演出により,左右どちらに手を動かせば良いかや,何本目の弦を押さえれば良いかなどが直感的に分かりやすい。
ゲームらしい演出で言えば,1曲の練習が終わったあと,どれくらい正確に演奏できたかがパーセントで表示される。ゲーム的な表現では“スコア(得点)”だ。ゲーマーとしてはプレイする度にスコアを少しずつ上げていきたいという気持ちになるだろう。最初がどれだけボロボロでも,少しずつスコアを上げられるようにチャレンジするのは楽しいし,実際にスコアが上がるとそれが嬉しい。そして,「Rocksmith+」ではスコアが上がるのは,演奏がうまくなっていることと同義であるわけだ。
これだけでも楽器を練習しやすいし,何度もプレイしたくなるモチベーションにつながるが,本作には楽器の練習に至れり尽くせりな機能が多数搭載されている。
例えば,楽曲のテンポを上げ下げできるのはもちろん,楽曲の一部のフレーズを自分で設定して何度もその区間だけを練習することもできる。また,1音ずつ正確な音を鳴らせるまで譜面が止まる「ノート・バイ・ノート」という機能,自分の演奏内容を元にゲーム側で自動的に難度を調整してくれる機能,さらには1曲が終わったあと,苦手なテクニックを重点的に学習できるコンテンツをオススメしてくれる機能など,独学では実現しえない非常に役立つ練習が遊びながらできるのだ。
また,楽器に慣れている人向けには,難度の高い楽曲や設定にすることもできるし,ギターであればTAB譜,ピアノであれば五線譜を表示してくれる機能もある。実際に,音楽イベントでの試遊プレイでは,ギター経験者が自分の好きな曲や少し難度が高い曲を選んで楽しそうに演奏する姿も見られた。
一方の楽器初心者は難度をグッと下げてプレイしていた。ギターの場合は弦を1本しか押さえない楽曲をプレイしたり,ピアノも鍵盤を1つずつ押していくような楽曲もある。ピアノで言えば右手だけ,左手だけでプレイすることもできるので,全くの初心者,むしろ本作で初めて楽器に触るというくらいでも徐々に楽器が楽しめるようになっていた。
「Rocksmith Real Tone Cable」を用意すればPCやゲーム機にエレキギターをUSB接続できる。アコースティックギターやピアノなどの場合は,スマホアプリの「Rocksmith Tuner」を使い,スマートフォンやタブレットのマイクで音を拾ってプレイすることも可能だ |
大人気アーティストの曲が演奏できるのはもちろん,難度の調整も可能なので,楽器初心者でも楽しく練習ができる |
本作にはプロの音楽家も制作に携わっており,本作のために書き下ろしの練習用楽曲も多数収録されている。筆者が挫折した理由の1つに,簡単なテクニックを練習していると単調なプレイになりがちで飽きてしまい,かと言って自分の好きな曲を演奏しようとしても難しすぎるといったことがある。この中間で練習しようと思うと自分では判断が難しい。しかし,本作に収録された練習曲はロック,パンク,ポップス,ジャズ,ボサノヴァ,EDMなどジャンルがさまざまで,楽曲としてのレベルも高く演奏していて楽しいと感じられた。
さらに,映像コンテンツで初歩の初歩から上級テクニックまで教えてくれるのもありがたい。映像で実際にどのように指を動かせば良いのかを見られるのは,とても分かりやすかった。
演奏だけでなく,音楽理論について学べるコンテンツや,変わったところではケーブルの巻き方を学べるコンテンツもあり,音楽に関する総合的な情報が学べるタイトルになっている。なお,この映像コンテンツも追加されていくとのことだ。
どんな楽器レベルのプレイヤーでも楽しめる「Rocksmith+」。その魅力を開発者にインタビュー
続けて,本作のGame Designerである須永江身子氏,YouTubeで活躍している音楽博士号を持ち音楽教授でもあるMusical Content Creator LeadのDr. Capital氏,ProgrammerのFrancois ZANG-YEN氏に,開発の苦労や本作の魅力,今後について少し聞いたので,それをもって締めとしよう。
4Gamer:
今作の開発で1番力を入れたところを教えてください。
以前の「Rocksmith」にはキーボードがなかったので,その部分ですね。
Dr. Capital氏:
曲が多いので1曲1曲の耳コピに時間がかかるのはもちろんですが,音楽のライセンスの交渉に時間がかかりました。ただ,もちろんこれからも楽曲は増やしていきます。
須永江身子氏:
あとはスケールが大きく,前作に入っていなかった機能が多く入っていますし,常に新しい機能を考えています。タブ譜などはまさにその1つで,プレイヤーからの要望で実装しました。また,レッスンのコンテンツも前作から大きく増えましたね。
Francois ZANG-YEN氏:
今作はマイク(入力)でもプレイできるようにしたのも大きいです。Rocksmith+チームとして,幅広くいろいろな人にプレイしてほしいという思いがありましたので。
4Gamer:
マイクから音声を拾って入力できるようになったというのは,純粋に進化を感じさせられました。
音楽の楽しみを増やしたくて,1つのプラットフォームだけでなく,このポケットに入ってるスマートフォンでもできるようにしたというのがありましたからね。
須永江身子氏:
ユービーアイソフト全体として,プレイヤーの人生を豊かにするゲームを作るという方針があって,「Rocksmith+」はそこにマッチしたゲームになっていると思います。
4Gamer:
私もそうですが,1度挫折した楽器の演奏に「Rocksmith+」をきっかけに再開したいという気持ちになりました。
須永江身子氏:
そうですよね! Redditのコメントを見ると「ずっと楽器を触っていなくて,もう片付けていたけれど,Rocksmith+が出たからもう1回やろう」というコメントがけっこうありました。
Dr. Capital氏:
音楽に感動して「私もやりたい」と思って楽器を買うけれど,変な音しか出ないから挫折してしまう。でも,ゲームだったら自身の音は少し変かもしれないけれど,1日めから良い音が出せるというのは大きいと思います。そして,本作は好きなアーティストの曲の中に自分が入れるというのが魅力で,原曲を一緒に演奏できます。その体験はモチベーションが上がると思います。
4Gamer:
モチベーションの維持はすごく重要ですよね。
そうですね。あとから追加された機能ですが,ダッシュボードというところで自分の進捗を見ることもできます。過去1か月にどんな曲をプレイして,最初このレベルだったけど,今はこれだけレベルが上がりましたという差を見られるので,それもモチベーションアップにつながるなって思います。
あとはチャレンジという実績のようなシステムがあるので,小さな目標を立てて,それを進めていくと,自分の成長を感じられます。
Dr. Capital氏:
演奏で一つひとつの音を判定してくれるのはすごく大きいと思います。例えばジムに行って筋トレをやろうとしたときに,そこにトレーナーさんがいて,「もう1回,もう1回」と言ってくれたら,すごく効果的な運動ができると思います。逆に「時間がないし,ジム行くのめんどくさいし,このYouTubeのヨガの動画を見ます」となると,動画を見てるかもしれないけど,ちゃんとトレーニングができないかもしれない。
先生が,「その角度じゃなくてこれだよ」とも言ってくれないし,その動画を2,3回見て,もう見なくなってしまうと思います。だから,本当にその人がそこにいるように,「もう1回だよ,もう1回だよ」と1つずつの音に対して判定してくれて,ミスを教えてくれる。常に良いプレッシャーをかけてくれるのがすごく効果的だと思います。
4Gamer:
Rocksmith+の今後のアップデートや追加要素について教えてください。
須永江身子氏:
アップデートに関してはまだ言えないのですが,レッスンコンテンツは今後も充実させていきます。
Dr. Capital氏:
また,開発中のアイデアやプレイヤーからいただいたフィードバックに対する改善も頑張っているので,進化していくゲームだと思っていただければと思います。
4Gamer:
今後どんなレッスンコンテンツが増えていくのでしょうか。
Dr. Capital氏:
すでにカリキュラムは存在していて,まだ作ってない練習曲や,動画撮影してないレッスンもたくさんあります。また,プレイヤーからのフィードバックを受けて新しいレッスンコンテンツを作りますし,上級者,中級者,初心者のいずれにも向けて全体的に作っていこうと思います。
4Gamer:
本作にはユービーアイソフトのゲーム楽曲が収録されていますが,他社のゲーム楽曲とのコラボは今後検討されるのでしょうか。
須永江身子氏:
今後の計画についてはまだお伝えできないのですが,楽しみにしていてください。
4Gamer:
好きなゲーム音楽から入りたい,楽器で演奏したいというプレイヤーもいると思うので期待したいところです。肝心の楽器を手に入れたいと思うキッカケにもなると思うので。
ところで今後,ギター・ベース・ピアノ以外の楽器に対応される予定はありますか。音声入力の実現で可能性はかなり広まったように感じたのですけれど。
Dr. Capital氏:
たしかに,マイクを使えばほかの楽器に対応することも可能かもしれないです……。ひょっとしたらですけどね(笑)。
Francois ZANG-YEN氏:
プレイヤーの声としては聞いていますが,応えられるかはちょっと別になってしまうところですね。
4Gamer:
最後にプレイヤーへのメッセージをお願いします。
Dr. Capital氏:
音楽の勉強というのは,人生を明るくしてくれますし,周りにも幸せを与えるようなことです。自分のため,家族,友達,いろいろな周りの人々のためにも,音楽を練習して上達することはすごくいいことです。ぜひこのゲームで体験してください。
須永江身子氏:
この開発チームは,ギターを触ったことがない,音楽をやったことがないという初心者から,プロフェッショナルの方まで,いろんな人が一緒になって作ったゲームになっています。どんな楽器レベルの方でも楽しめるようになってるので,ぜひ遊んでみてください。
Francois ZANG-YEN氏:
同じ初心者でも,経験ある人でも,好きな曲をプレイできるのが本当に良いと思います。ゲームだけど,ゲームを終了しても,あとで曲を弾くことができるというのは本当に良い体験だと思います。
「Rocksmith+」公式サイト
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