プレイレポート
[プレイレポ]前作のキャラたちも大活躍。「リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー」は,ファンへのご褒美が盛りだくさんのタイトルだ
本作は,2015年に発売された「2064: Read Only Memories」(2064:ROM)の続編にあたるタイトルだ。未来の技術や文化を扱うSF作品は多くあるが,ROMシリーズはやや独特なアプローチでそうした世界を描いており,そのコンセプトは続編にも受け継がれている。本稿では,そんなROM:NDのプレポートをお届けしていく。
なお,本作には前作の世界設定やキャラクターがストーリーに関係してくる。記事前半ではネタバレを避けつつゲーム内容を紹介し,後半では前作に関連する要素に触れるので,気になる人は注意して読み進めてほしい。
「リードオンリーメモリーズ:ニューロダイバー」公式サイト
人工知能,遺伝子改造,そして超能力!
激変する未来を描くサイバーパンクADV
まずは,ROM:NDの世界設定とシステムを紹介していこう。2064:ROMからROM:NDへと続く「ROM」シリーズは,近未来のサンフランシスコを舞台にしたアドベンチャーゲームだ。人工知能と遺伝子工学の技術が飛躍的に進歩し,それらが製品となって民間に行き渡り始めた時代が描かれる。
ロボットたちのAIが人間と同等の存在へと進化する一方,遺伝子が改変された人間たちにも変化が起きていた。その中で出現したのが,他者の精神に干渉する力を持つ人間「エスパー」である。
エスパーたちは他者の思考を読み取れるほか,高度な使い手は記憶の改ざんや破壊といった行為も可能だという。その存在を知る人は限られており,覚醒したエスパーたちは自身の状況を把握できず,時には悪事に手を染めることも少なくない。
それに対処するのが,エスパー能力を研究する秘密チームを持つ「ミネルヴァ」の構成員だ。プレイヤーは,ミネルヴァのエージェント・ES88となり,エスパー能力を悪用する組織「ゴールデン・バタフライ」と戦うことになる。
基本システムはお馴染みのポイント&クリック方式で,画面内の気になる部分をクリックすればES88が反応してくれる。前作2064:ROMでは「クリックして対応(触れる,話す,調べるなど)を選ぶ」という仕組みだったが,ROM:NDでは単に対象物をクリックすれば必要な対応をしてくれる形式になった。
かつて可能だった「クルマに話しかける」「ポスターの音を聞く」といった異常な行動(ゲーム的な意味はほぼない)ができなくなったのは若干寂しい。前作はプレイヤー自身が主役だったのに対し,本作にはES88というキャラクターが主人公なので,あまりおかしな行動が取れないのは自然だろう。
注目してほしいのは,ドット絵で描かれる表情アニメーションの豊かさだ。静止画では伝わりにくいので,最序盤のES88の表情変化を軽くまとめてみた。素直で前向きで,ちょっとナード感のあるES88の性格も相まって,コロコロ変化する表情を見ながら会話を読み進めるだけで楽しい。
ES88の主な仕事は,失われてしまった記憶の修復だ。強力なエスパーであるES88は,精神感応に特化した人工生命体「ニューロダイバー」を介することで,人物の過去の記憶へと潜入(ダイブ)できる。記憶の世界で欠落した情報を埋めれば,現実世界でも情報を思い出せるという仕組みだ。
ダイブ中もやることは基本的に変わらない。ES88は記憶に従って人物を“操縦”するような感覚で探索を行い,欠落してしまった記憶の在処を探すことになる。
記憶の重大な欠落は「記憶の断片化」と呼ばれ,ノイズがかかった謎のオブジェクトとして表示される。断片化してしまった部分は,本来そこにあるべき記憶を“別の何か”で埋めており,明らかに状況にそぐわない姿をしていることが多い。
断片化した記憶は消滅したわけではなく,接続が途切れてしまっているような状況だ。それを再びつなぎ直すには,断片化した記憶と関連性の強い要素を当てはめる必要がある。状況や文脈から,必要な物品や情報を収集するのもES88の仕事だ。
ノイズと共に現れる断片化は異物感がかなり強く,出現した瞬間にはギョッとさせられることも少なくない。すでに過ぎ去った過去に交じる異物と出会い,その本人と会話しながら除去していくという,なんとも言えない不思議な感覚を味わえる。
記憶の内外を問わず,ゲームの難度はやや低め。行動によるペナルティがかかる場面はほぼなく,総当たりを許してくれる仕様なので,普通に進めていれば特に問題なくエンディングまで到達できるはずだ。
前作と比較すると,リニアなADVに寄った作風で,探索要素は世界やキャラクターへの理解を深めるためのものとして取り入れられている印象がある。そのため,推理やパズルを楽しめる作品として考えると肩透かしを食らうかもしれない。
そのぶん,探索に対する反応はきちんと作り込まれている。街路樹や看板など,ほんのちょっとしたオブジェクトにも細かく反応が用意されているので,それを探すのはかなり楽しい。反応する場所はオンマウスで白枠が表示されるので,反応する場所を探すこと自体は難しくないのも嬉しいところだ。
前作キャラクターも元気な姿で登場
ストーリーにも深く関わってくる
続いては,前作とのつながりが深い部分やシリーズ全体を俯瞰(ふかん)して感じたことに触れていく。2064:ROMの内容に深く触れるので,先に前作を遊んでからROM:NDに入ろうと思っている人は注意してほしい。
ROMシリーズの世界設定には2つの柱がある。ひとつは高度な仮想知性を持つサポートロボット「ROM」,もうひとつは動物の遺伝子を人間へと反映させる遺伝子操作技術だ。いずれも極めて有用な技術であり,ROMの普及は余暇を拡大し,遺伝子操作の一般化は多くの難病から人々を救った。
しかし,遺伝子操作によって外見が変化した人々は「ハイブリッド」と呼ばれて差別の対象となっていた。さらに,2064:ROMでは仮想知性に留まっていたROMが一斉に“真の知性”を得る大事件が発生し,これまた社会問題となった。
ドラマチックなサイバーパンク作品なら,ここで「行き過ぎた技術による社会秩序の崩壊!」とか「知性を得たロボットたちが反乱を起こす!」とか,何かしら強烈な展開が飛び込んでくるものだが,2064:ROMの物語は,少し違った。
ROMを開発したパララックス社は品行方正な会社ではないが,提供したロボットは正しく社会に役立ち,人々の生活を支えている。また,2064:ROMでは遺伝子改造への抗議活動を行う団体が登場したが,その活動は法規制に向けたロビー活動や合法なデモを中心とする,極めて現実感のあるものだった。
変化の暗い側面だけでなく,人々の生活に根付いたそれを,現代の価値観の延長線上で描く。いわば,未来へと移り変わる“時代のグラデーション”を見せてくれる2064:ROMの雰囲気は,扱うテーマの複雑さに反して驚くほど明るい。
ROM:NDにおいても,基本的なスタンスは変化していない。エスパーに対しては奇異の目が向けられることもあるが,そもそも「社会問題になるまえに手を打とう」という組織が主役なのも,非常にROMシリーズらしいといえる。地味と言ってしまえばそれまでなのだが,それこそがシリーズの魅力なのだ。
そんな雰囲気のタイトルなので,前作のキャラクターたちは6年後の世界でも元気に生きている。私立探偵になったレクシー・リバーズ,凄腕ハッカーのトムキャット,ハイブリッドの権利向上を訴えるジェス・ミーズ,前作で主人公と共に活躍したチューリングなど,人気キャラクターがそろい踏みだ。
物語にも深く絡み,馴染みのキャラクターたちが6年の間にどんな変化を遂げたのか,今はどんな生活をしているのかも丁寧に描写される。デザインも新たに描き起こされているようで,前作のファンは馴染みの顔が登場するたびに喜べるはずだ。チューリングが園芸自慢をしている間,筆者はニヤニヤ顔が止まらなかった。
ただ,わがままな言い分になってしまうが,前作キャラクターへの扱いが丁寧すぎる気がしなくもない。彼らが物語上で重要なポジションにあり,既存のプレイヤーが喜べる要素がたくさんあるということは,同時に前作の知識による楽しさが多いという意味でもある。
当然,前作の知識は必須ではない。ストーリーの軸足はあくまでES88を中心としたエスパーたちにあり,前作からの登場キャラクターについても一定の説明がなされる。ちゃんと独立した作品として成立しているので,本作から遊んでも問題なく楽しめるはずだ。
しかしながら,彼らが物語の重要な部分に関係する以上,知っていた方が楽しみが濃くなるのは間違いない。先述の通り,探索によって世界やキャラクターを深堀りするのが楽しい作品だけに,そういった側面が強く現れているようにも感じられた。
総じて,ROM:NDは前作の良い部分を引き継ぎつつ,新しい展開を見せてくれた良作だと思う。変化している部分にはキチンと意図を感じるし,多くの場面で演出がリッチになり,手触りも非常に良くなった。
一方で,ボリュームは前作より縮小されている感は否めず,前作がボリューミーだったぶん寂しさもある。新たなキャラクターやテーマも魅力的なので,もう少し掘り下げがあれば嬉しいところだった。個人的には,DLCなどの形で新規エピソードが登場すれば嬉しい。
本作で初めてROMシリーズを知った人や,まだ2064:ROMを遊んでいない人は,先に紹介したような世界観を踏まえたうえで遊ぶのが良いだろう。可能であれば前作をプレイし,筆者と同じく「早くチューリングの姿を見せてくれ!」と叫びながら遊んでほしい。
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