プレイレポート
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」先行プレイ。自分だけの主人公像を作り上げ,“人格”を持つスキルと語り合って謎を解くミステリーRPG
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」は,2019年10月に発売されたミステリーRPG「Disco Elysium」の“完全版”だ。油絵調のグラフィックスや,行動によって変化する重厚な物語,そして主人公の内面にある“人格を持つスキル”が,ときにプレイヤーを導き,ときに物語をかき回すという独自のシステムが特徴で,世界のコアなゲームファンから高い評価を得ている。そんな本作のプレイレポートをお届けしよう。
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」公式サイト
特性に応じた有効な選択肢を探し出す
TRPG風の行動判定システム「スキルチェック」
本作のジャンルは“ミステリーRPG”だが,戦闘をメインとしたRPGとは趣が異なり,“選択と結果”が重視された,いわゆるテーブルトークRPG(以下,TRPG)に近いシステムが採用されている。重要な選択の可否は,主人公のステータスやスキルを参照したダイスロールによって決定され,それによって物語の流れが変化していく。
主人公には「知性」「精神」「肉体」「運動能力」という4種類のカテゴリに分かれており,ゲーム開始時に8ポイントのボーナスを好きに割り振ることができる。これによって“主人公の人間性”にもつながる基本の能力が決まるので,自分がイメージする主人公像に合わせて設定しよう。
また,1カテゴリには6つ,全部で24種類スキルがあり,ゲーム開始の時点では6種類の中から1つを指定して習得できる。スキルは主人公の能力であると同時に,“固有の人格”を持つ存在としてゲームに登場し,プレイヤーにさまざまな恩恵を与えてくれる。
固有の人格を持つスキル……と言われても,なんのことやらサッパリ分からないはず。詳細は後述するので,ひとまずはスキルを見比べてみて,自分のキャラクターに合っていそうなものを選択してみるといいだろう。
キャラクタークリエイトを終えると,ナレーションの後にホテルの一室で倒れ込む半裸のオッサンが出現する。これが主人公だ。アルコールの過剰摂取の影響か,主人公は重度の記憶障害を引き起こしており,自分の出自や状況はおろか,外見や名前まで忘れてしまっている。
部屋はパーティーの最中に強盗に押し入られたかのように滅茶苦茶に荒らされており,おそらく主人公のものと思しき衣類が散乱している(しかも,ことごとく趣味が悪い)。ネクタイに至ってはシーリングファンに引っ掛かってクルクル回っている始末だ。
とりあえず衣類を拾い集めていると,ネクタイを取ろうとした際に選択肢が出現する。これが本作の特徴となる要素「スキルチェック」だ。スキルチェックを行う場面では,自身が選択した行動を成功させるため,2つのダイスを振って指定された出目以上の目を出さなければならない。
スキルチェックの目標となる数値は,その場面で有効なスキルの習熟度によって変化する。例えば身体を動かす選択肢を選ばなければならないシーンの場合,運動能力が低い運動音痴なキャラクターを作っていた場合は成功確率が低くなるが,逆に運動が得意であればその確率は一段と高くなるというわけだ。
“ネクタイを取ろうとしたときの選択肢”の話に戻ろう。筆者の主人公の能力では,「ネクタイを掴む」の成功確率は58%と,微妙に心もとない数字だった。ほかに方法はないかと「ネクタイを掴む」以外の選択を見てみると,「チェーンを引く」というものがあった。この選択肢はスキルチェックが発生しないようだ。
さっそく選んでみると,ネクタイをクルクル回していたファンが停止。それによって「ネクタイを掴む」の選択肢に「+3 ファンが止まっている」という補正が追加され,成功確率が一気に92%まで上昇した。これなら多少不器用な主人公であっても,安心してネクタイを取れそうだ。
このように,別の選択を取った結果や周囲で集めた情報などによって,スキルチェックのダイスに補正が加わることも少なくない。そのため,得意分野でないスキルチェックに行き当たった場合は,それを選ぶ前に周囲の確認や,関連しそうな情報を調べることが重要となってくる。
解決の手段が複数用意されていることが多く,一度スキルチェックで失敗したとしても,基本的にはそれによって物語が完全に行き詰まってしまうことはない。ミスしてもまた別の方法で問題を解決できるのも本作の特徴だ。
困ったときは,周辺をしっかりと調べて情報収集を行おう。意外なところで補正を得られることもあるので,まずは手の届く範囲から調査を進めておくといい |
得意,不得意は関係なく,すべての結果はダイス次第。成功確率が低くても,ときにはダメもとでチャレンジしてみるというのももちろんアリだ |
こうしたスキルチェックに挑戦し,物語上で重要な情報を得ると経験値(EXP)が溜まっていき,100に達するとスキルポイントを獲得できる。このポイントを割り振ることで,新たなスキルの獲得や既存スキルのレベルアップを行える。
ポイントはすぐ消費せず溜めておけるので,次のスキルチェックが出現した際にそこで有効なスキルを覚える(レベルを上げる)ために使うことも可能だ。入手したスキルポイントを,どのタイミングでどのスキルに使うか。それを考えるのも本作の醍醐味の1つと言えるだろう。
なんとか身支度を整えてホテルの一室から出ると,そこにはキム・キツラギを名乗る,小柄でメガネをかけた神経質そうな人物が主人公を待っていた。キムいわく主人公は刑事であり,このホテルがあるマルティネーズ地区で発生した殺人事件を調査しに来たのだという。
主人公とは別の管区に所属するキムは,協力して事件の捜査にあたることになったとのこと。どうやらキムも現場に到着したばかりで,主人公に関する情報はほとんど持っていないようだ。
しかし,キムとの会話のおかげで事件の概要は把握できた。主人公たちがいるマルティネーズ地区は,共産主義革命の失敗によって没落した国家の旧首都レヴァショールにある小さな港湾都市だ。治安の悪さから警察も手を引いており,現在は地元の労働組合が自警団を結成して治安を維持している。
そんな場所だが,凄惨なリンチを受けた被害者の死体が,木に吊るされて晒されているという事件が発生したことで,住民たちはさすがに警察に通報することにしたようだ。しかし場所が場所である。対応に困った警察は,近接する地区から主人公とキムを捜査官として送り込んだ……という話らしい。
そんな,何もかもが不明な暗闇の中で,すべての記憶を失った謎めいたオッサンが,小柄なメガネのオッサンとともに事件と自身の記憶の真相に迫っていく。それが「ディスコ エリジウム」の物語なのだ。
物語がどう転がるかは“人格を持つスキル”次第?
カオスで魅力的なストーリー演出に注目
やるべきことを理解したあとは,刑事らしく足を使って調査を始める主人公。そこで主人公の情報収集を助けてくれるのが,主人公が頭に宿した24種類のスキル“たち”だ。
これらのスキルは,スキルチェックをサポートする技能(技術)であると同時に,それぞれが固有の人格を持って主人公の中に存在している。主人公は,ことあるごとに思考に割り込んでくる“彼ら”と会話するような形でさまざまな選択肢に向き合っていくのだ。
例えば,知性に属するスキル「百科事典」は,会話に出てきた言葉の意味や,発見したものの歴史などを語ってくれる。何らかの調査をしている際,目の前のものの中から,さまざまな情報を(勝手に)読み解いてくれるのだ。
“情報の読み解き方”はスキルによって異なるため,それらの情報からなにが得られるのか,それによってどんな選択ができるのかといった部分は,スキル構成によって大きく変化する。シナリオの大筋は同じであっても,プレイヤーによってまったく異なる体験をすることになるだろう。
ただし,スキルたちの言葉が常に正しいとは限らない。例えば「百科事典」が,主人公の話し相手の発言から言葉の意味の間違いを見つけ出したとしても,それを言われたとおり相手に伝えるべきか否かは状況によって変わってくる。相手が不機嫌だったり怒っていたりしていた場合,指摘することで火に油を注ぐ結果になりかねないからだ。
ゲームが中盤以降にさしかかると,複数のスキルたちが頭の中で議論を始めることもしばしば。あるスキルは「見つけた矛盾を突き詰めるべきだ」と言い,またあるスキルは「同情してる姿を見せるべきだろう?」と語る。そしてそれらと別のスキルが「お前の威厳を見せつけて平伏させろ!」と迫ってくる。
そのすべてを実行することはできないので,状況に応じて取捨選択をするのが重要だ。どうしても選びきれないときは,ゲーム的に最適解かどうかは関係なく,「俺ならこうだ」と主人公になりきって選択するのも面白いかもしれない。
スキル構成以外で主人公の行動や選択に大きな影響を与えるのが,「思考キャビネット」というシステムだ。主人公は最初から複数の「思考スロット」を持ち,特定のテーマについて思考することでスロットに思考(思想)を組み込むことができる。
組み込んだ思想によって主人公はさまざまな特殊能力や,特定のステータスへのボーナスを獲得する。また,近い考え方を持った人との会話で特殊な選択肢が出現するといった多彩な恩恵も得られる。
この思考キャビネットが,主人公の人間性をより際立たせてくれるのも本作の面白さの一つ。組み方次第では,“他者に対して偏見の強い接し方をする人間でありながら厳しい自己批判の精神を持つ,自分をスーパースターだと思い込んでいる奴”といった,異様に内心が複雑な中年が出来上がることもある。いろいろな思考の組み合わせで,自分なりの主人公像を作り上げてほしい。
ローカライズの品質も良好で,本作の独特かつ絶妙な魅力をしっかり伝えるものとなっている印象を受けた。ドギツイ表現もあえて残すような形で翻訳されており,伝わりにくいスラングには注釈が入るなど,可能な限り原語版のニュアンスを再現してくれていたのだ。
警察に見捨てられた土地を守る自警団に,かつて革命戦争で戦った老人たち。物語の舞台となるマルティネーズ地区はお世辞にもキレイな場所とは言えず,そこにいる人々の思想にはかなり偏りがある。飛び交う言葉はスラングにまみれ,振る舞いも粗野かつ下品なため「どうしても受け入れがたい」と感じる人も少なくないだろう。
だが,そんな世界から見捨てられたような場所と人々だからこそ,“人が生きる”ということを深く,そして生々しく感じられるところがある。それは,彼らが単なる舞台装置ではなく,この世界に息づいた人間として描かれ,それぞれが自分の“言葉”を持っているからだと思う。
本作はそのシステム上,物語に対する印象や感想も人によって大きく変わるだろう。それもあって,クリアしたプレイヤー同士で感想を語り合うとかなり盛り上がるはず。筆者個人としても,ほかのプレイヤーがどのようなプレイを経て,どのようなエンディングを迎えたのかが非常に気になるので,発売後にゲーム仲間と話したり,SNSなどで発信される感想を見たりするのが楽しみだ。
決して万人向けとは言えない作品だが,さまざまな考え方や思想が交錯する世界を,“話しかけてくるスキル”によって構築される自分だけの主人公が冒険する本作には,ここでしか味わえない独特の魅力がある。こうしたシステムや世界観に「ビビッ」ときた人は,ぜひこの機会に触れてみてほしい。
「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」公式サイト
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ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット
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