レビュー
Xbox Series X版「Microsoft flight Simulator」のクオリティをチェック。コンシューマ機でもカジュアルにフライトが楽しめる
もはや学校教材で使うべき? 「Microsoft Flight Simulator」レビュー&オススメのコントローラガイド
2020年8月18日にリリースされたPC向けフライトシム「Microsoft Flight Simulator」は,30年以上の歴史を持つシリーズの最新作だ。「ゲーム」というより「手元のPCで実感できる最新コンピュータサイエンス技術の集大成」といった側面が強い本作のレビュー,そしてコントローラ導入ガイドをお届けする。
世界中の衛星写真,地図データから人工知能を用いて,地球をまるごとデジタル化。さらに気象データや水質地質データを元に,自然現象をリアルタイムに再現しているグラフィックスは,これがゲームであることを忘れさせるほどのダイナミズムを感じさせる。
ここまで大規模なコンピュータサイエンス色に溢れる作品は,巨大なソフトウェア企業であるMicrosoftがプロデュースしたからこそ作り得たのだろう。MSFSの技術的な解説や制作秘話については,「こちら」の記事にまとめているので,前述のレビューと合わせてご覧いただきたい。
本稿では,PC版のリリースから1年の時を経て,ついにローンチを迎えたXbox Series X版に焦点を当てていく。ゲームの内容についてはPC版の記事をご覧いただくとして,「コンシューマ版の出来はどうなの?」といったところをまとめてみよう。
「Microsoft Flight Simulator」公式サイト
Xbox Series X版はパッケージ版もあり
Xbox Game Passに加入していれば,Standard Editionが追加料金なしでプレイが可能だ。また,Xbox Play Anywhereに対応しているため,PC版(Microsoft Store版)とXbox Series X版のいずれかを購入すると,両方のプラットフォームで楽しめる。
ところで,昨年の発表時にはXbox One版のリリースも告知されていた。4Gamer編集部が日本マイクロソフトに確認したところ,こちらの続報はないとのこと。
Standard Edition | 航空機20種,空港30か所 | 7450円(税込) |
Deluxe Edition | 航空機25種,空港35か所 | 1万700円(税込) |
Premium Deluxe Edition | 航空機30種,空港40か所 | 1万3100円(税込) |
インストールの際に留意すべき点
筆者はPC版を所有しているので,今回は同じアカウントを使ってインストールを行った。事前に「相当なストレージスペースを消費する」と聞いていたが,Standard Editionのインストールには102.14GBの空き容量が要求された。
約100GBの本編をインストール後には,無料DLCの導入をおすすめする。
本稿の執筆時点(8月中旬)では7つの無料DLCがリリースされており,追加機体や機内グラフィックスのアップデート,人口が多めな世界各地の高精細景観アップデートなど,いずれも魅力的なものばかり。とくに,日本の景観アップデートは必須だろう。このアップデートを実装すると,「見たこともない高層マンション」だった東京タワーがおなじみの姿になるので,心穏やかにフライトが楽しめるはずだ。
なお,ダウンロードはMicrosoft Storeではなく,ゲーム内のメニュー「マーケットプレース」から行う。「無料」タブをクリックして,「フルカタログ」を選択すれば,追加料金なしでインストールできるDLCが表示される。筆者が確認したところ,7つの無料DLCの総容量は約30GBだった。
PC版にはロジクールやTHRUSTMASTER,Honeycomb Aeronauticalなど,さまざまな周辺機機メーカーから対応コントローラがリリースされている。前述のレビューでは,各社のコントローラについて簡易的な導入ガイドを記しているが,それらをXbox Series X版でも試してみたところ,やはりまったく反応しなかった。
なお,英Techradar(リンク)によると,「Thrustmaster T-Flight Hotas One Flight Stick」や「Thrustmaster Ace Combat 7 HOTAS Flight Stick」※が対応していると報じている(試してみたい人は自己責任でお願いする)。
また,Turtle BeachはXbox Series Xに対応するフライトコントローラの発売を予告しており(リンク),いずれは各社から対応製品が出てくることだろう。
※ホリ製のフライトスティックだが,欧米圏ではThrustmasterが販路を担当。Xbox One版は国内未発売。
さて,PC版のレビューでは,アスペクト比32:9の超横長(ウルトラワイド)ディスプレイでプレイできた旨をお伝えしている。
Xbox Series X版でも同様に試してみたのだが,執筆時点(8月中旬)ではウルトラワイドディスプレイに接続しても認識されず。アスペクト比16:9の映像が出力されるのみだった。PC版でウルトラワイドディスプレイの迫力を知っている身としては,今後の対応を期待したい。
Xbox Series X版は遠景の描画に違いあり
そのほかはほぼPC版に近いクオリティ
ここからが本題だ。Xbox Series X版とPC版の差異について見ていこう。なお,今回の評価はXbox Series X本体を使用したものであることを断っておく。
Xbox Series Xでの映像出力は4K解像度(3840×2160ドット)に対応しており,リフレッシュレートとしては60Hzが採択されているが,フレームレートは30fps前後といったところである。Microsoftによると,HDMI2.1の新要素であるVRR(Variable Refresh Rate)に対応したテレビ/ディスプレイであれば,30fpsを超える可変フレームレートでプレイできるという。なお,HDMI2.0対応のテレビ/ディスプレイであっても,VRRと事実上の同系技術であるFreeSyncやAdaptiveSyncに対応した製品であれば,可変フレームレート表示には対応できるはずだ。
ちなみに,PC版ではグラフィックス品質設定を最上位「ウルトラ」にした場合,ハイエンド級のPC環境(CPU:Ryzen 9 5950X,GPU:Radeon RX 6900 XT)でも約50fpsといったところだった。最高クラスのゲーム用PCであっても,「ウルトラ」設定では安定的な60fps出力は厳しいようだ。
Xbox Series X版はPC版と同様,HDR出力に対応している。対応のテレビ/ディスプレイであれば,ハイコントラストな美しい映像が楽しめる。実際,太陽を直視に近い形で画面に映り込ませたときはもちろんのこと,夕焼け雲や夜景,水面に映る空などもリアルな明暗表現で描き出してくれる。
さて,Xbox Series X版とPC版のほぼ同一シーンを見比べてみたところ,ほとんど違いは分からない。PC版における「ウルトラ」ではないとはいえ,「ミドル」や「ハイエンド」あたりの設定と言えそうだ。
MSFSでは地質学データを地形に反映しており,水面色は陽光による水面からの反射光だけでなく,水面下に入射して水底に到達し,その地質の特性を反映した出射光をも演算したうえで求められている。この動的な計算はXbox Series X版でも正しく行われているようで,陽光が天球上の真上付近にあり,かつ低空飛行したときには海面がちゃんとエメラルドグリーンに輝いていた。
時刻や雲の増減の設定を変更しつつ,さまざまなロケーションの見映えをチェックしたが,やはりXbox Series X版とPC版の明確な差異は見つからない。
北極圏付近をフライトしてみたところ,地形のテクスチャがやや粗めであることに気づいたのだが,それはPC版でも同じだった。
ただ,まったく違いがないというわけでもない。
Xbox Series X版では,視点を変えたときに遠方の景観が複数フレームに渡り,徐々にパラパラと描かれていく瞬間があるのだ。一度,描かれた遠景はその後に落ち着くのだが,さらに違う方向に視点を向ける(カメラを回転させる)と,やはり同様の「遠景パラパラ描画」が再び見られる。
こうした現象は(筆者の環境の)PC版では起こらない。どうやら「RAM(メインメモリ)の容量差」に原因があるようだ。
MSFSでは,描画に必要な景観データをリアルタイムにストレージデバイスから読み出しているが,PC版では十分にRAMが搭載されている場合,自機の地点から360°全方位の景観データ(遠景を含む)を読み込める。一方,Xbox Series X版ではそこまでのメモリ容量がないため,遠景の景観データは視点の方向のものを適宜読み出し,順に描画していく仕組みになっているようだ。
なお,遙か遠方まで見渡せるような,かなりの高度を飛んでいるときでなければ,「遠景パラパラ描画」が気になることはないだろう。また,雲が多かったり,高湿度で遠方が霞む天候だったりすれば目立たない。その意味では,上手い落としどころになっていると思う。
Xbox Series X版のプレイフィールにも触れよう。
前述のとおり,Xbox Series X版のフレームレートは30fps程度なのだが,これより高フレームレートのPC版と比較しても,あまり違いを感じなかった。これは,MSFSが戦闘機のドッグファイトゲームとは違い,かなり緩いスピード感のフライトゲームだからだろう。機体を大きく旋回させても,戦闘機のように景色が激しく動くわけではなく,民間機主体なので粘っこくグググッと流れるようになっている。
2021年秋には映画「Top Gun: Maverick」(トップガン マーヴェリック)とのコラボレーションによる無料拡張コンテンツがリリース予定とのこと。戦闘機を操縦できるようになれば,Xbox Series X版とPC版の違いを顕著に実感することになるかもしれない。
Xbox Series X版はPC版に見劣りしない
シンプルかつカジュアルに楽しめる
こうして見ていくと,Xbox Series X版はかなりよくできていることが分かるだろう。「ソフトウェアのコンシューマ移植版」としては申し分ない。
ただ,PC版はフライトシム用の対応コントローラが充実しているため,「フライトシミュレーターのプレイ環境」の面ではどうしても一歩届かない。「航空機を操縦している気分をリアルに味わいたい」と願う“ガチ勢”にとって,Xbox Series Xの標準コントローラで遊ぶことはネックになると思う。このあたりは,今後のMicrosoftや周辺機器メーカーの努力に期待したいところ。
今回,筆者はMSFSをゲームパッドで初めてプレイしたのだが,確かにPC版と同様の「航空機を操縦している気分」が味わえるとは言い難い。その一方で,気軽にフライトを楽しむことができたと感じている。
本格的なフライトコントローラでプレイするより,操作自体が手軽だったし,なにしろ墜落しにくいので気が楽だ。「地球上の景色を大空からの視点で,シンプルかつカジュアルに眺めたい」というなら,Xbox Series X版は十分に満足させてくれる。とくにフライトシム初心者であれば,対応コントローラの有無は問題にならないはず。
また,PC版のレビューで触れたとおり,MSFSは地理や理科,科学の学習教材としても最適だと思っている。若年層の学生におすすめしやすいという意味でも,Xbox Series X版は歓迎すべき存在だ。
「Microsoft Flight Simulator」公式サイト
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