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最初のテーマは異世界転生だった!? 「A列車で行こう はじまる観光計画」は親しみやすいシミュレーションを目指した作品
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印刷2021/03/05 12:00

インタビュー

最初のテーマは異世界転生だった!? 「A列車で行こう はじまる観光計画」は親しみやすいシミュレーションを目指した作品

 2021年3月12日にアートディンクから発売予定のNintendo Switch用ソフト「A列車で行こう はじまる観光計画」。本作は,シリーズの持ち味であった,鉄道を中心に都市を発展させていく面白さに,「観光」という新要素を導入した意欲作だ。

画像集#001のサムネイル/最初のテーマは異世界転生だった!? 「A列車で行こう はじまる観光計画」は親しみやすいシミュレーションを目指した作品

 「A列車で行こう」シリーズにはナンバリング(PC・据え置き機用)と携帯機用という2つの流れが存在する。1986年から展開しているナンバリングは,鉄道要素のディテールを重視。2009年の「A列車で行こうDS」から始まる携帯機用シリーズは,アニメ絵風のキャラクターがナビゲートしてくれるなど親しみやすさを追求している。

 今回話を聞く飯塚正樹氏は,携帯機用シリーズを手がけてきた人物だ。Nintendo Switchは携帯機にもなる据置機だが,果たして飯塚氏は,どのような思いでA列車の開発に挑んだのだろう。話を進めるうちに見えてきたのは,飯塚氏が過去に手がけた「カルネージハート」での反省と,大人向けやコア層といったシミュレーションの常套句にとらわれず,若年層を取り入れていこうとする姿勢だった。


異世界転生から観光へ。皆が望む「A列車」を目指す苦悩


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずは飯塚さんとA列車の関わりについて教えてください。

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飯塚正樹氏(以下,飯塚氏):
 「A列車で行こう はじまる観光計画」のディレクター,飯塚です。ずっとA列車に携わっているわけではないのですが,PCエンジン版などに関わり,「A列車で行こうDS」から始まる携帯機シリーズのディレクターを務めてきました。A列車シリーズのほかに,「カルネージハート」シリーズも自分が手がけています。

4Gamer:
 「カルネージハート」は名作として名前が挙がることが多いですよね。

飯塚氏:
 新作を期待する声も多いですね。ただ,「カルネージハート」は評価こそ高いのですが,作品を重ねるごとに売上は下がっていったシリーズでした。既存のユーザー「だけ」をターゲットにしたような作品にしてしまうと,必ず先細りしていくことになるんですね。こうした経験もあって携帯機版の「A列車で行こう」でも,プレイヤー層を拡大することは強く意識しています。

4Gamer:
 シリーズ作品を振り返ってみると,携帯機向けに発売されているものにはナンバリングが付いてませんよね。

飯塚氏:
 ナンバリングは社長の永浜(達郎氏)が1986年に「A列車で行こう」を発売したところから始まっていて,私が手掛ける携帯機用シリーズとは別軸の展開をしています。
 ナンバリングでは,鉄道を中心に置いた都市づくりの魅力を存分に引き出しています。一方,私が携わる作品は,鉄道に詳しくない方でもしっかり楽しんでいただけるよう,鉄道と街作り・経営のバランスを取ったものになっています。

4Gamer:
 では,今回の新作「はじまる観光計画」の特徴を教えてください。

飯塚氏:
 従来作では,鉄道を敷いて,街が大きくなって市街地ができれば完成という流れでした。今回はそこに「観光」という新しい方向性を取り入れ,のどかな観光地を発展させる遊びができるようになりました。これまでシリーズ作品を遊んでこられた方も,新たに遊ばれる方も,満足していただける作品になったかと思います。もっとも,私のシリーズも長いですから,ネタを作るのが大変で,観光というテーマが出てくるまでに紆余曲折がありましたね。

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4Gamer:
 どんな紆余曲折があったのでしょう。

飯塚氏:
 永浜から「新しいA列車を作ってよ」と言われていくつか企画を出したんですが,それがどれも没になってしまいまして。

4Gamer:
 どんな企画だったのか気になります。

飯塚氏:
 最初に出したのは,流行を取り入れた“異世界転生A列車”でした。社長(プレイヤー)を異世界に転生させ,ファンタジーな世界に鉄道を敷いていくというものでしたね。

4Gamer:
 それはそれで遊んでみたい気はしますが……。

飯塚氏:
 永浜に言わせると「そんなのA列車じゃない」ということで,アッサリと没にされました(笑)。次に提案したテーマは昔の鉄道です。前作「A列車で行こう3D」で戦後の時代を扱ったのですが,それよりももっと前の時代ですね。日本鉄道という黎明期の鉄道会社は,線路ひとつ,トンネルひとつ作るだけでもとても大変だったそうなので,こうした苦労にフォーカスした企画を出したんです。

4Gamer:
 こちらの企画も渋いというか,良さそうに思えますが。

飯塚氏:
 永浜からは「鉄道を引く苦労っていうけど,そんな苦労を誰もがしたいとは思えない。それはみんなが望むA列車ではないし,一番売れるA列車じゃないんじゃないの?」と言われました。

4Gamer:
 シリーズとしての安定を取るなら,従来路線を踏襲すればいい。けれど,それでは飯塚さんが重要視するプレイヤー層の拡大が実現できないと。

飯塚氏:
 一番売れるA列車は,これまでの路線を踏襲したものですが,この方向性は2009年からずっとやっているので,ネタが尽きているわけです。

4Gamer:
 八方ふさがりになってしまったわけですね。そこからどうやって脱却したのでしょう。

飯塚氏:
 昔の鉄道を調べていたときに,「神社へ参拝するために線路を敷いた」というケースがいくつかあることに気づいたんです。また,海外からのインバウンドによる経済効果が注目された時期だったこともあって,そこから「観光」というキーワードにたどり着いたんです。

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4Gamer:
 「観光」の要素が入ったことで,ゲームはどう変化しましたか。

飯塚氏:
 「観光客が来てくれるよう,街以外の場所に住む人のニーズを考えていく」ゲームになりました。これまでのシリーズでは,「駅近隣住民のニーズを満たしていく」という考え方でしたので,そことはひと味違ったものになっています。
 とくに面白いのが「観光ルート」というシステムですね。観光客の流れを示すことで,輸送能力のボトルネックを視覚化できました。“鉄道をいくら充実させても,駅からのバスが貧弱だと観光客がうまく流れてくれない”なんてことが見えるわけです。観光地でバスが大量に並んでいる光景を見たことがある方も多いと思いますが,ああした現象がなぜ起こるかをゲームシステムとして描けていて,自分で遊んでみても面白いと感じています。

4Gamer:
 現在は新型コロナウイルスの流行もあって,首都圏には緊急事態宣言も出されています。観光とはほど遠い状況での発売になるわけですが,これは作品にとって逆風と捉えますか?

飯塚氏:
 逆風になっていると感じたこともありました。ただ,現在は新型コロナウイルスによる“巣ごもり”状態になっているので,自宅で観光気分を味わうことを求められているんじゃないかと思います。本作には,ゲーム内の列車から観光地を眺められるモードもあります。自分が育てたという感慨に浸りつつ観光地を堪能できるので,出かけたいという思いも満たされるんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど。安全に観光気分を味わえるわけですね。


こだわりたいならこだわれるけれど,「こだわらなければならない」ではない


4Gamer:
 経営シミュレーションと聞くと「難しい」というイメージを持つ人も少なくないと思いますが,そのあたりはどのくらい意識しているのでしょうか。

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飯塚氏:
 そうしたイメージについては,ずっと気にしています。「カルネージハート」シリーズはプログラミングを楽しめる人がそもそも少なかったため,シリーズを続けていくにつれて先細りになってしまうことになりました。なので「A列車で行こう」シリーズには,絶対に同じ道を辿らせるわけにはいかないと思っています。
 「A列車で行こう」シリーズのプレイヤーには,大まかにわけて「鉄道ファン」「都市を開発したい人」「経営を楽しみたい人」の3タイプがおられます。「鉄道ファン」属性が強い方は車両のバリエーションを重視され,ゲーム性をあまり求めていなかったりしますし,好きなように街づくりを楽しみたい「都市を開発したい人」も同様の傾向にあります。つまり,ゲームとしての歯ごたえがあるところが,マイナスになってしまうこともあるんです。

4Gamer:
 ひとくちに「A列車で行こう」ファンといっても属性はさまざまで,ニーズが相反することがあるわけですね。

飯塚氏:
 「A列車で行こう はじまる観光計画」では,“できることは多いけれど,必要な事はなるべく少なく”をキーワードに,皆さんのニーズを満たせるようにしています。
 例えば鉄道についても,たくさんの車両やカスタマイズといったディープな要素も用意してありますが,細かく編成しなくても経営にはあまり影響しません。こだわりたい人はこだわっていただき,そうでない場合もプリセットされたものを選ぶだけでゲームは進められるのです。
 ニンテンドー3DS版で標準だった機能も,今回は拡張機能的な扱いとしています。高度な機能をいったんプレイヤーの目から切り離して,「やらなければならないこと」ではなくし,「分かっている人や,のめり込みたい人が任意に使える」ようにしました。ゲーム内で「やらなければならないこと」が増える度に,ゲームを受け入れてくれる層が狭くなっていくんじゃないかと考えたんです。

4Gamer:
 細かい点までこだわらなくてもゲームは進むけれど,凝ったことをできるだけの深みは用意されていると。

飯塚氏:
 そうですね。加えて,個性的なキャラクターも登場し,プレイヤーが迷いそうなところではアドバイスをしてくれます。例えば駅を建てる場合,初心者はどこがいいのかサッパリ分からないと思いますが,本作ではキャラクターが「ここなら適しています」というように教えてくれるんです。キャラクターデザインに「世界樹の迷宮」シリーズで知られる日向悠二さんを起用して,現代的なテイストにしていますし,社長との会話中に選択肢が出てきたり,掛け合いをしたりと,これまでよりも賑やかで親しみやすくなっていますよ。

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4Gamer:
 なるほど。それならシリーズ未経験者でも安心して遊べそうですね。

飯塚氏:
 もちろん,難度も複数の段階を用意しています。一番簡単なものなら資金も潤沢で,経営目標の達成期限をいくらでも延長できる状態ですが,最高難度ならA列車シリーズを遊んできた層が,歯ごたえのある経営に挑戦できます。

4Gamer:
 本作の対象年齢は,どのあたりを想定していますか。

飯塚氏:
 中学生以上ですね。電車を走らせる,街を作るだけで楽しめるようにはなっています。損益計算書や貸借対照表といった会社経営の要素も出てきますが,そこを学ばないとゲームに影響するといったことはありません。社長気分を味わうフレーバーくらいに思ってもらえれば大丈夫です。

4Gamer:
 経営も絡むシミュレーションとなると,社会人が対象だと思っていたんですが,そうではないんですね。

飯塚氏:
 私の携帯機用シリーズは,小学校高学年くらいから遊ばれているケースが多いようです。「小さい頃に遊んだ時はいろいろな表や要素が理解できなかったけれど,大きくなってから改めて見ると理解できるようになり,面白みが増した」という声もあります。
 なので,なるべく低年齢層を取り込みたいと考えてはいるんですが,ニンテンドー3DSのときに取ったアンケートでは30〜40代がボリュームゾーンだったこともあり,ずっと遊んでくださっている方に感謝する一方で,先細りへの危機感はやはりあるんですよね。キャラクターデザインを日向さんにお願いしたのも,こうした理由によるものです。

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4Gamer:
 アートディンク自体に「大人のゲームを作るメーカー」というイメージがありますからね。昔に出していたPCゲームのパッケージも,白が基調になった「A列車で行こうIII」や「IV」,邦画のポスターを思わせる「トキオ」などオシャレなデザインで,買う時にちょっと背伸びしたような気持ちになれましたし。

飯塚氏:
 若手たちはいろいろなメーカーのゲームを受託開発していますから,大人向けのゲームだけを作っているわけではありません。私のシリーズも,「大人向けのナンバリングシリーズの簡易バージョンなんでしょう?」と誤解されることが多いんです。決してそういうことはないんですけれど。


自分なりのスタイルで世界へと発信する


4Gamer:
 ここからは,飯塚さんがゲーム作りについて気を付けている点などをうかがっていきたいと思います。他社のシミュレーションゲームから影響を受けることはありますか。

飯塚氏:
 いろいろなシミュレーションゲームを遊びはしますが,同じ方向性を目指すことはないですね。たとえば,海外製のシミュレーションゲームは,フォトリアルなグラフィックスによるリアリズム重視なものが多いじゃないですか。だけど,私はアニメ風のデフォルメされたグラフィックスで,現実をベースとしたユルめの世界を描き,気軽に楽しめるものを目指したい。もちろん,リアリティ重視のゲームも面白いし大好きなんですが,みんなが同じ方向性だと,自分なりのスタイルが生まれないんじゃないかと思うんです。

画像集#021のサムネイル/最初のテーマは異世界転生だった!? 「A列車で行こう はじまる観光計画」は親しみやすいシミュレーションを目指した作品

4Gamer:
 では,飯塚さんのA列車シリーズは,海外を目指してリアリズム偏重に舵を切ったりはしないと。

飯塚氏:
 日本で受けるものをちゃんと作っていけば,海外でも受け入れられると思っています。しばらく前だと「日本産のコンテンツはガラパゴスなんだから,海外では通用しないよ」と言われることが多かったのは確かです。しかし,今は日本のコミックもそのままの形でヒットしていて,皆の考え方も変わってきています。
 これからも,自分なりのA列車を作り続けていきたいとは思いますが,それは海外のゲームとはまったく異なったものになると思います。とはいえ,また迷走してヘンな企画書を書くかも知れませんが(笑)。

4Gamer:
 「A列車で行こう」シリーズをSteamで海外展開したときの反応はいかがでしたか。

飯塚氏:
 私が関わった作品については,日本と同じような反応をいただいていますね。鉄道で都市が発展するシステムは,日本の歴史を反映したものであり,こうした部分が新鮮であるというお声もありました。確かに「シムシティ」などでも,都市の発展は鉄道よりは道路がメインですし。

4Gamer:
 ゲームを若年層に届けるために必要なものは何だと考えていますか。

飯塚氏:
 どうすれば低年齢層に届くのかは,ずっと悩んでいるところですね。今回の開発でも,低年齢層に向けたフィーチャーをいろいろ考えてはみました。“親子でのプレイを想定し,親御さんは街を開発,お子さんが電車を運転する”なんてものもあったんですが,これでは電車を運転することに特化したゲームには敵わないし,幅広い年齢層が楽しめるものにはならない。もちろん実装自体は可能ですが,ゲーム自体が別物になってしまうんです。

4Gamer:
 「A列車で行こう はじまる観光計画」では,どのような取り組みをされましたか。

飯塚氏:
 日向さんにキャラクターデザインをお願いしたこと,そしてゲーム内のヘルプを充実させることです。「A列車で行こう」シリーズにはさまざまな専門用語が出てきますが,説明がないと読み方すら分からない。「分かる人には分かりますよね」ではなく,とにかく全部の用語を説明してみるというくらいの心構えが大事なんじゃないかと考えました。

4Gamer:
 なるほど。いろいろな方法で間口を広げることが重要なわけですね。

飯塚氏:
 企画を作るときは,“シリーズファンの方に買っていただくためのアイデア”と“多くの方から興味を持っていただくためのアイデア”の両方が必要だと思います。今回のキーワードである「観光」はどちらの方にも響く要素ですので,ゲーム内で観光地開発を楽しんでいただきたいです。また,キャラクターも存在感を増していて,賑やかな掛け合いが楽しめたり,会話中に選択肢が出てきたりします。シリーズを遊んだことがなくても,キャラクターに興味があるという方もぜひ遊んでみてください。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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