インタビュー
[インタビュー]「FINAL FANTASY XVI」のジェットコースター展開なバトル,召喚獣大決戦など“バカだな!?”と思える作り込みを聞く
[プレイレポ]「FINAL FANTASY XVI」は大迫力の“召喚獣合戦”が最高。手厚いサポート機能で誰でも楽しめるアクションも好印象
スクウェア・エニックスは,2023年6月22日に発売予定のアクションRPG「FINAL FANTASY XVI」のメディアツアーを,世界各国で開催した。ここでは,初めて本作のプレイアブルバージョンが披露され,シリーズ初の本格リアルタイムアクションを体験できたので,プレイレポートをお届けしていこう。
※このバージョンはメディア体験用の特別版であり、リリース時のものとは異なる場合があります。
※画面はメディア体験用の特別版であり、リリース時のものとは異なる場合があります。
プレイアブルバージョンの試遊後,本作のプロデューサーを務める吉田直樹氏とディレクターの髙井 浩氏,そして本作のインタビューでは初めて登場する本作バトルディレクターの鈴木良太氏に,話を聞く機会を得た。今回のツアーがバトルにフォーカスしたものだったこともあり,インタビューでもバトルまわりを中心に質問してみたので,その模様をお伝えしていこう。
本格アクションの開発に苦戦していたタイミングで舞い込んだ運命的な出会い
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。鈴木さんがインタビューに登場するのは初めてですので,まずはバトルディレクターとしてFFXVIのチームに合流した経緯を教えてもらえますか。
僕はカプコンで20年間,2D対戦格闘ゲームと3Dアクションゲーム専門のバトルデザイナーをやってきました。カプコンでは,最後に「デビル メイ クライ 5」のアクションリーダーを担当したんですが,それが終わったタイミングで「この先,どうしようかな」と思っていたんです。自分のようなアクションゲームに特化したゲームデザイナーは,ゲーム業界でどれだけ需要があるのかな,とふと思いまして。もしかしたら需要ないのかも……と悩んでいたりもしました。
4Gamer:
むしろ,それだけの経験をお持ちなら,ものすごく求められそうな……。
鈴木氏:
僕自身,アクション作りにはそれなりに自信があります。でも,ゲーム開発って,チームで協力し合ってできるもので,「これまでやってこられたのは,僕ではなくチームが優秀だったからでは?」と思ってしまう瞬間もあって。だからこそ,カプコンじゃないところで自分がどこまで通用するのかを試してみたいとも思っていました。
そんなとき,人づてですが髙井に「僕みたいなアクションに偏ったゲームデザイナーって,スクエニさんに需要あります?」と話したのが,FFXVIに合流したそもそものきっかけですね。
髙井 浩氏(以下,髙井氏):
人づてでその話が来たとき,僕はちょうど「デビル メイ クライ 5」をプレイしながら,「FFXVIはこのレベルと勝負するのか……」と思っていたところでした。それで鈴木のキャリアを聞いて,「すぐ会う!」って。
4Gamer:
あまりにもタイミングが良すぎる(笑)。
髙井氏:
それで会ってみたら「アクション以外,取り柄ないんですよね……」とか言ってるんですよ。こちらとしては,その取り柄が喉から手が出るほど,それこそすぐにでも欲しいのに! だからそれを聞いてすぐに,吉田に相談をしました。
吉田直樹氏(以下,吉田氏)
僕もそれを聞いて「じゃ大阪行くわ」と。すぐ鈴木に会いに行きました。フットワークの軽さを見せないと,という感じで動いたのですが,一方の鈴木はすごく真面目な雰囲気だったんです。予約してくれたお店がすごい料亭で,広い座敷の端っこで2人してすき焼きつつく,みたいな。正座の鈴木に,「止めて止めて」と(笑)。
それで「この先のキャリアを考えている」という話だったので,「作ってもらうのはFFXVIなんだけど,どうかな」と切り出したら,「やりたい」と言ってくれたので,「しっかり条件面も含めて提示できるようにしていこうと思っている。最速で来てくれたら嬉しい」と,その場で返答しました。
4Gamer:
いきなりでそこまで。
取締役ですからね(笑)。
ただ,当時は,FFXVIを本格アクションにするのに,かなり苦戦していたんです。α版ができた辺りで,これからどうするのか考えなければならないし,そもそも作り方が合っているのかどうかが分からない。さらにはゲームとしての外連味も出しづらい……とその先へ進むための問題や迷いが多い時期でした。そんなときに,鈴木との出会いがあって本当に助かりました。FFというフランチャイズには,やっぱり運があるんだなと思います。
4Gamer:
鈴木さんからすると,相談してみたら「FFXVI作って」と言われたわけですよね。さすがに予想外だったのでは?
鈴木氏:
それはもう。吉田に会った時点では,FFXVIがガチのアクションとして作られているなんて情報は,当然知りませんでしたからね。僕もちょうど「デビル メイ クライ 5」の開発が終わったところだったので,運命的な出会いだったと思っています。
4Gamer:
FFXVIのバトルを任されることが決まったときの感想を教えてください。
鈴木氏:
すごくやりがいがあると思いました。「FFというIPに携われる」というのとは,少し違うんです。もともとアクションではなかったゲームを,アクションRPGにして世界に挑戦するって,もうやりがいしかないんですよね。
同時に,本当に歴史のあるIPですし,絶対に失敗できないという思いもあって。自分が今まで培ってきたノウハウを全部使っての勝負になる,成功したらそれは自分の実力で勝ち取ったと思える。だから挑戦してみたいと思って転職を決めました。なので,決して引き抜かれたわけじゃないです(笑)。
吉田氏:
来てもらったら,鈴木は本物でした。主人公のクライヴのほぼすべて……いや,ほぼじゃないな。すべてのアクションを,立案から数値,発注,アニメーションのコントロールと,何から何まで全部作ってくれたんです。仕様書を書いて共有して「あと,よろしく」じゃなくて,モーションのフレーム数に至るまで全部決めています。
4Gamer:
鈴木さんがいなかったら,今の格好いいクライヴはいなかったわけですね。
吉田氏:
はい。鈴木抜きでどうなっていたかは,ちょっと想像が付かないです。
鈴木氏:
今回はバトルディレクターという立ち位置ではありますが,プレイヤーキャラクターのリードも兼任しています。リードを担当する以上は,しっかり企画立案して,実装,調整,ブラッシュアップ,バグ取りなど全部責任を持ってやらないといけない。アクションゲームは,操作するプレイヤーキャラクターがコケるとそれ以降のものもすべてコケて見えてしまいますから,責任を持って,最後まで仕上げました。
「アクションは苦手」という人でも楽しめるように
4Gamer:
今回,世界最速でFFXVIのプレイアブルバージョンを触ったわけですが,以前のインタビューで吉田さんが本作の作り込みに対して言っていた「バカバカしさを感じてほしい」「こいつらバカだなって思ってほしい」というのは,本当に思いました。とくに召喚獣同士の戦いは,「うわ,バカだー!」って。もちろん,褒め言葉ですよ。
よかったー! 「そこまでじゃありませんでした」「あなた達,賢いですね」とか言われたらどうしようとドキドキしました(笑)。
4Gamer:
(笑)。
吉田氏:
自分達でも楽しめているので,大丈夫だろうとは思っているんですが,何せ外部の人に触ってもらえる機会がなかったので,その感想はすごくホっとします。「俺達だけがよくできたと思っているんじゃないか……」って不安は,挑戦の高さが高いだけにどうしてもあるんですよ。
今回は,開発チームに無理を言ってイフリートvs.ガルーダのバトルも用意したのですが,召喚獣同士のバトルはここでしか使っていないアニメーションだらけなので,そのバカバカしさを感じてもらえたのなら本当によかったです。
4Gamer:
完全に怪獣大決戦という感じで,作り込みに驚きました。とくに演出の物量の凄まじさを感じましたね。シーンの使い回しがなく,本当に自分で動かせる特撮映像みたいな雰囲気でした。
吉田氏:
そうおっしゃっていただけると,大変嬉しいです。
今回は,シームレスに人vs.人のバトルが始まり,人vs.召喚獣のバトルになり,そして最後に召喚獣同士のバトルへ,一切ロードが入らず全部リアルタイムでつながっていくところを体験してもらいたかったのですが,そこはいかがでしたか?
4Gamer:
かなり早い段階から,「ジェットコースターみたいな展開のバトル」という表現をされていましたが,言葉だけだとピンと来なかったんです。でも実際に触ってみたら本当にそのとおりで,戦っていると次から次へといろんなことが起き,気の抜けるタイミングがなくて,ものすごく熱中できるな,というのが素直な感想です。そのぶん,倒せた後の脱力感もすごかったですが(笑)。
吉田氏:
実は今回,リアルタイムにこだわったおかげで,カットシーン中でもいつでもポーズできるようになっています。一度休んで再開していただいても大丈夫ですよ。
4Gamer:
いやいや,途中で止めたらもったいないですよ。一気にプレイしたいです。おそらく,あの感覚がゲームのスタートから終盤まで続くと思うのですが,それは開発に時間もかかるだろうし,大変だっただろうなと。
4Gamer:
今回はバトル中心の試遊でしたから,そのあたりの質問からいきますね。まず,召喚獣アビリティは召喚獣それぞれに3つずつ用意されていましたが,あれが最大数なのでしょうか。
鈴木氏:
今回のバージョンは,1つロックされた状態だったので,各召喚獣に4つずつアビリティがあります。
吉田氏:
さらにその召喚獣アビリティをマスターまで鍛えると,召喚獣の枠を外れてタイタンの技なのにフェニックスに付けたりできるようになっていきます。
4Gamer:
それは戦い方の幅がかなり広がりそうですね。
吉田氏:
最終的には,本当にお好みの戦い方ができるようになります。
髙井氏:
ただ,アビリティポイントをやりくりしなければならないという制約はありますが。
鈴木氏:
基本的に,レベルアップしたタイミングでアビリティポイントが支給されるので,その都度フルで使って召喚獣アビリティをガンガン覚えられます。もし気に入らなければ,すぐに戻せますし,この払い戻しに対するコストもペナルティも一切ありません。
4Gamer:
アビリティポイントを溜め込んでも,意味がなさそうな作りでしたよね?
鈴木氏:
はい,ポイントの温存は推奨していませんし,それが得にもならないようにしていますので,フルで使い切って大丈夫です。
習得した召喚獣アビリティを強化したら,攻撃表現が変わったり,ヒット数が増えたりとアクションが大きく変化するので,溜まったらすぐ使いたくなると思います。
4Gamer:
「アビリティポイントでどれだけ自分好みにするか」みたいなのを考えるのも楽しそうです。
そういったアビリティの割り振りや,装備ボタン押せばお任せでできるところも「手軽にやっていい」感が強く出ていて,些細な部分にも気を使っていると感じました。
吉田氏:
そこは,「FFシリーズのナンバリング初の完全リアルタイムアクション」をテーマに作ってきたからこそですね。「FFシリーズは好きだけど,アクションは苦手」と言う人にも,ストーリーを最大限楽しんでもらうために必要なものを全部揃えたつもりです。コストを払い戻せないとか,次に何をとればいいか分からないとかは,可処分時間が少ない現代人にとって結構キツいですよね。下手をすると「習得しない」という候補も出てくることになってしまうと思うんですよ。
4Gamer:
1つ1つ試すとかだったら,面倒だしいいや,みたいな。
吉田氏:
僕自身は,とりあえずレベルが上がったらお任せをしてもらって「何か増えた。何が増えたか分かんないけど,別にいいや」でもいいと思っていて。「それがあることによって,気楽に遊べるようになるから」と開発チームに説明したら,かなり徹底してくれました。
4Gamer:
アクション好きとしては,今回触って,もっといろいろ試したいという気持ちが強くなりましたけどね。召喚獣を切り替えると戦い方がかなり変わるので,楽しかったです。
吉田氏:
「これを覚えればあとは要らない」みたいな定番が出ないようにしてくれと頼んだら,鈴木が本当に頑張ってくれたんです。どの召喚獣もゲーム体験が異なっていて,タイタンだったらガード重視で,ガルーダだと手数と空中戦,フェニックスはとにかくバランスがいいといった形で必ず特徴があります。
鈴木氏:
ストーリーを通して召喚獣が新しく手に入ることによって,戦闘スタイル──要するに召喚獣ごとの突出した能力や凹んでいる部分のバランス感,パラメータ上の特徴だけでははなく,召喚獣ごとの“戦術の差別化”を重視しました。たとえばタイタンであれば,プレイヤーの反射神経がダイレクトに強さを引き出すし,ガルーダはコントローラさばきのうまさや単体の機動力に突出していて,かつ手数も多いけれど,攻撃力自体はそれほど高くない。
召喚獣ごとに大きく遊び方が変わるので,後半に強い召感獣が手に入って前半の召感獣はもういらない,ということにはなりません。“死に”と言われてしまうものが出ないように,ここは常に意識して調整しました。
4Gamer:
今回のバージョンでは,3体の召喚獣を使えましたが,ほかの召喚獣でも遊んでみたくなりました。
あと,各召喚獣アビリティのクールダウンが別扱いになっていて,切り替えながら戦いたくなるところが,仕組みとしてもすごく触り心地がよく楽しかったです。「[□]ボタンで使うアビリティは,全部クールダウンを共有」みたいな形だったら,きっと使うものが限られてしまいますよね。
吉田氏:
この仕組みだからこそ,アビリティの使い方が人によってかなり違ってくるので面白いんです。チーム内にはアクションが苦手だからと,剣をほとんど振らずにクライヴを動かしているスタッフもいます。召喚獣アビリティでドーン! 切り替えてバーン! また切り替えてドーン! ってやって,最初のアビリティのクールダウンが終わるまでフラフラしている。
髙井氏:
ある意味,正解なんだけどね(笑)。
吉田氏:
そのプレイスタイルでも,十分クリアできるようになっています。
4Gamer:
吉田さん達の好みのスタイルも聞いてみたいです。
吉田氏:
僕自身はクライヴというキャラクターの心情に寄り添ってしまうので,フェニックスを外しづらいんです。クライヴは,もともと弟から授けられたフェニックスの祝福で戦っているので,ほかの召喚獣を手に入れても使い続けたくて。でも髙井のプレイを見ると,フェニックスがいない(笑)。
ずっと通しでプレイしていると,フェニックスの万能さに「これを外す人はいないんじゃないか」と不安になってきます。ですが,シヴァの形が整ってきたときに「俺はフェニックスよりこっちだな」となったんです。万能を外せるようになったとき,本作のアクションが求めていた自由度の高さに近づいたと体感しました。
怖いのは, ここまで優劣がなくて自由度の高い組み合わせを実現したが故に,我々の思いもしないことをやるプレイヤーが出てくるんじゃないかということですね。
吉田氏:
それは出てくるでしょう。
4Gamer:
自分なりの尖ったコンボを見つけたら,もうそればっかり使いたくなりますからね。
鈴木氏:
「このアビリティとこのアビリティを組み合わせたら,こんな戦術が構成できそうだな」と思ってもらうためのネタは,いろんなところにたくさん仕込んでいます。
髙井氏:
まあ,楽しんでもらえたらいいか。
吉田氏:
その一方で,「そんなこと意識しなくとも遊べるよ」と,各種サポート用アクセサリーも徹底して作り込みました。気持ちよく回避して,攻撃は今だと思ったタイミングで連打して「クライヴ,メチャメチャ格好いいな!」でクリアしてもらっていいですし,攻撃だけ自分で操作して,回避は全部オートドッジ任せでも全然構いません。
とくにオートアタックは,クライヴがお手本になるようなスタイリッシュな動きをします。腕に覚えのあるゲーマーの皆さんはちょっと悔しくなると思うので,ぜひ外して「今の動き,手動でやってみるか」とチャレンジしてみてください。
4Gamer:
確かに,アクセサリーはよくできていました。付け替えるだけで,アクションが得意な人と,FFXVIのストーリーを楽しみたい人の双方にきちんと対応できている印象があります。回避のサポートも,ただオートなだけじゃないところがいいですよね。スローになっている間に[R1]押すだけですけど,それでもプレイヤーが介入できると“自分で避けてる”感が出て,うまいなと思いました。
吉田氏:
アレで連続回避すると,めっちゃ気持ちいいんで,ぜひ体験してほしいです。
4Gamer:
しかも,「ノーマル」とか「イージー」というモードの選択じゃなくて,アクセサリーの付け替えってところが気持ち的に選びやすいのも,よく考えられていると思います。
吉田氏:
そこはずっと無茶ぶりをしていたんですが,チームが本当によくやってくれて。
クライヴの装備を変えることによってプレイスタイルが変わると,クライヴをカスタムすることに意識が集約すると思うんです。
4Gamer:
アクションが得意な人でも,「今日は気持ちよく遊びたいから」みたいな感じで使いたくなるような手触りでした。
鈴木氏:
FFシリーズのファンの皆さんの中には,アクションになったと聞いただけで身構えてしまう方もいると思います。しかし,ファンの皆さんはすごく大切な存在ですから,FFXVIのアクションにするからといって,そこは絶対に切ってはいけない。そこで,アクションとしてのやり込みと天井の高さを担保しつつも,サポートアクセサリーを充実させることにより,「アクションって楽しいんだな」と思ってもらえるハードルの低いアクション,そして操作感に癖のない触り心地を目指しました。
ストーリーに没入してもらうだけなら,“戦闘はすべてオートバトルで何もしなくともクリアできる”といったシステムを実装することもできますが,やっぱりアクションの面白さを感じてほしかったのでオートバトルのシステムは採用しませんでした。
4Gamer:
オートアタック時は,どういった基準でクライヴのアクションを選択しているのでしょうか。
鈴木氏:
オートアタックは,今行えるアクションの中から最適な行動をするのではなくて,いわゆる“映える”動きを優先して行うアルゴリズムで構成しています。見栄えのいい連係や,魅力的に見えるアビリティの使い方,これらを重視して調整しているので,アクションが苦手な人が遊んでも「何かうまく操作できてる」と感じられるはずです。
また,アクションが得意な人でもオートアタックの動きがお手本になることを理想としてブラッシュアップを行ってきました。たとえば新しい召喚獣を手に入れたときにオートアタックを使ってもらえば,「このアビリティ,こんな使い方ができるのか」といったように,発見があると思います。
4Gamer:
ヘビーに遊ぼうと思えば,いくらでもできそうな手触りにも驚きました。全部マニュアル操作にすると,いい意味で忙しくて楽しいんですよね。召喚獣を切り替えて,バディのトルガルに指示を出して,アイテム使って……と。
鈴木氏:
トルガルに指示を出し始めると,途端に忙しくなりますよね。トルガルは基本的に,指示しなくともシチュエーションに応じて最適な行動をするAIを組んでいます。手動でトルガルに適切なタイミングで指示出しができるようになったら,かなりやり込んでいると言っていいでしょうね。トルガルへの指示出しは,クライヴの状態に一切依存せず,どのタイミングでもできる──つまり,どのタイミングからでも攻撃できるんです。
4Gamer:
と言うことは,つながるコンボが増えると。
吉田氏:
そうですね。通常つながらないはずのところも,トルガルに噛みつかせることによってコンボが途切れなくなります。
忘れてはならないのが,トルガルは表情がとにかく可愛いんで,いろんなシチュエーションで撫でてあげてほしいです。
脇道の要素はゲーム全体の半分を占めるくらいのボリューム
4Gamer:
今回はあまり見られませんでしたが,アクション以外の部分,RPGとしての話についても聞かせてください。試遊の内容がアクションのステージを進んでいく形だったので,ゲームの進行の流れみたいなところがまだ分かっていなくて。
そうですね。RPGとしてどうなっているのかという説明はまだできていないので,少しだけお話ししておきます。
今回カットシーンに登場したシドルファス(シド)は,レジスタンス活動みたいなことをしていて,アジトを持っています。クライヴはそこにしばらく居候しているような状況です。アジトの中にはショップもあるし,クラフト施設もあるし,サイドクエストで施設の拡張もできます。
4Gamer:
そこを拠点に,いろいろなところに行く形になっているんですね。
吉田氏:
はい。メインストーリーの行先だけでなく,世界中に点在しているレアモンスターを狩りに行く「モブハントボード」という遊びなども用意しています。実のところ,そうした脇の要素は,ゲーム全体の半分を占めるくらいボリュームがあります。
とは言え,ストーリーの引っ張り方がすさまじく強いので,まずは置いておいてまっすぐ遊んでいただいて構いません。
4Gamer:
確かにメインストーリーで引っ張っていくゲームは,プレイしていてなかなか横道に逸れにくいですよね。
吉田氏:
作っている側も,サイドクエストなどを入れるタイミングが大変なんです。「ストーリーのこのタイミングで発生させたとして,誰かこのサイドクエストをやるのか?」って(笑)。
4Gamer:
RPG的な部分と言えば,クライヴにはレベルの概念がありますけれども,今回はボス撃破などキリの良いタイミングでのみレベルアップしていました。意識的なレベル上げはできるんですか?
吉田氏:
ストーリーを追いかけるだけで推奨レベルに到達するので,経験値稼ぎという考え方をまったくしなくてもいいようにはなっていますが,もちろんサイドクエストをやったり,フィールドで無尽蔵に湧いてくる敵を狩り続けたりすれば,推奨以上にレベルを上げることは可能です。
ギルも「稼がないと」みたいなことにはなっていないので,基本的に拠点に戻るタイミングで,ショップに並んでいる最高級の武器防具を買っておけばいいバランスになっています。
髙井氏:
さらにクラフトで,その時点で売っている最高級品のアッパーバージョンを作れます。そこまでやると,推奨レベルをかなり超えた武器防具を持ってボスに挑めるくらいバランスです。
4Gamer:
単純なアクションの腕だけでなく,RPG的なアプローチでも先に進めるようにはなっているわけですね。
鈴木氏:
はい。やり込んだ時間を裏切ることは,基本的にないです。経験値で絶対的にレベルが上がるし,ドロップアイテムでクラフトを行ったらいい装備品が作れますし。
4Gamer:
今回,アイテム周りで疑問に思ったのですが,途中でポーションが尽きたらどうなるのでしょう? 拾う以外にポーションの入手手段がなかったので,たとえば道中で使い切ってしまって,ボスバトルを乗り切るためのポーションが足りない,みたいなことになると,詰んでしまう人が出てくるのではないかと思うのですが。
髙井氏:
ポーションが足りるように,バランスを取っているつもりです。また,不足の事態でコンティニューしなければならないという場合には,ポーションの数は最大まで回復します。
吉田氏:
そこは結構,議論したんです。テストプレイでは,最初はゲームオーバーで回復しなかったんです。それで「いやいやいやいや,詰むから完全回復してあげようよ」と。
4Gamer:
安心しました。純粋にアクションゲームとして考えるなら,「クリアしたければ死にながら腕を磨け」もアリだと思いますけど,FFのナンバリングタイトルでそれはかなり人を選ぶだろうなと。
吉田氏:
それだけでなく,最終的に何周も丁寧にプレイしてレベルデザインしたので,一度ポーションが尽きたと思っても,次の山場が来る頃には十分な量を拾えるようになっています。それでも足りなくてゲームオーバーになったら,コンティニューすれば大丈夫です。
髙井氏:
とくにステージ内のポーション配置は何度も調整して,「このバトルは重いから,その後たくさんあげなきゃダメだよね」みたいに,かなり手厚くしました。
吉田氏:
だからと言って,特定のボス前に大量にハイポーションが置いてあったら,「そろそろボス来るな」と気づくじゃないですか。それで「この宝箱から抜いて,この辺に置き直してくれ」と分散してもらったりもしました。
髙井氏:
とあるボスにたどり着く前の螺旋階段を吉田が登っていたら,「ポーション,ポーション,ハイポーション,ポーション……」になっていたって(笑)。
吉田氏:
「どうなってんだよ,これ」って言いましたね(笑)。
PC版の最適化には半年以上かかる
4Gamer:
FFXVIのPC版について,配信中の吉田さんのコメントが話題になりましたが,改めて教えてください。
吉田氏:
まずFFXVIは,SIEさんとの時限独占契約により,PS5版のリリースから半年間は,ほかのプラットフォーム版をリリースできません。ただ多くの皆さんは,なぜこういった契約を結ぶのか,おそらくご存じないんじゃないかと思うのです。
4Gamer:
おそらくプレイヤー目線だと,「ハードメーカーが契約期間中に自社ハードを売るため」みたいな認識だと思います。
吉田氏:
もちろん,ハードメーカーさん側にはそういう思惑もあると思います。
ただ,我々からすると,ハードメーカーさんとああいった契約を結ぶのは,技術支援をいただけるということがとにかく大きいんです。今回は,ハードウェアの根幹の根幹まで知り尽くしているSIEのエンジニア集団の皆さんと一緒に開発しているような部分があって,なかなか自分達だけでは手が回らない最適化などを手厚くサポートしていただいています。
また,マルチプラットフォーム前提で開発しないことにより,作りこみや最適化に工数を投入できます。
加えて,「これ,もしお金に換算したらいくらになるんだろう?」というようなプロモーションも,グローバルで一緒にやらせてもらえるわけです。
テクノロジーやプロモーションの支援は,受けられるなら受けたいものです。
4Gamer:
単純にお金の問題だけでなく,ゲームの品質にも関わるからこその契約なんですね。
吉田氏:
ただ,我々も世界中のみなさんに広くお届けしたいと思っているので,永久的な独占ではなく期間を区切っていただいています。条件はタイトルによってそれぞれ異なりますが,FFXVIの場合はPS5というプラットフォームに対して,半年間の時限独占契約を結びました。
しかし,それと「PS5版のリリースから半年経ったら,PCを含めさまざまなプラットフォームでFFXVIが遊べるようになる」というのは,まったく別の話になります。FFXVIはこれまで,PS5の性能に頼ったゲームデザインや作り込み,そして最適化をしています。これを単純にこのままPC版に落とし込むと,30万円近くするような高価なPCでないと,同じ体験ができないのです。ご存じのとおり,PCを使うゲーム環境は人によってバラバラですから,できるだけ多くの環境で動くようにするためには,PCに向けて相当の最適化をしなければなりません。それをPS5版のリリースから半年でできるかというと,ちょっと現実的じゃないのです。
髙井氏:
ちょっと詳しい人だと,「PC環境で作っているんだから,PS5で動くなら,すぐPCでも動かせるようになるだろう」と思うかもしれませんが,意外とそういうわけにはいきません。あくまで制作環境上,PCで動いている部分もあるよ,というくらいですね。
吉田氏:
プロデューサーとしても会社としても,1人でも多くの人に遊んでいただきたいですし,セールス的にもできるだけ大きな成果を出したいですから,もちろんPC版の発売も視野に入れています。ただ,申し訳ないですが半年では間違いなく出せません。PC版が出せる目処が付いたら,そのときはきちんと「このぐらいの時期に出せそうです」とご報告します。
4Gamer:
あのクオリティの絵が,ロードなしでサクサク動くのも本作の魅力ですから,そこの体験を損なうPC版にするわけにもいかないでしょうね。
グラフィックスと言えば,今回触っていて,素材の質感が印象的でした。見た目だけで布や金属,革の質感が伝わって来ましたし,城の壁や床の造型もリアルです。
吉田氏:
良かった。僕ら,そういう地味なところばかり頑張っちゃうんです(笑)。服なんて,縫い代まで含めた型紙のパターンを作ってからモデリングしていますから。そのぐらいやらないと,動いたときにおかしくなるんですよね。
髙井氏:
皆川(アートディレクター 皆川裕史氏)達が見た目をコントロールしているんですが,「ちょっとカメラを引くと,壁に模様のパターンがあるの分かるよね」みたいなことを言い出すんです。僕らは,「え,これ自然に見えるようにバラすの?」って(笑)。
僕は木材の表現が気に入らなくて,皆川に何度もフィードバックしたんですが,「うちのチームには,木目だけで何の木か分かる人間がいないんで,うまくできないんですよ! いや,それでもやりますけど!」と言われました。そんなヤツいるんかい!(笑)。
4Gamer:
特殊技能すぎる(笑)。
吉田氏:
でも確かにそんな人材がいたら,同じ木であっても経年劣化やそこに置いてあった年月,その地の気候などを踏まえたエイジングの違いを実現できます。それでも今回かなりやり切ったほうですが,今後の第三開発事業本部の中でさらに発展させていきたいですね。
4Gamer:
すでに発売日も発表され,このインタビューに合わせて,ようやくプレイアブルバージョンの体験レポートも公開されていきます。今後はどういった情報を露出していくのでしょうか。
吉田氏:
次はいわゆるRPG要素──拠点はあるのか,買い物はできるのか,武器防具はどういじれるのか,ストーリー以外にどういった遊びがあるのか,プレイサイクルはどんな感じなのか,そしてクリアしたあとはどうなるのかといったやり込みや横の広がりの部分を,システムの説明や映像を交えて4月くらいに公開しようと考えています。それで,FFXVIの要素の大部分はカバーできるんじゃないでしょうか。
4Gamer:
もし今の段階で,教えてもらえるRPG要素があればぜひ。
吉田氏:
今回触ってもらったバージョンではオミットされていたのですが,ポーズボタンを押してゲームを停止し特定のボタンを押すと,そのシーンに登場している舞台や人物が,今どういう状態なのか,どんな設定なのかを表す読み物が出てきます。物語の進行に合わせ,どんどん内容が変わっていきます。ドラマや小説などでも,人間関係が複雑だったりすると,今がどんな状態なのか,分からなくなってきますよね。でも,その場でボタンを押せば,全部分かります。
またアジトでは,ヴァリスゼアの戦乱の歴史を確認できて,スライダーを動かすと時代ごとに人物相関図が入れ替わるといったこともやっています。そういったFFシリーズとしてのRPG要素を,さらに紹介していく予定です。
4Gamer:
最後に,今回これだけ動かせるものを用意していただいたので,体験版の配信を考えているかも聞いておきたいです。
吉田氏:
体験版の配信は,すでに準備を進めています。今のところ,ゲーム冒頭を丸ごと切り出して,そのまま製品版に引き継いでいただける形を考えています。オープニングから入って,ゲームの序盤をプレイして,結構衝撃的なところで「続きは本編で!」となって,そこで初めてFFXVIのロゴが出るという,ストーリーの引きの部分を体験していただこうかなと。
そこまででも2時間以上はプレイできるので,楽しんでいただけると思うんですが,その一方で序盤はバトルで使えるアクションが少ないので,鈴木は「アクションとして見られたときに怖い」と言っていて。
鈴木氏:
どうしてもゲーム序盤はプレイヤーのやれることを絞っているので,「ガチアクションとか言ってたのに,何かやれること少なくて地味なんだけど」と言われてしまいそうで……。
吉田氏:
その意見も分かるので,どうしようか考えているところです。
ただ,いずれにしても体験版の公開は,発売日の2週間前くらいを予定しています。もったいぶるつもりはないのですが,1か月前とかだと1回テンションが切れてしまうと思うんです。熱を持ったまま発売日を迎えていただくほうが,今の時代に合っていると捉えているので,プロモーションの最後の山と合わせる形で一気にドンッと行きたいんです。体験版をしっかり遊んでいただいたうえで,購入を検討できるようにしますので,ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
楽しみにしています。ありがとうございました。
「FINAL FANTASY XVI」プロデューサー・吉田直樹氏にインタビュー。FFってスゲー! と思ってもらえる新作を目指す
スクウェア・エニックスが2023年夏にリリースを予定する,PS5向けアクションRPG「FINAL FANTASY XVI」。2ndトレイラーでは,主人公・クライヴが召喚獣の力を駆使して戦う姿や,召喚獣同士のバトルを確認することができる。公開後に,プロデューサーを務める吉田直樹氏にインタビューする機会を得たので,どのようなタイトルを目指すのかを語ってもらった。
[インタビュー]「FINAL FANTASY XVI」最新トレイラーに映るダークな世界,悲惨な境遇……吉田プロデューサーら開発陣3名にその一端を聞く
スクウェア・エニックスが2023年夏にリリースを予定している「FINAL FANTASY XVI」の最新トレイラーが公開された。このトレイラーに収められた,本作の世界観の一端に関わる情報について,プロデューサーを務める吉田直樹氏とディレクターの髙井 浩氏,そしてシナリオを手がける前廣和豊氏の3名にインタビューを行ったのでお伝えしよう。
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