インタビュー
「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」キーマンインタビュー。ユーザーとパブリッシャのWin-Winを目指して
「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」公式サイト
同時に,映像や音楽,書籍のサブスクリプションと保険を合わせた「auスマートパスプレミアム」のサービスを受けられるのに加え,PCのゲームをクラウドで楽しめる「GeForce NOW Powered by au」も,1セッションあたり1時間までなら無料で使える。
今回4Gamerは,そんな「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」を提供するKDDIと,企画・開発・運営などを担当するmedibaのキーマンたちにインタビューを実施。そのサービスの裏側には,パブリッシャはクラシックゲームで安定した収益を上げつつ,ユーザーは懐かしい作品を健全に楽しめるという,両者のWin-Winを目指す思想があった。
●インタビュー出席者一覧
・KDDI
製作プロデューサー 合田 但氏
・mediba
企画プロデューサー・企画ディレクター 齋田友徳氏
運用プロデューサー 土居本 和宏氏
運用ディレクター 湯澤功成氏
ユーザーとパブリッシャがWin-Winになれるサブスクリプションを提案する
4Gamer:
よろしくお願いします。「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」の成り立ちや今後のビジョンなどについてお話を聞ければと思います。
合田 但氏(以下,合田氏):
KDDIの合田です。auスマートパスにおけるゲーム事業全般を担当しており,「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」においては立ち上げから製作プロデューサーとして関わっており,主に戦略策定を行っております。
齋田友徳氏(以下,齋田氏):
medibaの齋田です。medibaはKDDIのグループの会社で,「auスマートパス」などのサービスを企画・開発・運用していて,私はそこでゲーム関連の事業を担当し,今回は企画プロデューサー・企画ディレクターとして,全般にわたって参加しました。
土居本 和宏氏(以下,土居本氏):
medibaの土居本です。今回の運用プロデューサーとして,ゲーム調達や編成をはじめ,パブリッシャなど社外との条件交渉などを行っています。
湯澤功成氏(以下,湯澤氏):
medibaの湯澤といいます。今回の運用ディレクターとして,ゲーム追加や機能拡張まで社内でのスケジュールやフローの策定,UIUX改善なども行っています。
4Gamer:
「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」とは,どういったサービスなのでしょうか?
月額548円(税込)のサブスクリプションサービス「auスマートパスプレミアム」に加入すれば,au以外の方でも往年の名作クラシックゲーム70種類以上が追加課金なしで楽しめます。
「auスマートパスプレミアム」は映像・音楽・書籍などのエンタメ系サービスと,コンビニ・映画館で使えるクーポンやスマートフォンの保険など,日常で役立つサービスが一つにまとまったサービスで,エンタメ系特典としてゲームを提供しています。
4Gamer:
サブスクリプションで取り扱われる娯楽系コンテンツの中に,クラシックゲームがあると。
合田氏:
そうです。その中に今回のクラシックゲームの遊び放題をはじめ,ほかにクラウドゲーミングの「GeForce NOW」もあり,1セッション1時間以内なら,こちらも追加料金なしで楽しんでいただけます。
4Gamer:
もともとは,どういった経緯で立ち上がったサービスなのでしょう?
齋田氏:
KDDIが「5G回線向けのゲームコンテンツをもっと増やしたい」ということで,我々が出した案の中からクラシックゲーム案が選ばれました。
4Gamer:
5G回線というと,最新のゲームをクラウドでプレイしたり,eスポーツでの利用が期待されたりといったイメージがあります。なぜクラシックゲームが5Gのサービスなのでしょうか。
ゲームは音楽・映像・書籍などに続き,将来的に5Gのような高速回線を使ってストリーミング化される,つまりは「高速回線を使い,一瞬でゲームをお届けする」サービスになっていくことは明白です。
ただ一方で現状まだ4Gが主体の過渡期においても「クライアントをインストールすることなくタップ一つでクラシックゲームが起動して楽しめる」という体験を提供したいと考え,クラウドゲーミングのハイエンドとHTML5のローエンドからの両面で挑戦したいと考えました。
さらに,すでに「au Webポータル」で無料提供しているハイパーカジュアルゲームとは違った,サブスクリプションらしく独自性のあるクラシックゲームにも注目した次第です。
4Gamer:
クライアントをインストールする形でないからこそ,高速回線が大切であると。
土居本氏:
クラシックゲームのデータ量っていまとなっては驚くほど小さくて,ものによってはJPEG画像1枚よりも小さなサイズでゲーム1本を配信できてしまうんです。
齋田氏:
そして現状は8〜16ビットのゲーム機などのカートリッジ,最大6MB程度のゲーム主体で,今後はCD-ROMのゲームにも対応していくでしょうが,そうなると分かりやすいですよね。既存の回線では1枚650MBだったCD-ROMのデータを一瞬で転送できたりはしませんが,5Gだと秒単位で済みますから。
4Gamer:
インターネット環境の普及により,クラシックゲームに新たな意味合いが生まれたのが面白いですね。今の基準から見ると“小規模”であることが,逆にメリットになっている。
土居本氏:
現代ではスマートフォン用のエミュレータを用いてクラシックゲームを楽しむことも実現できてしまうのですが,すべてのユーザーが安心で安全に遊べる状況ではありません。それよりは,なんのリスクもなく堂々と楽しんでいただける方法があったほうが,いいでしょう。
齋田氏:
ユーザーとパブリッシャ,そして我々にとってWin-Winの関係性をプロデュースしたかったという考えもありました。
ユーザーは,たくさんの懐かしいゲームを遊び放題で楽しめる。パブリッシャとしても,遊休資産のクラシックゲームを事業化させて,サブスクリプションは収益も計画しやすい。そして我々としても,すでに完成済みなのでゲーム自体の開発期間も必要がなく,評価も定まっているので,調達や編成なども考えやすいわけです。
また,海外の資本によるプラットフォームやサービスが凄まじい昨今ですが,クラシックゲームと呼ぶ80〜90年代当時の市場は,日本が主流だったので,彼らが追随しにくい事業が展開できるのではという考えも,少なからずありました。
つまり5Gのメリットを生かしたサービスを模索するうえで,提供までの時間や予算が限られている中,クラシックゲームという題材がちょうどうまくハマってくれた……という事情もありますね。
合田氏:
齋田さんたちからはいろいろな案をいただいたんですが,その中でもクラシックゲームがメンバー的にハマったんです。皆さんゲーム好きですから,プレゼンの温度もすごく高かった。土居本さんとのミーティングの中で「『ファミリージョッキー』がいかに面白いか」といった話題が出たのを覚えています(笑)。
4Gamer:
サービスを検討したときの状況はどうでしたか?
齋田氏:
私自身が子供のときに8〜16ビットのゲーム機などのクラシックゲームの洗礼を受けた世代ですし,当社の社長や役員もゲームセンター黄金期を知っているので,反応が良かったですね。「ゼビウスは縦画面だけど,ほかのゲームと同様に遊べるのか?」「いえ,移植版では横画面で問題ないです」などのマニアックなやりとりとか,いきなりの直球に名指しで「あのゲームとかないのか!?」って(笑)。
4Gamer:
クラシックゲームの直撃世代らしい反応です。
齋田氏:
クラシックゲームは我々にとってのマスターピースなわけです。
ビジネス的なお話をさせていただくなら,スマートフォンのアプリゲームがフリーミアム化し,ガチャ前提のゲームデザインで作られた作品ばかりになるのもどうかと……という想いもありました。そうした中で,我々のようなおっさんたちが楽しめるものもあっていいんじゃないだろうかと,以前から世に問いたいと思っていて(笑)。
4Gamer:
確かに,ガチャという収益モデルがゲームデザインそのものに影響を与えている感はありますね。昔に比べれば買いきり型のアプリもずいぶん目立たなくなりましたし。
齋田氏:
ゲームを開発しているわけではない当社が関わるにあたり,隙間で商売するだけでなく,課題解決といった形でゲーム業界のお役に立てる方法はないだろうかということです。
もちろん,あらゆるゲームがサブスクリプション化すると思っているわけではありません。「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」は,サブスクリプションの映像サービスのようなものだと考えています。最新の映画を映画館で観つつ,懐かしい作品はスマホで観る。同じように,ゲーム機やPCで最新のゲームを遊ぶのと同時に,このサービスでクラシックゲームを楽しめるということですね。
4Gamer:
サービスで扱うタイトルの選定基準はどういったものでしょうか。「不如帰」や「スーパーチャイニーズ」シリーズ,「いっき」など,結構シブいというか,通好みのものが多いですよね。
立ち上げ当初こそ,リアルタイムで人気があったものを中心に選んでいきましたが,パブリッシャ側から「当時は人気が出なかったけれど,実は名作で,現在は入手困難になっているゲームがあるんですよ」とご提案をいただいたりするようになっています。良い例が,サン電子さんの「ギミック!」(※)ですね。
※1992年のFCゲーム。横スクロールのジャンプアクションで,主人公は自分で出した星を武器や足場にしてステージを進んでいく。発売当時はあまり注目されていなかったが,後年に再評価された。
4Gamer:
確かに「ギミック!」はFC円熟期の名作ですし,今はゲームマニアから高い評価を得ています。パブリッシャ側も,ゲームに対する強いこだわりを持っているわけですね。
土居本氏:
サン電子さんからは「『ギミック!』はプレミアが付いてしまっている。なんとか現在の環境で遊びやすい形にしたいんだ」と言っていただいて。
カスタム音源チップを使っていて,音へのこだわりもすごいんですよ。技術的な問題で,「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」版ではサン電子さんが期待されるクオリティまで再現できなかったことが悔やまれますが。
4Gamer:
発売当初は注目を集めなかったけど,実は良くできている……という悲劇の名作も多いです。実はパブリッシャ側にもそうしたタイトルに思い入れがあったというのは嬉しいことだと感じられます。
齋田氏:
人気があった作品なら予算をかけてリニューアルできますが,そうでないものにはこうした手段も採れません。単体で売ることが難しくても,サブスクリプションならちゃんとビジネスに乗せられるし,ユーザーは遊び放題で気軽にプレイできる。むしろマイナーこそがロングテールな編成にも寄与できて,我々としても通好みのラインナップが充実するわけです。
4Gamer:
作品を選定するうえで,スタッフ個人の好みが出ることはありましたか?
齋田氏:
ありましたね。私なんかはシミュレーションやRPGが好きですし。そうした中で選定基準をフラットに戻そうということもありました。
合田氏:
ゲームを選んでいくときにもっとも難しいのは版権関連ですね。当時からアニメやコミック,芸能人やスポーツ選手関連のゲームも出ていましたし。
土居本氏:
こうしたゲームは版権管理の都合上なかなか扱えませんから,オリジナルのゲームが選ばれやすいというのは仕方がないことではありますね。
齋田氏:
このビジネスがもう少し大きくなれば,版権元さんに交渉できるようになるかもしれません。オリジナルから版権ものへ……という流れは,当時のゲームの発展をなぞっているようで面白いですね。
4Gamer:
版権ものは当時を思い返すきっかけにもなりますから,期待しています。著作権などの関係から,クラシックゲームを配信する際に修正が行われる例も多いです。こうした対応が必要なものについて,修正をお願いすることはできるのでしょうか。
齋田氏:
できる,できないで言えば“できる”ので,あとは採算性の問題です。当時のプログラムをいじれる方も少なくなっていますし,セリフを一つ変えるにしても,文字数までキッチリ合わせないと不具合が起こるなど,いまとは違う観点で技術的な課題が多いようで……。
4Gamer:
現代のゲームでは考えられない苦労があるわけですね。
名作だけでなく,気になったタイトルも好きなだけ楽しめる
4Gamer:
現在の人気タイトルはどのようなものですか?
以前の「auスマートパスプレミアム」からの傾向として,カジュアルに遊べるゲームですね。「パックマン」や「ゼビウス」といった,当時の販売数もすごかった人気ゲーム,「上海II」のようなテーブルゲーム,そして著名な「いっき」なんかが良くプレイされているようです。
土居本氏:
ランキングを見ると,意外なゲームが上位に来ていて面白いですね。例えば3月中旬では,1位「ギャラガ」,2位「超人ウルトラベースボール」,3位「上海II」,4位「美少女雀士 スーチーパイ」,5位「スーパーR-TYPE」という並びだったりします。
4Gamer:
「ギャラガ」や「上海II」はメジャーなタイトルですが,「超人ウルトラベースボール」(※)が上位なのが面白いところですね。
※1989年のFC用野球ゲーム。ボールが燃える魔球や,ホームランをキャッチする大ジャンプなど,野球漫画を思わせる荒唐無稽な必殺技がウリ。
齋田氏:
そうですね。評価が定まった名作が並ぶ中,ご新規さんが来るたびに,埋もれた中から著名な「いっき」がひょっこりランクアップするわけです(笑)。
土居本氏:
ランキングは本当に面白いですよね。人気だけでなく,尖ったゲームもしっかり遊ばれているわけですから。
齋田氏:
シティコネクション(ジャレコ)さんだと「忍者じゃじゃ丸くん」が来ることは予想できましたが,「美少女雀士 スーチーパイ」は読めなかった。アークシステムワークス(テクノスジャパン)さんの「くにおくん」シリーズが安定した人気になっている一方,カルチャーブレーンさんの「超人ウルトラベースボール」が伸びたりもするわけです。
土居本氏:
私は「超人ウルトラベースボール」をプレイしたことがなかったんですが,当時の定番野球ゲームと操作が共通していて遊びやすいのに驚きました。取説をPDF化して配布もしているんですが,基本的に皆さん読まずにプレイされることが多いので,ランキング上位に入るには遊びやすさも重要なのかもしれません。
4Gamer:
当時は荒唐無稽な魔球や秘打に注目が集まりがちでしたが,異なる視点で再評価できるのもサブスクリプションの面白さでしょうね。
合田氏:
「美少女雀士 スーチーパイ」がランキング上位にきたときは弊社でもちょっとザワつきましたね(笑)。
4Gamer:
スマートフォンには麻雀アプリもいろいろありますけど,対戦用のチケットを買ったり,マッチングを待ったりといった手間なしに遊びたいというニーズもあるのかもしれません。
齋田氏:
いまテーブルゲームやスポーツゲームで淡々とCPU対戦を繰り返す内容で作っても,フリーミアムで考えると「これ,どこで稼ぐの?」っていうことになりますからね。そんな中で,CPU戦で必殺技も使用できる「美少女雀士 スーチーパイ」が上位にきているということは,市場の変化で死んでしまった遊び方やジャンルにも潜在的なニーズがある,ということかもしれません。
4Gamer:
ゲームジャンルは市場が変化すると滅びますし。
ビジネスモデルがジャンルを作るということですよね。とくにゲームセンターではこうした傾向が顕著だったように感じられます。花形だったシューティングは客の回転率を上げるために高難度化が進んで誰もクリアできなくなりましたし,次は格闘ゲームが同じ理由で対戦台になって初心者がいなくなった。そんな中でいつでも誰でも楽しめるサービスとしてこの事業を続けるという意義はあるのかもしれませんね。
4Gamer:
ジャンルの栄枯盛衰がある中で,サブスクリプションなら昔のものを手軽に遊べるということですね。ジャンルごとの継続率はどういった傾向を示していますか?
土居本氏:
やはりRPGやシミュレーションはじっくりと時間を掛けて遊ばれているようです。ただ,「パックマン」や「ギャラガ」といったカジュアル系だと,一度プレイを止めても戻ってこられる傾向があるようです。
4Gamer:
案外,当時のゲーム機の稼働状況に近いのかもしれませんね。開発においてはどういった点に苦労されたんでしょう。
齋田氏:
私のようなリアルタイム世代には常識だったことが,今の世代には伝わらないということがあります。
あるゲームでマイクを使うものがあったので,若いスタッフに「しっかりとマイクも再現しておいてほしい」と頼んだら「マイクってなんですか?」ときょとんとしていましたね。
4Gamer:
FCのIIコンにはマイクが内蔵されていたことを知らなかった?
齋田氏:
そういうことです。今の人に「ゲーム機にマイクが内蔵されてるんだ」っていうと,スマートスピーカー的なものを連想するでしょうから,「何を言ったか認識してるわけじゃないんだ。音声入力のオンオフ判定があればいいんだよ」ってお願いして(笑)。
湯澤氏:
私自身も,マイクのことは齋田から聞くまで知らなかったですね。
齋田氏:
また「ゲームがフリーズしたんです」と言われて確認してみると,セーブ後に「リセットボタンを押して電源を切ってください」という画面だったこともありました。
4Gamer:
こちらも異常な動作ではないですよね。FCのバッテリーバックアップ付きカートリッジで遊んでいた人にはおなじみというか,当時の人なら絶対に知っている画面だと思います。
ソフトウェアリセットが主流で,物理的なリセットボタンを知らないとフリーズだと思うんだなと妙に納得しました。正常な動作ではあるんですが,サービス上でどのようにリセットボタンを再現するべきかどうかという議論になりました。ゲームとして正しい動作なので,終了のうえ再起動させてくださいということで落ち着きましたね。
4Gamer:
リアルタイムでFCに触れてきた世代と,今の世代とのキャップが徐々に開いているわけですね。
齋田氏:
我々の世代だと8〜16ビットのゲーム機などがクラシックゲームなんですが,ウチの若い者だと「僕にとってのクラシックゲームはモバゲータウンですよ」なんて言っていて(笑)。
4Gamer:
当時をあまり知らない世代だと,クラシックゲームを見てどう思うのでしょう?
私は16ビットのゲーム機などからの世代なので,新鮮さと懐かしさが半々といったところですね。私でも知っているような有名ゲームを遊びつつ,通好みのゲームとも出会えるというのはサブスクリプションならではの魅力で,いろいろな品が並んだデパート的な良さだと思います。
齋田氏:
バイキング料理にも似ているかもしれませんね。焼肉食べ放題に行ったはずが,いつの間にかデザートも食べていたみたいな。子供のころにお金持ちの友達がいて,山ほどソフトを持っていたんですが,彼の家に遊びに行ったような感覚を思い出します。たくさんのソフトから好きなものを選んで自由に遊べる,そんな“富豪の嗜み”を手軽に楽しめるとは,なんていい時代なんだろうと思いますよ(笑)。
土居本氏:
当時のゲームになかったセーブ機能を使えるのも,今ならではの遊び方じゃないでしょうか。例えば「ファミリージョッキー」はクリアが難しいゲームなんですが,セーブ機能を使えば,そのうちラストのレースである天皇賞にたどり着けるわけです(笑)。
齋田氏:
例えば「ドルアーガの塔」は宝箱の出現条件がノーヒントで,今の人が遊ぶとなると“無理ゲー”に感じられるかもしれませんが,いまではネットですぐに調べられます。こうした例もありますから,ゲームの配信だけでなく遊び方も提案していき,eスポーツのように見せる領域にまで踏み込む潮流に乗れないかとは思います。
4Gamer:
当時の腕前を披露する機会があるなら楽しそうですね。
齋田氏:
現場には日本以外のフランス・メキシコ・中国・韓国などの人たちもいて,海外では発売されなかったゲーム,例えば「いっき」を見てウケていましたね。ゲームの名称だけで理解できなくて,適当に「Japanese farmer revolt!(日本農民の革命だ!)」って翻訳したり(笑)。「革命なのに,なんで主人公は1人(※)なんだ?」って突っ込んでいて,外国の人も同じところを疑問に思うんだって(笑)。
※当時のアーケードや実機では2人同時プレイも可能だった。
土居本氏:
「いっき」については,我々のメディアで開発者の方に直接インタビューさせていただき,大変面白いエピソードがいろいろと出てきましたね。開発時のコードネームなど,非常に興味深かったです。
齋田氏:
当初は戦場もののゲームとして企画されていて,2体のキャラクターを切り替えながら進むシステムだったそうです。今でいうところのRTS,MOBA的な内容で,世に出ていればLoLの始祖だった。とても驚きましたね。
土居本氏:
主人公が投げる鎌も,実は現代ならFPSのオートエイムとも言える仕様であり,いろいろと先進的な内容でした。
齋田氏:
我々としても,単にゲームを遊んでもらうだけでなく,文化として,こうした貴重な発言も広げていければいいなとは思っています。
4Gamer:
FC発売から38年も経っていますから,インタビューするにしても,すでにギリギリのタイミングかもしれませんね。パブリッシャとのやりとりで心に残っているものはありますか?
土居本氏:
担当の方もやはりゲーム好きなので,他社さんのゲームを推されたり,配信されるのを喜んでくれたりすることがあります。「○○が配信されるんですね! 当時は全面クリアしたんですよ!」「他社さんのゲームですけど,××は出さないんですか? 交渉にいってくださいよ!」なんてお話を伺うと,やっぱりみんなゲーム好きなんだなと感じます。まだ眠っている版権も多いですが,個人や会社を問わずお話をさせていただければと思っていますね。
我々の調査によると、8〜16ビットのゲーム機などで当時は国内だけで100以上のパブリッシャと3000以上のゲームの存在が把握できています。まだ眠っているお宝も多く,とにかくサブスクリプションは多様性あるロングテールが重要なので,基本的に来るものは拒まず,個人や会社を問わずお話をさせていただければと思っていますね。
私自身が在籍していたパブリッシャ経験からの関係をはじめ,KDDIやmedibaで能動的な収集にも限界があるので,これらをご覧になる業界の皆様からも広くご協力いただきたく募集していきたいと思います。
4Gamer:
版権を復活させるとしても,手続きが複雑なのではないですか?
齋田氏:
そこも相談に乗ります。パブリッシャ専業の会社さんとかもご紹介できますので。権利だけ所有していて管理や手順が分からない方々のご要望も承りますのでかなmどうぞこの機会にぜひお気軽に情報をご提供ください。
4Gamer:
まずはプロに相談というわけですね。
ゲームを配信するだけでなく,体験も提案していく5G時代のサービスへ
4Gamer:
利用している人の年齢層はどれくらいなのでしょう。
合田氏:
メインは30〜40代の方ですが,意外と20代の方も多いですね。男女比については,女性が3割ほどいらっしゃいます。
母体になっている「auスマートパスプレミアム」の会員数は1000万人超,男女比は5:5位です。映像や音楽,書籍のサブスクリプションも同時に楽しんでいただけますので,ゲーム専門サービスとは違った層の方にアピールできるのもポイントですね。
齋田氏:
そうした意味では,パブリッシャとも細く長いビジネスをさせていただけるんじゃないかと思います。
4Gamer:
これからの課題はありますか?
湯澤氏:
昔のゲームをご存じの方は気軽に遊んでくださるんですが,当時を知らない方はそうもいかないので,サイトの設計や導線を考えていく必要があるなと思っています。
土居本氏:
当初はゲーム紹介も静止画像だけでしたが,ユーザーにより的確にゲーム内容を伝えるため,GIF動画を取り入れたりもしています。また,スマートフォンでの操作を考慮し,親指が届きやすい画面下にゲーム開始ボタンを配置したりもしています。
齋田氏:
medibaはKDDI関連や外部のサービスを監修しているUX(※1)コンサルティングの事業もあるので,グロースハック(※2)も能動的に取り組みます。ほかのKDDIのサービスでの現場でも,こうした工夫の有無で数字も大きく変わっています。
※1 ユーザーエクスペリエンスの略。サービスに求められる要件を調査し,UIの構築を通じてユーザーのエクスペリエンス=体験を作り出す
※2 ユーザーから得たフィードバックを分析し,課題を解決していく手法
4Gamer:
サービス関連の会社としてのノウハウが生かされているわけですね。
湯澤氏:
同時に時間との戦いでもありますね。提供開始から約半年で,さまざまな試行錯誤をスピード感を持って繰り返し,月2回以上のゲーム追加をしつつ,サービスとしての利便性も向上させていくという体制を作り上げられました。
いまや提供タイトルは,70種を超えており,今後も拡充していく予定です。
4Gamer:
今後はどのような機能を追加していくんでしょうか。
齋田氏:
Twitterなどで物理コントローラへの対応の希望も見かけますが,ユーザー全員が必ずしもゲームを持っている状況ではないので,優先順位の検討に悩みます。このほかにも,オンライン対戦やセーブデータ交換,PC対応などの意見もあり,我々としてもこうした遊び方自体をご提案する方向へシフトしていければ,とも考えています。
4Gamer:
遊び方を提案するということは,コミュニティサイト的なものになっていくんでしょうか。
土居本氏:
今は可能性を探っている段階で,スクリーンショットを撮影してSNSに投稿できる機能を提供したり,今後は動画も録画や中継できるような機能も検討したいです。
齋田氏:
スクリーンショット機能を使えば,スコアアタックやタイムアタックのイベントも簡単ですね。あのころ店頭などに集まってやっていた大会が,いまならソーシャルディスタンスを保ちながら開けるわけです。
4Gamer:
スコアアタックやタイムアタックという遊び自体は昔からあるけど,そこに5G回線やSNSといった現代の環境を使うことで新しい体験としていく。
土居本氏:
コンテンツで得られる体験だけでなく,コンテンツを入手するに至るまで,そしてコンテンツを楽しんだ後の体験も作っていくことが,5G時代における体験価値なのかもしれません。
4Gamer:
近年はFCやメガドライブの新作カートリッジを発売するような例もありますが,こうした新作を配信するような予定はありますか?
齋田氏:
昔のハードウェアに準拠して作られているものなら新作でも配信できますよ。私自身もインディゲームは好きですが,こうした活動はあえてカートリッジにこだわっているものだと思うので,我々からのアプローチも,ちょっと違うのかなと感じます。ただ,復刻や次回作の話題作りなどでお声がけいただけるのは歓迎です。我々としてはメジャーに限定しないで,すべてのゲームの行き着く先として,このサービスで集約させていただけるようなエコサイクルを作っていきたいと考えていますので。
4Gamer:
サービスが最終的に目指すのは,どういったところなのでしょう。やはりクラシックゲームの博物館的存在ですか。
博物館というと,対象と自分の間に一線が引かれたイメージですが,それよりは自分自身が主役になれるものを目指していきたいですね。
齋田氏:
そうですね。我々が求めているのは博物館ではなく,もっと没入感のある新しいモノです。タイムマシンやどこでもドアで行った先の世界そのものを目指していると言ったほうが良いのかもしれません。
最初に話したとおり,クラシックゲームはゲームのストリーミング化の先駆けでしかなく,新旧とは関係なく,ゲーム自体とメディアやコミュニティを地続きな状態にして,一本化できる可能性に価値を感じているんです。
例えば,博物館では伊達政宗の甲冑や書状が展示されていても,本人と話すことはできない。でも,我々のサービスなら当時の政宗自身と出会えるわけです。
4Gamer:
なるほど。現在は,昔のモノも今のモノも両方利用できるケースが増えていますからね。音楽は配信サービスで過去の名盤も現代の最新曲も聴ける。ゲームだと,復刻もののソフトを使えば電気街で中古カセットの山を掘り返さなくても過去の名作を遊べますし,そのソフトを扱っているのと同じサイトで最新のゲームも買える。そうした中で当時の取説がPDF化されていたり,サイトのインタビューで当時の証言を読めたりするのが「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」の強みだったりするということですね。
齋田氏:
パブリッシャやデベロッパ,そしてユーザーの皆さまと向き合う中で,自由な発想で一緒にサービスを育て,世界でクラシックゲームの市場そのものを大きくして行きたいです。これら我々だけの妄想が皆様の理想にまで昇華できるのか,田舎の秘宝館で落ち着くのか。今後とも,ぜひご支援をよろしくお願いできれば……。
4Gamer:
分かりました。残念ながらもうお時間のようなので,皆さんからそれぞれオススメのゲームを挙げていただき,今回はお開きにしたいと思います。
合田氏:
私は「スーパーワギャンランド」「大工の源さん」「独眼竜政宗」です。「大工の源さん」については,当時すごく遊びたかったのに周囲の誰もが持っていなかったんです。今はサブスクリプションに入ることで念願が叶ったので,そうした意味で思い出深いです。
齋田氏:
僕はお伝えのとおりシミュレーションやRPGが好きで,当時もゲーセンよりもゲーム機やPCの少年でした。なので「不如帰」「ワルキューレの冒険」「飛龍の拳2」ですね。
とくに「不如帰」は,あの系統と一線を画したシミュレーションとして,我々ヲタクからの評価も高いのでオススメです。
「ワルキューレの冒険」はPCゲームっぽいものがゲーム機でも遊べるのが嬉しかったですね。あの国民的RPG初代作と同時期だったので,友達と一緒に「どちらを買うべきか」と話し合っていたことを思い出します(笑)。
「飛龍の拳2」はアクションとRPGを別々でも一緒でも楽しめる欲張りなゲームです。今はこうした無理やりなゲームはあまり見かけない,ある意味,いま遊ぶと豊かなゲームだなと感じます。
土居本氏:
「いっき」「ファミリージョッキー」「ダブルドラゴン」ですね。「いっき」については,学生時代に知り合った作曲家の先生が「いっき」のBGMを作曲された方で,とても驚きました。「ファミリージョッキー」はとても難しくて,当時クリアできなかったんですが,今ならエミュレータのセーブ機能を使うと何とか先へ進めるので,懐かしく感じながら遊んでいます。
「ダブルドラゴン」はこのサービスに携わって初めて遊んだんですが,とてもバランスの取れた内容で驚きました。
湯澤氏:
「スーパーファミリーテニス」「ギミック!」「パックマン」でしょうか。「スーパーファミリーテニス」は,ゲームシステム自体はシンプルだけど,ラケットの判定や振るタイミングがシビアで,今でも充分遊べるゲームだと思います。「ギミック!」は2秒に1回死ぬくらいの初見殺し満載なので,「auスマートパスプレミアム クラシックゲーム」のセーブ機能を駆使して遊んでみてください。「パックマン」は祖母の家で“良く似たLSIゲーム”を遊んでいたのを覚えています。
4Gamer:
クラシックゲームへの思い入れもそれぞれですね。
齋田氏:
5月からはメガドライブのゲームがラインナップに加わります。セガさんのゲームだけでなく,お馴染みバンダイナムコや新規で参加されるパブリッシャのゲームを配信させていただけることになりましたので,ぜひ遊んでみてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
──2021年3月10日収録。
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