インタビュー
[インタビュー]「Forza Motorsport」ディレクターに聞く。なぜ,シリーズ最新作はあえて再構築という難しい道を選んだのか
8月25日,「Forza Motorsport」を一足早くプレイできるプレビューイベントがアメリカ・ロサンゼルスで開催され,筆者はこのイベントの招待を受けてきた。
本作のインプレッションは「こちら」の記事で紹介しているが,現地ではクリエイティブ・ディレクターを務めるChris Esaki(クリス・エサキ)氏にインタビューをする機会にも恵まれた。新たに「Forza」を再構築することになった経緯や,再出発で目指す目的地,そして新たなテクノロジーやシステムについて聞いてみた。
「Forza Motorsport」ストアページ
4Gamer:
よろしくお願いします。
先ほど「Forza Motorsport」を実際にプレイしたのですが,率直に驚きました。ただナンバリングをリセットしただけではなく,Forzaシリーズのエッセンスを踏襲しているのに,ほぼ別のゲームのようにも感じました。一体どこまでが「作り直す」対象だったのでしょうか。
クリス・エサキ氏(以下,クリス氏):
まず我々が最初に見直したのは,「Forza Motorsport」を構成するすべてのシステムです。具体的に言えば,物理演算,AI,すべてのコースとマシン,サウンド,ゲームプレイに至るまで,まったく別物として作り直しています。
そして,作り直すうえで我々が最も大切にしたいと考えているのが,技術を磨き,マシンを乗りこなしたときに得られる達成感でした。従来の「Forza Motorsport」において得られるのは「達成感」というよりも「収集感」,つまり漠然とレースをこなして車を集めることで満足しがちだったのです。
4Gamer:
なるほど。その説明を受けて納得がいきました。実際,これまでの「Forza」のマシンもかなりリアルな挙動を再現していて,乗りこなす達成感はありましたが,最新作のそれは一つ桁が違います。
クリス氏:
面白かったでしょう(笑)。
4Gamer:
ええ,本当に。とくにシステムとして目を引いたのが,1人でプレイする「ビルダーズ カップ キャリア モード」と,それに付随する極めて豊富なカスタマイズです。それもただ豊富なのではない。単にマシンの性能を上げられるのではなく,どの性能を伸ばすにしてもトレードオフが発生しますし,根本的にマシンを乗りこなす力量がすべてです。どんな優秀なマシンもドライバーの技術次第である点が面白いです。クリスさんはご自身でも,実際にマシンを弄っているんですよね。
クリス氏:
私はマシンを弄るのも組み立てるのも大好きです。これについて話すと一日中,かかってしまいますね(笑)。
サスペンションを「ドリ車」仕様にしてずっとドリフトを楽んだり,ドラッグレース仕様にして直線のスピードを突き詰めたりと,自分の色を出せるのがカスタムする喜びだと感じています。豊富なカスタマイズを介することで,自分の愛車を乗り続けたり,あるいはマシンの意外な側面を知ったりできるのです。
4Gamer:
カスタムと聞いて,エンスージアストたちが待望するのは「音」だと思います。プレビュービルドではSUBARU S209 STIを試乗しましたが,実車におけるSUBARUの水平対向エンジンの音が絶妙に再現されていました。
クリス氏:
ありがとうございます。「Forza Motorsport」で新たに実装された車のエンジンサウンドの収録には,実車の内側や外側など,さまざまな角度から1台につき数時間以上を費やしています。
4Gamer:
それは大変な手間ですね。音を人工的に合成するといったこともしているのですか。
クリス氏:
いいえ。原則として録音のみです。マフラーなどはプレイヤーのカスタマイズによって音が変わるため,これは自社のオーディオシミュレーションで調整することもありますが,その元となる音はすべて録音にこだわっています。
4Gamer:
最新作はリブート作品ですが,サウンドまでその対象になっていると。
もう一点,今回の興味深い進化としてAIのレースドライバーたち,Drivatarを挙げられます。実際に対戦してみたところ,前作からさらに人間らしい挙動になっているだけでなく,現実的に事故を避けるような挙動も見られました。
クリス氏:
Drivatarを進化させる機械学習を実現するためにシステムを導入して,AIにすべての車で,すべてのコースを何周も運転させました。この結果,AIが車の特性をよく理解したうえで,より個性的かつリアルな挙動をするようになったと思います。
興味深いことに,機械学習の過程で我々も予期しなかった進化が現われました。例えば,ただ速くコースを走るだけではなく,マシン同士の接触を避けるようなクリーンな挙動も習得していたのです。
4Gamer:
進化したDrivatarのおかげで,同じコースでもまったく異なる展開になることに驚きました。
「Forza Motorsport」としてリブートした意義は,しっかりと伝わったのですが,一方でレースゲームは元々,保守的になりやすいゲームジャンルです。このシリーズにも「変わらないでほしい」と考えるファンも少なくないと思いますが,それでも作り直すことを決断した理由はなんでしょうか。
クリス氏:
いい質問ですね。思うに,「Forza Motorsport 7」を完成させた後,「さらに本格的な物理演算を加えることで,もっと没入感があり,奥深いドライビングシミュレーションを作れるのではないか」という心残りが自分の中にありました。
実は私自身,レースゲームに限らず,「Gears of War」のようなアクションシューティングゲーム,あるいは「Mass Effect」のようなRPG,あるいは歌やダンスをテーマにしたゲームの開発にも関わってきましたが,その中で「本質的なゲームメカニクスから作ること」が最も肝要だと学びました。
少々脱線しましたが,「Forza Motorsport」では物理演算をはじめ,さまざまなメカニクスを原点として,グラフィックスやサウンドまで作り直したからこそ,より深く,より面白いゲームになりました。何より,マシンを乗りこなすことの喜びを思い出してもらえるでしょう。
4Gamer:
実際のゲームプレイを踏まえても,それらは高度に実現されているかと思います。とりわけ,シミュレータであることを突き詰めた結果,ゲームプレイとして斬新なものになっていることが非常に興味深いです。
例えばシステムから見直すにしても,流行のRPGやローグライクの要素を取り入れただけという事例も少なくない中,「Forza Motorsport」はあくまでドライビングシミュレーションという前提を維持したままですから。
クリス氏:
もちろん,流行のジャンルは研究しましたし,プロトタイプもいろいろと作りました。今回,「CARPG」(CAR+RPG)というコンセプトを掲げていますが,我々は多くのRPGで得られる体験からインスピレーションを受けました。
ただ,我々が重視したのは,そこでRPGのレベル制といったシステムを直接導入するのではなく,モンスターと出会って,倒したときの達成感,そして経験値を得て成長する喜び。こうしたRPGで得られる体験を,いかにレースゲームに落とし込めるかということです。
つまり,コースにおける「コーナー」がRPGの「モンスター」であり,いかに「モンスター」をやっつけられるのかを考え,やっつけたときに成長できるか。今回の新たなゲームメカニクスでは,それらを再現したかったのです。
4Gamer:
「CARPG」を支えている要素として,先ほどから何度も物理演算を挙げています。物理演算とRPGで,どのようなシナジーが生まれているのでしょうか。
クリス氏:
「Forza Motorsport」における物理演算の進歩の中で,最も大きなものはタイヤです。「Forza Motorsport 7」ではタイヤ一輪ごとに接点が1つ,それも60fpsで演算していました。一方,最新作ではタイヤ一輪につき接点が8つ,そして360fpsで演算しています。
これによりゲームプレイは大きく変化しました。タイヤのグリップがよりリアルになり,アクセル,ブレーキ,ハンドリングにも十分配慮する必要があります。ピットインのタイミングや,カスタマイズで考慮すべき点など,ゲームの多様性が広がっています。
4Gamer:
なるほど,すべての話がつながった気がします。ビルダーズ カップとカスタマイズのお話を伺いましたが,まず「CARPG」というコンセプトを掲げて「Forza Motorsport」を再設計するために,物理演算やDrivatarから作り直してシミュレーション性を向上させる。そこから「CARPG」のコンセプトに基づいて,ドライブとカスタマイズの2柱を据えることで,従来の「Forza Motorsport」シリーズの奥深さを維持しながらも,新鮮かつ興味深いゲームプレイを実現したと。
クリス氏:
喜んでもらえたようでうれしいです。日本の皆さんにも楽しんでいただける日が待ち遠しいですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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