プレイレポート
[プレイレポ]「幻想水滸伝」クリエイターによる「百英雄伝」は,JRPGの原点を思い出させてくれる――すべてのJRPGファンに感謝を込めて
「百英雄伝」プロジェクトは,「幻想水滸伝」シリーズを手がけたクリエイターが制作メンバーとして参加することで注目を集め,開発資金を募るクラウドファンディングは開始から約2時間で目標額の50万ドルに到達して大きな話題となった。2022年5月には本作の前日譚を描く「百英雄伝 Rising」がリリースされている。
幻想水滸伝の開発者監修による「百英雄伝 Rising」プレイレポート。百の住民と共に紡ぐ前日譚には,懐かしき“RPGらしさ”が漂う
505 Gamesは,横スクロールアクションRPG「百英雄伝 Rising」を2022年5月11日にリリースする。幻想水滸伝シリーズを手掛けたスタッフによる新作「百英雄伝」(2023年発売予定)の前日譚を描くスピンオフタイトルだ。今回は製品版をクリアまでプレイしてみたので,あらためてレポートをお届けする。
2024年2月14日,Rabbit & Bear Studiosの代表であり,プロジェクトリーダーを務めた村山吉隆氏の訃報が伝えられるという悲しい出来事もあったが,ついにローンチを迎える「百英雄伝」のプレイレポートを掲載する。
なお,今回プレイしているベータ版(PC版)は序盤の数時間に限定されており,製品版の要素の一部を体験していること,また製品版とは異なる可能性があることをご了承いただきたい。
村山吉隆氏が死去。「幻想水滸伝」シリーズや「百英雄伝」などを手がけたゲームクリエイター
Rabbit & Bear Studiosは本日(2024年2月14日),村山吉隆氏の訃報を伝えた。「幻想水滸伝」の生みの親として知られるゲームクリエイターで,2020年からは同スタジオの代表およびメインの開発メンバーとして「百英雄伝」の制作を進めていた。
「百英雄伝」公式サイト
描き込まれたドット絵が織り成すキャラクターの魅力は期待を裏切らないが,戦闘は驚くほどオーソドックス
「百英雄伝」の物語は,主人公の青年・ノアが諸国連合の警備隊に参加する場面から始まる。この世界ではガルディア帝国が強大な力を持っており,諸国連合との間には何かと緊張が走っているが,最近は親善の動きもある様子。しかし,それは表向きの話であり,裏では何を考えているか分かったものではない……といった雰囲気の情勢のようだ。
本作の世界では「魔導レンズ」を介して,戦闘中に必殺技や魔法などを発動できる。ノアをはじめとする警備隊の面々も,それぞれ1つずつ持っており,誰でも持っているものではないが,超レアなアイテムというわけでもないようだ。
新たに「ルーンの遺跡」が発見されたという報告を受けて,このあたりの地理に詳しい諸国連合の警備隊は,帝国との共同作戦で遺跡の位置を特定する任務にあたる。ルーンの遺跡では強力な魔導レンズが見つかることが多く,帝国の目的はそれを手中に収めることのようだ。
さて,プレイヤーを魅了する要素として,最初に挙げられるのはドット絵の精緻さだ。パーティメンバーから町のNPC,敵のモンスターまで,ドット絵で描かれたキャラクターたちが実に生き生きと動く。「百英雄伝」というタイトルが期待させるように,膨大な数のキャラクターを仲間に加えられそうだが,その1人1人がこのクオリティで描き込まれるのだから楽しみでならない。
その一方,戦闘システムは実にオーソドックスだ。自身と仲間の行動(コマンド)を入力していく,ターン制のベーシックなバトルは懐かしさを覚える。画面上部に行動順が表示されたり,特定のキャラクターの組み合わせで発生するコンビネーション技などの仕掛けはあったりするが,基本的には1990年代のJRPGを踏襲した安心感のあるものだ。
ただ,ボス戦では「それだけじゃ退屈だろう?」と言わんばかりに,少しスパイスが効いている。「次のターンで強力な攻撃が来る」ことが事前に分かるため,そのターンは防御して被ダメージを抑える方法を考えなくてはならないのだ。また敵味方の行動順をよく見て,回復行動が間に合うように立ち回らなければ,アッサリと戦闘不能者が出てしまう。
ゲーム開始時に難度を選択できるが,ボスの攻撃は「ノーマル」でもけっこう強烈だ。「なんとなく戦ってるだけじゃ先には進めないぜ?」という当時のJRPGらしさを感じ,自分がいかに近年の親切丁寧なRPGに慣らされていたのかを思い知る。
また,ボス戦では地形を利用したギミックも登場する。敵の攻撃を防げる場所に隠れたり,左右どちらに敵が出現するかを予想したり,敵が用意した仕掛けを逆手に取って利用したりと,さまざまな種類があるようだ。単純なダメージの応酬と回復だけでなく,その合間に存在するギミックがちょうどいいアクセントになっている。
ダンジョンの内部では,順路ではないルートの行き止まりに宝箱が配置されているあたり,いかにもJRPGらしく懐かしさを感じる。マップ表示によりいつでも地形を確認でき,現代のRPGらしい利便性もあるが,マップだけにとらわれているとなかなか先へ進めないという仕掛けも……。「マップを見ながら目的地へ進む」ことが常態化している現代のRPGに対するアンチテーゼのようで,決して懐かしさだけを楽しむタイトルではない。
ストーリーに関しては,ベータ版では大きく物語が動く前に終了してしまうため,本稿では「コメントしようがない」というのが正直な感想だ。ちなみに,ベータ版ではエルティスワイスの町周辺を探索して仲間を集めたり,野菜泥棒を捕まえたりするといった小規模な事件の解決に動くことになる。
本当の目的を隠して,野望の火を燃やしているように見える怪しげな帝国。若き帝国軍人のセイ。辺境の村出身の素朴なノア。生まれも育ちも違う2人の青年が遺跡の探索を通じて,ほんのりと友情を交わし,やがて帝国を軸とする大きな運命に翻弄されていく……という予感がビンビンするが,こればかりは製品版に期待するしかない。
RPGとしては少々不安を覚える部分がある。だが,現段階で判断するのは早計か
今回,ベータ版をプレイして最初に感じたのは「オールドスタイルすぎる」ことだった。
まず,ランダムエンカウントであることに驚き,ダンジョンの妙に長い道中も気になった。大抵の場合,ちょっとした仕掛けがあり,その謎を解かないと先に進めないのだが,解法を求めてウロウロとさまよっていると何度も敵とエンカウントして戦闘が繰り返される。昨今,このような場面では敵と遭遇しないようになっているRPGも多いため,(逆に)随分と攻めている印象を受けた。
システムまわりでは,メニュー画面を呼び出すボタン(Xbox用コントローラの場合,[Y]ボタン)を押してから,実際にメニュー画面が表示されるまでに約1.5秒の間があるほか,戦闘に入ってからも「おまかせ」を選べるようになるまでに同様の間がある。これはなかなか慣れることはなく,かなり気になった。
戦闘の高速化がない点も気になった。シンボルエンカウントならまだしも,ランダムエンカウントかつ戦闘の高速化もないため,問答無用に時間がかかるということだ。「確かに昔のJRPGはそうだった」とは思うが,例えば「ドラゴンクエスト」シリーズの最新作「〜XI S」は戦闘のモーション高速化を導入しているように,タイムパフォーマンスが重要視される現代ではユーザビリティの不足を感じる人がいても不思議ではない。
また,ファストトラベル機能も存在しない。最初のダンジョンを攻略後,プレイヤーは「仲間を集める」ことになるが,どこに仲間がいるのかはノーヒント。そこそこの距離がある町や村,砦,ダンジョンを手探りで行ったり来たりするしかない。
最初は地理を覚えるためにもいいだろうが,さっき行った町に再び行くのにまた長い距離を徒歩で……というのは,いささか前時代的ではないだろうか。もちろん,その道中では何度も敵と遭遇して,戦闘が発生することになる。
前述の戦闘の高速化と同じく,現代の新作として見たときに「かつてのJRPGへのノスタルジー」を理由に消化できる人はどれだけいるだろうか。また他社作品を引き合いに出してしまうが,「STAR OCEAN THE SECOND STORY R」ではフィールドマップに点在する町やダンジョンだけでなく,町の中の施設にもファストトラベルが可能だった。このように高い利便性を実現していただけに,現代のJRPGの“進化”に目を向けていないように思える。
町の中の施設にも引っかかるところがあった。RPGではお馴染みの宿屋はHP/MPの回復と,冒険のデータをセーブできる。中でもエルティスワイスの町の宿屋は,主人公たち警備隊の拠点と言える場所になっているが,町のかなり奥にあるのだ。
多くのRPGにおいて,宿屋は町の入口付近に配置されている。戦闘で傷ついた体を回復して,また冒険を続ける……というサイクルを繰り返すRPGでは,そのほうが都合がいいからだ。主人公が町を走る速度は遅くないが,速いわけでもない。何度も行き来しているうちに,筆者がストレスを感じたのは事実だ。
JRPGが隆盛を誇った1990年代から二十余年。JRPGも少しずつ改良を重ねて,遊びやすく進化している。
筆者が「百英雄伝」の序盤,数時間の範囲をプレイして思ったことは,「あの頃の確かなJRPGの感覚がある」と同時に,前述の「現代では不親切としか思われないのでは?」と心配になる要素を「懐かしい」で済ませていいのか……という迷いだった。
ただし,ゲームを進めるにつれて便利な機能が開放されていく可能性はあるので,この段階で判断するのは早計かもしれない。製品版を待つほかないだろう。
本作を起動すると,タイトル画面の前に「With our appreciation to all JRPG fans」──“すべてのJRPGファンに感謝をこめて”と表示される。どれだけの情熱を注いでJRPGというものを見つめ直し,制作されたタイトルであるかが伝わる一文だ。
かつてJRPG大好きっ子だった筆者は,ある程度の不親切な部分も許容できる自信はある。しかし,むやみに時間を割かれてしまいそうな仕様が現代のゲーマーにどう映るのか,不安に感じているというのが正直なところだ。
ただ,丁寧に描き込まれたドット絵や,中世ファンタジーではなく,どこかオリエンタルなムードが漂う世界。そして,その世界の雰囲気にピッタリとフィットするBGMなども,まったく文句のつけようがないクオリティがある。一刻も早く新しい仲間と出会いたいし,ロケーションも見たいし,BGMだって聴きたい。少々不安はあれど,製品版のリリースが待ち遠しい作品であることは断言できる。
「百英雄伝」公式サイト
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Copyright(C)Rabbit&Bear Studios Co.,Ltd. All Rights Reserved.
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