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NHKゲームゲノム「It Takes Two」視聴レポート。協力しなければクリアできない“究極の2人プレイ専用ゲーム”がもたらす数多の気づき
本作はスウェーデンの開発スタジオHazelight Studiosが開発し,EA Originalsブランドで2021年にリリースされたプラットフォームアドベンチャーゲーム。全編Co-opのみで展開し,1人で遊ぶことを前提としていない“究極の2人プレイ専用ゲーム”と称されている。言ってしまえば,このゲームで遊ぶには“一緒にプレイする誰か”を用意しなければスタートラインにすら立てず,ゲーム仲間が少ない人にとっては少々手の出しにくいタイトルかもしれない。
だが面白いことに,間口を狭めたゲームデザインであるにも関わらず,本作の累計販売本数は1300万本を超え,大ヒットとなった。しかも,The Geme Awards 2021でBest FamilyとBest Multiplayerのみならず,Game of the Yearまで獲得するなど,業界内でも評価されているタイトルでもある。
番組ではそんな本作を題材に,MCの三浦大知さん,演劇活動と並行してモデルとしても活動する長井 短さん,ゲームライターの徳岡正肇氏がトークを繰り広げた。出演者たちが“1人じゃ気づけないこと”をテーマに語った,強制2人協力プレイゲームがもたらす気づきとはなんなのか,番組を振り返ってみよう。
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「It Takes Two」
“協力を強制する”2人プレイ専用ゲーム
「It Takes Two」で描かれるのは,離婚を決意した1組の夫婦が織りなす人間ドラマだ。主人公である夫・コーディと妻・メイの物語は,娘のローズに離婚の意思を伝えたことで幕が開く。両親の離婚にショックを受けたローズが“愛の本”に助けを求めた結果,知らぬ間に魔法の力で両親を人形の姿にしてしまうのだ。元の姿に戻りたい2人は,魔法を解く方法を知る愛の本の精霊Dr.ハキムの助言に従い,カウンセリング(試練)をしぶしぶ受けるのだった。
プレイヤーは夫婦のどちらかを操作し,さまざまな試練に挑戦することになる。全編Co-opの触れ込み通り,どのステージにおいてもプレイヤー同士の協力は必要不可欠だ。Co-opだし当たり前では? と思うところだろうが,本作のソレはひと味違う。
よくある2人でも遊べるゲームの場合,どちらか片方の頑張りだけでクリアできてしまうケースが多い。一方,本作における協力プレイは,いわばゴールへの道を切り拓く“共同作業”だ。それぞれがステージごとに用意された役割をこなし,パートナーと足並みをそろえながらゴールを目指さなければならない。
たとえば,コーディが釘を,メイがトンカチを背負い探索するステージなら,メイの移動をアシストするように釘で足場を作ったり,コーディの行く手を阻む障害物をトンカチで破壊したりといった,パートナーをサポートする連携が求められる。1人のスーパープレイだけでは突破できない,まさに“2人の協力を強制する”ユーモア溢れるゲームデザインが特徴だ。
また,プレイヤーが挑むのはプラットフォームアクションだけではない。協力して仕掛けを解くオーソドックスなアクションパートもあれば,格闘ゲーム風のステージに,シューティングに,パズルに音ゲーなんかも用意されている。ゲーム1本分の値段(しかも4300円!)で,こんなにいろいろ遊べちゃっていいの……? と心配になるぐらい,バリエーション豊かなステージにも注目だ。
互いに放っておいたもの
夫婦が不仲になった原因は一体なんだったのか。コーディとメイは,娘のローズのもとへと急ぐ道中でその一因となったものと対峙する。それは,故障したままの掃除機や,駆除せずに放置したハチの巣,メンテナンスを忘れた工具箱など,夫婦が互いに放置してしまったものたち。それらが魔法によって動き出し,ステージのボスとなって行く手を阻むのだ。
ここでも,ステージの謎解き同様に2人の連携が重要になるのだが,刻一刻と状況が変化するボス戦ではパートナーの状況を目視で確認する余裕がなくなってくる。しかしバラバラに行動していてはいつまで経ってもボスは倒せない。そこでカギになるのが“プレイヤー同士の会話”だ。「ハチの背中に樹液をつけたから爆破して」「次の攻撃のあとに爆破してくる」という具合に,互いの状況や攻撃のタイミングを相手に伝えることでプレイヤー間の連携を図り,活路を見いだしていく。
協力プレイでの声がけは基本中の基本。なぜなら,きっと相手は分かってくれるだろうという甘えは,意識のズレを生み,ボスを倒す以前に,信頼関係にヒビを生じさせてしまうからだ。そういうときこそ,キチンと相手に伝わるよう言葉を尽くした会話が重要になってくるものだが,それは決してゲームに限った話ではない。日常生活でのコミュニケーションにおいても同様だろう。
こういった経験は長井さんも覚えがあるようで「夫にあれやっといてと頼んだとき,自分の頭の中では“今日中に”って思いながら頼んでいるんです。でもその情報は共有されてないからすれ違いが起きてしまう」と失敗談を話す。
徳岡氏は,コーディとメイの関係を「2人は互いに甘え過ぎちゃったんでしょうね。だからコミュニケーション不全でギクシャクして信頼が崩壊してしまった」と考察を述べていた。
見失っていた大切な存在
娘の涙によって元の姿に戻れると考えた夫婦は,ローズが大切にする人形“キューティ”を壊して涙を得ようと画策する。2人の大切な存在であるローズを,自分たちの身勝手な理由のために泣かせようというのだ。
そうして訪れるキューティとのシーンでも,プレイヤーは否が応でもボタンを連打し,残酷な共同作業をなし遂げなければならない。キューティの死によってローズを泣かせることに成功した夫婦だったが,大粒の涙が流れ落ちても2人の姿は人形のまま。大切な存在を見失った2人が選択した“間違った共同作業”は,悲しみしか生まなかった。
夫婦が向き合うきっかけを生んだこの失敗は,胸クソの悪さを感じてしまうが,物語においては重要なシーンの1つだ。これをムービーのみで演出することもできたはずだが,なぜ共同作業の1つとしてプレイヤーに操作させたのだろうか。その意図を開発者のジョセフ・ファレス氏はこう語る。
「最低な人間になることが重要なんです。人は時に,わがままになり,周りを見失ってしまうことがあります。本作で伝えたかったのはまさにそれで,“子ども”という大切な存在を見失ってはいけないのです」(ファレス氏)
最低な人間の行動をただ見せるのではなく,自らの手で実行してもらうことで擬似的に体感させる。そうして夫婦に自己を投影してもらい,見失ってはいけないものを訴えかけたのだ。
ここで徳岡氏の発言で気づかされたのだが,キューティを追い詰めるシーンでは分割されていた画面が1つに統合される演出が見られる。よい捉え方をするならば,互いの意識が1つになり意気投合した瞬間と言えそうだが,徳岡氏は違った視点での考察を述べていた。
「今までは2人が協力していたからこそ,2つの視点(画面)があった。それが1つになったのは,協力しているんじゃなくて,ただの集団になってしまった瞬間」(徳岡氏)
個が集い,同じ目的を持つ群れとなったときに生まれる集団心理は,思考のコントロールが利かず,時として間違った選択を生んでしまう。人々が集い協力することは素晴らしいことだが,“協力”には間違った集団心理を生みやすい側面もあると指摘していた。
歩幅の違い
コーディは専業主夫として家事をこなし,メイは一家の稼ぎ頭として休まず働くのが,夫婦の日常だった。立場や役割が違う2人は,いつからか時間の使い方や価値観にズレが生まれ,家族の時間を作れずにいた。そのズレを解消するため,2人に与えられるのが“時間”と“距離感”の試練だった。
この2つの試練を通し,コーディとメイは「互いの時間に対する考え方」にあらためて触れるとともに,「相手と歩調を合わせ,適切な距離感を保つ大切さ」に気づいていく。互いに向き合うには,まずは相手を知り,歩幅を揃える必要がある。ゲームプレイを通じ,その大切さを教えてくれるシーンだ。
「自分の視点だけではなくて,相手側の視点にも立ってみる。(そうすることで)相手の中で流れてる感覚に思いをはせられるようになってくる」(三浦さん)
この言葉とともに,三浦さん自身の体験が語られた。奥さんに代わり,1人で子供3人の面倒をみることもあるそうだが,これがなかなかうまくいかない。奥さんの日頃の苦労を身をもって体感したことで,リスペクトと感謝の気持ちがより強まったと,相手の視点に立つ大切さを説いていた。
2人だから気づけた“1人じゃ気づけないこと”
悲しい境遇に置かれた2人の兄弟の冒険を描いた「ブラザーズ:2人の息子の物語」,共有の目的を持つ2人の囚人の物語「A Way Out」など,ファレス氏のこれまでの作品を振り返ると,「It Takes Two」と同様に“2人”という存在への強いこだわりを感じ取れる。
これについてファレス氏は,共に体験した出来事は強く記憶に残るものであるとし,「協力し合うことで2人のプレイヤーがより心を通わせ,心に残る体験をしてほしかった」と,2人という存在にこだわったゲーム制作の意図を明かしていた。氏のその想いは,内戦状態にあったレバノンから弟と共に命からがら逃れた生い立ちが関係しており,自身の経験から気づいた“人間にとって大切なこと”を2人協力プレイゲームを通じて伝えたかったという。
「私たちは“群れの動物”であり,近くにいてくれる人が必要です。もちろん1人でも生きられますが,1人で生きるべきではありません。もしコミュニケーションが不要なら,人間はその力を持っていないはずです。誰かと一緒にいるということは人の根本であり,本質なのですから」(ファレス氏)
夫婦がさまざまな困難を乗りこえ,関係を修復していく物語が描かれる「It Takes Two」。物語のメッセージ性はもちろんのこと,本作が“2人協力プレイ”だったからこそ,数多くの気づきが生まれている。それは,徳岡氏が述べた「他者を理解することは決して簡単ではない」ということ。長井さんが挙げた「分かりたいと同時に分かってほしいと思うから,逐一言葉にすることが大事」という気づき。三浦さんが語った,「他者の視点に立ち,相手の状況や心情に思いをはせる大切さ」だ。
分かったつもりになることはできても,他者を本当の意味で理解するのは存外難しい。それは親子であっても,共に暮らす夫婦であっても,仲の良い友人であっても同様だ。相手の視点に立ち,言葉を尽くしたコミュニケーションを経て,ほんの少し歩み寄れる。日常で忘れがちな相手への思いやりを協力プレイを通して思い出させてくれる,「It Takes Two」はそんなゲームなのだ。
2024年1月10日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で1週間見逃し配信あり
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