PlayStation 2用ドライビングシミュレータ
「グランツーリスモ4」(以下,GT4)は本日(2024年12月28日),発売から20周年を迎えた。
車体の挙動表現がさらにリアルになっただけでなく,自分ではドライビングせず,レースを戦略的に楽しむ「B-spec」モードや,愛車の写真撮影ができる「フォトモード」などの新機能が実装された本作は,全世界で1000万本以上売り上げる大ヒットタイトルとなった。
本作には50以上のコースが収録されているが,印象的なものの1つが
「東京・ルート246」だろう。東京の青山や明治神宮外苑,赤坂を走る市街地コースで,コース脇にある数々の“名所”まで再現されている。
もちろんゲームに収録されているのは2000年代初頭の姿なのだが,それから約20年が経った今見ると,大きく変わったところ,まったく変わっていないところがあって,感慨深い。
そしてこのエリアは,明治神宮外苑の再開発などによって,これから大きく姿を変えることになる。そこで,現在の「東京・ルート246」を歩いてみたので,20年前の姿と比較しつつ,目に焼き付けてほしい。
スタート地点は赤坂郵便局とカナダ大使館の間あたり
![画像集 No.021のサムネイル画像 / グランツーリスモの名コース「東京・ルート246」を歩く。20年前リリースのGT4から変わった場所,変わらない場所,そしてこれから変わる場所](/games/512/G051215/20241217044/TN/021.jpg) |
Honda青山ビル(本田技研工業本社)
スタート地点から1コーナーへと向かう途中,左側に見えてくるのがHonda青山ビル。1階はレーシングカー展示やカフェ,グッズショップなどがある「Honda ウエルカムプラザ青山」となっており,誰でも入場可能となっている。
交差点に面した角が丸められていたり,各階にバルコニーが付いていたりといった作りが特徴的だが,これは一説によると創業者である本田宗一郎氏の“交差点を曲がるとき,運転者の視界を妨げないように”“地震などで割れた窓ガラスで歩行者が怪我をすることがないように”という意向を取り入れたものだという。
GT4内のHonda青山ビルの入口には,当時本田技研工業が開発していた二足歩行ロボット「ASIMO」の姿が
![画像集 No.023のサムネイル画像 / グランツーリスモの名コース「東京・ルート246」を歩く。20年前リリースのGT4から変わった場所,変わらない場所,そしてこれから変わる場所](/games/512/G051215/20241217044/TN/023.png) |
Honda青山ビルは1985年8月の竣工から約40年となる2025年春の解体が決定している。それ以降は,グランツーリスモシリーズが,在りし日の姿を偲ぶ貴重な手段の1つとなりそうだ。
明治神宮外苑 いちょう並木
1コーナーを曲がったあとは,明治神宮外苑のいちょう並木を進んでいく。GT4では青々とした葉が茂っているので,土地勘がないと気付きづらいかもしれないが,秋の観光スポットとなっている“あの”いちょう並木だ。
今回の撮影は12月の上旬だったので,まさに黄葉の真っ盛り。筆者は子供の頃から「いちょうの黄葉=ぎんなんが落ちて臭い」というイメージを持っていたのだが,神宮外苑のいちょうは雄株のみらしく(いちょうには雄株と雌株があり,ぎんなんの実を落とすのは雌株のみ),まったく臭くなかった。
樹のシルエットも先が尖ってシュッとしており,ほかのいちょうとは大きく違うのだが,これも数年に一度の剪定によるものだそうだ。
いちょう並木の向こうに見える建物は聖徳記念絵画館。2004年のGT4発売直前に,ここの敷地に大型のテントが張られ,その周囲にゲームの登場車種が並べられる豪華な演出で発売記念イベントが行われた
![画像集 No.004のサムネイル画像 / グランツーリスモの名コース「東京・ルート246」を歩く。20年前リリースのGT4から変わった場所,変わらない場所,そしてこれから変わる場所](/games/512/G051215/20241217044/TN/004.jpg) |
明治神宮野球場
いちょう並木から左コーナーをクリアし円周道路に入ると,明治神宮野球場が見えてくる。東京六大学野球の舞台や,東京ヤクルトスワローズの本拠地として知られている野球場だ。
20年前と現在の姿に大きな違いはないが,本球場は明治神宮外苑再開発の一環として解体が決まっている。解体の時期は不明だが,2032年にはいちょう並木に隣接する位置に,ホテル併設の新たな球場が完成予定だ。
国立競技場
明治神宮球場と同じく円周道路沿いにある国立競技場。現在の姿になったのは2019年なので,2004年リリースのGT4に登場するのは旧国立競技場だ。
2つを比べてみると,コンクリートの塊といった趣の旧,木材がふんだんに使われている新と,実に対照的。照明塔がなくなったのも大きな違いと言えそうだ。
権田原交差点~安鎮坂
神宮外苑の円周道路を抜けて権田原交差点を過ぎると,左手が明治記念館,右側が赤坂御用地という,緑豊かで静かな通りに入る。写真に写っている竹垣や木々の向こう側には,仙洞御所(上皇ご夫妻のお住まい)があるが,GT4が発売された2004年当時は,皇太子ご夫妻(現在の天皇皇后両陛下)のお住まいである東宮御所だった。
もちろんGT4では御所まで描写されてはいないが,そんなところまで思いを馳せてみると,20年という時の流れが強く感じられるかもしれない。
この通りは東京・ルート246のバックストレートに当たるが,スピードが乗ったところに待ち受けるのが安鎮坂だ。ここは下りながら右,左と曲がる連続コーナーで,車のコントロールが非常に難しい。
これはレースに限った話ではないようで,道の脇には「スピード落とせ」の看板が立ち,ドライバーの注意を促すためなのか,路面も赤茶に塗られている。ビートたけしさんが1994年にバイクで自損事故を起こしたのもここだったとのことで,ゲームでも現実世界でも,運転には十分に気を付けてほしい。
坂の上から。実際に歩いてみると,ゲームよりも坂の傾斜を強く感じた
![画像集 No.010のサムネイル画像 / グランツーリスモの名コース「東京・ルート246」を歩く。20年前リリースのGT4から変わった場所,変わらない場所,そしてこれから変わる場所](/games/512/G051215/20241217044/TN/010.jpg) |
迎賓館赤坂離宮正門
安鎮坂に続いて鮫河橋坂を下り,学習院初等科前交差点を右に曲がると,迎賓館赤坂離宮の正門前に出る。迎賓館赤坂離宮はその荘厳さで知られる建築物だが,正門前からだと距離がおよそ200メートルあり,途中に庭園の木々などもあるので,つぶさに見たい人は公開日をしっかり確認のうえ出向くと良さそうだ。
GT4でも現在と同じような迎賓館赤坂離宮を確認できるのだが,実は正門前の道路が大きく変わっている。スクリーンショットに横断歩道などが描かれていることからも分かるように,20年前は車道として使われていたのだが,2020年3月に歩行者用の道路となり,車両の通行が不可となった。
赤坂見附交差点
左手の幅が広いビルが東急赤坂ビル,ゲーム画面の右にある黒いビルがサントリービル
![画像集 No.029のサムネイル画像 / グランツーリスモの名コース「東京・ルート246」を歩く。20年前リリースのGT4から変わった場所,変わらない場所,そしてこれから変わる場所](/games/512/G051215/20241217044/TN/029.jpg) |
迎賓館前を抜けて外堀通りに入り,紀伊国坂を下りきったところにあるのが赤坂見附交差点。地上では外堀通り,紀尾井町通り,青山通り(サーキット名の由来となっている国道246号線)が交差する上を首都高速などの高架橋3本が走り,そこを巨大なビルが囲んでいる。東京を象徴する風景の1つと言っていいかもしれない。
交差点自体は20年前とほぼ同じだが,周辺の建物は大きく変わっている。特徴的な雁行設計のビルで知られた赤坂プリンスホテルは2011年3月の営業終了後に解体され,現在その場所には東京ガーデンテラス紀尾井町が建っている。サントリー美術館などが入っていたサントリービルも取り壊され,今回の取材時には東急赤坂ビルの解体工事が進んでいた。
東京・ルート246での赤坂見附交差点は,コース中で最も速度が落ちるヘアピンカーブとなっている。現在はなくなっている(もうすぐなくなる)建物がゆっくりと目の前を流れていくのは,なかなかノスタルジックだ。
青山通り(国道246号線)
赤坂見附のヘアピンを抜けると,ホームストレートとなっている青山通りに入る。国道だけあって非常に広い道路だが,東京・ルート246のコースとして使用されているのは片側の4車線で,もう一方は観客席やピットが配置されている。こういったところまできっちり考えられて“設計”されているのが面白い。
とらや
室町時代から続く老舗で,高級和菓子店の代名詞的な存在となっているとらや(虎屋)の赤坂店(本社)が,青山通り沿いに建っている。
GT4に登場するのは当時のオフィスビル然とした建物で,1階の店舗には「とらや」の文字こそないが,のれんもしっかりと描かれているなど,再現には力が入っている印象だ。
そんなとらや赤坂店は,2018年にリニューアルし,現在はガラス張りで開放的な印象の低層建築物となっている。
青山安田ビル
数々のスポットの最後を飾るのは青山安田ビル。ここにはかつてソニー・コンピュータエンタテインメント(現在のソニー・インタラクティブエンタテインメント。以下,SCE)が入居しており,ビルにも同社のロゴが掲げられていた。そのロゴはGT4でも再現されており,青山通りが右にゆるくカーブするところにビルが建っていることもあって,非常に目立つ。
それもあって,ゲーマー間での青山安田ビルの認知度は高いのだが,青山通り沿いにはほかにもSCEの拠点が2か所あり(TK南青山ビル,赤坂王子ビル),こちらもGT4内で再現されている。20年前の青山や赤坂は,“SCEの城下町”だったのだ。
初代PlayStationの発売から30年が経過し,SCEの社名は変わって,青山や赤坂から拠点はなくなってしまっている。昔からのゲーマーにとっては少々寂しいが,時代の変化とはそういうものなのだろう。
今回,GT4で20年前の世界を楽しんだうえで,実際に現在の東京・ルート246を歩く取材は個人的にとても面白い体験だった。できれば,2024年の東京・ルート246もゲーム内で再現してもらって,数十年後にまた同じような体験をしてみたいところ。「グランツーリスモ7」のアップデートに期待したい。