インタビュー
30年を経て,あの携帯ゲーム機が蘇る。「ゲームギアミクロ」発売記念,セガ&エムツーのキーマン3名にインタビュー
「ゲームギアミクロ」公式サイト
Amazon.co.jpの販売ページ(Amazonアソシエイト)
「ゲームギアミクロ」実機レポート。これはただのファンアイテムではなく,普通にガシガシ遊べるモバイルゲーム機だ
本日(2020年10月6日),セガの携帯ゲーム機「ゲームギアミクロ」が発売を迎えた。小さすぎるんじゃない? 画面が見えないんじゃないの? といった心配はあると思うが,結論を言えばまったく不要だった。本稿では,実機によるレポートをお送りしていこう。
セガ60周年とゲームギア30周年を迎えて
4Gamer:
よろしくお願いします。まずは皆さんが今回のプロジェクトでどういった部分を担当されたのかを教えてください。
奥成洋輔氏(以下,奥成氏):
セガの奥成です。ミクロのソフトウェア部分のプロデュースを行いました。
梶 智樹氏(以下,梶氏):
セガ 第1品質保証部の梶です。メガドライブ以降の歴代セガハードで筐体の形状や生産といった部分に関わってきました。ゲームギアのオリジナルも担当していたので,ミクロでは久しぶりにゲームギアに携わったことになります。
堀井直樹氏(以下,堀井氏):
エムツーの堀井です。メガドライブミニに引き続き,ミクロのソフトウェア部分を担当しました。また,「アレスタ」シリーズ4作品+新作「GGアレスタ3」を収録した「アレスタコレクション」(PS4 / Nintendo Switch / エムツーから12月24日発売予定)の限定版には,全5タイトルが遊べる「ゲームギアミクロ ホワイト」を同梱します。そうした意味では,セガさんのサードパーティ的な立ち位置でもありますね。
エムツーがデータイースト5作品や「アレスタ」シリーズの家庭用移植を発表。「ウブスナ」について井内ひろし氏からのメッセージも
エムツーは本日(2020年9月16日)配信した「M2STG生放送 〜アレもコレも大公開スペシャル〜」の中で,M2 Shot Triggersや「ゲームギアミクロ」などに関する最新情報を発表した。「アレスタコレクション」については,続報が9月26日の「セガアトラスTV」で発表されるとのことだ。
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- PS4:ケツイ Deathtiny 〜絆地獄たち〜
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4Gamer:
現在(2020年9月中旬に収録)の予約状況はいかがでしょうか。
奥成氏:
おかげさまで,目標数の2倍近くのご注文をいただいています。発表した翌日の昼には最初の予定数が完売するほどの勢いでしたので,その後は発売日に間に合わせつつ,製造数をいかに増やすかに苦労していました。
4Gamer:
2倍近くとはすごいですね。とはいえ,生産数を増やすといっても,すぐに手配できるものなんでしょうか。
梶氏:
いや,増やせないですよ(笑)。目標数を超えたらどうするかは事前に試算していたのですが,2倍というのはなかなか困りました。ただ,それを何とかするのがセガですから。
奥成氏:
当初の目標数自体が低かったんですよ。僕と梶は「この数では絶対に売り切れる。1週間も保たないかも」と言っていたんですが,誰も信じてくれなくて(笑)。
4Gamer:
それは大変でしたね。プロモーションや生産において,新型コロナウイルスによる影響はありましたか?
梶氏:
いろいろなトラブルがありましたね。海外の協力工場も大枠のイメージは理解してもらえるのですが,細かなニュアンスが違っている……なんて時もあり,普段なら直接,協力工場に行って解決できるのですが,今回に限ってはそれができませんでしたので。
ミクロを生産している台湾はかなり早い段階で新型コロナウイルスへの対策を取り,影響を非常に小さく抑えていましたから,そうした意味では助かったほうです。
ただ,プロモーションにおいてはセガフェスが実施できなかったことが大きかったですね。発表と同時に会場で実際に触っていただく予定だったものが,そうもいかなくなってしまったんです。その後もお見せできるタイミングを図っていましたが,結局そんな機会は来なかったですね。
4Gamer:
やはり影響は小さくなかったわけですね。
今回復刻ハードとして,ゲームギアが選ばれた理由を教えてください。
梶氏:
2020年8月にセガは60周年を迎えましたが,これを祝う企画の一つとして,グッズ的な復刻ハードを出そうということになりました。ゲームギアが選ばれたのは,発売30周年ということでキリが良かったからですね。
奥成氏:
企画が立ち上がった当初,僕は別の部署にいて隣の席の物販チームがミクロを担当していたんです。こんな面白いことに関わらない手はないと思って,ソフトの選定やらなにやら,積極的にプロジェクトをお手伝いするようになりました。その後,物販チームへ異動になり,もっと深く関われるようになったんですよ(笑)。
4Gamer:
セガは2019年にメガドライブをメガドライブミニとして復刻しています。当然,次の復刻ハードも「○○ミニ」になると思っていたんですが,ミニではなく「ゲームギアミクロ」になった理由は?
本来,こういうものは数年単位でプロジェクトが進むのですが,ミクロはプロジェクトが立ち上がってから発売までに時間が少なかったんです。本格的に動き始めたのが今年1月でしたから。
社内的にもメガドライブミニの印象がありましたので,「ゲームギアミニ」を作るとなると,同じように各部品を正確に再現させるという細かい作業が必要になりますが,ミクロとして別軸商品であれば,多少ディフォルメさせて,液晶を大きくしたり,ゲーム性を高めたりしても大丈夫だろうと。
最初はメガドライブミニを連想させないように,「マイクロゲームギア」という名前でしたしね。
奥成氏:
名前は僕が変えてしまいました(笑)。
4Gamer:
メガドライブミニのおかげで,“「○○ミニ」は正確な縮尺でギミックを再現する復刻ハード”というブランドになったわけですね。
奥成氏:
メガドライブミニのような新ハードだと,社内の意思統一を図ったり,いろいろと準備も大変です。一方で,今回のプロジェクトを立ち上げた物販チームは,東京ゲームショウやファンタシースター感謝祭などで販売するグッズを企画・製造・販売する部署です。そこで,ミクロをTシャツやアクリルプレートと同列のグッズ扱いにすることで,いろいろな手続きを簡略化することができたんです。
堀井氏:
それで新ハードを作っちゃうんですから,すごいですよね(笑)。
奥成氏:
あくまでセガフェスで販売するグッズの予定だったんです。セガの60周年とゲームギアの30周年を祝うアイテムとして,「お客さんが喜んでくれて,赤字が出なければ良し!」みたいなノリの,国内限定プロジェクトですから。
かつてハードを作っていた時の経験者が,弊社やセガトイズにいてくれたのも助かりました。上層部にはゲームギアに良い思い出を持っている者も多く,ミクロの話でウキウキしていましたよ。
4Gamer:
ミクロとして実機をデフォルメする際,どういったところが大変でしたか?
梶氏:
ミクロはあくまでゲームハードです。実際に遊べないと成り立たない商品なので,できるだけプレイしやすくしつつ,見た目を実機に近づけるところが大変でした。
ディスプレイと操作部分が近くて遊びにくいのでは,と思われる方もおられるでしょうが,実際に触っていただければ,いい感じで遊べることが分かっていただけると思います。
奥成氏:
これはメガドライブミニの時にもあったことなんですが,縮尺を正確に縮小するだけでそれっぽく見えるかというとそうではないんですよ。
ゲームギアの場合,筐体表面のエンボス加工がいい例ですね。無数の粒子が並んでいるわけですが,密度の縮尺を正確に取ってミクロの表面に配しても,見た目は違った感じになってしまうんです。そこで,ミクロでは密度を変えてゲームギアっぽさを出しています。
梶氏:
時間が経った状態のゲームギアを覚えておられる方も多いでしょうから,いろいろなパターンを作りましたね。
設計の上で一番苦労したのはイヤホンジャックでした。そこそこ大きい端子を筐体の中にすっぽり内蔵しないといけないので,場所によっては電池とぶつかってしまいます。だからといって斜めにすると力の掛かり方がおかしくなったり,手の中でプレイできなくなったりする。無理やりスペースを作って現在の位置に収めましたが,中身はかなりギリギリですね。
奥成氏:
最初の設計ではイヤホンジャックがなくて,モノラルスピーカーだけだったんです。でも僕が「ゲームギアの音楽はステレオ出力でないと!」と無理を言って付けてもらいました。電車などで遊ぶ際にイヤホンで聴ける環境も欲しかったですし。ただ,イヤホンジャックを付けたことでオミットした機能はありません。
4Gamer:
確かに,音楽の良さもゲームギアの魅力ですからね。一方,映像出力は付いていませんが,これはなぜでしょうか。
梶氏:
現在のディスプレイに映すと,ドットが大きくなりすぎるからです。
奥成氏:
ゲームギアもTVに出力できる機器は出したことはないですからね。復刻タイトルでもPS2の「SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.33 ファンタジーゾーンコンプリート・コレクション」を除くと,これまでゲームギアのソフトが(隠しゲームを除いて)テレビで遊ぶようにしていないのも同じ理由からです。そもそも,ミクロの基板にはHDMI出力機能がありませんでしたし。
TV出力で見たいという気持ちも分かります。ただ,この筐体にHDMI端子を搭載するとなると,マイクロHDMIになってしまい,新しくケーブルを買い直さないといけなくなるでしょうね。
梶氏:
筐体が小さいので,スペースが無いのですよ。
堀井氏:
ゲームギアにはTVチューナーのオプションがありましたから,ミクロにはワンセグが欲しかったですね(笑)。
奥成氏:
値段が万単位で増えますね(笑)。確かに,ミニチュアのTVチューナーを用意する案はありました。でも,ミクロにはカートリッジ用のスロットがないので,ミニチュアを付ける場所がないんです(笑)。
4Gamer:
カラーバリエーションが4色になった理由はなんでしょうか。
奥成氏:
ゲームギア黄金期と言えば,ブラック,ブルー,イエロー,そしてレッドの4色が基本だったからです。
4Gamer:
レッドがちょっと特殊な色でしたよね。特別版のコカ・コーラとのタイアップ版と,「魔法騎士レイアース」同梱版のロゴ入りもありました。
奥成氏:
本当は「魔法騎士レイアース」も収録したかったんですけれど,今回はライセンス交渉のための時間がなかったんです。同梱版と同様に,「このミニサイズでモコナのプリントを入れられるだろうか?」なんて相談を梶としたこともありましたが。
4Gamer:
それから,特典としてビッグウィンドーまで復刻されているのは驚きました。
奥成氏:
全色買ってくださった方にお礼をしたいということで,「ビッグウィンドーを再現してはどうか」というアイデアは早くから出ていました。特典は,商品のコストには乗らない宣伝費で作るモノなのであまりコストをかけられないため,当初は手作りのペーパークラフトにレンズをはめ込んでいただく形式で計画していました。
4Gamer:
歴代ハードのペーパークラフトをWeb配布されていますが(→こちら),その延長だったんですね。
奥成氏:
ええ。ペーパークラフトの試作品を梶に見せたところ,「これはちゃんと作ったほうがいいよ」と言ってくれたんですよ。予算の問題もあったんですが「いや,何とかやってみる」と,工場から何から全て手配してくれました。
梶氏:
信頼している取引先とちょこちょこっと相談しながらやってみたら,できちゃいましたね(笑)。プラスチック製ですし,電気を使っているわけでもないので,できあがったパーツをカチッとはめ込むだけですし。
堀井氏:
いやいや,金型まで作らないといけないわけですから,ぜんぜん「ちょこちょこ」じゃないですよ(笑)。いい意味で「バカだなあ……」って感心しました。これまでもセガさんはポリゴンの人間を動かしたり,いろいろとビックリするようなことをしているんですが,それらと同じ驚きがありました。
奥成氏:
制作中に梶のこだわりでレンズがパワーアップしたり,ヘッドフォン端子が隠れないように穴を開けてもらったりもしましたね。ミクロがまだ存在していないのに,カチッとはまるパーツを別の工場で作るわけですから,すごいことですよ。現物が出てきて,しっかりはまった時は感動しました。
4Gamer:
宣伝費で作るオマケなのに,これだけしっかりしたものが出てくるあたり,セガのこだわりですね。
奥成氏:
パッケージも,当時の「ゲームギア+1」を模したものにしているので,懐かしさを感じていただけるんじゃないでしょうか。通販限定の商品なので,箱のデザインにここまで凝る必要は無いんですけどね。
堀井氏:
ユーザーさんの手に届いて箱を開けるところも含めて復刻ハードですから,手抜かりのなさが嬉しいですね。
奥成氏:
箱には,オリジナル版の発売当時に存在していなかったCEROのマークが入っています。このマークは掲示サイズが決まっているため,小さな箱ではどうしても目立ってしまいますがご容赦ください。
4Gamer:
梶さんにお聞きしたいのですが,新ハードを立ち上げる際の苦労は,歴代ハードとミクロではどちらが大きかったですか?
梶氏:
やはり当時の方が大変でしたね。基板に部品を刺してはんだ槽※を通したりといった手間がありましたから,とんでもない苦労がありました。
※はんだ槽:溶かしたはんだが満たされた水槽。基板にはんだで部品を接合する際に用いる。はんだが噴き上がるようになっており,そこに基板と部品を通すと部品がはんだ付けされる。
4Gamer:
当時は製造過程を意識せずにゲーム機で遊んでいましたが,こうしたお話を聞くと感慨深いものがあります。
27年後,「ガンスターヒーローズ」を改良することに
4Gamer:
ここからはソフトについてお聞きしたいと思います。エムツーが参加されるきっかけはどういったものだったのでしょうか。
奥成氏:
時間がないなかでクオリティを高めるには「エムツーさんしかないだろう」ということです。「堀井さん,こういうのあるんだけど,やるよね」って(笑)。
堀井氏:
エムツーが最初に手がけたのが,メガドライブの「ガントレット」。その後にセガさんからお仕事をいただいたのが,ゲームギア用ソフトですからね。やる,やらないの問題じゃないんです(笑)。
奥成氏:
最初にお話させていただいた時は,6月のセガフェスでの発売を予定していたので,もっとスケジュールが厳しかったんですよ。
堀井氏:
とにかく時間がなかったので「我々が実現可能なものに」というお話をしました。メニュー画面ですら,工数を減らすために収録するゲームを2本にしようという考え方をしていたくらいです。
4Gamer:
スケジュールを間に合わせるために,とにかく現実を見ていたわけですね。
奥成氏:
そこで「ソニック」&「ソニック2」,「ぷよぷよ」&「ぷよぷよ通」というように,1色あたり2本収録の形でタイトルの選定を行いました。そのうちにメニュー画面の問題が解決し,現在の4本収録となりました。本数が増えるたびにシャッフルしつつ,組み合わせを考えていったんです。
4Gamer:
収録本数を増やせるようになったのはなぜですか。
堀井氏:
ライセンス関係の交渉にそこまで時間がかからない「女神転生外伝 ラストバイブル」を収録するといった案が出たりして,時間の余裕ができたからです。どこまでやれるかをあらかじめ見積もってあったので,余裕ができればそれだけ多くのことが実現できるようになったということですね。
4Gamer:
正確な見積もりがあったから,収録本数を増やせたということなんですね。
堀井氏:
メガドライブミニでの経験もあり,やるべきことが見えていたというのもあります。
4Gamer:
堀井さんが各色のラインナップを見た時の感想はどういったものでしたか。
堀井氏:
ものすごくゲームギアを愛している人が,誰かをゲームギアに染めたいと思って選んだ。そういうラインナップだと思いました。
ゲームギアが好きな人って,味方を増やしたいと思ってるんですよ(笑)。そんな時にゲームギアを友達に貸す機会が訪れようものなら,何を遊んでもらおうかと頭を悩ませるはずなんです。「お前はRPGが好きだろう! それならこれだ! そっちのお前はちょいちょいパズルゲーム遊んでるよな? それならこのゲームをやるんだ!」と戦略的にオススメするような,めちゃめちゃ絶妙なラインナップになっていますね。
4Gamer:
液晶サイズは開発の当初から1.15インチだったのでしょうか。もっと大きかったり,小さかったりしたことはありますか。
堀井氏:
ずっと同じでした。ただ,開発初期は外装が決まっていなくて,基板とディスプレイだけがあるような状態だったので,弊社のディレクター 駒林(貴行氏)は方向ボタンのところに1円玉を貼り付けてプレイしていましたね。
奥成氏:
なにぶんメガドライブミニよりも非力な基板ですから,「ゲームがまともに動くか」「RPGを表示した際に文字が読めるかどうか」「アクションゲームがちゃんと遊べるか」の確認をお願いしました。
文字が読めなければRPGはアウトですし,遅延などでしっかり操作できないなら難しいアクションゲームは入れられない。なので,エムツーさんにいる20〜50代までのいろいろな年代の方にチェックしていただきました。
堀井氏:
小さいけれど,ちゃんと文字は読めるし操作もできるんですよ(笑)。むしろゲームギアより綺麗ですし,残像もない(笑)。
最初こそ画面がちゃんと見えるか。電池駆動でスペックが下がっている中で遅延なしに,満足いく速度で動くのか。小さな筐体で操作性が担保されるのか,といったところを不安に感じていたんですが,セガさんは1つ1つ着実に解決されていきましたね。
画面で文字が見えたときは驚きましたし,紙で作っていたはずのビッグウィンドーがいつのまにかプラスチックのしっかりしたものになっていたりもして,やっぱりセガさんはゲームハードを作っている会社なんだな……という感動がありました。
4Gamer:
エミュレータ側で文字のサイズを変更することは検討されたのでしょうか。
堀井氏:
時間があればそういった手法も使えたのでしょうが,今回はそうもいかなかったですね。
4Gamer:
ブルーには堀井さんが開発に携わった「ガンスターヒーローズ」が収録されていますね。
懐かしいですね。移植の際は,ゲームギアならではのテクニックを使いました。
「ガンスターヒーローズ」はメガドライブのパワーを活かして,たくさんのスプライトを表示してグリグリ動かすゲームでした。しかし,ゲームギアの限られたスペックでは,そのまま再現することができません。
そこで思いついたのが,「ゲームギアの液晶にスプライトを表示すると,少しの間残像が残る」現象を利用することでした。残像のおかげで,スプライトがたくさんあるように見えるというわけです。
多数のスプライトを横に並べると,スプライトが点滅してしまいます。これはファミコンでもお馴染みの現象ですね。企画書には「スプライトが点滅して欠けるのを容認するなら,それっぽく見えるので,これで再現します」といった意味のことを書きました。
4Gamer:
当時の液晶をうまく使ったわけですね。
堀井氏:
ただ,ミクロの「ガンスターヒーローズ」をセガさんに提出したところ,品質保証部から「スプライトが点滅しまくってるんですけど,今回ミクロに収録するぶんはなんとかなりませんか」という質問が来たんです。
奥成氏:
梶の部下が「他のゲームと比べても『ガンスターヒーローズ』のちらつきは尋常じゃない」って(笑)。
堀井氏:
「仕様です」とお返事しました(笑)。
奥成氏:
オリジナル通りの挙動であるということで一旦はケリが付いたんですが,3日後に堀井さんから改良版が出てきて驚きました。
堀井氏:
ミクロならゲームギアでは出せない数のスプライトを表示させられますし,ちらつきも抑えられます。もちろん,スプライトが増えてもオリジナル同様のスピードを出せて,電池の消費も大きくなっていないことはチェック済みです。
その後,駒林が「がんばっていた工夫を残したいので,当時のものは隠しコマンドにしましょう」と言ってくれて,「ガンスターヒーローズ」の説明画面で方向ボタンの[↓]を押しながら決定すると,オリジナル版が遊べるようになっています。イベントに出展していたデモバージョンも収録されていますので,レアなんじゃないでしょうか。
また,「ぷよぷよ通」と「ソニック&テイルス」については,当時の裏技が簡略化された形で実装されています。
4Gamer:
レッドの「女神転生外伝 ラストバイブル」と「女神転生外伝 ラストバイブルスペシャル」にはイージータイプが実装されていますが,これはどういった経緯からでしょうか。
奥成氏:
当時のものを遊んでいただくというコンセプトはメガドライブミニと同様なんですが,作業を進めるうちにディレクターの駒林さんから「全部のゲームを遊んだ中で,『ラストバイブル』の2本だけはとくにツライです」というお話が出たんです。
確かに1990年代のRPGのバランスなので,現代の視点からすると難しいですし,ミクロの画面は小さいですから,長時間のやり込みには適していない。もっと手軽に遊べたほうがいいんじゃないかと。それでイージータイプを実装することになりました。
ソースコードもきちんとした形で社内に保管されていましたし,こうしたアレンジはPS2の「ファンタシースターコレクション」という前例がありましたから。
4Gamer:
現代のゲーマーが遊びやすくなるように再調整したわけですね。
奥成氏:
開発するうえでは,駒林さんといっしょにどこを調整するべきかを検討しました。移動速度は問題ない。ならば,難しさの原因は入手できる経験値とお金の量だろうと。
ただ,駒林さんから「『ラストバイブル』は2倍でもまだ厳しい」というご意見があり,「ラストバイブル」は3倍に,『スペシャル』は2倍にすることで落ち着きました。
これは現代のプレイヤーさんに遊んでいただく際,ゲームの面白さをスポイルしないバランスということです。もちろん,オリジナル版をデフォルトとして収録しているので,当時のものに挑戦したい方はそちらを遊んでみてください。
【ゲームギアミクロ 裏技一覧】
●「ぷよぷよ通」
- ぷよぷよの姿がカーバンクルやナスグレイブになる
簡略化コマンド:起動時のデモ中に,1ボタン+スタートボタン
オリジナルコマンド:タイトルデモで↑,1ボタン,↓,2ボタン,→,1ボタン,←,2ボタンを16回入力
- ぷよぷよの姿が人型になる
簡略化コマンド:起動時のデモ中に,2ボタン+スタートボタン
オリジナルコマンド:タイトルデモで←,↑,←,2ボタン,1ボタンと入力
●「ソニック&テイルス」
- ゾーンセレクト
簡略化コマンド:タイトル画面で方向ボタンを↑,↑,↓,↓
オリジナルコマンド:タイトル画面で↑,↑,↓,↓,→,←,→,←,2ボタン,1ボタン,スタートボタンと入力
- サウンドテスト
簡略化コマンド:タイトル画面で方向ボタンを↓,↓,↑,↑
オリジナルコマンド:タイトル画面で↓,↓,↑,↑,←,→,←,→,1ボタン,2ボタン,スタートボタンと入力
●「ガンスターヒーローズ」
- イベント出展時のデモバージョンを見ることができる(プレイはできない)
「ガンスターヒーローズ」の説明画面で方向ボタンの↑を押しながら決定
ゲーム起動時のSEGAロゴの背景が黒で,トレジャーの旧ロゴにマークが無ければ成功
- オリジナル版(ちらつきあり)
「ガンスターヒーローズ」の説明画面で方向ボタンの↓を押しながら決定
●「女神転生外伝 ラストバイブル」
- イージータイプ(戦闘時の経験値と取得金額が3倍)
メニューの「コラムス」のところで→を押す。あるいは1ボタンを押して背表紙にするとソフトの存在が分かる
●「女神転生外伝 ラストバイブルスペシャル」
- イージータイプ(戦闘時の経験値と取得金額が2倍)
メニューの「コラムス」のところで→を押す。あるいは1ボタンを押して背表紙にするとソフトの存在が分かる
乾電池で動くシューティングゲーム専用ハード,爆誕!
4Gamer:
2020年12月24日にエムツーから発売される「アレスタコレクション」の限定版には,ゲームギアミクロのホワイトバージョンが同梱されるそうですが,どういった経緯で実現したのでしょうか。
奥成氏:
最初は「『アレスタブランチ』の限定版にどうかな」と思って,こちらからお話を持ちかけました。弾が見えるかどうかは分からないけれど,おまけとして付けるならと。
堀井氏:
ウチはサードパーティですから,セガさんのハードに参入できるなら願ったり叶ったりですよ!
ただ,残念ながら「アレスタブランチ」の発売が延びてしまったので,新たに「アレスタ」シリーズをひとまとめにした「アレスタコレクション」を出しましょうと。
奥成氏:
新作は間に合わないからコレクションを出すと聞いて,あくまで既存の作品のセットを想像していたんですが,堀井さんが拡大解釈して,なぜかゲームギア向けの新作を作ってしまったんです(笑)。堀井さんから届いた企画書には「新作『GGアレスタ3』を作ります!」と書いてあって。しかも,イラストは「キミキス」「アマガミ」のキャラクターなどを手がけた高山箕犀さんが描かれていたので驚きました。
堀井氏:
「アレスタ」には女性パイロットのエリノア・ワイゼンがいますからね。
個人的にも遊びたかった「アレスタ」「GGアレスタ」「GGアレスタII」,そして海外のマスターシステムでのみ発売されていた「POWER STRIKE II」の移植に,新作「GGアレスタ3」を加えましょうと。その限定版に,ミクロのホワイトバージョンを付けて,収録ソフト5本を全部遊べるようにします。
形態としては,ウチがセガさんからホワイトを仕入れて売ることになるので,リスキーではあるんです。だけど,かつてドリームキャストに参入できなかった悔しさを晴らせるわけですからね。ミクロの原価がそれなりで,さらにビッグウインドーミクロ ホワイトまで付けたので,価格はお手頃とは言えなくなってしまいましたが,「GGアレスタ3」も入っているのでどうですか……というところです。
4Gamer:
かなり豪華ですね。乾電池駆動で気軽にシューティングを遊べるハードは,ありそうでなかったと思います。
堀井氏:
ただ,ウチは「アレスタブランチ」で精一杯なので,「GGアレスタ3」の開発はどこか別のスタッフにお願いしなければいけなくなりました。この話を並木 学さんにしたところ,いろいろと人員を手配していただけることになりまして,やることになりました。開発期間の制約もあり,最初は2分間モードのみを作る予定だったんですが,並木さんは「全7面,フルの新作で!」と言ってくださったんです。完全新作の「GGアレスタ3」だけで元が取れると思いますよ。
奥成氏:
7面なんて言って大丈夫ですか。発売時には4面くらいになってたりしませんか(笑)。
堀井氏:
それはないですって!(笑)
4Gamer:
「GGアレスタ3」では,並木さんは音楽ではなくディレクションをされているわけですか。
堀井氏:
ディレクションと企画ですね。ほかにも,さまざまなシューティングゲームに携わってきた方々が「GGアレスタ3」の制作に参加していますので,ぜひ期待してください。
4Gamer:
「GGアレスタ3」はゲームギアの実機でも動作するんでしょうか?
堀井氏:
実機で遊べますよ。相当に攻めた内容になっているので,ゲームギアをよく知らない方が見たら「本当にこれはゲームギアのゲームなのか?」って驚かれると思います。
4Gamer:
色がホワイトになった理由はなんでしょうか。
奥成氏:
「アレスタ」は元々コンパイルのゲームなので,同社のイメージカラーであるピンクにしてもいいんじゃないかと思ったんですが,堀井さんが「ホワイト一択で!」と。おかげさまで,当時国内で販売されていたゲームギアが全てミクロになりました。
色合いは,会社に保管がなくて,梶の私物でチェックをしました。デスクの引き出しから,すぐにパールホワイトの実機が出てくるんですから(笑)。ホワイトだけディスプレイの周囲にあるパネルの色が違うんですが,ちゃんと当時と同じ色合いにしてくれたんですよ。
4Gamer:
30年前の現物がすぐに出てくるのがセガらしいですよね。では最後に,ゲームギアの思い出について聞かせていただけますか。
堀井氏:
当時はハードを何でも買えたわけではなかったのですが,ゲームギアのお仕事を請け負う際に本体とソフト一式をもらえたんです。こんな役得があっていいのかと,すごく嬉しかったですね。その頃はセガ・マークIIIが好きだったので,海外版ソフトを1本9800円も出して輸入していたんですが(笑)。
4Gamer:
分かります(笑)。
堀井氏:
その後も,いろいろなゲームを買い込んで研究しました。ゲームギア版の「ガンスターヒーローズ」は,マークIIIの海外向けソフトのエッセンスを取り入れようと考えていた記憶があります。
とくに思い入れのあるソフトを挙げるなら「シャイニング・フォース外伝」ですね。メガドライブ版からゲームギアへの落とし込みが凄かったんです。ゲームギアを蹴飛ばしてしまい,エンディングの直前でバッテリーバックアップが消えたのでやり直したりもしていました。本当にあの頃はゲームとともに暮らしていましたよ。
奥成氏:
ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで発売したかったものの,叶わなかった「ロイアル・ストーン」や「ラストバイブル」も思い出深いですが,自分が一番遊んでいたという意味では,やはり「シャイニング・フォース」シリーズになりますよね。メガドライブ版のIIは,初代と関連性の薄い続編だったのに対し,ゲームギア版は同じキャラクターが登場する直接の続編になっていましたし,とくに「シャイニング・フォース外伝 ファイナルコンフリクト」はゲームギア専用でしたからね。
梶氏:
私は業務として関わっていましたから,生産が大変だった印象が強く残っていますね。当時も増産の指示があり,みんなで国内外の協力工場で夜なべして作っていましたから。TVチューナーパックを装着して車の中で楽しめたのは嬉しかったですね。電池の消費が早かったので,重い充電池の「パワーバッテリー」を付けて(笑)。
4Gamer:
開発者,ユーザー,セガ社員として,それぞれの思い出がありますね。本日はありがとうございました。
「ゲームギアミクロ」公式サイト
「アレスタコレクション」公式サイト
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