プレイレポート
「Library Of Ruina」プレイレポート。「Lobotomy Corporation」から続く物語と練り込まれた世界観が魅力のカードバトルゲーム
だが,リリースに合わせる形で予定されていたアップデートはそのまま実装されており,コンテンツとしては“ほぼ製品版”といえる状態になっている。このタイミングで本作のプレイ感を紹介したい。
なお,本作は2018年にリリースされ,SCP財団(超常現象を取り扱う架空の組織)に影響を受けたキャラクターや,練り込まれた設定やストーリーで多くのファンを獲得した「Lobotomy Corporation」の後継となる作品で,その世界観が大きな魅力の1つとなっている。本稿では関連作品についても簡単にまとめておくので,「興味はあったけど,よく知らない」といった人は参考にしてほしい。
謎の指導集団と大企業によって支配された世界には
現実の“何か”をモチーフにしたクリーチャーがうろつく
ゲーム内容に入る前に,まずは本作や前作を含めた世界観をざっと説明しておこう。もちろんLoRは1本の独立した作品だが,本シリーズの魅力の一つとして“共通する独特の世界観”があり,そういったつながりをある程度把握しておいたほうが,すんなりとゲームに入れるはずだ。
本シリーズの舞台となるのは,一種のディストピア社会だ。社会は「頭」と呼ばれる謎の指導集団と,「翼」という大企業によって支配されており,そこに加わることができない人間は底辺の生活を強いられている。裏路地や町の外に一歩出れば治安も最悪で,強盗や殺人は当たり前。遺体からその一部や内蔵が抜かれるといったことも日常茶飯事のようで,まるで終末世界のような状態となっている。
そんな世界から抜け出すには“まともな会社”に勤めるのが早道となっていて,前作の舞台となったロボトミー社もそんな大企業の一つだ。職員の扱われ方などは完全に“使い捨て”もいいところだが,それでもまだ外の世界よりはずっとマシらしく,社会の荒廃ぶりがうかがえる。
そんな社会の状態をさらに悪化させているのが,前作では「アブノーマリティ」,今作では「幻想体」と呼ばれる異形の存在だ。彼らは「血のたまった風呂」や「変身する子犬」といった,現実の“何か”をモチーフにした形で現れるが,その実体は超常現象そのものであり,一歩取り扱いを間違えれば多数の人間が死ぬことも珍しくない,恐ろしい存在だ。
ロボトミー社はそういったアブノーマリティを管理し,そこからエネルギーを抽出することを事業にしている。だが元々無理がある仕事のため,実態は職員を犠牲前提で使い潰して色々と試しつつ,全滅したらリトライしてやり直す……といった感じで,「Lobotomy Corporation」では,そこで悪戦苦闘する職員の姿がリアルタイムシミュレーションとして描かれた。
つまり企業の中であろうと外であろうと,本シリーズの世界観は徹底して人の命が儚く消えていく,ダークなものとなっているのだ。
「Lobotomy Corporation」のユニークなポイントは,アブノーマリティが純粋な敵ではなく,世話をすることによって職員のステータスを上げたり,装備を入手したりといった恩恵も同時に有していることだった。また脱走したアブノーマリティ同士は戦いを始めることが多く,別の個体をあえて脱走させてぶつける,といった使い方もあった。
そのため,どのアブノーマリティが攻略に使えるか,あるいは危ないかといった話が,プレイヤー同士の話題に上がることも多かった。作中のロボトミー社は,危険を冒して異形の物体を利用するブラック企業だが,プレイヤーが攻略を始めると自然と同じ立場になってしまう……というのは,ある種の皮肉なのかもしれない。なお,こういった設定は続編である本作でも活きていて,戦闘時のギミック(特殊能力)として活躍してくれる。
なお本シリーズはゲームだけではなく,Web漫画や小説という形でもコンテンツが広がっており,ファンを楽しませている。漫画はロボトミー社員達の奮闘の描いた「ワンダーラボ」,小説は都市で探偵を営む女性を主人公にした「ねじれ探偵」として,それぞれ日本語に翻訳されたうえで無料公開されている。
これらはあくまで原作ゲームをベースとした外伝作品なので,まったくの未経験者がいきなり楽しむのは(専門用語などもあり)少し難しい印象だが,ゲームを楽しんだ人にとっては興味深い追加コンテンツとなるはずだ。
図書館館長と底辺フィクサーが出会い
謎に満ちた“本探し”の物語が始まる
LoRは,リアルタイムシミュレーションだった前作とは打って変わり,デッキを構築するタイプのカードバトル作品になっている。舞台はタイトル名にもあるように図書館で,「本を燃やすとカード(手札)になる」というルールだが,その本の“材料”となるのは生きた人間だ。
プレイヤーは図書館から「招待状」を発送して,さまざまな人間を呼び出し,対戦することになる。負けたゲストは本に変換され,新たなゲストを呼ぶ素材になったり,燃やされてこちらの手札となる。こうして図書館はまるで蟻地獄のように次々ゲストを飲み込み,都市の伝説と化していく。
物語は,街で活動する底辺のフィクサー(何でも屋)であるローランが,謎の図書館で目を覚ますところから始まる。ローランは自分の意志でここに来たわけではないようだが,早々に見知らぬ青い髪の女性に出会い,尋問を受けることに。だが,話が噛み合わないままローランは死に至るような大けがを負わされ,気を失ってしまう。
次にローランが目を覚ますと,不思議と怪我は完治しており,青髪の女性は一転して友好的になっていた。自己紹介によると名前はアンジェラ。彼女はこの図書館の館長と司書を兼ねる存在であり,「たった1つの完璧な本」を求めているのだという。そしてそれを手に入れるには,訪れるゲスト達を本として図書館に捧げていくしかなく,それにはローランの手助けが必要なのだという。
ローランは図書館から出ることもできなくなっており,ほかに選択肢もなくアンジェラに協力することになる。究極の本を手に入れるべく,ゲスト達を「接待」で倒し,文字通り図書館の血肉にしていくために。
本作は主に「図書館パート」と「接待パート」に分かれている。戦闘パートである後者の接待については,後ほど詳しく説明するとして,図書館パートは簡単に言えば準備モードだ。具体的にはゲストに招待状を送って図書館におびき寄せたり,本となったゲストを燃やして「バトルページ」や「コアページ」と呼ばれるカードを入手したり,戦闘に使用する司書ごとにデッキを組んだりすることができる。図書館を段階的にアンロックしていくのもこちらのモードで,基本的にはゲストを招いて倒すたび,徐々に図書館の拡張とストーリーが進んでいく。
なお,戦闘要素であるのだが,少々複雑なので先に説明しておくと,バトルページは戦闘時に攻撃やガードを行うために使うもの。コアページは,司書のステータスや見た目を変更するものだ。まずは手元のコアページの中から好きなものを選び,その中に最大9枚の手札となるバトルページを追加して,司書ごとのデッキを組み立てていく。
バトルカードにはそれぞれコストが設定されているが,デッキ自体にはコストの上限などは設定されていない。だが戦闘時には選択したバトルページのコストの分だけ,「光」と呼ばれるスタミナのようなものを消費する。したがって高性能だが高コストのバトルカードだけでデッキを組むと,光がたまっていなかったり,消費したときに何もできなくなったりしてしまう。つまり戦闘時のコストバランスを考えてバトルページをチョイスすることが重要となってくるのだ。ちなみに一番低いバトルページのコストはゼロだが,それでも何らかの行動は行える。
では図書館パートの話に戻ろう。送った招待状は超常的な仕組みでゲストの元に届き,「謎の図書館に招かれたまま多くの人が帰ってこない」という噂が広まれば,それに釣られてさらに別の人間もローラン達が待ち構える図書館に興味を持つ。前述のとおりにこの世界では怪異は当たり前の存在だが,このゲームでは“怪異側の一員”になれるとも言えるだろう。
ゲストは多くが単発の登場にもかかわらず,それぞれのバックボーンが招待時の会話シーンによってしっかりと語られ,モブで終わらないのも嬉しいところだ。
前作で主役と言ってもいい存在感を放った幻想体(アブノーマリティ)は,図書館パートを進めると登場する。立場としては総じて中ボスのような扱いで,戦闘で倒すことによって図書館の機能が充実し,新たな司書が追加されるという仕組みだ。また戦闘パートで「幻想体ページ」という特殊能力を使えるようになるなど,“危険だが役に立つ”という特徴も同じだが,その能力もメリットばかりではない……という辺りが,本シリーズらしいところだろう。
一定の条件を満たせば,幻想体とはいつでも戦えるようになるが,勝つにはステータスを上げたり,特殊なギミックを利用したりする必要があるなど,決して楽ではない。勝てない場合は別の接待を優先するなどして,デッキの充実を図った方がいいだろう。負けてもデメリットはないので,まずは“お試し”で戦ってみて,相手の特徴を掴むことも重要だ。
ゲストを呼ぶ → 倒して本を入手し,燃やして新たなバトルページやコアページを入手する → デッキと司書を強化 → 新たなゲストを倒せるようになる → 物語がさらに進み,図書館も拡張されていく……これが本作の基本的な流れだ。仕組み自体はシンプルだが,それぞれの要素は少々複雑だ。特に後述する「デッキに手札を組み込んで戦闘に勝つ」ところは,デッキ型の作品にありがちではあるが,試行錯誤と慣れが必要という印象が強い。
体力と精神力,そして攻撃属性が重要な接待
ダイス以上に物を言うのは事前の準備
接待(戦闘パート)は図書館に訪れたゲストを倒し,本として収容するための業務だ。戦闘はターン制で,デッキの中からランダムで選ばれた手札であるバトルページから1枚を選び,攻撃やガードを行う。敵味方それぞれのキャラクターには体力と混乱耐性(精神力)という2つのパラメーターが存在し,混乱耐性がゼロになると混乱して1ターン行動不能になり,そして体力がゼロになると死亡する。
最初はローラン1人での戦いとなるが,前述したように幻想体を倒していれば,それによって開放される司書がパーティに加わってくれる。
敵味方のどちらかが全滅すると戦闘は終了。勝利すればゲストが変化した本が入手でき,負ければ再戦することになる。司書は何度やられても復活可能だ。
前述のように接待ではターンごとにダイスを振り,数値が大きいほど早く動けたり,攻撃が成功したりする。そのため一見バトルはランダム性が高いように見えるが,実際は事前のデッキ構築が非常に重要だ。有利に立ち回れるような構成にすれば,勝てる確率は上がり,運悪く負けてもリトライであっさり倒せたりする。注目すべきは攻撃の種類とキャラクターの耐性だ。
攻撃には「斬撃」「貫通」「打撃」の3種類があり,キャラクターにはそれらの攻撃を受けたときの耐性も設定されている。ダメージが1/4になる「耐性」から,2倍のダメージを受ける「脆弱」までがあるので,相手の弱点を突けば簡単に大ダメージを与えられるが,当然ながら自分にも弱点となる属性があるので,注意が必要だ。
敵のデッキやステータスは戦闘前に確認できるので,多少手間はかかるが相手に合わせて相性が良い手札を事前にデッキ組み込むことが勝利への近道となる。
パーティメンバーが増えれば「相手の攻撃が集中するキャラはガードに特化した手札を選び,別のキャラは攻撃重視の手札を使う」といった戦術も取れるようになるだろう。ただ,手元に目的の手札が回ってこない時もあり,そんなときはなかなかもどかしい。
また,物語を進めると新しい階層がアンロックされ,かつてはセフィラだった特殊な司書が仲間になってくれる。彼らはローランと同じくパーティリーダーという扱いになっているので,アンロックされた図書館の階層が増えるほど,組めるパーティ自体も増えていくというわけだ。
上でも少し触れたが,司書は「コアページ」を変更することで,体力や混乱抵抗値,そして攻撃への耐性が決まるほか,バトルを優位に進められるパッシブスキルなども取得できる。ターンごとに振るダイスの出目の範囲もこれで決まるので,少しでもレア度が高く高性能なものを選びたい。
ただ,それでも敵との相性が悪いケースはあるので,レア度が高いからといって常に有用とは限らない。さらに敵チームもキャラによってステータスや耐性,手札も異なるため,メンバー全員に対して有利に立ち回れることはほとんどないだろう。まさに,あちらを立てればこちらが立たずという感じだが,こちらもメンバーごとにデッキの手札に特徴を持たせたり,コアページを変えたりできるので,工夫して先に進みたい。
基本的には物語が先に進むほどゲストが強力になり,それに応じて入手出来る本とページも強くなっていくので,ひたすら接待と強化を繰り返していくことになるはずだ。デッキを作るタイプの作品は,ルールが複雑で取っつきにくいことが多いが,そこを乗り越えて自分のデッキが徐々に強くなっていくのを見るのは楽しい。ただし,メンバーが増えるほど必要となるデッキとバトルページも増えるので,管理が少々煩雑になっていくのが少し大変だ。
図書館パートで討伐済みの幻想体は,階層ごとに特殊能力としてパーティに追加され,接待中に変化する感情ゲージが上がると利用できる。
純粋に攻撃に追加効果を与えるなど,有用なものもあるが,条件や効果が複雑で一読するだけでは分かりにくいのも目立つのが難点だ。ある意味ロボトミーの“アブノーマリティらしさ”だが,理解するには実際に試したり,場合によっては解説ページなどを見たりしたほうがいいように思う。ただ幻想体の能力を司書に付与すると,エフェクトと共に固有のメッセージなどが表示され,何となく“ヤバい力を借りている”感があってなかなかカッコイイ。
独特の固有名詞やダイスを用いた少し特殊なルール,そしてさまざまな種類が用意されているバトルページとコアページなど,本作のバトルはゲームとして複雑な部類に入ると思う。攻防時の相性の組み合わせなどは比較的分かりやすいが,とにかく手札の種類が多く,最初は何を組み合わせればいいのかで迷うし,ぱっと見たときにどれぐらい“使える”のかも推測しにくい印象だ。ここに状態異常や幻想体の能力が絡むこともあり,考慮すべき要素はかなり多い。
とはいえ序盤の接待の難度は低めなので,いきなりつまずいて先に進めないといったことにはならないだろう。後述するように簡易的なチュートリアルはあるものの,基本的には習うより慣れろという作品だと思うので,徐々に図書館を拡張しつつ,とにかく接待を繰り返すのが理解の早道かもしれない。
“予習”が必要な癖の強さはあるが,よく練り込まれた作品
一度入り込めば先が気になって仕方がなくなるはず
本作のPC版は約1年間のアーリーアクセスを経て,現在はほぼ製品版と同じ状態にアップデートされている。直近のアップデートで追加された要素などを,簡単にまとめておこう。
まず初心者に嬉しいのは,ごく簡単なものながらチュートリアルが追加されたことだ。元々本作にはヘルプページがあり,そこからゲームの内容を簡素にまとめたマニュアルを確認できたのだが,現在はゲーム開始後に実際のUIに重ねる形で内容を説明するチュートリアルが表示される。これ単体でゲーム内容の細かいところまで分かるわけではないし,説明に関してはまだ不足気味だとは感じるが,若干でも最初のハードルが下がったのはいいことだろう。
また経験者向けには,ストーリーの進行には関係ない一般招待キャラの追加,一種のやり込み要素でもあり司書のステータスなどを強化できる戦闘表象の充実,同じくやり込み要素であるSteamの実績の開放などが登場している。また4月には,順次実装されていた物語の最後のエピソードが追加されているので,途中でプレイを中断していた人が再開するのにもいいタイミングだろう。
ゲーム全体としては,デッキ構築やバトルといった覚える要素が多いうえ,チュートリアルも十分とは言いがたく,予備知識がないプレイヤーにとってのハードルは高そうだ。物語が前作のエンディングから直接続いている関係上,ストーリーにロボトミーのネタバレがかなり含まれていたり,逆に初見だと登場人物同士の会話に置いてけぼりになったりと,良くも悪くも前作や関連作品を知っているかで評価が変わるだろう。
逆に前作をプレイした人なら,馴染みのキャラクターやアブノーマリティが次々と登場するため,どんどん先が気になってしまうはず。今回も閉鎖環境だが,外部の登場キャラが多いためより世界観は細かく語られるようになり,ファンはより一層楽しめるようになっている。
ある程度ゲームに慣れてくれば,構成を悩みつつデッキを強化していったり,ダイスの目に一喜一憂しながら戦ったりするのがかなり楽しくなってくる。独自の用語こそ多いが,メインとなるゲストの招待と図書館の拡張自体はそこまで複雑ではなく,徐々に利用可能エリアと司書のキャラクター達が増えていくのは,良い目標として機能している印象だ。またローカライズはボイスこそ元の韓国語のみだが,テキストやユーザーインタフェースはほぼ完全に翻訳されており,ところどころ気になる部分はあるものの,全体としては十分なクオリティとなっている。
“予習”が必要な癖の強さはあるが,複数キャラで行うカードバトルは練り込まれており面白い。シリーズのファンはもちろんだが,デッキ型のカードバトルが好きな人や,本作の世界観に触れて食指が動いた人は,いち早く楽しめるPC版をプレイしてはいかがだろうか。
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